勘のいいガキはデカパイハーレムの夢をあきらめない! 作:そとみち
遠征予定日当日。
サザンカさんの作る朝ご飯を美味しく食べて、そして俺は人生初の王城にお邪魔することになった…………の、だが。
「何で俺だけ正装やねん」
「上質な装備の私やサザンカ、きちんとドレスコードとしても通じるリンに比べてマスターはいつも私服ですからね」
「うむ。あのふわりとした装いは大変好いのだが流石に王城に向かわれるのであればな……大丈夫、とても似合っておるよ主殿。ノイン殿も悦ばれるであろう」
「めずらしくおしゃれなロック」
『みゃあ』
俺だけなぜかイレヴンとサザンカさんにこないだ購入した正装を着ていくように諭されて仕方なく袖を通している。
遠征に出発する頃には脱ぐ予定だけど……なんかもう肩が窮屈だわ!
仕方ないけどね! 流石に王城に行くのに普段のパーカーが合わないのは分かってるからさ!
いつもミャウを入れてるフードがこの服にはないのでわが愛猫は今リンの尻尾の付け根のあたりに器用に乗ってバランスを取っている。
なんでそこにいるんだお前。ミャウの好きなポジションが俺にはよくわからねぇよ……背中が好きなんか??
「む……ロック様とお連れの方々ですね!」
「様付け」
「先日の大会ではお見事でございました! ノルン様よりお話は承っています、どうぞ中へ!」
「あざっす! おねーさんもお仕事お疲れ様です!!」
「女性が相手だとすぐ笑顔になる」
「ロックのいつもの」
王城に連なる城門の前、王都で営まれてる騎士団の人たちが門番をしており、その人たちが俺らの姿を見て声をかけてくれる。
この服でも分かるもんなのかね闘技大会優勝者のロックだって。まぁ赤い髪って俺以外には殆ど見たことねぇしな……割とレアな髪色なのかもしれない。
……ああいや赤色って話をするなら俺の後ろの赤カブトが余りにも目立ちすぎるか。こっちこそ王都で一発見たら即身バレするわな。
門番さんはやっぱり騎士団なので重装備なのだが俺の勘が女性だと判断。
したらやっぱり声が女性だったし結構好意的なお声がけを頂けたので俺のメンタルポイント回復しました。助かる。
さてそうして城門を抜ければそこには王城にまで続くレンガ造りの道があり、横には騎士団の駐屯地があって。
王城前で出迎えで待ってくれてた騎士団の人に案内されて、俺たちは王城に足を踏み入れた。
なんか……厳かだな! すっごい厳かです!!
俺の語彙力ではこの王城の中のイメージをこれ以上言語化できない。室内なのになんか明るいし。
目につくすべての物が高級そう。スゴーイ。
「あかいじゅうたん! ふわふわ!」
「尻尾を引きずらないようにしましょうねリン」
「ヒノクニの天守閣とはまた趣が違うでござるな……陽光の取り入れ方が実に見事也」
「俺ら誰も緊張してない」
『みゃあ』
しかしそこを歩いていても呑気な会話が零れるのが我らパーティよ。
俺が図太い。イレヴンも主に似て図太い。リンは天真爛漫。サザンカさんは大人。ミャウは猫。
うむ。バランス取れてますね俺たち。
なんならクランでも設立すっかな。俺以外全員女性オンリークランにしてみるか?
「こちらです」
「どもっす」
騎士団の人(男性)に大部屋の前に連れてこられる。
扉がでっかい。リンみたいな感想を持っちまうくらい広そうな部屋だ。
扉を開ける騎士団の人に促されて中に入れば……既にそこには今回の遠征に参加するみんなが揃っていたようだ。
円卓に座る3名の王家の方々と、それの後ろに控えるみんながいて。
「あ、ロックく~……んォ゛っほ♡ ……は? ……あは? うわ。うわ~……わぁ~……」
まず正装の俺を見て何故か言葉を失ったノインさんがいて。その後ろにルドルフさんもいて。
なんじゃい!! いいんスよ笑ってくれても!! 似合ってねぇって自覚あるからね俺もね!!
