勘のいいガキはデカパイハーレムの夢をあきらめない!   作:そとみち

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※投稿間隔について
GW期間中の土日祝日は14時と21時で一日に二回投稿します。書き貯め放出。


8 切り札

 

 唐突に俺達の前に現れたバアルと名乗った魔族。

 その身から発されるどす黒い魔力に、しかしひるむことなく……3人がそれぞれ構えて相対した。

 

「みんな、慎重に……」

「───せいやっ!!」

 

 イレヴンが注意喚起の言葉を紡ぐ瞬間をフェイントとして、ティオが魔力を籠めてダガーの片方をバアルの胸板目掛けて正確無比な投擲を放つ。

 これまでも不意打ちとして有用だったスローイングダガー。武器もかなり高ランクなこともあり、見事に胸板に突き刺さるかに見えたそれは、しかし。

 

「フン……無駄な事を」

 

 キンッ、と全く意に介した様子もなく弾かれてしまった。

 

「えっ!? 弾かれた!?」

「あの半裸野郎何もしてなかったぞ!? そんな防御力高いのかよ!?」

「ッ……高位の魔族は大抵の攻撃ならば物理魔法問わずはじき返す魔力障壁を展開しているのです!! 恐らくティオの攻撃力では貫けない……!!」

「マジかよ……!!」

 

 イレヴンの言葉に全員が息を呑んだ。

 ティオだって相当強力な攻撃力を持っている。連続攻撃が主な手段ではあるが、アルラウネくらいなら一撃で処理できるその腕前。しかしその程度ではアイツの魔力障壁を貫けない、だって?

 とんでもねぇチートじゃねぇか。この時点で銀級以下の冒険者はほぼ打つ手がない事になる。

 

「ですがそういった魔族を滅ぼすために造られたものもあります!! それは私であったり……」

『私の様な魔剣であったりです!! カトル!! 全力で魔力を籠めればヤツの魔力障壁は抜けます!! ひるまないで!!』

 

 だが続く言葉に光明はあった。

 こういった魔族を殺せる武器が少なくとも俺たちには二つ。

 イレヴンの存在と、カトルの持つ炎の暁剣『イルゼ』だ。

 二人曰く、自分達なら障壁を突破できると。

 

「クク……この時代にまさかまだ貴様のような人形が稼働していたとはな。魔剣も健在か……楽しませてくれるっ!!」

「っ来るぞ!!」

「ティオは支援魔法で援護を!! 行きますッ!!」

「ごめん!! 回復とか火力支援はするから頑張って!!」

「俺は何もできないけど頑張れ二人ともー!! 負けんなー!!」

 

 早い段階で後ろに下がった俺と、攻撃が効かないと見るや即座に距離を離したティオを守る様に二人が前に立ち、謎の魔物と相対する。

 どうやら向こうもイレヴンみたいなアンドロイドや、魔剣の存在を知っているようで……その上でバアルの顔には余裕の微笑みが浮かんでいた。

 クソ。力量が読めてるってのか。舐めんなよウチのエースを!

 

「ハアアアアアアァァァッッ!!!」

「っ、ぐなっ……ッ速ァ!?」

「くっ……!!」

 

 などという俺の余裕はすぐに崩れ去ることになった。

 バアルが腕に黒い炎を纏わせて、恐ろしい速度で腕を振るった。

 それだけで魔力の波動があたりに巻き散らされ、かまいたちが生じるほどの勢いの魔力が叩きつけられる。

 距離を取っていた俺の方までその衝撃は飛んできた。近距離にいた二人は跳躍して回避したが……空中に身をひるがえしたことで、その後の回避が間に合わない。ヤバい。

 

「っ……だあっ!!」

「魔剣の使い手!! 筋は悪くはないが……『()()()()』が振るう剣などにやられはせんわッ!!」

「がッハ!?」

「カトルっ!?」

「嘘だろ、カトルがやられた……!?」

 

