勘のいいガキはデカパイハーレムの夢をあきらめない! 作:そとみち
孤児院組にも無事挨拶を終えて別れて、俺とイレヴンはまた闘技場内をぶらついていた。
ミャウも一緒である。猫好きのカシム(8歳・女)に奪われて生殺与奪の権を委ねていたが俺が無事救出した。今はフードの中で冷や汗拭って一息ついてる。
「ミル一人であの人数の引率は大変だと思いましたが……リンが意外とお姉さんしていましたね」
「な。俺ちょっと感動しちゃったよ。ちゃんと孤児院で成長してるんだなぁ……」
再びイレヴンと手を繋いで歩きつつ、思い返すのは先ほどのリンの事。
わんぱくなガキ共が10人くらい見学に来てたのだが、流石にシスター一人では10人の面倒を見るのは大変だ。年長組はまだいいとして年中、年少組はもうテンション上がったらどこ走り回るかわからねぇしな。その辺の大人より強いから足も速いし。
しかしなんとリンがシスターの引率のお手伝いをしてたのだ。走り回りそうなガキがいたら飛び出す前にひょいっと首根っこを掴んで止めるという活躍をしていた。
確かにアイツあの中じゃ多分一番年上だからな。12歳くらいか。胸以外の肉付きとかを見る限り。
もちろん実力も素早さもガキ共とは比べ物にならない。なんせダンジョンボスや魔族と戦っても生き延びるレベルの強さだ。ガキ共相手にして手加減も覚えて来たのかな。
自主的に年長者としてのふるまいを覚えてたようで、これにはシスターも随分と助かってたみたいで。
……なんか……パパ嬉しい!!
「言葉はまだまだだけど……中身はもう大人になろうとしてんだなぁ。この闘技大会が終わったらまたリンに美味しい飯ごちそうしてやろーぜ」
「そうですね。優勝祝いも折角なので兼ねましょうか」
「そうありたいところだけどライバルが強いからなぁ。ヴァリスタさんとかと当たったら勝てるかな?」
「まだ底を見せてませんからねヴァリスタは。彼に勝てた時のレベルアップが楽しみです」
「そこなのね」
闘技大会終わったら街を上げての大宴会が始まるからな。そん時またいっぱいリンにご飯食べさせてやるか。みんなも呼んでさ。
イレヴンは俺らの優勝祝いにもしようと言うけど実際めっちゃ厳しそうな予感がするんだよな。
本戦で……まずヴァリスタさんがちょっと勝てる気がしないあの人。イレヴンも最初の頃の模擬戦よりずいぶんレベル上げて鍛えまくったけどそれすら超えてきそうだしなぁ。
他にもカトルやティオが魔装具の力全開でガチってきたらイレヴンでもヤバそうだし。他の金級冒険者もヤバいかもだし。サザンカさんの実力も分からんし。
頑張るけどさそりゃね。でもまぁ無茶はしないのが俺の生きざまよ。
無茶をするのは誰かを守る時だけでええ。
「さて、しかし次はノインを探すという事でしたが。マスターはノインのいる場所が分かっているのですか? 開会式から予選までに観客席を何度か見渡しましたが、姿は見かけませんでしたが……」
「俺も実際に目で見たわけじゃないけどね。けど勘が囁いてるから多分どっかにいるんだよ。こっち……かな。多分」
さて、そんじゃ次のあいさつ回りでノインさんを探して歩き回る。
既に闘技大会の予選二回戦が始まっているのでそちらにも目を向けつつ、勘に任せて闘技場の観客席の外周を進んでいく。
俺らの時の予選とは違って各々のレベルがいい感じに拮抗してて中々の名勝負が繰り広げられてる。
女性冒険者は二人か……頑張れー! 胸揺らせー!!
……あ、負けた。悲しい。
「ふーむ……こんくらいならイレヴンの相手になる奴はいなさそう」
「です、ね……と言うかマスター、その……」
「なんぞ?」
「いえ、今はマスターの勘の向くままに歩いているわけですが……貴賓席に向かっていませんか?」
「ん? あ、ホントだ」
闘技場のデカパイに目を奪われながら歩いてた所、どうやら俺の勘は貴賓席に向かっていたようで。
ノインさん探しながらだったんだけど……やっぱあれか? ノインさん王族関係の人だったんか?