ほら後ろのルドルフさんがなんかすっげぇ笑顔じゃん!! 口角上がってるじゃん!!
「ほう!! 印象を違えたなロック!! 王城に入るに備えて来たのは実に結構!!!」
「うむ! ロックくんはいつも普段着故に少々心配ではあったが……なるほど、イレヴンがよく見てあげているのだな!」
「ここが王城の中じゃなかったら俺爆笑してるよ……腹筋つらッ……くふふ……!!」
そしてそこから斜め前、第五王子で先日挨拶したアンドレ様が座ってて。その後ろにはヴァリスタさんとカトルがいて。
オッサン二人からはまぁ平和なお世辞コメントを頂けたがカトルが俯いて笑いをこらえてやがる。こいつ。
さて、そしてもう一人円卓に座る、今日が初対面の王族の最後の一人。
「おー中々かわよじゃねー!? ノルっちのカレピいいじゃーん!! 他に女いっぱいいるのウケっけどなー!! 噂のアンドロイドに赤カブトに竜人ちゃんも来てんじゃーん!! おっはー!!」
「おっはー!!」
『みゃあ!』
第四王女のアンナ様だ。
随分とちゃらちゃらしてる雰囲気だ。着てる服も高級感あふれつつギャルっぽいという奇跡的なバランスをしておられる。
元気な挨拶にうちの元気代表のリンがお返事してそれに満面の笑顔を返してくれる。やだ可愛いわねこの人。
ちょっと肩の荷降りたわ……ノインさんとアンドレ様はある程度気安くお付き合い出来る感じだったけどもう一人がどうかなとか思ってたんだよ実は。
でもこの雰囲気だと砕けてよさそう。俺も距離縮めちゃいたいな。
「ちなみにアンナ姉様は既婚者だからね~ロックくん~」
「アッハイ」
どうしてこのタイミングで釘を刺してきたのかなノインさん。
嫉妬かな? いやんなわけないか。俺が女と見れば口説くことを知っているからこその釘刺しですな。
既婚者の王族にコナかけはじめちゃあ人として終わりだからな。わきまえてますよ大丈夫。
……さて、そうしてアンナ様ともご挨拶を交わしたが、しかし彼女の後ろに立っている、恐らくは彼女が呼んだであろう護衛の人。
そちらの方にも俺は注目してしまった。
知っている人だったからだ。
かつて一度だけ会ったことがあるその
この国で唯一の、
「───久しいな、リン。そしてその主ロック=イーリーアウス」
燃えるような
その名を。
「……ご無沙汰してます、
「あ! ヒルデだ!! おひさしぶり!!」
ヒルデガルド。
王都オーディンの食客にして騎士団の特別顧問を務める竜人がそこにいた。
※ ※ ※
ヒルデガルドさんとは過去に一度だけ会って話をしたことがある。
俺がリンを奴隷商人から盗み出して何故か身元引受人にされたころ……急に俺んちにやってきて、リンの顔を見に来たのだ。
その時軽く話した程度の仲。勿論口説いてみたが駄目で尻尾ビンタされて死にそうになったのが懐かしい。
その時にある程度お話して、どんな人なのかは聞いている。酒場での噂とかで耳にしたし。
今の世界では極めて珍しいとされる
その中でも100歳を超える長寿の人で、昔は冒険者もやっていたらしい。
腕前ももちろん折り紙付き。今は冒険者という立場ではないのでギルドもその行動を把握はしていないが、時折ふらりと世界を旅しているという話だ。
で、今は王都の国王一家と縁を結び、食客という立場で騎士団の訓練に顔を出したり、貴族会に顔を出したり。
ただ、噂では極めて気まぐれな人だという話も聞く。
王国側もその気質を知っており命令などは一切せず、それを逆に気に入ってこの国に腰を落ち着けてる……とは本人の弁で。
そんな人がなぜ今回の遠征に?
