勘のいいガキはデカパイハーレムの夢をあきらめない! 作:そとみち
翌朝。けだるい疲労感と共に目が覚める。
流石に疲労はたまってるな。昨日あんだけ大立ち回りしたらそりゃそうってやつ。
「おはよ、ミャウ」
『フルスァー……モンシャー……』
相変らず布団の中に潜り込んで爆睡しているミャウに朝の挨拶をして、ベッドから出る。
今日の予定はまだメルセデスさんから詳しくは聞いてないが、ここに来た理由の最大の目的である魔装具の獲得は果たしたわけだからもう忙しいって事もないだろう。
観光になんのかな。したらようやく落ち着いて眼福モードになれるわけだ。
備えておくに越したことはない。常に体は清潔を保ち続けるべきであろう。
つまり朝風呂である。
「いつでも温泉入れるのがいいよなーこの宿。俺ももしまたこの街来ることあったらここにするかな。……ほれ起きろミャウ。風呂行くぞー」
『みゃっ!? むああ……みゃあ!』
「よ~しよしかわいいヤツめ」
風呂と聞いてがばっと起きるミャウ。大あくび一つついてから俺の頭の上に登ってきた。
着替えとか入ってるアイテムボックスを手に取って部屋を出て浴場に向かう。相変らず俺が目を覚ますのは早朝といった時間なのですれ違う客はほぼいない……のだが。
「……ん? ティオ?」
「あ、ロック……」
ティオがいた。
宿の二階にある部屋に俺たちはみんな宿泊しており、一階にある温泉に行く道中で発見。ちょっとした休憩スペースみたいなところにティオが座ってた。
なんでや。お前こんな早起きするタイプだっけ。
顔を見れば……あまり眠れなかったのだろう。色濃く疲労の色が出ている。
どうしたお前。
「……大丈夫か?」
「ん、うん。多分……」
駄目みたいですね(確信)。
俺が心配の言葉をかけてやったら返ってきた返事が余りにもティオらしからぬそれだったんで結構まいってんな、と俺は確信する。
まぁなぁ。昨日は色々あり過ぎたし。自分がエルフだと知ってなんか色々考えて眠れなくて……ってところか。
ンモー。お兄ちゃんは心配ですよ。
ティオが座る長椅子の隣に腰かけて、話を聞いてやることにした。
「……悩んでるか? エルフの件」
「っ……うん、少し……色々考えちゃってさ」
「そか。……とりあえず全部口に出してみ? 聞いてやるから。悩みなんて自分一人で抱えてても何もならんぞ」
「……うん」
とりあえず今ティオの中で溜まってる悩み全部吐き出させてやる。
俺はこれまでの人生で悩んだことなんか数えるくらいしかないが、まぁ自分で抱え込みすぎるのだけはよくないってのは知ってるんだ。そういう人見たことあるから。
「……一番悩んでるのは、やっぱり……寿命、かな。人間として生きて、人間としてみんなと一緒に歳を取っていくものだと思ってたから……ロックや、カトルや、クランのみんな、孤児院のみんなと……違う時を歩んでいくのが…………怖い……」
「……ふむ。他には?」
「……エルフへの差別ってまだ残ってるじゃない? クランのみんなは気にしないって言ってくれたけど、そういうのでこれから私への目が、見方が変わっちゃう人ももしかして出てくるのかな、とか……」
「ふんふん」
「……気になってるのは、シスターミルが私の事、何も言ってくれなかったこと……シスターも知らなかったのか、知ってて言わないでいてくれてたのか……なんで、教えてくれなかったのか……とか。…………なんかその辺、ぐるぐるしちゃってさ。はは、らしくないよね……こんなの」
聞いてみれば零れてくるわ零れてくるわ、色んな悩みが。
コイツ結構繊細なところあるからな、普段の調子からは分かりづらいけど。ガキの頃はよく俺の布団に潜り込んで泣いてた時もあるし。
仕方ねぇな。お兄ちゃんがそんなお前を優しく慰めてやろう。
「マジでらしくねぇわバーカ!!!!!」
『みゃあ!!』
「えっ、っはぁ!? そ、そこまで言う!?」
「うるへー!! エルフはデカパイという通説で俺のハーレムにぜひとも欲しい人材リストにあったのに存在で否定しやがってこのまな板!!」
「どうして身体的特徴までディスッて来たの!? 泣くけど!?」
とりあえずらしくなさすぎるのはマジなのでそこにキレる。
こういう話する時に一番大切なのはお互いの本音をぶつけ合う事だと思ってるので。下手に気遣った慰めの言葉なんか絶対聞かないじゃんこういうの。本音で納得しないじゃん。
だから本気で俺の考えをぶつけてやるわ。デカパイの件も本気も本気だわ。
「さてまず寿命問題だけど」
「この流れで急に真面目な話!?」
「俺ら冒険者なんだから常に死に別れるリスク背負ってるわけでさ。今更じゃん? 俺の知らないところでお前がやられて俺が遺される可能性だっていっくらでもあるわけだしよ。マジでそうはなってほしくねぇけど」