マジか。うーむ……しかし流石に俺達が貴賓席にお邪魔する事なんて出来るはずもないし。
どうするか……とりあえずまだ勘が囁くから歩いてみるか……と。
そんな風に歩いていたところで。
「────ロック様、イレヴン様」
「おぅっふ!」
「わっ……っと。相変らず神出鬼没ですねこの執事」
唐突な執事カットインが入った。音もなく背後を取られてしまった。
俺の背後を取れるのこの人くらいだよ。俺以上に気配消すの上手じゃないっすか執事さん??
「ご無礼をお許しください。ロック様はお嬢様をお探しでございますかな?」
「あ、そーなんすよ! 俺のこの素晴らしい活躍を見てくれていたかなと思って探してたところなんす!」
「活躍したのは主に私では?」
「ほっほ……お見事な活躍でしたなお二人とも。お嬢様も大変喜んでおりましたよ。お嬢様はこちらです」
「助かります!」
しかしどうやら執事さんはノインさんの所まで案内に来てくれたようで。有難い限りだ。
そうして執事さんの後ろについて行けば……貴賓席の方ではなく、その近くの席、観客席の高い位置にある客席にいつもの姿があった。
高級感あふれる衣装に身を包んだデカパイ眼鏡。ノインさんだ。
なんだ、貴賓席じゃなかったんだ。たまたま席が近かっただけか。
確かにこの辺の貴賓席周りはちょっと身分高めの人が集まるゾーンっぽいな。周りに座ってる人も服が高級感あるわ。
「ノインさーん! 俺の活躍見てくれてましたかー!」
「あ~、ロックくん~! 見てましたよ~、予選突破おめでとうございます~!! イレヴンさんも流石でしたね~!」
「恐縮です。……マスターのご活躍もちゃんとご覧いただいていたのですね」
「もちろんですよ~! ミサイルもカッコよかったですけど、その煙幕を使ってロックくんが攪乱してましたよね~! ジョニーさんの武器を奪ったときは思わず叫んじゃいましたよ~! あれどうやったんですか~?」
「シーフですからね俺は! 余り普段はやんないけど盗むのは得意なんすよね!! 普段はやんないけど!!」
ノインさんの隣の席がたまたま空いてたのでシュババっと着席してそのデカパイを横から眺めて目の保養にしつつお褒めの言葉を頂いてテンションが超ノリノリになる。
これで絶好調アイコンを本戦までキープできるな。勝ったわ。
俺の隣にイレヴンも座ってなんかいつもの並びになったな。ノインさんのニコニコ笑顔が可愛い! すき!
「……気配を消したマスターが、ノインには見えていた……?」
その顔に夢中になってイレヴンが小声で零した呟きはスルーしておこう。聞こえたけど。
なんで気配消してた俺の事が見えてたんですかねノインさん? ってちょっと思ったけど。
まぁ細かい事はええやろ。ノインさんの愛ってことにしといて。
「イレヴンさんも新しい武装増えてましたね~。あのミサイルはこの予選の為に機能を解放したんですか~?」
「ええ、マスターと相談して……多人数相手に広範囲に攻撃できる武装を選んだのです。これ以外にも色々と新しい機能を解放していますよ」
「へぇ~。前に聞いた時はグランドスピナーまで解放していましたよね~? ミサイルを今回は見せて……他には何を解放したんですか~? こっそり教えてくださいよロックくん~」
「ノインさんにお願いされちゃあ断れませんな! 他の人には秘密ですよ? んじゃお耳を拝借……」
「えへへ~、やった~!」
さてそうしてノインさんと無事会えたので世間話に花を咲かせる。
ノインさんの耳元でイレヴンに解放した機能なんて説明して、それでノインさんが驚いたり。勝った俺の頭を撫でてもらったり。ミャウもふもふしたりして蜜月を過ごしていたところで。
「マスター。もうすぐ第三試合が始まるようですよ。サザンカの応援をしましょう」
「おっマジか。いつの間にか二回戦終わってたか……うし、んじゃ応援しますか!」
