勘のいいガキはデカパイハーレムの夢をあきらめない! 作:そとみち
「次の議題②は、世界各地で発生している
魔王城の位置についての会議を終えて、続いてはスタンピードについての打ち合わせだ。
俺は前回の会議を流し聞きしていたので詳細はアレだったのだが、後々ノインさんとかイレヴンとか、あとヒルデガルドさん勘違い事件で他の人からも聞いた話では、世界各地でスタンピードが頻発しているという話だ。
スタンピード。魔獣暴走。
以前俺たちがネレイスタウンに行ったときに、セントクレアちゃんが危惧してたのが記憶としては新しいかもしれない。
ダンジョンが現れた時に、冒険者が最も気をつけなければならない現象である。
「スタンピードについて改めて説明しておく。スタンピードとは、世界各地にあるダンジョンや、魔獣の住処となっている森や山でごくまれに発生する現象だ。アイム」
「はい」
トゥレスおじさんがまずスタンピードについて説明を挟んだ。
アイムの魔力操作により、モニターにスタンピードの概要が示される。相変らず分かりやすく整理された図ですね。
「……発生原因は様々な学説があるが、現在最も有力とされているのが、ダンジョン内に潜む魔獣が増え、密度が高まった結果、魔獣が放つ魔素……これは闇の属性だけに限らず、魔獣の持つ性質が煮詰まる傾向にあるが……魔素が濃厚になり、魔獣のレベルが高まり、爆発的に数が増えて、その結果ダンジョンから魔獣が溢れ出す。これがスタンピードと呼ばれる暴走となる」
はい。トゥレスおじさんの説明の通りです。
実はこれ、割と冒険者にとっては死活問題なのだ。
スタンピードが起きると、当然ながら高レベルな魔獣がポンポンとダンジョンの外に出てきて、近くの村や町が襲われるケースもある。
早急に対処しなければならないが、仮に外に出て来た魔獣を全滅させて対処が上手くいったとしても、スタンピードが起きてしまうとダンジョン内の魔獣が激減するので、ダンジョンの旨味が無くなるのだ。
宝箱とかの生成も少なくなるし、ダンジョン内の魔獣の生態系が潰れてしまうと魔獣が新たに湧かなくなり、ダンジョンそのものが滅びて消滅するケースもある。
ダンジョン自体は冒険者が攻略して宝箱やドロップアイテムから資源を回収し、街で売る事で利益を生んでいる事実もあるからな。ダンジョンは何が何でも消滅させなきゃ、ってモノでもない。出てくることで活気が生まれる、人類にとって良い効果もある。
しかしスタンピードが起きるとその辺が全部ダメになる。だから冒険者ギルドはスタンピードの予兆などを読み取り、実際にスタンピードに至る前にダンジョンの魔獣狩りの頻度を高めたりしている。
しかし、今回の世界各地で同時多発的に起きているスタンピードは、兆候がなかったはずだ。
その辺どうなんやろ、なんでなんやろな……って顔でぼけっとモニターを眺めていると、トゥレスおじさんがちらりと顔を向けてきた。
「……ロックが疑問に持っている事だが、皆も疑問に感じている点だろうからきちんと説明しておく」
「思考盗聴されてたりする??」
「マスターは顔に全部出ますからね」
「お前の裏表の無さは人類の至宝だぞ。胸を張れ、ロック」
「ヒルデガルドさんの推しポイント発見伝」
どうやら顔に出ていたみたいですね。まぁよく言われるしな。ノーダメージよ。
実際みんなも結構気になっていたようで、同意の頷きなどもありつつ、トゥレスおじさんが改めて今回の同時多発スタンピードの原因について語る。
「調査した結果だが……まず、以前の第三次人魔大戦で、王都含む世界中に闇の魔素が一度広がったことが原因の一つだ。闇の魔素は魔獣にとって基本的に相性のいい属性だからな。それによって魔獣が一時的に活性化したことは紛れもない事実……そうだな? ウォーレン」
