勘のいいガキはデカパイハーレムの夢をあきらめない! 作:そとみち
「闘技大会?」
「はい~。詳しくは私も分からないんですけれど~、中央区にある闘技場で昔やってたイベントらしいですね~。国王が企画するイベントで、腕自慢の冒険者が自国他国問わず集まって、戦って頂点を決める~? みたいな感じらしいです~」
「ほぇー。そんなイベントあったんだ」
闘技大会。俺の人生の中では聞いたことのない単語だ。
20年ぶりっつってたから少なくとも俺は生まれてないな。でも国王が主催するほどのイベントだっていうならもっと知名度があってもおかしくないような気がするけど。聞いたことない。
「なんでも20年前に開かれたときは一人の冒険者が強すぎて盛り上がりに欠けちゃって~、しばらくは開催が見送られてたらしいですね~。その前までは10年ごとに企画されてたとか~。150年前の冒険者飽和時代には毎月のように開かれてたらしいですよ~」
「歴史あるイベントのようですね。しかし腕自慢の冒険者が集まる……となると」
「そこに俺が参加して経験を積めるって話?」
「ええ~。ロックくんも参加してみてはどうでしょうか~」
なんか前に開催したときにあんまりにも圧勝しちゃった冒険者がいてしばらく見送りになったらしい。その人が現役でいる間はまた開催しても盛り上がらん……みたいな判断だったんかな。
んでもってノインさん的にはそこに俺が参加して、強者と戦うことでレベルがあげられるのでは……ということで。
ンーンン。そうは言うがな。
「俺一人で戦うことにならないすかね? イレヴンなしじゃあなぁ……銀級の中でもいっちゃん攻撃力低い自信あるんすよね俺」
「マスターにはカウンターがあるではないですか」
「人間相手に下手にやると一撃で殺しちゃうからできればやりたくねぇんだよな……あの技は手加減とか効かないのよ」
「……なるほど。確かに相手の攻撃力に依存する技ですもんね」
「あ~、そこは大丈夫だと思いますよ~? 150年前にいっぱい開かれてた闘技大会ではアンドロイドを従えていた冒険者は一緒に戦ってましたし、インテリジェンスソードとかと同じ所有物扱いで参加できるはずです~」
「そーなんすか? なら参加すっかなー!! イレヴンがいりゃ100人力よぉ!!」
ちょっと危惧してた点を零したらノインさんが大丈夫だって言ってくれた。
イレヴンが一緒に参加できるんなら怖い事無いわな! 俺は囮になりつつ回避に専念してイレヴンが前線で攻撃に回るいつものやつでいけるな!
「マスターに期待されるのは嬉しいですが……しかしノイン、随分と詳しいのですね。開催情報のみならず、150年前の大会にまで知見があるとは」
「え? あ~……あはは。なんてったって本の虫ですから~。過去の闘技場の歴史をまとめてる本を読んだことがあるんですよ~」
ノインさんは図書館キメてるからな……。(納得)
知らないことはないんじゃないかってくらい歴史にも文化にも詳しいからなこの人。これまでにもいろんな話をしたけどなぜか冒険者の文化とか装備とか魔獣とかにも詳しいし。この世界の事何でも知ってそう。
やっぱすげぇぜ……ノインさん!!
「うふふ、このお話は近日中に国からギルドに発令されると思いますが~……一応それまでは他言無用でお願いしますね~。ロックくんとイレヴンさんならその心配はないと思いますけど~」
「安心してくださいよノインさん。俺は口の堅さに定評のある男です」
「信頼できなさすぎる。まぁ私がしっかり口止めしておきますので」
「お願いしますね~。ロックくんが闘技大会出たら、観客席から応援してますから~。頑張ってくださいね~」
「ノインさんに応援されたら優勝を超えて神勝しちまうかもしれねぇな……!!」
「急に神に成るな」
最後にオフレコの約束をする。そりゃそうだわな。俺らもこの話聞いたからって特に大会で有利になるってことはないからその辺心配ないとは思うけど。
ただまぁ、前々から予定してたレベル上げは闘技大会に備えるためにもしっかりやろうかなって思えるようになった。
手ごろなダンジョン潜っていつでもギルドに戻れるようにしておかねぇとな。これで闘技大会参加しそびれたら楽しみにしてるノインさんに申し訳ねぇからな!!