「あら~? またロックくん新しい女の人増やしたんですか~?」
「実はそうなんスよノインさん……これがまた美人でェ……!!」
「美人なのはその通りですがマスターの女ではないですね間違いなく」
「でも一週間も同棲したらもうそれは俺の女と言っても過言ではなくない?」
「その理屈で言うとミルとティオとリンまで風評被害に晒されるからやめて差し上げろ」
「ふふ、また面白い事やってるみたいですねロックくん~」
どうやらサザンカさんが出場する第三試合がもう間もなく始まるようだ。
ノインさんにサザンカさんとの出会いとこれまで同棲してた事情なども説明しつつ舞台を見ていると、観客の僅かなざわめきと共に舞台に現れたサザンカさん。
深紅の厳つい鎧武者姿。大太刀を佩いてかちゃり、と具足の音を鳴らしながら入場するそれはまるで魔獣でも現れたかのような剣呑な気配を纏っていた。
そして俺もその姿を見て、一つの大きな感情を胸に抱くことになる。
「───よかったサザンカさん迷子になってなくてッ!!」
「ほんそれ。あの方向音痴の凄まじさは本気で不参戦敗北があると思っていましたから」
「え~、そんなにすごいんです?」
「すごいのです。目の前にある闘技場を見てそちらに歩みを向けられないレベルです」
「わ~、それはすごいですね~! ……でも実力もすごそうですね~、この試合は赤カブトさんが勝ちそうです~」
「俺も心からそれを応援してますよ! サザンカさーん!! 頑張れーーーーっ!!!」
まず無事に参加できたのが偉い……!! 俺も胸が熱いよ……思わずほっと撫でおろしちまうよ……!!
ホントに方向音痴だからなあの人。ワンチャンこの大会が終わった後地元に帰れないんじゃないかと思っている。
そん時は身元引受人になってあげよう。迷え(祈り)。
さてそんなサザンカさんだが、俺の応援の声にふと面頬を向けてくれたのだが……しかしその気配が普段の大和撫子っぽい清楚な感じからは変化していた。
なんていうか……なんていうんだろうな。真剣、という言葉通りの意味と言うか。
触れたら斬られそうな空恐ろしい何かを感じる。
「っ……凄まじい剣気、ですね。本気のサザンカを私たちはまだ見ておりませんが、これほど離れていても感じ取れる圧とは……」
「なんていうか~……一人だけ心構えの根本から違いそうな雰囲気ありません~? これは人死にが出ないのを祈る
「何となく俺もやべーなって感覚は分かりますけど。まぁでももし俺が本戦で当たったとしてもイレヴンが頑張ってくれるやろし! なんとかなるやろ!」
「マスターの期待に応えたい所なのですが……サザンカ、どれほどの実力か……」
『みゃ……』
両隣の二人も感じ取ったその雰囲気。ミャウもなんかふみゅふみゅした顔になっておる。
対人戦の経験が豊富なのだろうとイレヴンが言っていたサザンカさんの実力……それを、俺たちは見届けることになった。
『───それではっ!! 試合開始っ!!』
実況のデカパイおねーさんが高らかに試合開始の宣言をし、舞台にいる全員が臨戦態勢に構える。
そんな中でサザンカさんは、大太刀を抜き……そして、左足を前に出し、刀を持った右手を耳の辺りまで上げて刀身を垂直に構え、左手を軽く添えた。
「おお~!『蜻蛉の構え』ですね~!」
「トンボ? ……知っているのですか、ノイン?」
「ええ、ヒノクニに伝わる剣術の一つですね~。思いっきりぶんって振り下ろす、その一撃に全ての力を籠める構えだったと思いますよ~」
「ほえー。でもあれだと周りから狙われんか?」
ノインさんがあの構えの名前を知っていた。流石の知識人。
身長の高いサザンカさんが構えることで存分に圧を巻き散らしているが、しかしあれってなんていうか間合いに入った相手に攻撃する感じの構えじゃない?