「ああ。我がギルド本部が各国のギルドに聞き取り調査を行った結果、リンとノワール氏が世界中を巡り迅速に闇のマナを回収してくれるまでは、あらゆるダンジョンの魔獣の活性化が確認されていた。闇を回収し終えても魔素自体は広がっていたから、それがダンジョン内で密度を高めていたものと推測できる」
「魔王軍の対処や、王都自体の復興の混乱もあり、冒険者も中々ダンジョン攻略に取り組めていなかった。至急の状態にはなかったし、スタンピードが発生する兆候もその時点では見えていなかったため、ロック達のレベリングを優先させた判断は間違ってはいなかったが……」
「ほえー」
『みゃぁ』
途中からギルドマスターのウォーレンさんも混ざって、スタンピードの原因について説明してくれる。
闇の魔素の件はほえーなるほどって感じだ。俺がブチ止めて来た闇の魔素の大噴火だが、あれがあのまま続いてたら、今起きてるスタンピードはもっと早く発生してて、しかもずーっと起き続けてた可能性もあるのかな。
怖いわー。ある意味ではあの時に闇の魔素を止めておいてよかったのか? よかったか。それは疑う所じゃないか。魔王軍だいぶ弱ったはずだもんなあれで。あんまり褒められてないけど。
「……さて、それだけならば決戦まで何とかなる計算だったのだが。ここでもう一つの誤算……いや、タイミングの重なりがあった。それが魔王城の移動だ。アイム」
「はい。……魔王城は、魔王様……いえ、魔王ダブレスが居城。全ての魔族を統べる魔王には、同時に魔獣を従える力があります。それはスキルというよりも、どちらかと言えば強大なる力が成す、圧のようなものです。魔王ダブレスは、そこにいるだけで魔獣の心を乱れさせるのです」
『みゃ。みゃっみゃっ』
「そんな魔王が、限りある闇の魔素を蓄えに蓄えた状態で、空に浮かび王都に向かって移動している。これがスタンピードを誘発させた最後のトリガーと考えている。その証拠に、元々魔王城があった地点から、魔王城が移動したであろう経路と王城を結ぶと、それが描く軌道に沿って近隣のダンジョンからスタンピードが発生しているようだ。空中の魔王城の接近に伴い、王都に向かって全ダンジョンから溢れた魔獣が迫ってきている、というイメージでいい」
そして続く話を聞けば、魔王城が空飛んでるからさらにスタンピードを誘発させたらしい。
その辺は全く俺にはピンとこないけど、トゥレスおじさんがそういうのだからそうなのだろう。
元魔王軍の将軍であるアイムもうんうん頷いている。
それにつられて俺の肩の上にいるミャウもうんうんしてるけどコイツはノリでやってるだけだな?(察し)
猫は気楽でいいわねー! 可愛い奴めー!
話を整理するにどうやら王都の冒険者たちは世界中のダンジョンから溢れた魔獣を相手に王都で防衛線を張る事になってるんですよ!
呑気に可愛くウムウムしてる場合じゃないんですよミャウちゃん!
まぁ可愛いから許すが……。(寛容の王)
あと話が退屈でちょっと俺の集中が削がれてきてるが……。(冷静な自己分析)
「さて、ここまではスタンピードの原因について説明したが、ここからは現状だ。既に各国のギルドと連携し、どれほどスタンピードが広がっているかは調べがついている。これについてはウォーレンから説明してもらう」
「ああ。では資料を出してくれ…………見ての通りだ。現在スタンピードにて発生した魔獣の群れは、大きく区分して4つの塊になり、王都を囲む様に全方位から迫ってきている」
「ドがつくピンチな状況じゃないっすか???」
さて、そうして続く現状のスタンピードの説明と、新しく示された図面に俺はびっくりしてしまった。
えっ想像以上の規模じゃないですかこれ!? 王都の周りが魔獣を示す色で真っ赤っかなんですけど!?
