勘のいいガキはデカパイハーレムの夢をあきらめない!   作:そとみち

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59 救うためならば

 

【2分前】

【side 山茶花】

 

 

 自分に用意された控室で試合開始時間を待つ。

 舞台へのルートも改めてロック殿に一緒に確認をしてもらっているので、迷う事もない。

 

「すぅー…………しぃー…………」

 

 目を閉じて、ヒノクニに伝わる数多くの呼吸法……そのうち我が一族が得意とする『闘龍呼吸法』で体の隅々まで気を巡らせる。

 これまでの試合でも消耗はなし。ヴァリスタ殿との試合は気を張ったが大きな負傷もなく、五体無事でここまで勝ち抜けている。

 であれば後は心の問題。

 自分が、これより挑むロック殿とイレヴン殿に、どのように刃交えるか。

 

「すぅー…………」

 

 だが、それももう心に決めている。

 自分でも意外なほどに、驚いてしまうほどにすっきりと心を定められた。

 

 ロック殿には手加減をする。

 

「しぃー…………」

 

 これまでの己であれば、こんな考えは持たなかった。

 常在戦場。

 刀光剣影。

 真剣勝負に手加減は無用。

 ヒノクニで己に挑んできた武芸者は全員が命を懸けていた。そして己も命を懸けて勝負に応じ、そして命の遣り取りを行った。

 相手の力を認めるからこそ己の力をすべて果たすことが礼儀の世界で生きて来た。

 前髪(こども)であればその必定には当たらなかったが、しかし元服を超えたものであれば殺した。

 鏖殺し、生き延びてきた。

 殺し合う事こそが勝負の本懐だと信じていた。

 

「すぅー…………」

 

 しかし、この王都の闘技大会はそのような世界ではなかった。

 ()()だった。

 文字通り、力を試し合う。

 殺し合うことが本懐の場ではなく、私の生きて来た世界とは違った。

 

(……ここに、拙者の求める強者(つわもの)はおらなんだ)

 

 己の本気の全身全霊の一撃を受けてなお上回られるような強者を求めてここまで来たが……どうにも、そのような場ではないようだ。

 祭り事であり、(まつりごと)

 己の知らない世界。

 

 この街でロック殿に声を掛けられてから、彼の家で過ごした一週間は、自分にとっては余りにも新鮮で……平和な世界だった。

 ロック殿の無償の温かさに触れた。

 一緒にいた時間はとても楽しかった。

 

(ならば、拙者はせめて礼を尽くそう)

 

 その礼は、本気を出して殺し合うというヒノクニの流儀の礼ではなく。

 大人として、力あるものとして、未来ある少年の命を摘み取らないという配慮で。

 

 イレヴン殿は強き者だ。存在も人非ざる者。

 無論、彼女もまた共に過ごした仲。壊そうなどとは思わぬ。

 しかし手を抜いて戦うというのも失礼に当たるだろう。

 彼女に対しては『隼断』を使わずとも、全力で応じよう。

 

 しかしロック殿は軽装の少年だ。

 身にまとう気配もカトル殿やティオ殿、ヴァリスタ殿らのように強者の佇まいではない。

 隼断どころではない、通常の己の斬撃でも容易く命を摘み取ってしまうだろう。

 

(だから、ロック殿には峰打ちで済ませる)

 

 殺したくない。

 負けるつもりもさらさらないが、ロック殿とやり合うならば峰打ちにて。

 そのゆるみで、慣れぬ手加減によって、もしも己が敗北したとしても、それは己の心に納得ができるであろう。

 配慮した戦の経験の薄さを反省し、己が糧にできるであろう。

 ロック殿が己の命を狙うはずもなし。

 拙者の甘さをロック殿が付いてくるかもしれぬが、成程らしい戦い方だと苦笑を零すことができるであろう。

 それがロック殿の人徳というものだ。

 

(なれば拙者は────)

 

 

 

 思考はここで止まった。

 

 気配。

 

 邪悪なる気が、突如控室を満たしたからだ。

 

 

「──────ッシャアアアッッッ!!!」

 

 裂帛の気迫を放って(まなこ)をかっぴらき、腰の大太刀『鳶丸』を抜き放つ。

 気配の元へ胴薙ぎ一閃。不意をつかれたとしてもこちらの居合は速度で負けを知らず。

 悪意を持つ不届き者の胴を真っ二つに断ち切るために放たれたそれは、しかし。

 

「……ヒヒッ。無駄ムダぁ」

「っ……!? 何奴!?」

 

 手応えがなかった。

 目を開いてみた先、刀を振り抜いた先には……黒く暗い闇の霧のような者が広がっていて。

 それが刀を素通りしたのだ。肉体を持たぬ悪意がそこにいた。

 

「ケケ……王都最強の冒険者とやらに取り憑こうかと思ったけどアンタのほうが強かったんでね。いい体だよなぁアンタ────それ、もらうぜ」

「なっ、くっ、貴様……ガッ……!?」

 

 更に霧を祓わんと白刃を振るうが、まったく手ごたえはなく。

 そして霧状のそれが、己の兜の隙間から全身に纏いつくようにかぶさってくる。

 視界が黒い闇に染まり、それに抵抗せんと体に気を、力をみなぎらせるが……体の内部から、闇が広がるようなおぞましい感覚を覚えて。

 そして闇が体中に広がる。脳に、思考に闇がかかる。

 

(───ッ!! 不覚ッ……、この者……まさか、魔族…………────)

 

 そして私の意識は闇に堕ちた。

 

 

 

※    ※    ※

 

 

【side ノルン】

 

 

(……!? まさか、ここに魔族が……!?)

