勘のいいガキはデカパイハーレムの夢をあきらめない! 作:そとみち
ふん。
「んっ……♡ ふぅ……っ、ン……♡」
ふんふん。
「あっ♡ んんぅ……ん~……んっ♡」
フンフンフンフン!!
「あ゛~……お゛っ♡ お゛お゛ぉ゛~……♡」
オラッ!! まんじりともせずマッサージを受け入れろオラッ!!
「あ゛ぁぁ~……お゛っ♡!────はぁ~~……♡」
とまぁ、全力でデカパイドラゴンボディをマッサージをしているのが今の俺です。
俺のベッドの上で眠りについているヒルデガルドさん。
疲れているのだろう、その眠りは随分と深いようで。
そんな状態なので、俺が勘を併用して慎重に触れれば起こさぬように色んな体位にすることが出来た。
その上で、丁寧に全身の筋肉を解してやっている所なのである。
「しっかし、凝ってんなぁ……翼の付け根なんかもんのすんげぇや。よしよし……オラッ! ほぐれてプルプル柔肉に戻れオラッ!」
「ん゛ん゛~~……!」
『みゃぁ……』
それにしてもコリがひどいものだ。
ドラゴニュートの肉体は、細胞の一つ一つが人間とは一線を画する頑丈さであり、回復力も相応に高い。
なので、一般的な肩こりや筋肉疲労とは無縁なのですよ、あなた様──と以前にデカパイ懸念で肩揉みしてあげようとしたノワールさんから聞いていたのだが、しかし今のヒルデガルドさんの肉体は体の節々が疲れ切っていた。
デカパイの重みや、上半身の動きを支える肩や、その下の広背筋。
首回りも随分と疲れてる感じだ。力を入れ続けていたのだろう。
腰も以前に抱いた時よりもだいぶ固い。竜翼が生えている根元の部分なんかは、正直俺の全力の握力でなんとか解せてるというくらいのコリっぷり。
「太ももも……ふくらはぎも。うーん全身筋肉疲労! こんなんじゃ抱く時に気持ちよく触れなくなっちゃいますわよー! ンモー! モモ肉は叩いて柔らかく解してやるわオラッ! トントンされて解されろオラッ! このスケベな太もモーメントがよ!」
「んっ、んっ……んっんっんっ♡ あっあっあっあっ♡」
『みゃぁぁ……ふみゅふみゅ』
これはいけません。美人の体は常に柔らかくあれ。
なんだかミャウが何やってんだろこのご主人って顔で俺を見ている気がするが気のせいだろう。俺は本気である。
眠りから起こさぬように、起きた時に体が少しでも軽くなっているように、全身全霊でヒルデガルドさんの体を揉み解し続けた。
そんなこんなして、3時間ほど経過したころ。
「…………ん、んん…………む……ロック?」
「おはようさんです……ふぅーっ!」
『みゃ』
微睡みから、ヒルデガルドさんが目を覚ました。
時間は夕方になるころ。
もうすぐ俺の嫁のみんなも闘技場でのレベリングを終えて戻ってくるくらいの時間に、ヒルデガルドさんが瞳を開けて、ゆっくり上体を起こした。
「…………」
「大丈夫っすか? 水飲みます?」
「……もらおう」
しょぼしょぼと目を擦り、過酷なマッサージを終えて肩で息をしている俺を見て、周囲を見渡して、すんすんと鼻を鳴らして……んで、俺の差し出したコップを受け取り、水を飲むヒルデガルドさん。
ぐいっと一気に煽って喉を潤して一息ついて、改めて俺の方を見て声をかけて来た。
「……すまない」
「何スか急に」
「私は……愚かだな。お前らに心配されてしまうほどに、無茶をしていたという事か。だがどうにも、何かしていないと落ち着かなくて……気付けば、そうか。4日も働きっぱなしだったのか……」
「具体的には今日で5日目だと思いますけどね。そんな事よりお体どうです? 少しは楽になってません?」
「ん? む…………軽く、なったか? 随分と肩が廻る……」
「そりゃよかった。マッサージした甲斐があるってもんです。まだ眠いでしょ? 寝ててもいいですよー。ご飯できたら起こしますから」
「いや……すまん、マッサージをしてくれていたのだな……迷惑ばかりかけてしまっている」
「んなことないのにー!」
駄目だヒルデガルドさんまだだいぶお気持ち下向きになってるわね!!
肉体的な疲労はマッサージで少しでも解せたようだが、しかし心がまだダメですね! 疲れてますね!!
ずーっと働いて疲れてる時に気遣われるとちょっと辛いよね。分かるよ。
やはりここはカウンセリングをしてやらねばなるまい……!!
明後日に迫る最終決戦に向けてヒルデガルドさんには全回復してもらわねば!!
そのために俺は何をするべきか?