いい動機付けになったわ。闘技大会で活躍すればモテるかもしれねぇし。またしてもハーレムの夢に近づいてしまうのか。
……いや闘技大会で活躍するのは俺ではなくてほぼほぼイレヴンになるのではないか? イレヴンに穢れたオス共の眼差しを向けられるという事か……? そうはさせねぇぞクソッ!! イレヴンは俺の女やぞ!!
こうなったら闘技大会の中で見せつけるしかあるまい……イレヴンと俺の仲を!
具体的には勝利のたびに俺にキスしてもらおう!! そうすりゃ変な虫はつかねぇだろ!!
「勝つたびにイレヴンが俺にキスしてくれるから死ぬ気で頑張りますよ」
「待ってくださいどこからその約束出て来たんですか? しませんが??」
「あら~。大胆ですねぇイレヴンさんも~。ご主人様にめろめろってやつですね~」
「どうしてノインはマスターの言葉をそんなにも簡単に信じてしまうのですか??」
『みゃ……』
どうやらまだ以心伝心という所まではいってなかったらしいな。世知辛いぜ。
さて、そんなアホみたいな流れになってイレヴンを無限に茶化すか……と話の舵を切ろうとしたところで、しかし唐突なカットインが入る。
「───お嬢様。そろそろお時間でございます」
「オゥ」
『みゃあ!?』
「わっ……っと。気配無く出てきますねこの執事……」
「あら、もうそんな時間ですか~。ロックくんとお話してると本当に時間が経つのが早いですね~」
執事さんが気配も音もなくシュバッとノインさんの横に現れる。俺もミャウもイレヴンも唐突なカットインにびっくらしてしまった。
マジでこの人急に来るからな……俺もシーフだしそれなりに気配察知に自信あるんだけど未だにこの人の気配を読めたことはないです。特殊な訓練でも受けておられる??
「うふふ、それじゃあ今日はこれで失礼しますね~。素敵なプレゼントも貰えちゃいましたし……嬉しかったです。それじゃあまたね、ロックくん。イレヴンさんもミャウちゃんも」
「喜んでもらえてよかったっすよ! また感想戦しましょうね!」
「ごきげんよう、ノイン」
『みゃあみゃあ!!』
執事さんの迎えが来て、ミャウの頭を撫でて俺たちにも行儀よくお辞儀をして去っていくノインさん。
ホントに一つ一つの所作が優雅だよなぁ。今日の話で王族とも繋がりがある身分の人だってのは確定したし……ノインさんマジでお姫様だったりすんのかな?
いやないか。ないわな。お姫様がこんなところにいて俺みたいな孤児と話すなんて物語じゃあるまいし。そこまで俺も夢見がちではありません。
それはそれとしていつかこう……もっと距離感縮まってリバース玉の輿を夢見るくらいは許されるやろ!!
