勘のいいガキはデカパイハーレムの夢をあきらめない! 作:そとみち
【side サザンカ】
────今は秘めよう。
「うむ、では拙者の話はこれで終わりでござる。不束者ではございますが、何卒末永くよろしくお願いいたします」
「こっちこそよろしくです!」
ロック殿に、この身を救われた恩を返すためと言う理由で仕官を願い、そして許しを得た。
これからはロック殿と共に暮らし、彼を救ける刃となる。
……そのように伝え、ロック殿も断らなかった。
実は動機が違う。
彼に仕えたいと願った真の理由は、私を助けてくれたから、ではない。
(ロック殿)
助けてくれた結果よりも、助けてくれた過程が重要だった。
我が体を乗っ取った魔族。あれが放った我が奥義『隼断』───それを正面から捌かれたことが、己にとっては何よりも衝撃的な出来事であった。
間違いなく自分で放つそれと同じ一撃だった。
殺意を乗せて放たれたそれは、拙者が放つ『隼断』と寸分の狂いもなく、寸分の間も持たず、ロック殿を両断する一撃であった。
しかしそれを、あろうことか指弾きというとんちきな攻撃にて受け止め、切り返し、捌き返した威力を器用にも我が体ではなく我が意識を乗っ取った魔族にぶつけた。
これを神業といわずして何と言う?
(ロック殿……)
震えた。
濡れた。
惚れた。
あの一撃により、魔族が我が体から離れて意識を失うまでの間に……自分は、恋をした。
そう。
私にも一族の血が存分に流れていたのだ。
私の名は
鬼のように、龍のように強くあることを求める一族であった。
名声よりも力を。富よりも強さを。
この血を継ぐ者が世界最強の存在になる。それを使命とする一族。
女系である我が一族は、3人の女子を生み、そして15の元服を全員が超えるころに力を競わせ、勝利した一人が当代を継ぐしきたりがあった。
私は8代目の当主であった。
強くあることを証明し続けた我が一族に恨みを持つ者も多く、またヒノクニ自体が同じような頭チェストな武士に溢れていたため、毎日が尋常の果し合いの繰り返しだった。
その中でも私は剣の才能に溢れてしまっていた。望んだそれではないものの、身に宿した武は比類なき強さであった。
ヒノクニで勝負を挑まれる武士や、暗殺を企む忍などはすべて切り捨てて来た。
(本当は……私で一族の血を終わらせるつもりだった)
鬼龍一族は血を重ねて次代にさらなる強さを求める。
もし己よりも強い雄に敗北した場合は、その
それを繰り返してきた一族だった。
ありていに言ってしまえば即落ちムーブが一族の特徴だった。
我が母も、その母も、その前も。
全員が自分よりも強い男に敗北し、見初めて、料理で胃袋を掴み、誘惑し、子を孕んできた。
(
弱き者。
弱いから孕まされる。女にのみ許される、次代に直接の血を紡ぐという行為で己の未練を紡ぐような。
そんな血を継ぐ自分があまり好きではなかった。
だから、最強を証明することで血を絶つつもりだった。私が最後の鬼龍家になるつもりであった。
ヒノクニに自分より強い
これまで一族の誰もが出来なかった、己が編み出し極めた奥義『隼断』が破られることなどありえないと思っていた。
(でも)
出会ってしまった。
自分より強く、自分より優しく、そして己が奥義を難なく捌いて助けてくれた
それは元服を超えてすぐの少年で、自分よりも背丈も低く、ずいぶんと
だが、日々付き合う中で他人に対する優しさを軽薄な言の葉の内に隠した、温かい少年だとも分かった。
相棒たるイレヴン殿とも仲睦まじく、そして共に歩む彼らは、闘技大会の本戦にまで勝ち上がってきた。
拙者が本気で相対すれば殺めてしまうであろうから『隼断』の一撃は封じよう、もし負けても納得できよう……と思わせるほどに善人であった。
だが、そんな彼が。
己が奥義を見事に破り、強さを証明した。
その上、カトル殿とティオ殿二人による絶望的な猛攻も捌き切って、大会に優勝してしまった。
(ロック殿)
己が身を救ってもらった瞬間に、堕ちた。
この体に流れる血が、細胞が、強い雄に堕ちた。
決勝戦で自分以外と相対する際にもその実力を発揮する姿を見て、さらに深みに堕ちた。
私やヴァリスタ殿の強さとは違う種類の、彼なりの強さを見せつけられて、私の心は恋に堕ちた。