 

 闘技場の舞台に、試合開始より少し早い時間に現れた赤カブト……サザンカの姿を見て、驚愕に息を呑んだ。

 私の持つ最高位の鑑定スキルでステータスを見れば、魔族に憑依されている状態で。

 

 あれは……魔族『ゼパル』だ。

 

 150年前の知識だが……幹部級の魔族ではない。

 ガス状の肉体を持つ魔族で、NPCの体を操る能力を持つ。

 ただし耐久力はお察しだ。物理攻撃無効のエネミーだが、魔装具を装備した状態で光属性の魔法をガスにぶつければ一撃で散らせる相手。

 NPCの体に潜り込まれたとしても、ある程度NPCにダメージを与えた時点で体から飛び出てくるので、そこで魔法を当てて……という手段で対処できる。

 最前線組のプレイヤーからすれば、まぁザコと表現できる魔族だが。

 

(なんで!? 守護結界に包まれてる王都に魔族が現れるなんて……!!)

 

 しかし、そもそもあれがこの場にいるのがおかしい。

 昨日までのサザンカを見ても憑依はされていなかった。昨日の夜もロックくんの家に泊まっていたという話だから、そこで何かあったとは思えない。

 つまり、今日この闘技場に来てから、控室で待っている間にゼパルに襲撃されて憑依されたということになる。

 闘技場内に、魔族を手引きする者がいる、ということ……?

 

(私の鑑定スキルで見た限り、参加者に怪しいヤツはいなかったはずなのに……)

 

 ロックくんの試合の前後だけではあるが、他の試合に参加した冒険者たちは私がこの目で鑑定を行っている。

 その中に、明らかに怪しいスキルなどを持っている者はいなかったはずだ。そもそも魔族であればこの守護結界の中に入れない。

 どうして……いや、それを今は考えている場合じゃない。

 舞台を見れば、どうやら今の状況が勘に響いたのだろう、慌ててロックくんもイレヴンも舞台に上がってきていて。

 でもサザンカの外見は兜と面頬を外していてもそこに魔族だとわかるような変化はない。

 ただロックくんたちだけはきちんと察しているようで、油断なく身構えてはいる。

 

(どうしよう? 今すぐ貴賓席から飛び出してロックくんたちを助けてサザンカを倒しちゃう……? でもそれをやると周りにどんな目で見られるか……)

 

 少しだけ悩んだ。

 私は今、貴賓席にいる。

 第九王女ノルンとして観覧する立場にある。

 これまでは試合が終わったら貴賓席を退席して、ルドルフにお願いしてロックくんを呼んできてもらってつかの間の逢瀬……といった感じで試合を見ていたが、今ここで飛び出せばお父様やお兄様お姉さまからどんな目で見られるか分かったものじゃない。

 ゼパルの憑依術はプレイヤーならばステータスを見れるのですぐに看破できるが、NPCはそうではない。

 これを察せるのは高位の鑑定スキルを持っている特殊なNPCだけだ。

 私が察したと言ってもなんでだと問い詰められるだろう。

 私がプレイヤーが持っているチートなスキルを実は保有していることがバレてしまって……いや、そんな事言ってる場合じゃない!!

 

(他にも魔族がいるかもしれないんだから! 助けないと……!!)

 

 意識を切り替える。

 今、この場で気付いて動けるのが私だけなら。私がやらないと。

 ロックくんのために、家族の為に。私がすぐにでも止めないと。

 なにせ相手が憑依しているのは王都最強の冒険者を討ち取った廃人御用達マップヒノクニ出身の蛮族。

 ロックくんでもイレヴンでも、下手すれば相手にならない。

 でもチート知識でレベルを上げた私なら、この距離からでも全力の特大魔力砲を撃てばサザンカを止められるはず。

 魔装具は王族ならば指輪として常に装備しているから憑依されててもダメージを入れられる。

 サザンカの体を特大魔法で撃ち抜いて、ゼパルが体から出てきたら光の魔力砲でチリにして……その後の言い訳は、その時に考える!!

 

(ロックくん……!!)

「おおー!? どったんノルっち!? テンションたけーなー落ちんなー!?」

 

 魔族を狙うために、貴賓席の手すりに乗り上げる形で思い切り舞台に体を乗り起こす。

 ギャル系王女のアンナ姉さんが驚いて声をかけてくれたが今はそれを気にしている暇はない。

 今ここにいる国民が危機にさらされている可能性があるならば、私は────と。

 

 しかし、そこで。

 私は見た。

 

(っ……!!)