「まず王都の東側、かつて魔王軍が真っすぐに攻めて来たキュリオス平野の方面より、地上を進むタイプの魔獣が40万から50万」
「……魔王軍の2倍強の数……か」
「それだけではなく、王都北側の山脈側からは、山を住処とするタイプの魔獣が5万から10万。これは山林を隠れ蓑に迫ってくるだろう」
「山での戦いは冒険者には厳しくなるな……王都の北の山脈は人の脚には少々厳しい傾斜だ。木々もかなり多い、乱戦になる」
「そして西側と南側。こちらはアストラル運河が海に結び、岩盤地帯もあるため、真っすぐに地上を侵攻するのが難しいが、こちらからは飛行タイプの魔獣が20万体から集まっている。これは広範囲から集合しているため、明日には倍の数になる見込みだ」
「飛行する魔獣ほど討伐が困難なものはない。私の『ティアドロップレイン』のように空中にいる魔獣を広範囲に狙えるスキルは希少も希少……魔法使いとアーチャーを集めたとして、それほどの数は厳しいのではないか……?」
うーん。
説明が続くほどにちょっと絶望感溢れるんですけど!!
いやね、まず東側だけど前回の魔王軍侵攻の2倍の数ですってよ2倍!
もう地上を襲う津波みたいなもんじゃん。コワーイ。
リンの
……ん? 5発で済むのか。
あれ、なんとかなるか? なりそうな気がしてきた。(錯覚)
そして王都北側。
こちらはディセットじーさんと俺がかつて住んでた山小屋があった方角だ。
今はもうあの山小屋は取り壊して跡形もなくなってるけど……ちょっとだけ俺が懐かしく感じる場所で。
じーさんの山小屋は山のふもとにあって、その先にも小さい山がいくつかって感じだったけど、その先にそこそこでかめの山が連なり、さらに北に向かえばそれは山脈になり、ぐるりと山脈が王都から見て北へ北へって感じに伸びてって、最終的にホエール山脈に繋がっている。
その山脈がある側から、山中を侵攻してくる動物系の魔獣タイプが10万体ほど。
これもかなり厳しい数に思える。
以前、俺がイレヴンを見つけてからすぐにカトルとティオと共に向かった森の中にあるダンジョンで、森林地帯での戦いを経験したが、木々が生い茂る中で魔獣からの奇襲を防ぐのは通常はかなり厳しいものになる。
魔獣の気配や姿が木々に隠れて見えなくなるからだ。
俺の勘と、カトルの熱量感知が俺らにはあったし、レベル差も大きかったから問題なく進むことが出来ていたが……一般的な平原に比べて当然にして戦いにくい土地になる。
そんなところにスタンピードで強化された魔獣が10万体。凌げるのだろうか。
そして最後に、王都の西と南側。
大河が貫いてたり、岩肌丸出しの地点とかもあって、人も魔獣も歩くのに適さない土地となっている。
なので魔獣の侵攻も落ち着くもんかなと思ったら、逆に空飛べるタイプの魔獣がそっちに集まってきているというね。
所謂ハーピーとかワイバーンとか、羽根があるタイプの魔獣や昆虫タイプの魔獣が主なアレになるかな。
空を飛ぶ魔獣ってのは基本的に討伐が面倒くさいのだ。
矢を放てるメルセデスさんがコメントしたが、広々とした戦場で空を飛ぶ相手を撃ち落とすのは一般的な冒険者には無理だ。
アーチャーや魔法使いなど、空を飛ぶ敵に対抗手段がある人じゃないと駄目で、冒険者全員がその手段を持っているわけじゃない。
しかも数がめっちゃ多いらしい。そりゃあ空には空間の縛りがないからなぁ。集まるだけ集まっちまうのだろう。
うん。
ここまで話を聞いてしまうと、俺ら全員で迎え撃った方がいいんじゃないか……と考えてしまってもおかしくない所、ではある。
しかし俺は、内心の驚愕はあれども、その意見を口にすることはなかった。
魔王城への討伐隊が王都の守護に回ると後手に後手を重ねることになるし。
それに、なによりも。
「まぁ、大した数ではない。突入組を除いた王都の冒険者、及び各国の冒険者と……
だから、なんとかなっちまうんだろう。