 跳躍の隙を消すべく攻撃を繰り出したカトル。勢いを乗せた上段からの振り降ろしの一撃をバアルに見舞ったが……だが、それがいともたやすく受け止められた。

 片手で暁剣の腹を掴まれ、剣閃が止められてしまったのだ。

 驚愕する間もなく、動きが止められたカトルに攻城槌の様な勢いでバアルの蹴りが突き刺さり、思い切り吹き飛ばされた。

 質のいい防具を装備しているとはいえ、アレは貰っちまった。急いでティオが回復に向かう。

 

「チッ……エクスアームズ01『ドリルブラスター』……!!」

「人形ッ!! 貴様らにはかつて幾度も煮え湯を飲まされた……が!!」

 

 その攻防の間に、イレヴンが腕をドリルのように超高速回転させる。

 かつて俺とノックスさんの目の前で見せた、超絶威力のドリルアタックだ。

 あのドリルは魔族の魔力障壁を貫くためのものだったのだろう。防壁無視の効果などもあるのかもしれない。

 貫けばただでは済まないはずだ。貫ければ。

 

 だが。

 俺の勘は、それが失敗することが分かってしまって。

 

「ハァッ!!────────くっ!?」

「間合いが甘いッッ!!」

 

 天井を蹴りつけて、飛び込む様にバアルを狙ったイレヴンの腕は、しかしバアルの脇の下に見事にすかされ……至近距離で腕をそのまま掴まれてしまった。

 ふざけんなクソ野郎!! 俺のイレヴンに触れやがって許せねぇよなぁ!?

 

「やはりな……貴様、『命在る者』に仕えておらぬな? その身に宿す魔力もレベルも貧弱が過ぎる」

「ッ……関係ありません、貴様ら魔族は私が殺す!! それが使命!!」

「ほざくな。人形ならばせめて人形の矜持を全うしてから我に歯向かえェッ!!」

「ぐふっ……!?」

「イレヴンっ!?」

 

 至近距離で更に追撃すべくもう片腕を回転し始めたイレヴンだが、その前にバアルのもう片腕が彼女の腹に見舞われる。

 凄まじい威力が込められたその鉤突きにより、一瞬イレヴンの細い腰がくの字に曲がり、その反動で壁にめり込むほどに吹き飛ばされた。

 

 圧倒的だ。

 圧倒的過ぎる────────全滅する。

 

「フン……この時代の冒険者はこの程度か。命無き者のみとはいえ質が落ちたものだな」

「くっ……!!」

「カトルまだ立っちゃ駄目!! 内臓のダメージがひどい、もう少し待って……!!」

「この……くっ、魔力炉心が万全なら……!!」

 

 あっという間に叩きのめされたカトルとイレヴン。

 ティオはカトルに全力で回復魔法をかけているが、それも完全回復まで時間がかかる。

 このまま時間が立てば全滅まで見える。

 それだけは駄目だ。

 全滅だけは避けなければならない。

 

 だから、俺の選ぶべき行動はとても簡単だ。

 

「……フ、だが油断はせんぞ。魔剣と人形、この二つを砕けば主も喜んでくれるだろう……今楽にしてやる」

 

 バアルがとどめを刺さんとカトルとティオの方に向かう。

 イレヴンが壁から身を起こすが、腕の回転は再開できていない。チャージが必要だと以前に言っていた。

 

 俺は注目されていない。

 路傍の石のように、俺ごときを気にかけるまでもないのだろう、バアルにとっては。

 気配を消すのが得意だから。シーフの技能の一つで、敵に注目されないように動くのが常だから。

 

 

 だからこそ。

 

 

「────────?」

 

「こっち見ろよ、半裸の変態が……!!」

 

 

 落ちてたティオのナイフを拾い、バアルの頭に投げつけてやった。

 囮になるために。

 二人が回復し、全力の一撃を準備するまでの時間稼ぎをするために。

 

 

 

※    ※    ※

 

 

 