 

 ロックくんが、覚悟を籠めた眼差しで、舞台にたたずむサザンカに歩み寄る姿を。

 

 

 

※    ※    ※

 

 

【side ロック】

 

 

「クク……わかってるよなァ、ガキ?」

「クソが」

 

 彼女は……サザンカさんはそんな風に俺を呼ばない。

 言外の脅しなのだろう。

 ここで俺たちが逃げたり騒ぎ出したりすれば、周りの観客に手をかけるという脅し。

 今サザンカさんの体を乗っ取っている魔族が、彼女の力を万全に発揮できるとするならば……一瞬だ。

 観客席に飛び込んで、その速度で大太刀を振り回すだけで数十人から死者が出る。

 あのヴァリスタさんを一蹴するほどの実力者。王都最強の冒険者を超える力。

 絶対に俺たちがここで止めなければならない。

 

 何よりも。

 サザンカさんを助けるために。

 

(イレヴン)

(……はい)

 

 俺は心の中でイレヴンに語り掛ける。

 前に解放したスキル『以心伝心』だ。マスターである俺とイレヴンが、言葉を紡がずに意思疎通ができるというもの。

 しかしスキル解放したはよかったが、そもそも伝心できる距離があんま長くなくて、かつ俺があんまりにも考えていることが顔と態度に出過ぎるので使う意味ないですねアホマスターがよと言われていたスキルだが。

 今この瞬間こそが使うべき時。

 俺は表情をまったく変えずに、内心でイレヴンに語り掛ける。

 俺の勘が響く通りに、サザンカさんを助けるための作戦を。

 

(────────って感じで。出来るな?)

(できっ……ます、が! マスター、それは余りにもマスターが危険です!!)

(関係ねぇ、やる。俺の勘がそれしかないって言ってる……んじゃ頼んだ)

(っ、マスター!!)

 

 一通り説明して、イレヴンはこの作戦にあまり乗り気ではないようだが、俺の勘が導く最適解がこれなんだ。

 頼んだぞイレヴン。今この場でサザンカさんを助けるためにはこれしかない。

 

 俺の中の冷静な部分がここで死ぬ気か、と囁く。

 俺の中の怒りの部分がブッ殺してやる、と叫ぶ。

 

(─────護ればいいの?)

 

 俺の知らない誰かの声が俺に囁く。

 

(─────余計なことすんな)

 

 激情でそれを抑え込む。

 

 関係ない。

 もうキレてんだよ俺は。

 女の体を穢してその意思すら塗り潰すようなクソ魔族はここで俺が殺す。

 

「……カカ、自分から向かってくるか! いいねェ、わかってるじゃないかァ……なぁ、()()()殿()!!」

「黙れよ」

 

 舞台に上がり、イレヴンに後衛を任せて俺が先陣を切って向かっていく。

 試合開始時間にはまだ早いが……もういいだろう。始まりだ。

 観客にこれ以上余計な疑念を抱かせる前に、試合開始の合図をしてくれ実況のねーちゃん。

 

「お姉さん。試合、始めていいよ」

「ああ、構わぬ! 血沸き肉躍る戦いを見せてやろう! 文字通りにな!!」

『ホエーッ!? うーんでもまぁいいかぁ時間が巻く分には!! 客も盛り上がってますしこれ以上待たせてもだしー!! それじゃあ早速ッ!! 準々決勝第一試合……』

 

 素顔を晒したサザンカさんに盛り上がっていた観客席が、試合開始直前のアナウンスが始まって静まり出す。

 相手の魔族の狙いは間違いなく俺だ。これまで何度も魔族にちょっかいを出してた俺をまず殺しに来たのが……()()()()()()()

 俺以外に被害が出なかったから。

 

 そして俺への人質としてサザンカさんが選ばれちまったのは心の底から業腹ではあるのだが、それだって。

 もう少しだけ我慢してくれサザンカさん。

 絶対に俺が助ける。

 

 イーリーアウスの力は、誰かを助けるために在るんだから。

 

「……だよな、じーさん」

 

 最後、俺は小さく呟いて。

 同時、サザンカさんの体を乗っ取ったクソ魔族は、やはり刀を鞘に納めたままに例の居合の構えを取って。

 

 

「では()ろうかロック殿ォ! 実に楽しい勝負になりそうだなァ!!」

「命乞いの台詞はもっと下手(したて)に出るもんだぜ?」

 

『……ロック選手対サザンカ選手ッ!! 試合、開始ィィィィィィ!!!!』

 

 

 

 死合が始まった。

 

 





~登場人物紹介~

■ゼパル
上級魔族。将軍直属幹部の次くらいに偉い。複数いる。
150年前は出現ゾーンである魔族領周辺に強いNPCがいなかったのでザコ扱いだった。
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