勘のいいガキはデカパイハーレムの夢をあきらめない! 作:そとみち
【side ヴァリスタ】
『いざ尋常にッ!! ───試合開始ィィィッ!!!』
実況の開始の合図とともに、お互いに距離を取って構えた。
目前に見えるは深紅の兜に身を包んだ女傑。己よりも上背のある、重圧溢れるその出で立ち。
(……凄まじいモノがあるな!)
当然にして彼女の強さは理解していた。
ロックくんが世話を焼いているとカトルが言っていた赤カブト、その存在は闘技大会開催前から知っていて……そして、開会式の舞台でも遠目には見ていた。
理解るものならば理解る、死の匂い。
恐らく彼女は私などとは比べ物にならないほどの死線を潜り抜けてきているのだろう。それも魔獣相手ではなく、人間相手に。
ヒノクニがそのような土地柄であることも知っている。あの魔境を潜り抜け磨き上げたであろう技量に、果たして己の力が通じるか。
王都にいては味わえない尋常の勝負の気配に、冷や汗と共に自然と笑みが浮かんでしまう。
「…………いざ」
赤カブトの取った構えは予選と同じ、上段に大太刀を構えて微動だにせぬ威圧的な構え。
彼女が数多の戦いを経験し、そして磨き抜かれた自信のある構えなのだろう。その構えに一切の油断も隙も無く、己への自信がみなぎっているのが読み取れた。
「……あまりレディを待たせるのは失礼だね」
しかしこうして手をこまねいているわけにもいかない。
自分は王都最強を謳われる冒険者なのだ。この強敵も乗り越えなければならない。
何よりも愛する妹の為に、私は勝つ。
「
「む……」
唱える魔法は加速魔法。
ティオくんも得意とするそれだ。彼女ほど高みに、そして長きにわたり使用はできないが、しかし自分だって魔力量には自信がある。
3倍速であればこの試合中ずっとかけ続けていても負担はないだろう。
考えていた赤カブトへの対策。
それはスピード勝負に持ち込むことだ。
まず彼女の鎧。これは魔法攻撃に類稀なる抵抗力を有している。
予選で銀級、金級冒険者問わず魔法を弾いていたのを見た。
であれば魔法で遠距離から攻めるという手段は愚策だ。魔力を使えば使うほどこちらが不利になる。
疲労がたまってきたころに一刀のもとに敗れるであろう。魔法での攻撃は選択肢から外れる。
であれば近接戦闘に臨まなければならないわけだが、その際に考えられるのが彼女の敏捷性だ。
あれほどの重装備。全身に鎧を纏い、さらにその鎧は魔法抵抗力が極まったすさまじく高性能なもの。
ならば相応に重量があってしかるべきであろう。
基本的に身に着ける防具は、性能が高ければ高いほど重量が高まり敏捷が落ちる。
そのためどれほどの装備を身に着けるのか、というのは常に冒険者は頭を悩ませる。
敏捷を重視するなら軽装にならざるを得ないし、軽くて高性能な装備を求めるとなればそれは当然にして高級、希少なものとなる。
そしてどれだけ高級であろうと、性能が高まればやはり重くなるのだ。
ロックくんほど突き抜ける者は流石に少ないが、速度を重んじて軽装で落ち着ける冒険者も多い。
そういった前提で見ると、赤カブトの装備は重い。速度は出ないと見るべきだ。
重ねて、現時点ではという前置きはあるが、彼女は魔法を使わない。自分のように加速魔法を唱えていない。
大太刀を振り回すほどの膂力があることはその胴に入った構えで十分に察せるが、しかし振り下ろすだけではなく動き回るとなれば加速魔法を唱えた自分よりも速く動けるものだろうか?
それを今から確かめる。
「ふッ……!!」
加速を籠めた脚で突撃。
真正面から、体幹を崩さないようにして一気に間合いを詰める。
あの大太刀は攻撃力こそ高くその剣圧は舞台を砕くほどだが、しかし長柄の武器は間合いが重要となる。
零距離ならばこちらに分がある。
だからこそ躊躇い無く吶喊。
しかし。
「───チェストォォォッ!!!」
「くっ!!」
当然にしてそれを許さぬのが赤カブト。
己の体が間合いに入った瞬間に、断頭台が振り下ろされる。
白刃とはよく言ったもの。振りが速すぎて大太刀のそれが白く霞むほどの速度をもって、己の脳天に向けて振り下ろされた。
(死ぬな! 当たれば!!)
