勘のいいガキはデカパイハーレムの夢をあきらめない! 作:そとみち
その後の冒険も順調に進められていた。
俺が見つけたショートカットにより7階層まで一気に潜れて、その後もセーフハウスが確認されてる12階層まではノンストップで走り抜けられた。
道中に出てくる魔獣もまだまだ苦戦するほどでもなく一蹴。セーフハウスで一度ゆっくり休み食事をとって、さらに進行。
13階層からは少々手ごわい敵も出てきたが……しかしこちとら金級×2、銀級×4、アンドロイドとドラゴニュートである。一戦一戦しっかりと構えてつつがなく突破できていた。
俺とシミレさんがいるので奇襲無効、そして俺の勘により最短距離を踏破できてるのもデカいな。おおよそ余計な戦闘が起きない最短ルートを進んでいって、道中でファーストボックスも開けまくって、マッピングもマルカートさんの方でしてくれてた。なかなかの臨時報酬になるだろう。
そんなわけで精霊セントクレアちゃんが教えてくれた最下層の18階層に足を踏み入れたのだ。
ここまでで多分半日かかってない。いつだって俺はRTA走者です。そんな小説読んだことある。
「……ふむ。やはり最下層らしく下等な魔獣の姿はないな」
「おおよそのダンジョンで最下層に存在する魔獣はボスクラスのみ、大部屋での戦闘ですからね。このダンジョンも例に漏れないようです」
「何が出てくるかしらね……湖だからやっぱり水棲系の魔獣かしら」
「水中での戦闘にならなさそうなのは何よりでした。そこまで難易度の高いダンジョンではない様ですね」
「…………水中だと、ソプラノが足手まといになる、からな」
「なー!? ひどいですよ! 私だけじゃなくてシミレさんだってアルトさんだって水中じゃあ戦えないじゃないですか!」
「アタシたちはソプラノと違って溺れないからまだマシなのよねー」
「乙女同士でケンカせんでくださいよ。水中で一番戦えない俺が何にも言えなくなるじゃないっすか!」
「いやアンタは水中じゃなくても全然戦わないじゃない」
「…………魔族も、撃退したと聞いたが……法螺か? ボス戦では、前に出て戦ってみるか?」
「俺が前に出ることがあったらそれは大ピンチってことなんすよね。遠慮させてもろて」
みんなまだ余裕があるな。追い詰められたりって雰囲気は一切ない。お昼ご飯いっぱい食べたお陰かな。めっちゃ腕を振るったったわ。ダンジョンで食べる肉が一番うめぇんだよ。
リンもメルセデスさんも満腹にして気合十分。このメンバーでこの深度くらいのダンジョンボスであれば踏破できると信じられる。俺の勘がそう言ってる。
そのまましばらく通路を歩けば、とうとう大きな扉の前にたどり着いた。
ボスルームで間違いないだろう。罠も仕掛けもない……押せば開くな。
「……デカそう」
「うん、とびらがでっかい!」
「いや違くて。中にいるボスがデカそうって意味ね」
「むむ」
「なんかしらのギガントタイプかな……そんな気がするわ。もしかすると突入していきなり襲撃あるかもなんでみんな気を付けてもろて」
「扉の向こうの敵影まで感じ取るのか、少年の勘は」
扉を前にして俺の勘がこの先にでっかいボスがいることを察知する。
デカボスかー。そういう場合って大火力を出せる魔法使いがいるといいって聞くけどな。うちで攻撃魔法使えるのはティオとマルカートさんだけだ。
とはいえ他にも高火力持ちはいるし。みんなに頑張ってもらいましょ。
「じゃ、構えてください。開けますよ」
「頼む。皆、最後まで油断せず行くぞ」
「はいっ!」
一番戦闘でお力になれない俺が扉を開ける役目を果たす。いきなり攻撃されても俺なら避けられるし。
扉に手を触れて、ぐっと体重を籠めて押すと……重厚な音を立てて扉が開いた。
直後。
「────ッ!!」
「触手!!
部屋の中からぶっといイカ足が何本も襲い掛かって来た。
クラーケンだ。しかもそうっとうサイズが大きい……ギガントクラーケンの特大級といったところか。
とんでもない質量攻撃で先手を打たれた。扉を開ける途中だからこれでは全員で反撃できない。
だがそんな触手の雪崩の洗礼は、意外なメンバーからのカウンターで見事に対処された。
「──すぅッ、ッガアアアァァァァーーーーーーー!!!」
「うわっちゃ!? 熱ッつぁ!!」
リンの
扉を開ける前から思いっきり息を吸い準備していたのだろう。クラーケンの触手を燃やす熱線がブチ放たれ、かなり堪えたのか触手が勢いを止めて押し戻された。
ついでに扉開けてた俺の後髪もちょっと燃えたけどね!! あっつ!!