勿論分かっているさ。女の扱いは最近少々勉強したのでな。
疲れたOLみたいになっているヒルデガルドさんにしてあげられるベストな選択肢……それは!!
「いけっ! ミャウ!! あまえるだ!!」
『みゃ!?』
「襲われる流れだと私も覚悟していたのだが?」
まず癒しを得てもらいましょうかねェ!!
猫の癒し力は最強だからねェ!
我が愛猫ミャウを撫でることで喜ばぬ女はいなかった……。
『……みゃ。みゃっみゃっ』
「……ふふ。まさかお前に慰められる時が来るとはな……」
俺の指示になんぞ!? って顔をしていたミャウだが、しかし俺が本気で言っているとわかればおずおずとヒルデガルドさんのお腹の下に潜り込んだ。
ヒルデガルドさんもため息交じりに苦笑を零し、ミャウの頭を撫で始めた。
なんだか全然乗り気じゃないように見えるが気のせいだろう。
だが効果はあった。
ため息交じりとはいえ、苦笑とはいえ、笑みがこぼれたのだから。
笑う事が元気の一歩目です。こっからだよこっから。
「……そんで。なんか悩んでます? ヒルデガルドさん」
「……そう、だな。悩む……というよりは、どうしようもなく不安が頭から離れなくてな……」
「零しません? それ、俺に。マッサージのお代ってことでいいですから。聞きますよ、誰にも漏らしませんし」
「……不思議だな。お前に言われると……お前になら、弱音くらいは零してもよいか、と思えてくる」
「恋する乙女ですもんね」
「急に気が変わった」
「冗談っすよー! ……それで、どうです?」
「……はぁ。よかろう、聞いてくれ。結局……己の弱さが、自分自身で許せないというだけの話だ……」
ヒルデガルドさんの心につま先をねじ込み、閉じようとする扉を強制的に開けさせたまま、少しずつその中にあるもやもやとしたものを吐き出させる。
最初は強引でもいいんだ。自分自身で悩みを言葉にして零すうちに、自己分析も進んで感情の整理が進む。
シスターに教わったことだ。まず胸襟を開ける事から。
ヒルデガルドさんの零す話を、一つたりとも聞き逃すまいと真剣に傾聴した。
「私は、上姉上を助けたい────」
んでつらつらと断片的に述べるヒルデガルドさんの話をまとめれば、こう。
姉であるニーズヘッグを魔王の手から救いたい。
けど姉の真意も分からないし、そもそも自分があの姉に勝てるかわからない。
子供のころからずっと姉の方が力が上だった。
150年前の戦争の時点でも勝てたことがない。当時の英雄がニーズヘッグを討伐した。
それから150年も経っているのに、レベル200の限界を超えられたのだってつい最近で。
ホエール山脈の山頂で戦った時も、力の差を感じた。心の強さも。
だから、不安になっている。
俺が……ロック=イーリーアウスの勘という力が、ハッピーエンドを求めてくれていたとしても、本当に姉が助けられるのか、その保証は何もない。
フォルクルスの話を聞いたことで、余計に助けたくなって、余計に助けられなかった時の恐れが増した。
だが、自分自身の力が、心の弱さが信じきれない。
だから不安ばかり広がって、じっとしているとさらに不安が増して、体を動かしていると不安を覚えなくて済むからずっと働いていて。
子供のころからぐうたらで大した事のない女だったのに、不安を紛らわせるなんて理由で働いて、疲労にも気付けなくて。
集中力も落ちて、結局皆に心配をかけてしまい、今回の作戦の要であるお前に不安をかけさせてしまっていて。
本当に、自分は大した事のない女でしかなくて。
何でもできるトゥレスや、肝心な時に事を為せるお前やリンが羨ましくて。
それでも、結局頑張って働こうとしてもこんな体たらくで。
どうしようもなくて────。
「おっぱいに触ります」
「何だ急に!?」
ハイハイ!! この話おしまい!!
どう足掻いても自分を責める方向に行くこのドラゴニュートめんどくせぇなンモー!!
思わずデカパイを揉みしだいて話を中断させてやったよ!!
この人めんどくせ!!
「めんどくせぇなこの人!!」
「お前は本当に己に嘘をつかないな! 確かに申し訳ないとは思うがストレートに言われると私も深く傷つくぞ!!」
『みゃ! みゃ!』
「なんでそんなに自己評価低いんですかヒルデガルドさん!! 俺なんかより全然強いし立派にやってるじゃないっすか!」
「ぐ。どこが……立派だというんだ。ホエール山脈山頂では何も働けず、訓練でもイレヴンやリンと比べてもレベルの上昇は遅く、カジノでも負け、フォルクルスにも何も出来ず、泣き言を零すような女の! どこが強いって言うんだ、ロック=イーリーアウス!!」
めんどくせぇからケンカだよケンカ!
一度こういう人ははっきり言ってやらないと分からねぇからな!