「いつかノインさんからロックくん結婚してください♡ って言ってもらえないかなぁ」
「せめて自分からプロポーズしろよカス」
「いや……そういうのなんかテレるじゃん……?」
「マスターは本当にそういう所だと思いますね」
『みゃあ』
どうやら夢は永遠に夢みたいですね。
いい時間にもなったので俺らもカフェを後にして、夕飯のカレーの食材を買いに商店街に向かうのであった。
※ ※ ※
【side ノイン】
「……ふぅ」
魔導馬車に乗り眼鏡をはずし、王城への帰路を進む。
今日もまたちょっと色々ありすぎた。イレヴンをロックくんが見つけてから、なんだか物語が大きく動いたみたい。
ケンタウリスのメンバーは美女揃いだと聞いている。それに囲まれて冒険して、魔族幹部本体との戦いでも活躍して生き延びて、イレヴンとも本マスター登録をして……と。本当に主人公みたいな活躍をしている。本人には自覚がないみたいだけど。
すごいなぁ、本当に。
……本当にロックくんは面白い。
そんな彼だからこそ、私は夢を見てしまう。私が作るオマージュ全開の物語ではない、本当の夢物語を。
孤児院出身から成り上がって、いつか私を選んでくれるような……そんな夢。
分かってる。身分がそれを許さないってことは。
私は第九王女ノルン。彼は何の地位もないただの銀級冒険者。
私達の関係は、ただの趣味が合うだけの友達で。
それ以上踏み込んではいけないということは分かっていても。
それでも、夢を見るのだけは止められないのだ。夢を見るのを誰も止めることはできない。自分自身でさえ。
ハーレムの一員だって構わない。私を自由にして、愛してくれるなら。
「……ほっほ。姫様も随分と患っておられますな」
「ん。ルドルフ、これを茶化すなら貴方でも怒りますよ〜?」
「おお怖い怖い。乙女心ほど茶化すのが怖いものはありませんな。私は口を噤むとしましょう」
馬車の中でそんな私を見てルドルフが軽口を叩いてくるが、むすっと裸眼で睨み返して黙らせた。
傍目に見ても分かってしまうのだろう。このわずかな逢瀬の時間を味わった後の、私のがっかりした顔を。
……もっとロックくんと話したい。彼の時間が欲しい。
そんな思いで、今日はまだ公表されていない闘技大会のことを話題に出してしまった。
もしも。
もしもだけれど、ロックくんが闘技大会に参加して、すごい成績で、優勝したりして……優勝すれば表彰式があるから、そこで
そんなことあり得ないのに、そんな妄想が先走って、まだ内々での話だった闘技大会をロックくんたちに伝えてしまった。
もしこれでやる気を出したロックくんが頑張ってくれたら……なんて、ね。
「……はぁ」
分かってる。これはただの未練だ。
いずれは縁談が来てしまうだろう。兄様姉様がそうだったように、私もいつかはその時が来る。
でも……そのいずれが来るまでは、もう少し夢を見ていたい。
……夢小説書いちゃおうかな。
ロックくんが主人公で、私がヒロインで。いい感じに成り上がって添い遂げる様な夢小説。
うん、書いちゃおう。今夜書いちゃお。
流石に世には出せないけど私の夜のお供にはなるだろうし。妄想はいつだって自由だし。
「……ロックくん」
息の詰まりそうな王城の生活の中で日に日に募る自由な彼への羨望。
今日、彼から貰ったプレゼント。アガパンサスの押し花の栞。
アガパンサスの花言葉は、「恋の訪れ」「知的な装い」「ラブレター」「優しい気持ち」。
今の私に色々と噛み合うようなそれ。きっとロックくんはそんな事全然考えないでプレゼントしてくれたんだろうけれど、それでも本当に嬉しかった。
「……ちゅっ」
前を向くルドルフに見えない角度で、その栞にふっと唇を触れさせる。
触れ合わせた栞からは、温もりが返ってくることはなかった。
~設定紹介~
■オーディン王家
自由主義、実力至上主義を謳うかなり豪快な一族。
王家全体で基本的に恋愛は自由恋愛であり身分も重んじない。他国から縁談とか来ても全部突っぱねてる。
現在は一男、二女、三男、四女は結婚済だが全員が自分で見初めた相手と結婚している。身分が高い相手なのはたまたま。
ノルン(ノイン)はそうした貴族関係のパーティに出来る限り出席しないようにしてたしそもそもコミュ障なので兄姉とその辺全く話してなくて知らない。
ルドルフは面白そうなので伝えてない。