やるならやるって言ってほしかったな直撃じゃなかったから許すけど!! 直撃だったら勘が働いてたと思うしリンが俺を狙うとは思わねぇけど!!
後頭部がハゲてないかだけが心配です。毛根焼き付いてないよね??
「見事だリン! よし、総員突撃っ!! まず触手を叩き落せ!! アルトはソプラノとマルカートを護れ!!」
「了解っ!! 『アクセラレーション』ッ!! ティオ行っきまーすっ!!」
「『アクセラレーション』───捌いてやる」
「各種バフは既に掛け終えております。わたくしも後方より火炎魔法で支援を!」
「怪我したら私が回復しますっ!」
「ソプラノは前に出過ぎないでね! あたしの盾で守る!」
「エクスアームズ01『ドリルブラスター』起動──吶喊しますッ!」
その隙をついてメンバーが室内に突入。巨大ボスとの戦闘に入った。
全員にマルカートさんの支援魔法がかけられ、ティオとシミレさんは加速魔法を使ってツインダガーで触手を切り刻む。
回復役のソプラノさんが後衛、それを護るのがタンクとしても優秀なアルトさんだ。ランサーでもあるが大きな盾も持っており、チャージとタンクを切り替えられる彼女ならでは。触手を大盾で弾いている。
イレヴンも腕ドリルを起動して、一撃のもとに触手を千切り貫いている。
……が、なにぶんクラーケンがデカすぎる。
本体をようやく目の当たりにしたが、その体のサイズは20m……いや30m近いか。
その辺の水辺で出てくるビッグクラーケンの倍はありそうなサイズだ。この湖の栄養素パないわ。
これだけ大きいと当然触手の数もサイズもギガント級だ。みんな果敢に攻め込むが中々本体までたどり着けない。
大広間自体もかなりの広さを誇るが、その端から端まで触手を伸ばせるほどのボス。触手に捕まっても即座に絞め殺されるほどではないだろうが、それでも捕まってダメージを受けて、と繰り返すとジリ貧の恐れあり。
だが残念だったな。
ここに俺がいて、そしてリンがいたのがお前の敗因になる。
「リン、もう一発撃てるか?」
「ん! あとさんかいはうてる!」
俺は極限まで気配を消しつつ、先程見事に初撃を乗り切ったリンを庇える位置に移動し、クラーケンの本体を観察していた。
クラーケンの討伐方法は冒険者みんながギルドの講習で学んでる。俺もシスターにティオと一緒に教わった。
いわゆる頭部、目がある上のあたりに内臓があり……そのへんが弱点になる。
特に弱点である頭部のどこかに、
触手を避けて接近し、頭部を攻撃し、そのウィークポイントを見つけて貫いて倒す……というのが鉄板の討伐方法である。
つまり俺の勘があればウィークポイントがどこにあるか丸わかりなわけですね(RTA)。
「いいかリン、イカの目と目の間に真っすぐ線を引くだろ?」
「うん」
「その線のちょうど真ん中から、頭の上に向かって3m15cm……あー、だいたい俺の身長二人分くらいの位置。見えるか? にんじんみたいな形のシミがあるだろ」
「にんじん! きらい!」
「見えてるならOK……アレが弱点だ。撃て」
「おっけー」
時間をかければかけるだけリンやみんなが狙われて危機に陥る可能性が増えるわけだからな。速攻で殺す。
流石に俺もここで触手プレイだぜウッヘヘ! 女の子ヌルヌルウヘヒョ! とはならんわ。命が掛かってんだぞ。そういうのは物語の中だけでOKだわ。
最初の触手の反応を見れば、火が弱点なのは明らか。さらに貫通力もあるリンの
イカ野郎がこっちを狙ってないうちに終わらせたるわ。
「───ッガアアアァァァーーーー!!!」
『!?!?!?』
リンが放ったブレスは狙いを違えず、見事にクラーケンの頭部のウィークポイントに直撃した。
いきなりの高火力砲にクラーケンも驚いたみたいだな。これはみんなが触手の相手をバリバリやってくれて気を引いてくれてたから無警戒だったのも大きい。
煙が上がり、イカが焼けるいい匂いが広がって……しかし。
「っ……まだやられてない!!」
「油断しないでください!! 気を引き続けましょう!!」
「むー!」
なんと一撃では死ななかったようだ。流石にダンジョン最下層のボスって所かちくしょう。