(───お慕い、しております)
でも、その言葉は今ここで零せない。
言えばロック殿も否とは言わないだろう。
日頃より
ああ、それはとてもときめく話だ。何度も愛を注がれ果てる己の未来をはしたなく想い、心が濡れる。
だが、ロック殿にはこれから魔族との戦が待っている。
イレヴン殿より、これまでにも魔族の襲撃を凌いだ経験があり、ロック殿とイレヴン殿が魔族に狙われている可能性がある事も聞き及んでいる。
現に今回の大会中の騒動は、拙者の体を奪った魔族も含めて、あの二人が狙われていたように見えたとも聞く。
王都でこれから魔族討伐が本格的になれば、ロック殿らは間違いなく戦乱に巻き込まれるであろう。
その時、拙者が子を孕んでしまっていれば彼らの力になれない。
守るものを増やしてしまう。
足手まといにはなりたくない。
私よりも強い彼が、魔族如きに負けてしまう姿を見たくない。
護りたい。
私がこの男と決めた人を。
(故に、この想いは)
魔族を悉く鏖殺し、この世に平和を取り戻すまで。
────今は、秘めよう。
※ ※ ※
【side ロック】
「そんじゃサザンカさんがこれからここで暮らすことになったので……今日の予定はこんな感じで行きます!」
サザンカさんが仲間になるという嬉しいイベントから始まった大会終了翌日の今日。
その後簡単に話して、今日の予定を決めた。
まずギルドへ。大会後の魔族の調査状況について確認する。
万が一急ぎの調査依頼とかあれば行くかもしれないが、とりあえずは情報収集のみの予定だ。
あと優勝した俺がちやほやされるかもしれないからその辺も含む。女性冒険者が声をかけてくれるんじゃないかと期待しているところはあります。
そしてその後はショッピングだ。
サザンカさんはヒノクニでも特に自宅に暮らしていたわけではなく宿から宿へ動くように過ごしていたらしくて、ヒノクニ式のアイテムボックスに身の回りの物とか全部揃ってるから生活する分には問題ないらしいんだけど、それはそれとしてこれから一緒に暮らすんだから必要なものもあるだろう。
なのでイレヴンとリンも一緒に大通りの方をめぐってもらって色々身の回りの品を買いそろえてもらうことにした。
当然にして一人に出来ないからな。迷うし。迷っても俺の勘で探せばいいんだけどそれはそれとして迷うし。
俺かイレヴンがいつもついているようにしよう。迷うからこの人。
ついでにイレヴンにもお金を渡しておいて服とかも買ってきてもらおう。アイテムボックスはサザンカさんの使ってもらって我が家の女性陣のファッションをより可愛いものにしてもらうのだ。これは熱いぜ。
この先多分魔族との面倒な戦いが始まる所で俺の周囲の可愛い指数を上げることでやる気を無限に湧かせるために必要な措置だからな。可愛いは正義。
で、女性陣が買い物をしている間に俺は図書館に行って新刊を読む。
ノインさんとタイミングが合って出会えれば先日の件も聞いてみよう。貴賓席から助けてくれましたよね? って聞いてみるのだ。
まぁノインさんが実は王族でしたって事になっても別に俺らの関係は変わらんしね。
「ではギルドに向かいましょうか。昨日の今日ですから午前中はあまり人はいないかもしれませんね」
「後夜祭では随分と皆盛り上がっておりましたからな。酔いつぶれた者も多かろう」
「おさけは15になってから。……わたしもいつかのむのかな?」
「リンはもうちょっと育ったら試してみような」
『みゃあ』
さて、そんな日程でみんなの了解を取り、出発の準備を整えていたところで。
とんとん、と。
唐突に我が家の扉からノックが鳴り響いた。
「ん。……誰だ?」
「カトルかティオであればこんなに優しいノックになるはずもなく。誰でしょうか?」
「んー? しらないひと?」
「む……」
「鯉口切らなくていいですよサザンカさん。勘に危険は迫ってないから……ちょっと出てきます」
チャキ、と腰に刺した大太刀を僅かに抜き緩めるサザンカさんを制して俺は玄関に向かう。
壁向こうに敵意や危険はない。あれば絶対に勘がなんかしら響くからな。
さて誰が来たのか……と玄関を開けてみると、そこには。
「────えへへ~。来ちゃった〜♡」
「!?」
ノインさんが。
後ろに執事さんも連れて、唐突に我が家に来訪した。
え、なんで?