「う、そ、それはそうかもしれないけどー!」
「なので俺がじーさんと同じくらいジジイになってからそういうのは悩んでほしいよね! むしろ考えようによっては永遠に若く美しいままでいられるのを喜んでもよくね? 加齢を気にされてる奥様方から殺されるぞお前」
「そこまで恨まれないと思うけどなぁ!? で、でも……死なないで過ごしたら、みんなを看取らなきゃいけないんだよ? それってすごい悲しいと思うし……」
「まだ看取ったこともないお前が言える話ではないことは確か」
「っ……!」
「……確かに死に別れんのは辛ぇさ。残された側も悲しむよ。
「…………そうかな」
「そうだよ」
「……強引」
「いつもどーり」
とりあえず寿命の件について。
そもそも俺ら冒険者なんだしいつ乙るかなんてわからん。昨日だって全滅しかけたわけで、勿論死にたくはないけど、常に死は覚悟しなきゃならない仕事してるんだ。
そんな中で80年後の話なんてしても鬼が笑うわ。俺は100歳までは生きるからな! 死ぬ直前まで女を抱くのを目標としています!! ハーレム高齢化問題からは眼を逸らす。
それに……人を看取るってのは悲しさもあるけど、悲しいだけじゃない。その人が寿命を全うしたならば、それは笑って送り出すべきだと思うし託される想いとかもあるし。
だからその辺は今悩んでもどうにもならないよねってのが一つ。
「続いて差別問題だがこれは俺やイレヴンやクランのみんなが絶対に漏らさないのでお前がエルフだと知る者は今後増えないので問題ない。……し、もしどっかからそんな噂が立ってお前をイジメるようなヤツが出てきたら俺がブチ殺すのでやはり全く問題ない」
「殺すのは駄目だと思うけどなぁ!? ……でも、ロックにそう言ってもらえるのは、ちょっと心強い、かな」
「別に今すぐエルフだから悪落ちしてドスケベコスチュームを身にまとってダークエルフになっておっぱいがでっかくなるわけでもねぇし」
「どうして執拗に私の胸を大きくしようとするのロックは台無しだよ余韻が」
「いや待てよ……? ティオがこのまま無事に冒険者稼業を終えて誰かと結婚なんてしたらその場合は死に別れて未亡人ロリババァエルフが誕生するという事か……? なんだよオイとんでもねぇ可能性の獣じゃねぇかお前……!!」
「本当に台無しだよ!!」
懸念される差別についても全く問題なし。
今の所エルフだって知ってるのがケンタウリスのメンバーと俺とイレヴンとリンだけなんだ。誰にも話さなければ問題が発生するはずもない。俺らは勿論ケンタウリスのみんなだって誰にも言わないだろうし、リンには俺がしっかり口止めする。
もし仮にどっかでティオがエルフだってバレて、それで何か言ってくる奴がいたらとりあえず俺がキレるのでこちらも問題なし。
ティオがなんかしたわけでもないのにそういう事言うようなやつは愚か者なのだ。俺の妹分泣かせるようなヤツがいたら飛び出していってビンタしちゃるわ。
「最後にシスターの件だけど。これは……正直なところ俺も気にしてた。お前の耳の形、噂されるエルフみたいに尖ってないじゃん。普通の人間の耳の形じゃん」
「う、うん……それも気になってたんだよね。ハーフとかで人間のほうに寄ってるとか、なのかな?」
「それが生まれつきだったらシスターだって分からないよな。でも生まれつきじゃなかったら? って考えると……シスターがどこまで知ってて何やったのかってのは、俺も知りたい所はある」
「……うん」
「だからさ、王都に戻ったら二人で聞きに行こうぜ。俺も一緒に聞いてやる……ってか聞きたい。シスターの事だからもし何かあっても絶対にお前の事を想ってのことだと思うけどさ、一人で聞きに行くよりは気が楽になるだろ?」
「っ、うん! 実は一人で聞きに行くのが、ちょっと怖くて……ごめん」
「謝られることなんもないわ」
「ん。……ありがと」
「おー」
『みゃあ』
シスターの件。これだけはちょっと俺も首をひねってるところだ。
これは俺の勘だけど……多分、シスターは何か知ってる。あの人普段はのほほん糸目デカパイシスターしてるけど魔法関係の腕前はピカ一だ。冒険者やり始めて改めて俺もあの人のすごさは理解した。
だからこそ、魔法にあれだけの才能を見せたティオの事を知らないってのは違うような気がする。シスターだって才能を見初めて色々ティオに魔法の教授してたし。
……それでも信じられることが一つ。あの人は俺たちを裏切るようなことはしない。
きっと何かしら事情があったのだろう。それを知ることで俺たちが、そしてシスターも肩の荷が下りるような何かであってほしいと祈っている。