「オラオラ変態!! 俺はまだピンピンしてんぞほっといていいのかよ!! 可愛い女をリョナるの優先か!? 残念だけどカトルは男だぜ!!」

「……なんだ、貴様は?」

 

 その後さらに口でも煽ることで、俺に注意を向けることに成功した。

 そりゃまあこの瞬間まで気配を消してたからな。俺が戦いの場に混ざっても基本的に邪魔になるだけなんで常に戦闘空間には近づかないようにしていた。

 何だったら逃げたいくらいビビってるのは間違いないけど、ここでコイツを自由にしたらカトルとティオとイレヴンとイルゼがやられる。

 それだけは嫌だ。

 だからこそ俺が時間を稼ぐ。

 

「俺の名はノックス!! 金級冒険者でめっちゃ強いぜ!! お前なんかワンパンだ!!!」

「いや他人の名前をここで出すのかよ」

「心が強いバカ……」

「マスター!! 逃げてください!! 貴方ではこの魔族にかなわない……!! ここは私が何とかするので……!!」

「うるへーポンコツ!! そんなこと言ってさっきやられてたろがよー!! 俺が時間稼ぐから腕の回転貯めてろってんうぉっへぇッ!?」

「……避けるか」

 

 とりあえず俺の名前に傷がつかないように信頼できる敬愛する先輩であるノックスさんの名前をお借りしつつ煽り散らす。

 ヘイヘイピッチャービビってるー!! とサルみたいに手をパンパンしながらイレヴンとカトルに目線で合図。いいからお前ら早く回復しろっつの!!

 ってやってたら急にバアルが魔力の砲弾を俺に放ってきたもんだから気合と勘で回避した。俺に遠距離攻撃が当たると思うなよバーカ!!

 

「……良いだろう。仲間の為にその身を犠牲にしようという精神。その点だけは貴様を認めてやろう」

「お前よりモテるって所も認めていいんだぜ? この万年童貞チャンピオンがよ!!」

「口が回るよなアイツ」

「どうしようなんか頼れそうな気がしてくる」

「マスター……」

「その減らず口、一瞬でかき消してくれるわッ!!!」

「っとぉー!! ハイ一瞬経過ぁー!! あっれー!? まだ生きてるなぁ俺なぁ!! ッのわっ!! ぶねっ!! あれあれー!? 魔族の一瞬ってすごい長いんだなー勉強になるなー!! っちゃーい!! しょらぁーっ!! バッカ野郎手加減くらいしろやこのアホー!!」

「っ……貴様……!!」

 

 そして俺に向かって間合いを詰めて来たバアルに対し、俺は全力で回避行動をとる。

 フードの中に入れてたミャウはそもそも最初の襲撃の時点で逃がしてるから回避に遠慮はいらない。

 俺の勘を総動員して、全身をよじってゴキブリのように逃げ回る。距離を離して、壁際に追い詰められたら壁を這って、言葉でも常に煽りまくって敵の動揺を誘う。

 逃げ回る事だけにかけて俺の右に出るやつはいねーからな!! バーカどんどん頭に血が上りやがれバーカ!!

 

 しかしだ。

 それで十数秒は時間を稼げはしたものの、結局の所ここには俺だけじゃなくてダメージを受けた二人もいるのだ。

 

「……ならばこれはどうだ!!」

「─────ちっ!!!」

 

 俺の回避した先が悪かった。

 バアルも爪での攻撃や拳での攻撃で縦横無尽に動いていたのだが……俺が飛び跳ねて回避したことで、その線が結ばれてしまったのだ。

 その腕から魔力砲を放とうとする一瞬、ヤツと俺を結ぶ射線上のその先、俺のすぐ後ろにイレヴンがいることに気付いてしまった。

 ここで俺が回避すればイレヴンに魔力砲が当たる。それをイレヴンは避けられない、という直感。

 

 判断は速かった。

 

「イレヴンっ!!」

「な、マスター……!」

 