ウィークポイントのあたりが見事に焼けただれてはいるのだが、イカ身に筋肉が詰まっていたのか軟骨が分厚かったのか……一発で貫通とは行かなかったらしい。これで行けると思ったんだがな。
しかしこれは若干まずい。
何故ならイカ野郎がリンという脅威を知ってしまった。すぐさまこちらに向けて触手を放って来ることだろう。
リンの
もちろんこうなってもいいように俺がここにいるわけで、もしもクソ触手がリンに巻き付こうとしようもんなら『捌き斬り』でイカの刺身にしてやるつもりで俺も構えた、ところで。
「……なるほど、
この瞬間まで弓を引き絞り魔力を籠め続けていたメルセデスさんが、焼け跡を狙い弦を解き放った。
「『神弓』ミストルテインの一撃だ─────貫けッ!!」
その弓は彼女の持つ魔装具。
神の祝福を授かりし弓。放たれし矢は光となりて魔を祓う、ケンタウリスが現在所有する唯一の魔装具だ。
魔力を籠めれば籠めるほど威力が上がる特性を持ち、そしてセントール故の規格外の魔力を有するメルセデスさんが操ることでそれは万全に発揮される。
リンの
更に内臓を穿ち抜いて頭の後ろまで突き抜けるほどの貫通力。
光の帯が通り抜けたのち、クラーケンの額には大砲がブチ込まれたかのような大穴が開いていた。
同時にクラーケンの全身から色が抜ける。茶褐色だったそれが一瞬にして白ぼけた透明に変わり、無数の触手がその力を失った。変色機能を失い絶命したのだ。
「……お見事です、団長」
「なに、リンと少年が瞬時に弱点を見抜き、そこに印をつけてくれた結果だ。二人がいなければこの巨体だ、弱点を探すのに時間を食っただろうさ……無論、皆の動きもよかったぞ。よく気を引いてくれた」
「むー。とられた……」
「何言ってんだリン、お前の活躍あってのもんだって! ダンジョン来るまでは心配もしてたけど……やっぱお前強いわ! えらい! お手柄!!」
「そうよ、最初の奇襲へのカウンターなんて見事だったわ。大きくなったらケンタウリスに入らない? 歓迎するわよ?」
「マスターの勘もお見事でした。これほどの巨体のクラーケンの弱点を見抜くとは……流石でしたね」
「…………手間が減って助かった」
「みんな流石だよー! 私なんか試練の当事者なのにあんまり活躍してなかったけど……大丈夫かなこれ!? リンちゃんに譲った方がいいかな魔装具の付与!?」
「リンは武器も防具も持ってないから無理ってやつ」
「いらない。ティオがもらってって」
ギガントクラーケンが討伐の証として少しずつ塵になって消えていき、そうして俺たちにも安堵が広がる。
クラーケンは弱点さえつければかなり優位を取れる魔獣だからな。本来は弱点狙うまでが大変なんだが、今回は特効のメンバーが二人もいた。遠距離高火力持ちが二人。さらにリンは弱点属性突けたし。そういう意味でもツイてたな!
「よし……では精霊に報告に行こう。皆、まだ疲れは無いか? 触手との戦闘でダメージが溜まっている者はいないか?」
「アルトが結構盾で守ってくれてたから……疲れてませんか?」
「まだアタシは全然余裕よ! 大したことなかったわあの程度なら!」
「アルト。最後まで油断するなと団長に言われているでしょう。脱出し、きちんと魔装具を手に入れて宿に戻るまでが冒険です。僅かな油断から瓦解して全滅するなど珍しくないのですから」
「う。……すみませんマルカートさん。実はちょっと腕痛いです」
「じゃあ俺がさすって癒してあげましょうアルトさん!! さぁその二の腕を俺に向け」
「目だ」
「がああああッ!!」
「一番油断してるのマスターじゃないですか……」
「『エクスヒール』! アルトさん、私魔力まだまだ余裕ありますから遠慮なく言ってくださいね!」
「ありがとティオ。アンタホントに底なしの魔力ね……」
俺は再び光を失ってソプラノさんに回復魔法を貰いながらも、しかし無事に討伐は成し遂げて。
部屋の外で待ってたミャウを回収し、俺たちは凱旋の帰路についた。
転移陣はこのダンジョンにはまだ張れてないっぽいからな。帰りも歩きなのが辛いぜ。
まぁもう倒すもん倒したからゆっくり行けばいいか。また水場通って行こーっと!! グヘヘ!!