魔法とか弓とか槍使いもいるようだし遠距離攻撃にヤバない? と思いつつ眺めていると、やはり同様の判断になったのだろう数人の冒険者が、まず魔法による遠距離攻撃をサザンカさんに向けて放った。
ファイヤーボールとかアクアキャノンとか、そこまで威力の高いそれではなさそうだけど……無数の魔法弾がサザンカさんに向けて飛んでいく。
しかし。
『……ッおおーっ!? 赤カブトに向けて放たれた魔法が全て弾かれたぁッ!? なんたる魔法抵抗力だ赤カブトーッ!?』
「弾いた……!」
「あの赤い鎧、魔法抵抗力が極まってますね~。ほとんどの属性が無効かそれに近いくらいになってそうです~。物理も混ぜた魔法剣ならともかく、魔法単体では貫けなさそうですね~」
「やだ便利。イレヴンもあんな感じで魔法弾ける様にならない?」
「スキルツリーで魔法抵抗力を極めれば近いことはできるはずです。他の機能の開放ができなくなってしまいますが……」
「できるんだ」
実況が叫んだ通り、魔法はあの深紅の鎧が殆ど弾いて無効化してしまった。
アレがあるからこそのあの構えだったかー。ありゃズルいわ。
でもまだ遠距離攻撃はある。今回の試合では二人ほど弓を使うレンジャーがいて……それらがサザンカさんに弓を放つが、しかし。
「弓矢も……やはり有効打にはなり得ませんね」
「物理防御力も大したものですね~。相当の重量になってそうですね、あの装備」
「俺がもしあの鎧を装備しても動けなさそう……うおっ切り払った!! カッコイー!!」
『みゃあ!』
放たれた矢も何のその。
胸当てなどの鎧にぶつかる軌道の矢は傷すらつかずにぺちっと弾かれ、鎧の隙間を縫うように放たれた矢はまるで小枝でも払うように大太刀を振るって矢を切り捨てた。
やだヤバいわよあの実力!! 確かに今戦ってる第三試合は銀級レベルの実力者が多いから金級が当たったらどうなるかってのは分からないけど……並大抵の実力者じゃ相手にならなさそうだ。
カトルなら灼炎剣で、ティオなら10倍加速で捌けるか……どうやろな。とにかく防御がまず凄かった。
そんな風に周りの冒険者が攻め手を失い悩んでいた時に、とうとうサザンカさんの方から動いた。
手番である。
「───
俺んちにいたころの、凛とした清楚な声色とは随分と変わり……低く鋭い重い声色が面頬の向こうから響いた。
観客のざわめきの中でも随分と通る声。舞台にいる冒険者には聞こえただろう。俺も耳の良さで何とか聞こえたレベル。
「本気で振るう。命が惜しくば降参せよ」
そう、サザンカさんが宣告し……そして、次の瞬間。
「─────ッチェェストォォォォォッッ!!!!」
「ッ!!」
「わぁ~」
「おっふ」
『みゃあ!』
構えていた大太刀を神速で振り下ろした。
俺の目でギリ動きが見えたってレベル。イレヴンの動きも魔族の動きも眼で追うだけならできた俺でも、見下ろす位置から観戦しててようやく見れるそれ。
刀を振るう音ではない風切り音と炸裂音を伴い、刀からまるでビームのような衝撃波が生まれ……サザンカさんの前方10mの、舞台の地面が抉れ吹き飛んでいた。
風圧が観客席まで飛んできて、イレヴンとノインさんの髪を揺らした。
無論、その周囲にいた冒険者も何人か被害を受けている。直撃した相手はいなかったようだが、その斬撃の余波だけで吹き飛ばされ大ダメージを負ったようだ。
圧倒的過ぎるだろ。コワー。
「───もう一度だけ言う。命が惜しくば降参せよ。
そしてサザンカさんから死刑宣告が再び零れた。
先程と同じように蜻蛉の構えに大太刀を構えて、最も近い位置にいた男性冒険者に向けて正対する。
かちゃり、と鎧が音を立ててそちらを向いた時点で、その男冒険者は武器を投げ捨てて舞台の外、場外に向かって走って行って降参した。
他の冒険者も判断が早い者から次々と逃げて行って、最後にはサザンカさんだけが舞台の中で構えを取り続けていた。
『こーれは圧倒的だーーーっ!!! 降参した冒険者を誰も責めないでしょうっ!! 格が違った!! 予選第三試合、勝者はヒノクニよりの刺客!! 赤カブトーーーーッ!!!』
そこで実況が早めの試合決着の宣言を述べて、無事にサザンカさんも本戦出場権を獲得したのだった。
いや強。