勘のいいガキはデカパイハーレムの夢をあきらめない! 作:そとみち
「…………んっ……ここ、は……?」
闘技場に併設されている看護所に、凛とした声が生まれた。
ベッドに横たわる大きな体……鎧を脱がしたサザンカさんの意識が戻ったのだ。
俺は慌てて準備しておいた白衣を着用してからベッドに駆け寄って声をかける。
「ああ、落ち着いてくださいサザンカさん……焦る事はありません。貴方にお話があります。いいですか? どうか落ち着いて……」
「いきなり茶番から入りやがったこのマスター」
『みゃあ』
サザンカさんの主観っぽい光景をイメージしながら声を掛けたら隣にいたイレヴンに突っ込まれた。
なんじゃい。話を整理して説明するためにもまずは落ち着いてもらう必要があるやろがい!
「貴方はずっと昏睡状態だった……ええ、ええ……分かってます。どれくらいの長さか?」
「拙者もう身を起こしてもよいでござるか?」
「もうちょっとだけマスターのアホに付き合ってあげてくれますかサザンカ」
「貴方が眠っていたのは……えーと……だいたい2時間くらいか? うんそんくらいだな……うっ! まずい! 看護師! 看護師! ナース!!」
「私達は看護師ではなく治療班ですよロック様」
「遊んでる暇があるならこっち手伝ってくれますかロックくん?」
「ごめんなさい」
衝撃の真実でもない真実を告げても特にサザンカさんが暴れたりすることはなかったので俺の話は茶番になった。
イレヴンの後ろで他の人を治療してたマルカートさんとソプラノさんも鋭いツッコミを入れてくる。
「大丈夫……大丈夫。落ち着いて……落ち着いて。そうです……大丈夫、落ち着いて……容体を診るのでおっぱいに触りますよ……」
「触るなバカ」
「んべっし!!」
『みゃあ……』
「……ええと。そろそろ真面目にどのような状況になったか聞いてもよろしいか? 拙者はあの霧のような魔族に体を奪われて……ロック殿が、拙者を止めてくれたのまでは覚えているのだが……」
「あ、そこまでは記憶あるんですね。んじゃ話が早いや」
そして茶番によって落ち着かせることに成功したサザンカさんだが、一先ずは魔族に襲われて意識を乗っ取られて舞台の上で俺と戦ったところまでは記憶があるということで。
そんなら説明も楽だな。とりあえず俺はこれまでの……あの魔族侵攻が始まった所から説明する。
「サザンカさんを乗っ取った魔族が多分最初だったと思うんすけど、サザンカさんの体からあのゼパルとかって魔族を追い出して討伐した後も実は侵略が続いて。舞台に仕掛けられた召喚陣から魔族がぽこじゃが攻め込んできたんですよね」
「なんと……!? であれば寝てなどいられぬ! すぐに助力を……!」
「あ、大丈夫なんですマジで落ち着いて。その魔族はヤバい強さの奴はいなくて、数は多かったけどイレヴンや他の冒険者たち、王族の皆さまが討伐してくれたんで。観客も無事です。一先ずは戦後処理ってことで闘技大会は中止になっちまってますけど……死亡者はゼロで済みました。召喚陣も砕きましたしね」
あの騒動は無事に終息した。
シスターが守護防壁を張るまでに魔族の群れから民衆を守った魔装具を持たない冒険者の数名がケガをしたが、重傷者は無し。今はこの看護室に運び込まれてマルカートさんたち治療班に治療されている。
魔族が召喚される舞台の中心で大暴れしてたイレヴンにおおよその魔族の攻撃が向かってたこともあって、死傷者はいなかった。これが何よりも大きな戦果と言えるだろう。
「そう、か……それは何よりでござった。……すまぬ!! 拙者が不覚を取っていなければこのような事には……!!」
「いや今回サザンカさんは被害者ですからね。俺の勘も反応してたのに事前に止められなかったし……そもそも魔族が侵入してるのだって誰も気づかなかったんだから」
「マスターの言う通りです。責任を感じることはないですよサザンカ。私も事前に察することが出来ませんでした」
「しかし……拙者の失態でロック殿にご迷惑を……」
「何の迷惑もかかってないんで説明進めちゃいますね」
またしてもサザンカさんの話を聞かずに説明を続ける。
白衣まで着て来た甲斐があったな。この服を着ていれば話をスルーして説明を続けても許される。
「とりあえず気になってるだろう事から。どうして守護結界で守られてるはずの王都に魔族が侵入できたのか? って点ですが。今の時点では、闘技大会に他国から参加してきた冒険者が怪しいって話です」
「む、
「あっ言葉足らずでしたメンゴ。サザンカさんの話じゃなく……ほら、獣王国『グランガッチ』からの参戦が多いって話を前にしたじゃないですか。獣人が多いって…………あの人たちが魔族に巧く使われちまってたみたいです」