「というわけでティオの悩みはこれですべて解決したわけだ。よかったよかった」
「解決はまだしてないと思うなぁ!? けど……うん、ちょっと思い悩みすぎてたかも。ロックに零せて少しは気が楽になったかな」
「そんなもんだよ。悩みなんてのは美味い飯腹いっぱい食べてガッツリ寝れば大体解決しちまうようなもんだ。で、もしそれでももやもやするもんがあったら……とりあえず俺はいつでもティオの話聞くからさ。だからあんま思い悩むなよってこと」
「……うん。やっぱりロックはロックだね」
「ティオがティオだからな。エルフだろーがなんだろーがそれが変わんないのと同じ」
「ふふっ……そうだね」
『みゃあみゃっ……みゃあ!』
「ミャウも言ってるぞ。『ティオファルディグとかいうカッコいい名前つけてるけど技名に自分の名前入れるのはどうかと思う』ってさ」
『みゃあ!?』
「言ってないよ!? ミャウも私の事慰めてくれてたし技名はいいでしょー!? ティオって数字の10って意味もあるんだよこのおバカ!!」
「つまりこの世界にはあと9人のティオの姉たちがいる可能性が……!? デカパイ確率90%ッ!?」
「ないと思うし勝手に全員女の子にしないで!?」
ティオの悩みがすっかり解決したことでミャウも突っ込みたがってた所を聞いてきたので俺が翻訳してやったというのになぜティオは怒るのだろうか。
技名の件は現場を見てたイレヴンからティオの活躍聞いた時に教えてもらったんだけど笑い堪えるのにめっちゃ苦労したからな俺。
技名叫ぶのはロマンあると思うけど自分の名前入れるのはかなり勇気ある。ロックあたーーーっく!! みたいに俺も叫んでみるかな。がはは。
「ま、一先ずはデカい戦いも終わって無事に魔装具もゲットできたんだからさ。ゆっくり休めよ。……あんま寝れてないんだろ? 今からでも部屋行ってちょっとでも休めな。俺は風呂入ってくるわ」
「うん、そうする。ロックもゆっくりしてね」
「おー」
「……ありがと、お兄ちゃん」
「うむ」
ティオの顔に笑顔がこぼれ始めたのを見てパーフェクトコミュニケーションが決められたことを確信した。お兄ちゃんパワー。
最後に久しぶりに俺をお兄ちゃん呼びしてきた愛する妹の頭をぐしぐしと雑に撫でてやって笑顔をむすーっとした顔に戻してやってから、ミャウを連れて改めて朝風呂にしけこみに行くのであった。
※ ※ ※
さてそんな朝の一幕もあって、風呂あがって牛乳飲んでみんなで集まった朝食会場。
「私とマルカートはギルドに魔族撃退の詳細な報告とダンジョン攻略の報酬を受け取りに行くが……他の皆は今日は一日フリーの日としよう。それぞれ思い思いに過ごしてくれ。揉め事などはないようにな」
メルセデスさんからそのような話があり、今日は一日自由に息抜きすることになった。
やったぜ。じゃあ早速デート相手を見繕わねぇとなァ!? レッツ玉砕!!!
「アルトさん!! 俺と一緒にカフェ行きませんか!? いい店見つけたんですよォ!! メルセデスさんと前行った所で!!」
「別にいいけど」
「ソプラノさん!! メルセデスさんと街中回ってた時によさげなお土産屋さん見つけたから一緒に見に行きませんかグヘヘ!!」
「いいですよ」
「シミレさん!! ダンジョンの戦闘でだいぶ武器防具摩耗したでしょうから鍛冶屋に手入れに行きませんか!? このへんの鍛冶屋見て回りましょうやァ!!」
「…………ああ、構わん」
「ですよね知ってた!!! …………ん? あれ?」
おかしい。
俺の耳がおかしくなったのでなければNOの返事がなかったような気がする。
どうした? 幻聴か?
「アタシの装備も摩耗してるからまずは鍛冶屋ね。耐久戻さないとね」
「その後はカフェですね。団長も味はよかったって言ってたし楽しみです」
「…………最後に土産屋か。テノールに何か買っていこう」
あれ? なんで??
何か知らんけど3人ともOKなんだが? いつの間に俺モテ期入ってたの??
おかしい……俺を騙そうとしてる……。
「あ、私はちょっと眠いから宿で休んでるね。ごめんねみんな」
「では私はティオに付き添いましょう。私も少々各部がオーバーヒート気味ですからゆっくりします。マスターはくれぐれも皆さまにご迷惑をおかけしないように」
「んー。……ごはん! このおやどのごはんたべる!!」
「各々の予定は分かったな。ではロック少年、皆を頼んだぞ」
「報酬分配は今夜になさいましょう。皆さま、ゆっくりなさってください」
そしてティオはともかくイレヴンもリンもついてこないという。
おかしい……絶対俺を騙そうとしてる……!!
何が起きるかわからんが、とにかく俺はケンタウリスのメンバーと一日を過ごすことになったのだった。