「なんでヒルデガルドさんがアンナ様の護衛になってんスかね? そういうの好きじゃない人ってイメージでしたけど」
「ドストレートに聞いちゃうねロックくん~……」
「マスターは本当に怖いもの知らずですね」
「ふむ、主殿のお知り合いの方でござったか。しかしその身に纏う闘気、尋常ならざる……」
なんで直接聞いてみた所、ちゃんと答えてくれた。
「あーそれなー!! 実はあーしとヒルデの姐さんマブなんよなー!! 気が合うっていうかぁ!! ガキの頃からずっとお世話になってる姉ピみたいな人だからさー!! お願いした!! したら来てくれたった!!」
「そういう事だ」
嘘やろ(素)。
ええ……アンナ様が完全にギャルなのはもう十分に理解したけどなんでそんな性格の人と仲良いいのヒルデガルドさん……!?
イメージ的には物静かで威風堂々な雰囲気があると思ってたんだけどなぁ? ウォーレンさんとかと同じ大人な人だと感じてたんですけどね??
割とハジケリストだったのかこのデカパイドラゴン。心の距離縮まるわー。
「それに元々私は魔族とは敵対していた……150年前の時もな。奴らが復活して飯の世話を受けている王都に牙を向いたのだ。再度滅ぼすには十分すぎる理由だろう」
「へぇ、150年前のときも魔族と戦ってたんですね。じゃあイルゼってもしかしてヒルデガルドさんと知り合いだったりすんの?」
『まぁ……私の方は知ってましたよ。当時はインテリジェンスソードも多かったのであちらは私の事を知らないと思いますが……』
「莫迦を言うなよ『暁剣』イルゼ。
『……恐縮です』
「……今思ったけど。親父に負けず劣らずでイルゼも相当喋ってねぇ事あるだろお前」
『何のことだか』
さて聞いたらカトルの腰に下がってるイルゼもヒルデガルドさんの御知り合いとのことで。世の中って狭いわね。
……ってかなんかホントにこの場にいる人たちみんなヤベーな。一般人なの俺くらいではないか?
王族3人に竜人二人に現王都最強にその弟子にして過去の王都最強の息子にアンドロイドにヒノクニ最強に……。
あ、俺も闘技大会優勝してたか。場違い感はぬぐえないけど俺もそこそこ有名だったわ。
「積もる話もあるだろうがそれは遠征中でもできるであろう!! 先ずは遠征についての打ち合わせを始めたい!! よろしいかな姉上!! ノルン!!」
「おー! 会議進行よろっぴなーアンドレー! メンドーなことだいたい任せたわー!!」
「だ、大丈夫です。よろしくお願いします~……」
少し会話が広がり始めたところで、アンドレ様が音頭を取り直して打ち合わせに入る。
ノインさんが見てわかるくらいすっごい恐縮しておられる。前に言ってたコミュ障的な部分なんかな……ちょっと新鮮だ。
いつも俺にはほんわかお姉さんで接してくれてたからな。いじめられてない? 大丈夫?
「うむ!! ……さて、4日前にグランガッチに向けて発たせていたワイバーン便の騎士たちが昨晩城に戻ってきた!! その報告をまとめた資料をノルンに作らせた!! 配るのでまずは眼を通してほしい!!」
部屋に控える騎士団の人たちが俺らに資料を渡してくれる。
これノインさんが作ったんだなぁ。文字も小説みたいにきっちり印字されてるし読みやすいや。流石王族。こういう仕事もやるんだなぁ。
さてさて読みますか。文字を読むのは嫌いじゃないからね。ぺらりぺらりと。
…………おん?
「……なんと?」
「ほう……?」
「いやこれ……?」
今日初めて資料を読んだヴァリスタさん、ヒルデガルドさん、俺の順で呟きが漏れる。
グランガッチに行ってから、向こうの王様に謁見して、街中を調査して、帰ってくるまでの経過が事細かに書かれていたが、結論として。
「─────うむ!! 全く異常が見当たらなかったらしいな!!!」
なーんも異常がなかったって。
嘘だろ??