「トゥレス……この事態を解決した元冒険者から確認をしました。彼ら獣人の体内に術式が組み込まれていたのです。機械の部品のように、術式の一部がそれぞれの体に組み込まれて……それが観客席で特定の位置に陣取って魔力を組むことで、舞台を召喚陣に書き換える様なものが」
「む、うむ……? 魔法には疎くピンとは来ぬが……その、獣王国の冒険者が拙者のように魔族に操られ、上手く使われて王都に潜入されてしまったということでござるか?」
「そゆことっす」
さて、まずこの事態がなぜ起きたのか。
どうやら獣王国『グランガッチ』から来た冒険者が操られてたって話だったようだ。
それぞれが予選で敗退して、そして本戦の観戦という形で観客席で指定の場所に配置するように陣取った。
そうすることでそれぞれの体に組み込まれた術式がうまーく舞台の結界に作用してなんか魔族が召喚できるゲートを開けるという……みたいな事になってたらしい。
ゼパルだけは俺らの試合が始まる前にすぐ召喚されて、んで霧の体を上手く使って控室に忍び込んだ……とかなのかな。
もしくは獣人の体に憑依して入ってたとかなんだろうか。召喚陣が使われたらトゥレスおじさんが気付いてただろうから後者かな。
俺もまぁその辺はぶっちゃけピンとこないけど。
とりあえずわかってることは、獣王国『グランガッチ』が魔族の手に堕ちている可能性が高いという事だ。
「今はとりあえず獣王国から来た冒険者も観客も急ぎ拘束してるところですね、王族とギルドの指示で。つっても観光客のほうはそんなに多くなかったんですけど」
「その点も今にして思えば不審でしたね。グランガッチは戦いを好む国と聞いております。それなのに参戦する以外の来訪者が少なかったというのは……国全体が魔族の手に堕ちている可能性があります。そちらも今ワイバーン便で大至急調査に向かっていると」
「むぅ……なんとも大きな話になっておられて……。ヒノクニでは魔族の噂もとんとなく、あまり自分事として考えていなかったが……本格的に侵略が始まるということなのか……」
まぁとんでもねぇことになっておりますよね。
これで獣王国『グランガッチ』が魔族の手に堕ちてて本格的に王都に侵攻なんてしてきようものなら戦争が始まっちまう。しかも獣王国は操られてるって可能性もあるし。
そんなことができる魔族がいるのかって話もあるけど……狙われてるよな王都が。あと俺が。
なんであのゼパルとか言うやつ俺を狙ったんだろうな……ノックスさんの名前はやっぱり魔族に浸透してねぇんかな。
ヴィネア頑張れよマジでよ。メッセンジャーにもなれねぇのかあいつ。
「ま、とりまその辺は調査中ってことで。あとはまぁ……サザンカさんは魔族に操られてたわけですけど、特に罰されたりとかそういうのはないって話です。誰にも被害出してないしね」
「そう、でござるか……本当に申し訳ない。心より謝罪いたす。そのようにしてくれたのはロック殿が操られていた拙者を止めてくれたからでござる……」
「謝られる事なーんもないすわ。俺がサザンカさんを守りたいからやっただけで……はっ! いややっぱお礼が欲しいですお礼!! 勿論分かってますよねェ……!? 今日家に帰ったら楽しみにしてますからねぇゲヒヒのヒ!!」
「どうしていいところでゲスっちゃったんですかマスター」
『みゃあ……』
そしてサザンカさんから謝意を述べられて、いつも通り謝る事なーんもないと返そうとしたけどもしやこれはチャンスなのではないか……!?
確かに俺サザンカさんにとっては恩人では!? デカパイ高身長大和撫子の甘やかしバブ味特盛初めて同士筆おろしチャンスでは!?
と思って鼻息荒くしてたらイレヴンにジト目で見られた。冗談だって。
「や、その辺りも落ち着いてから考えさせていただきたく……しかし今はせめてこの国の為に義を尽くしたい。拙者が出来ることは何かござらんか?」
「ん。でもまぁ……ぶっちゃけ今やれることはほとんど終わってるんすよね。さっき言ってたグランガッチの人たちもすぐに捕えたし、闘技場周りを中心に改めて変な魔法陣が刻まれてないかとか調査してますけどあれは魔法使える人たちでやってるし。この後ウォーレンさん……あ、ギルドマスターなんすけど。その人がサザンカさんの事情聴取に来るみたいですけどそれは俺も付き合いますし」
「もうしばらく休んでくださいサザンカ。こうして落ち着いているとはいえ、魔族に体を乗っ取られた上にあの居合の技をマスターに返されているのです。無理は禁物ですよ」
「……うむ……」
そうしてサザンカさんも事情を把握し、何か力になれないかと訴えてきたが正直やれることはないです。
俺も魔族が掃討された後は孤児院のみんなの様子を見に行ったり、残党やまだ何か狙ってる奴がいないか俺の勘で探したりしてたけど。もうすっかり落ち着いちまった。
なんか俺の勘あんま役に立ってなくない最近?