腕っぷしには欠片も自信がないけど口喧嘩ならちょっと自信があるんだよな俺な!
孤児院で鍛えてたし魔族どもには口で一度も負けたことないからな!!
だからはっきり言ってやるわ俺の本心を!
ヒルデガルドさんはねぇ! 偉いんですよねぇ!
何が偉いって言ったらねぇ!!
「ヒルデガルドさんはずっとお姉さん助けたくて頑張ってるじゃないですか!!」
「ッ!!」
「それだけで十分偉いでしょ!! 裏切られても袂を別つことになっても、一度は拳を交えてニーズヘッグ本人から直接酷い言葉を投げかけられても、こんなに不安になっても! お姉さん助けたいって想いは全然捨ててないわけでしょ!? これが偉くなくて何が偉いのかって話っすよ!!」
「そ、れは……!」
「もしね!? ヒルデガルドさんが『姉の事はもういい、自分の手で殺す』なんて言い始めるようだったら俺も見捨ててますけどね! でもヒルデガルドさんいつだってずっとお姉さんの事気にかけてるからさぁ! だから俺も大好きなんですよねヒルデガルドさんのそういう所! 家族の事大切に想える女が偉くないわけないでしょーが! 胸張ってほしい訳っすよ俺は!! 不安になったり思い悩んだり、今こうして疲労でぶっ倒れるまでお姉さんの事考えられる自分を誇ってもらっていいからね!! だから落ち込みすぎたり抱え込み過ぎたりしないで、周りにも頼ってほしいよねって話をしたいんですよねェ!!」
「……お前、は……」
そういうことなんですねェ!
俺は仲間や家族の事を大切に思う人って大好きなんですよ。
孤児院で育まれた感情に異世界転生チートさんの本の教えもプラスでさ。
やっぱり人間って情に厚くないと嘘なんすよ。
孤児院のガキたちもシスターにそのへんめっちゃ教えられるからみんな仲いいしさ。
ケンタウリスクランだってみんな仲がいいのホント最高だし。
カトルん家だってトゥレスさんとワンさんが仲いいしカトルだってなんだかんだ親父さん大好きだし。
ヴァリスタさんの家族愛なんかその最もたるものですよ。妹さんの為に強くなったって聞いて俺ヴァリスタさんの事大好きになったもん。
そういう……近しい誰かを大切に想える人ってのは、それだけで偉いのだ。
その気持ちを持ち続けることがどれだけ大変で尊い事か。
だからヒルデガルドさんの事はデカパイ美人な点も除いても、それでも大好きなのである。
お姉ちゃんの正体を知って、姉への執着を見せて、ベッドの上で語ってくれたことで、もっと大好きになった。
そんなヒルデガルドさんを俺は助けてやりたいし、無事に姉妹三人で昔のように仲良くなってほしいし、姉妹丼も食べたい。
ぜーんぶ本心です。その辺も全部言葉にしてぶつけてやった。
「……ふぅー!! 俺の言いたいことはとりあえずこれでおしまい!」
「…………これほどに。阿呆な事を言われて、しかし一つも嘘がないのが……お前なんだな、ロック」
「そりゃもう。本音でしか生きてませんからね! なんで結論としてとりま休みましょ! 疲れてんすよヒルデガルドさん! 今日一日ゆっくり休んで、明日も無理しないで、決戦に備えて下さいよ! みんな元気で頑張れば魔王軍なんてちょちょいのちょいで、ニーズヘッグだって無事に捕まえて仲間に出来ますって!」
「……それは、お前の勘か?」
「勘が確約はしてないっすけど! 何とかなるやろって気はしてます!」
「そうか。…………そうか、そうだな……はぁ。そういうことにしておいてやろう」
『みゃ』
ヨシ! 一先ず説得成功!
……でいいのかな。最後にまた苦笑を零したヒルデガルドさんだけど。
勢いで色々捲し立てたけどこの選択肢であってたかな。不安になって来た。
とまぁ、色々話をしてたところで。
急に俺の部屋の扉からノックの音が響いた。
「────ロック、ヒルデも。ごはんできたって」
「ん……」
「リン? 帰ってきてたんか?」
『みゃ』
ガチャリと扉が開かれれば、そこにはリンがいた。
「すこしまえにかえってきてたよ。ふたりがなにかはなしてるようだったから、サザンカとノインでみんなのごはんつくってくれたの。いっしょにたべよ」
「オゥ。気付かなかったわ……すまんな、おかえり。メシまで準備されてるとなれば行くしかあるまいよ。……ヒルデガルドさん、とりま飯食べましょ」
「ああ……そう、だな。すまん、馳走になる」
『みゃ!』
どうやらいつの間にかサザンカさんたちが飯の準備をしてくれていたらしい。
ほいじゃ有難く頂くことにしましょうね。
腹いっぱいになればまた気持ちも落ち着くだろうしね。