勘のいいガキはデカパイハーレムの夢をあきらめない! 作:そとみち
会議室にざわめきが広がる。
それも当然というモノだろう。今、会議室に入って来た女性、シスターミル。
王城勤めの兵士が付き添ってたので、勿論無許可で忍び込んだとかではなくて、トゥレスおじさんが事前に話を通しておいたのは間違いないだろうが……問題は、シスターのその服装だ。
「シスター、それ……」
「……もう、隠す必要はなくなりましたから。貴方のお陰でね、ロック」
俺が指を向けて指摘した、彼女の頭部。
常に彼女が着用していたシスターヴェールがそこにはなくて、緑色のふわりと広がる長髪から、痛々しい傷跡のエルフ耳が衆目に晒されていた。
驚きは、彼女がエルフだと知らない全ての人から。
それには、王族の、国王であるディストール王も含まれていて。
つまりシスターは、己の種族をここで初めて王族に知らせたというわけだ。
「『万聖』のミル……そなたは……!」
「────ディストール王。私の種族の事は、今この会議においては関係のない話でございます。今は……この国を救う会議に耳を傾けて下さいますよう」
「む、ぅ……承知した。だが、全てが終わったら……どうか、時間を作っていただきたい」
「孤児院の運営に支障が出ない範囲で承ります」
ディストール王がエルフ耳を晒すシスターに驚愕した上で、しかしその先の言葉をシスターが止めた。
毅然としたシスターの態度、雰囲気にだいぶ思う所もあるけれど。
でもまぁディストール王としてはそりゃ驚くよな。恐らくは20年近く前に四傑って呼ばれてた時代に顔を通しているはずのシスターが、実はエルフだったと知れば。
エルフの迫害の歴史の真実が明かされたのがつい最近だ。
ティオがエルフCOしたのも最近で、その話はギルドを通して王族に伝わってるとは俺も聞いてて……ただ、エルフ絡みの風評被害の払拭に邁進するのはティオの贖罪にして使命だからって理由で俺も深くは首を突っ込んでおらず、詳しい話は聞いていない。
そんな所にシスターも実はそうでした、なんてことになれば、まぁ積もる話もあるのだろうな。
俺バカなのでまったくどんな風になるのかとかはわからないけど!
会議室に入室したシスターは、エルフCOしたことで緊張してるのか知らないけれど、随分と雰囲気が固い様子で。
さっきのトゥレスおじさんの話……最終決戦の王都守護部隊の、南西を守る役目をワンさんと共に為す、という事で指名されたわけだけど。
だが当然にして俺たちはそこに疑問を残すので色々聞かなきゃならない。
まず一番今気になっている事。
「シスター、なんで!? その、孤児院のみんなは!?」
俺の代わりにティオが問いかけてくれた。
そう、今この場にシスターが来ている……という事は、孤児院のガキたちはローティリッチに残してきたという事だ。
ローティリッチの高級ホテルであるエーリュシオンに宿泊してて、シスター以外にもカノンさんやカプチーノさん、エイシスさんや従業員さんがガキ共の面倒を見てくれていることは分かっているが。
しかし、俺が知る限りシスターの行動原理は孤児院の子どもたちを最優先していた。
先の第三次人魔大戦で王都に魔族が攻め込んできたときもガキ共の避難を優先させてたし。
シスターがガキたちを放っておいて、己から死地になりえる戦場に馳せ参じる……というのは、なんだか考えにくい。
どういった経緯でエントリーすることになったのか?
そしてガキ共はちゃんとそれを納得しているのか?
そうした疑問を内包したティオの問いかけに、シスターが頷いてから答えた。
「子供たちはエーリュシオンで預かってもらっています。エイシスさんに依頼して……万が一にも私が戻らないようであれば、あちらで引き取ってもらって、面倒を見てもらう約束まで交わしてきました。子供たちにも、事情は説明してあります」
「そこまで……っ!?」
「いやシスター、そんな……大丈夫だよ!? 俺たちでなんとかできる所はしますわよ!?」
話が重い!!(渾身)
絶対ガキ共全員号泣してるよ愛するシスターが戦場に出ますなんて話を聞かされたら!!
エイシスさんやカノンさんカプチーノさんのガキの面倒見る心労を思うと涙がちょちょ切れるよ! 説得にも苦労してそうだしよ!
今すぐにでもエーリュシオンのホテルに飛んでいってガキ共慰めてやりたいよ俺は!
ってかマジでなんでそこまでしてシスターが戦場に向かう必要があったのか。
そこを俺は知りたい。
シスター自身の判断……だったのか?
でも唐突じゃない?
だってシスター、一度はガキ共と一緒に避難してたのよ?
その時から実は……ってもし考えてたとしたって、流石に俺とティオには事前にそれを話さない?