 咄嗟にイレヴンに駆け寄り、庇うようにその体を押し出した。

 同時に俺も跳躍して魔力砲を回避……とするつもりだったが、やっぱり一歩遅かった。

 イレヴンに直撃こそしなかったが、避け切れずに俺の右足が魔力砲に呑み込まれた。

 

「んがっ……!!」

「その身を挺して仲間を庇ったか……成程、貴様は存外仲間想いなのだな」

「マスター!! バカなことを……!!」

「うるせー!! イレヴンはいいから反撃準備しとけって……痛っ……まだ、終わってねぇだろ!!」

 

 幸いにして千切れなかったが、もう右脚は焼けついて使い物にならない。

 ティオのエクスヒールを貰えれば回復するだろうが、今はティオが必死にカトルにエクスヒールをかけてる最中だ。カトルも一瞬の隙を狙い、イルゼにこれまで以上に全魔力を集中している。

 イレヴンとはまだ付き合いが浅いため過分に心配されてしまっているが、あの二人はなんだかんだ俺が時間を稼ぐことを信頼してくれているのだ。たぶん。

 

 だから、やれることは最後までやらなきゃな。

 

「ぐっ……まだ俺はやれるぜキングオブ童貞がよぉ……!!」

「ほう……歯向かうか、その負傷で。まだ立ち向かうか、この我に!!」

「うるせー乳首丸出しにしやがって!! 男の裸なんて見ても誰も喜ばねぇんだよテカり無駄筋野郎が!!」

 

 先程投げたティオのダガーが落ちていたのを拾い、使い物にならない右脚を引きずりながらバアルに近づいていく。

 満身創痍だ。脚が削れれば俺の機動力は失われ、先程までの回避はできない。一撃喰らえば終わりだろう。

 だが、まだコイツに隙を作れていない。俺のやれることはまだ残ってる。

 

 ──────俺の勘を舐めるなよ。

 

「…………すぅ────────」

「む……?」

 

 バアルの前で、俺は右脚の怪我の痛みが響いたと見せかけるようにして片膝をついた。

 同時に、ある構えを取る。

 

 右手に持ったダガーの、柄を逆手に持ち。

 己の喉に刃を突き立てる様にして、相手に柄を向けて。

 そしてそこに左手を添え、今にも自刃するかのようなその構えを。

 

「なんだ……自殺か? それとももう敵わぬと知り抵抗を諦めたか?」

「────────」

 

 喋らない。

 俺はもうお前を殺すために全てを投げ出している。

 俺のダチと俺の女を殺そうとしたお前は殺す。

 

「……面白い。その構えが何を成すか興味が出て来た。だが油断はせぬ。慢心もなく……終の一撃をもって貴様を殺そう!! 最期に名乗れ!! 貴様の真の名は!!」

 

 これまで以上に濃密な魔力がバアルの腕に、全身に籠められた。

 あの腕による突進突きだろう。恐らくはこの戦いで見せた中でも最速最強の攻撃をくれるようだ。

 ()()()()()()()()

 

 いいだろう。勝負だ。

 

「─────ロック。ロック=イーリーアウス」

「いい名だ。ではさらばだロック!!」

 

 爆発的な魔力の高まりを経て、バアルが俺に向けて突撃した。

 

 一瞬の交錯。

 

 

「マスターっ!!」

「ロック……!!」

「お願い……!!」

 

 

 跪いた姿勢で()()()()を狙いダガーを振り抜いた俺と、拳を振り抜いたバアル。

 互いの背中合わせに一呼吸分の静寂が流れ、そして───────

 

 

「────────ガハァッッ!?!?」

「バカがよ」

 

 

 バアルの全身から、青い血が噴き出した。

 

 






~設定紹介~

■ロック=イーリーアウス
孤児であるはずの少年が己の姓を名乗った。
この世界では姓を持つ人は基本的に立場のある感じの人だけで、一般人は名前だけです。
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