事が起きてから響くようじゃ遅ぇのよ。起きる前に摘み取れるのが理想だよなぁ。
イレヴンに倣って鍛え直すかなぁ勘。じーさんの教えを思い出す頃なのかもしれん。
ま、とはいえ一先ず危機は凌いだ。
これからどうするかはこれから考えていきゃいいさ。
※ ※ ※
さてその後の話。
とりあえずサザンカさんの事情聴取は特に問題なく済んだ。
控室で急に襲われて、魔装具を持たなかったサザンカさんでは対処できず……と言う所だったらしい。
御咎めなども無し。試合は敗退扱いになったがちゃんと初戦突破までの賞金は払われるらしい。よかったですね。
しかし改めて考えると魔族の結界やべーよな。サザンカさんほど実力があっても魔装具が無いと対抗出来ないんだから。
今回はたまたま闘技場という場に魔装具持ちの冒険者が揃ってたし、魔族絶対殺すマシーンウーマンのイレヴンがいたから対処できたけど……ここ以外であの召喚陣が展開なんてされた日にはマジで対策なんてできないだろう。
かつて150年前に人魔大戦で魔族を討ち果たしたとされてるが……よっぽど当時は英雄級の冒険者がいたんだなって思う。
……勝てんのかな、人類は。
多分勝てるやろ(楽観)。
そのためにみんなでがんばりゃ何とかなるやろ!!
「……さて。説明した通りサザンカ氏についてはロックに敗北という扱いになるが……闘技大会については国王と話して何とか再開できないかと言う要望を受けている」
「……え? 魔族が実際に王都に現れているこの状況で? ……ギルドマスター、国王のご意向に沿わないお話で大変に僭越ではありますが、その判断は少々甘いのでは? 危険がないとは限りませんし……」
「マスターのガチ敬語で噴き出しそうなんですよね」
「ロック殿マトモな会話も出来たのでござるな……」
『みゃあ』
「ロックの言うこともわかる。私も国王に訴えたが……しかし、国王としては今回の魔族襲撃を民に大事に捉えてほしくないというお考えだ。強者がいることをアピールする面と、魔族の介入で催しが中止になってしまったというネガティブな感情を残したくないと。無論、魔族への対策、獣王国への介入等は大会翌日より王族とギルド両方で進めていく。しかし、ここまで人を集めて開催した催しを中途半端に中止してしまうことの損害も確かに大きい。合理的な判断ではある」
話のついでに、ギルドマスターであるウォーレンさんから闘技大会は再開されるという話を聞く。
ええマジ? って気持ちも多分にあるんだけど……説明を聞けばなるほどと思える部分もあったので俺は口を噤んだ。
危険がゼロとは言わないが、このまま中途半端に中止にしてしまう事のデメリットも確かにあって。無事に大会を終了させて一区切りをつけてから魔族との争いに切り替える、というのも一つの考え方かもな。
まぁ結局俺が何言ってもやるかやらないかは王国とギルドの判断になるしな。まぁええやろ。
「ウォーレン、質問ですが……大会をこれから再開すると言っても、日程などはどうするのですか? 今日はもう試合は組めないとして……明日が大会最終日ですが、明日に全て試合を行う形になるのでしょうか? ですがそれだと午後から予定されている閉会式からの後夜祭が難しくなって……しかしさらに日程を延長してしまえば今度は他国からの観光客の日程が難しくなってしまいます」
「イレヴンの懸念ももっともだ。なので試合形式は大きく変えて、明日の午前中にすべての勝敗を決してしまう形とする。当然、観客も盛り上がる形とする。すなわち────」
さてしかしそこでイレヴンが口を挟む。
今日はもうこれから試合再開ってのはムリだ。既にお昼を過ぎて、事後処理で観客も帰してしまった。選手も処理に回ってるし試合が組めない。
しかし明日一日で残る準々決勝3回、準決勝2回、決勝1回となると……まぁ午前中じゃ終わらん。日程がずれる。
そうすると後夜祭が出来なくなって俺が祭りの後のテンションで盛り上がってるおねーちゃんたちをナンパすることができなくなる。悲しい話だ。
でもその辺はちゃんとウォーレンさんも考えていたようで、すっぱり大味に解決する手段を考えていたようだ。
流石のギルドマスターだ。あらゆる方面に思慮深い配慮がされた対応を考えてくれたのだろう。
「───現在勝ち残っている選手全員でバトルロイヤルで優勝者を決定とする。ロックたちも頑張ってくれたまえ」
いや雑。