そういうのも無かったわけだから、シスターが戦場に出ることを決めたのは唐突な話だったはずだ。聞いてみよう。
「そもそも、なんでシスターは急に戦場に出るなんて決めたの? いつからその話を考えて?」
「……全てはトゥレスのせいです」
「トゥレスおじさんの?」
「ええ。トゥレスが……昨日ローティリッチにまで顔を出して、私をスカウトに来ました。ワンも連れてね」
「……親父。今久しぶりに親父に向けてキレそうなんだがよ」
「必要だからそうしたまでだ。納得しろ、カトル」
「つってもよ! せめて事前にしろよちゃんと説明ッ!」
トゥレスおじさんのスカウトであった事実が明かされて、その言葉に怒りを覚えるのはカトルだ。
己が父親の、説明不足で勝手に進める癖。
最近下僕にしたアイムを使役する時とか、王族やギルド相手に話を整えて進める時とかは適切に理路整然と話を進めるのだが、身内や家族に対してはたまに説明が最低限になるのだ。
多分この辺はトゥレスおじさんの信頼の証なんだろうけどな。
自分の考えが分かってもらえてると思ってホントに最低限で進める。理解してもらえてるんだろうと思ってる。
相手の能力を買っているという信頼なのだ。
問題はそれにこれまで一番応じてきたのが察し力がカンストしてるルドルフさんだった事なのだろうが……。(涙)
察したよなんでトゥレスおじさんがそんな信頼してる相手に説明最低限になったのか。
冒険者時代にトゥレスおじさんの最低限の指示で、ルドルフさんが最大効率を叩き出し続けてたのだろう。容易に想像できるわ。
そんでトゥレスおじさんの中の基準ラインがどんどん上がって行って、時々こうしてラインを超えた説明不足を弾き出してしまうというわけだ。
じーさんといいウォーレンさんといいトゥレスおじさんといい、俺の周り説明不足なオッサンばっかりなんだけど!!(渾身)
「あっ喧嘩! 旦那と息子が喧嘩してる親子喧嘩だー! やだハラハラするぅ……お母さんっぽい葛藤が私の人工知能に流れてるぅー! ママになってるー!! うっひょぇー!? どうなっちゃうのぉー!? どうなると思いますかアイム! ねぇアイム聞いてる!? アイム!?」
「聞いています……」
「ワン」
「……なんか一気に落ち着いたわ。母さんありがと」
「なんでぇー! ケンカしろよ親子喧嘩ぁー! 終わったら慰めてやっからよママである私がよぉー!!」
色々な感情が織り交ざった重い空気は、ワンさんの一言で一瞬にして霧散した。
ディストール王は苦笑を零し、トゥレスおじさんは嫁の奇行に目を伏せ、カトルはため息を漏らし、シスターは変わらぬ友人の様子に笑みを深めて。
すげぇなワンさん。話の重さも空気も関係なく楽しそうな事を楽しめるのってホントに凄い事だと思う。
敬意が深まってしまいますね。いい女過ぎるだろ。
さて、そんなこんなでカトルの怒りも収まり、シスターが改めて説明を続けた。
内容はこんな感じ。
・トゥレスおじさんは、シスターたちとパーティを組んでいたころから、推察できる内容から判断した予測を外したことがない。
・推察するための材料が不足しているものについては、はっきりと未確定要素として判断できる。
・現状、魔王城に突入して打ち果す突入組の成否については、未確定要素が多すぎるため、ロックの勘に頼らざるを得ず、出来る限り突入組の方に戦力を廻したい。
・逆に、正確に襲撃する魔物の規模が確認できている王都防衛については、必要な戦力を整えれば勝てる事が予測できている。
・そのための必要最低限な戦力として、ミルの実力が必要だとはっきりと伝えられた。
・正直断りたかったが、トゥレスおじさんが必要だという以上、ピースが欠けては完全性が失われて、王都を護り切れない。
・だから参加を決断した。
……と言う話で。
トゥレスおじさんがシスターが必要だと判断したという事は、それ以外で王都防衛を完遂するのにだいぶ支障が出るという事がシスターには分かっていたので、参加せざるを得なかった、というのが事実の一つ。
だが、その話を終えた後に、重ねてシスターがもう一つ、気持ちを述べた。
「……でも、それだけではありません」
「シスター?」
「ロック、ティオ。立派になった貴方たちに、最近の私は色んなものを貰ってばっかりです。いつも心配に想っている大切な貴方たちに、私も何かを返したい。貴方たちの為に、何かを為してあげたい……その想いがあったことも事実です」
「っ……それは……でも! シスターが心配だよ、私は! いくら強いって言っても、何十万体なんていう魔物が攻めてくるのに……!」
「見くびらないでほしいわね、ティオ。年月は経っても私は『四傑』の一人。貴方たちは、戦闘訓練で一度でも私に勝てたかしら?」
「う……」
「俺は風呂場の覗きで一度シスターに完全勝利したけど」
「今それをこの場で口に出す必要があったかしら?」
「ごめんちゃい」
『みゃ』
シスターが、俺たちのために何か報いたいという想いから、力になろうと考えた事。
それを出されると……弱い。
何故なら、それは俺達が普段から想っていることと同じだからだ。
シスターが大切だから、孤児院のガキ共が大切だから、俺もティオも世界を守りたいと思っている。
それと同じように、シスターも俺達の事が大切だから、力になりたいと。
そう言われちゃあ納得するしかない。
俺も小粋なジョークを挟んで努めて真面目な雰囲気を崩しに行って、目論見通りシスターの怒りを買う事に成功し、丸顔をシスターの両手でもんもんと揉まれた。
そんな俺たちの姿を見てティオも目じりを柔らかいものにして……俺の想いにも気づいたようで。
最終的には、シスターが決戦に参加することを歓迎し、王都の守りを任せる事になった。
(余談)
長く間を開けてしまい申し訳ありませんでした。
ライザと結婚してその事実を忘れられてクラウディアと結婚してその事実をなかったことにされてロミィさんのパンツを世界中に流通させてリラさんと終生のつがいになって最終的にライザが「あそこ」って言う単語でエッチなコト連想しちゃう中学生メンタルになったことで帰ってきました。(何してたかは活動報告に)
今後はまた毎週更新から復活していく見込みです。