しかしもちろんこうなることは予期している。
そのために体幹を崩さないように疾走っていた。全力で横に跳躍して命を断つ一撃を回避する。
紙一重の余裕をもって凶刃を回避し、大太刀がまたしても舞台を破壊した。
紙一重。
しかしこの瞬間こそ我が勝機。
「赤カブトッ!!」
「ふゥ────」
大太刀を振り抜いた瞬間は隙が出来る、そこを狙い己が愛剣ジュワユーズにて突きを繰り出す。
強敵とはいえ相手はレディ。無惨に痛めつける趣味などない。
鎧の防御力を超える一撃を叩き込み気絶させる。そのためだけに魔力を籠めて振るった魔剣は、しかし。
「破ッ!!」
「ッ何……ッ!?」
見事な体捌きにより回避された。
大太刀を振り抜いて尚ブレなかった赤カブトの体幹。
こちらの瞬速の突きを、それこそ今の加速魔法をかけた自分に勝るとも劣らぬ速度で横に滑るように移動して回避したのだ。
なんたる。
「ッしぃぃィィッ!!」
「────!!」
だがその驚愕で攻めの手を緩めるほど腑抜けてもいない。
大太刀の構えが解けているのは事実。ここで連撃で攻め込まねば加速魔法を掛けている意味がない。
突きを引き抜いてから流れるような剣戟を繰り出す。
無論、間合いをさらに詰めながらだ。大太刀による反撃を許さぬよう、こちらの剣戟が止まらぬよう、ひたすらに攻め続ける。
しかし。
しかし、捌かれる。
「驚きだ!! ここまで速く動けるものか、その鎧で!!」
「……貴公こそ、これほどの動きを。人との戦いに慣れている……」
全く通じないとは言わない。
軽くあしらわれている、とも思わない。
実際に数度は剣が鎧を捉えている。しかしこのヒノクニの鎧は独特の流線型で衝撃を中に伝えきれていないのが腕に伝わっていた。
正しく装備を使いこなしていると言えるだろう。
避けるべき攻撃は避ける。受けるべき攻撃は大太刀で受ける。
そして、鎧の強い部分で受けられる攻撃は受ける。
この動作を目にもとまらぬ絡まるような移動の中で行われている。
これがカトルであってもここまでは粘れぬだろう。先ほどから本気の剣戟を繰り出してなお斃れない。
凄まじい。
敬意すら抱く。
この凄まじい移動と攻防に客席からは歓声が上がるが、しかしお互いに現状は余り望ましくない状態であった。
こちらにある決め手は今この高速の攻防のなかでは使えない。
向こうも恐らくは同様なのだろう。
単純なスタミナの勝負になりかねない。
そして、それはどちらに軍配が上がるかわからない。
80の攻めに80の捌きが返されて拮抗したまま。
100を出すにはお互いの隙が足りない。
お互いにお互いの力の底まで見せていない。
お互いの力を分かり合えていない。
不健全だ。
「……! ハッ!!」
「やるっ……!!」
そして次の瞬間に、
ジュワユーズの柄でそれを受け、同時に後方に飛んで衝撃を受け流す。
吹き飛ぶように自分の体が飛び、お互いの間合いの外に大きく距離を離した。
狙った。
隙と表現するにも不適切な一瞬の間を敢えて作り、そしてそれを正しく読み取った赤カブトが最小限の動きでお互いの距離を離すために蹴りを放った。
これで赤カブトが読み違えて大太刀での反撃でも繰り出そうものならカウンターを仕掛けたが、そこは流石の赤カブト。こちらの意を見事にくみ取った。
お互いに最高の状態であるからこそ理解しあえるやり取り。
こちらの手紙に返事を頂けたことに
巻き直しだ。
「……敬意を表するっ!! 私が本気で攻めて無傷でしのぎ切ったのは貴公が初めてだ!!」
「……拙者も、これほど激しい攻めに見舞われたのは記憶に久しい」
お互いの力量は理解した。
次は底を見せ合う時だ。
こちらには奥義があった。
大型の魔獣を討伐する際や、先日魔族を討伐した際に使用した奥義。
必殺技としてイレヴン殿との模擬戦でも使用していた刺突技『ベルンハルト・ドラッヘ』。
これには放つ段階がある。
普段使う際には第一段階、通常の回転刺突で留めていたが、第二段階としてそこに踏み込みを加えた突進技としての側面があり。
そして第三段階、全ての魔力を籠めて放った際に、それは貫通能力を持つ必殺の遠距離攻撃と変化する。
剣先から魔力砲のように刺突の勢いそのままに放つ。しかもそれは魔法ではなく、純粋な物理的な暴力。さらに装備の防御力や魔法すら貫通する。
この一撃が己の切り札。
これを放ち、あの赤カブトを貫いて見せよう。
「……奥の手か」
「然り! 初戦で使うことになるとは思わなかったがな!! 我が奥義を御覧に入れよう!!」
「成程。それほどの相手と評価を頂けたこと光栄に思う。……成れば拙者も、奥義にて」
こちらがジュワユーズを構える右手に力と魔力を籠め、左手を前に突き出して右手を脇腹の下へ。
魔剣に魔力を籠めて紫色の光を生みながら攻撃態勢を取ると……しかし、赤カブトもまた己が奥義の為に構えを取った。
大太刀を、腰の鞘に納め。
そして両脚を深く地に着き腰を落として。
刀の柄を握り、前傾姿勢に。
「居合か」
「左様」
「ヒノクニに伝わる伝説の『居合』……踏み込みと独特の腰捌きによる神速の抜刀術、と何かで読んだな。成程面白い!! どちらが速いか勝負と行こうじゃあないかっ!!」
「承知」
居合だ。
刀という、剣とも違う独特の曲がりを持つ武器でしか放てぬ神速の抜刀術。
ヒノクニに伝わるそれの、恐らくはその中でも至高の一撃が放たれるのであろう。
これは面白い。
どちらが速いか。どちらが強いか。
これほど分かりやすい決着もあるまい。
いいだろう。勝負だ。
誘いに乗り、お互いに切り札に手をかけて、今にもそれを捲ろうとした、その時だ。
「……最後に、一つ」
「……ふむ。聞こう」
構え合ってぶつけ合う熱を高めあう最中に、赤カブトが小声で言葉を零す。
観客席までは届かぬ声に、こちらも応じる。
「そなたはロック殿と縁のある方。故に───どうか、死んでくれるな」
「──────」
それはまるで、泣き言のような声色で。
これより
熱が、高まる。
高まって。
そして、
────────
「───────秘剣、
『───必殺の一閃が炸裂ッ!! なっ、なんと、勝者っ!!! 赤カブトッッ!!!』