※ ※ ※
────なんて余裕は吹っ飛んだ。
「ッッ!?!? ……え、何? 急ぎましょ? 急いで……? マジ?」
『みゃあっ!?』
「……は?」
「急にどうしましたマスター? 言動が支離滅裂ですよ?」
「どしたの、ロック」
途中休憩なども入れ、現在は5階層くらいまで順調に戻ってきていた最中に、唐突に響く直感。
警鐘。
まずい。何かわからないが……とにかくまずい。
「え、急にすみません……なんかヤバい、急がないとヤバイ! すぐダンジョン出て……祭壇に向かいましょう!! メルセデスさん!!」
「なんだ、どうしたというのだ少年……今まさに向かってる最中ではないか」
「いやマジで俺も理由説明できなくて申し訳ないんすけど!! なんか起きそう! ってか起きてる!? わかんね……でも手遅れになる、かも!? ゴメンマジで急ぎましょ!? 休憩取ってる暇無いっすコレ!!」
「……なんなのよ? シミレ、何か気配感じる?」
「………………いや、この周辺は、特に何もない」
「そもそもこのくらい浅い階層なら魔獣も強くないはずですが……?」
「それほどの……いったい何を感じ取ったというのです、マスター」
「ロックちょっとこわい……」
「わっかんねぇ、けど……!!」
『みゃあみゃあ!! みゃあ!!』
イレヴンの問いにはっきり答えられないのがもどかしい。
勘だ。ただの勘でしかないのだ、結局のところ。
根拠も何もなく、うまく理由も説明できないのだが……とにかく急がないとヤバイという強迫観念が俺を襲う。
それにあてられたかフードの中のミャウも騒ぎ出す。うるさくしてスマン。だがマジで急がないと。
「……団長、どうされますか? ロック様の勘の良さはこの冒険で有用性を証明しています。確かに何の根拠もないそれですが、戯言と片付けるには少々……」
「うむ────そうだな、ここまで世話になった少年の勘だ。信じよう。ここからは出来る限り急いでダンジョンを脱出する! マルカート、全員に速度上昇魔法をかけてくれ!」
「承知しました」
「私とシミレさんなら『アクセラレーション』でさらに加速して抜けられるけど……」
「いやっ! 単独で突出するのもマズい……と思う!! なんだ、精霊に何か起きてんのかこれ!? とにかく急ぎましょ!!」
「……ルートの分かっている道で、残り5階層だ。急げば20分はかからないだろう」
「団長の判断だし付き合うけど、これで何もなかったら後で覚えときなさいよアンタ」
「何もなくて魔装具を貰えるのが一番ですけどね」
「スンマセンなんかワガママみたいになって!! とにかく行きましょ!!」
俺のなんの根拠もない言葉に、しかしこの冒険で稼げていた信頼でみんなが応じてくれる。
そこに有難さも覚えつつ、しかし一刻の猶予もない……と、俺の勘が叫んでる。
このまま時間をかければすべて台無しになるような焦燥感。
マルカートさんのバフを惜しみなく使ってもらい、そこから俺たち一行は一直線にダンジョンの入り口に向かい走る。
「急げ……!! 間に合え……ッ!!」
「……少年の言葉が徐々に具体性を帯びてきたな。時間制限……いや、何か襲われている者の救出か?」
「となれば狙われているのは……考えられるのは精霊でしょうか? しかしこの街を象徴する湖の精霊に危機が及ぶ、となると並大抵の状況ではございません」
「……まさか。
「え、マジ……!?」
「そんな……魔族って魔素の濃い所じゃないといられないんじゃないでしたっけ!? ダンジョンの深部とか!」
「……精霊が言ってたわよね。湖にたまっちゃった魔力が原因でダンジョンが出来たって。このあたり、もしかして魔族にとってもいい条件の場所だったんじゃ?」
「…………推測でしかない。が、備えておいた方が、よさそうだ」
とにかく必死に走り抜ける中で、俺の中の勘も徐々に具体性を帯びていく。
みんながそこから推理を結ぶが……どうやら、それは当たってしまったらしい。
全速力でダンジョンを脱出して。
そのまま祭壇に向かい。
そして。
見た。
「────あら、獲物がいっぱい♡」
『ごほッ……!!』
ボロボロになった祭壇の中央で、満身創痍で横たわる精霊セントクレアと。
それを踏みつけたままこちらを見据える、強烈な闇の魔力の気配を放つ女────魔族の姿を。