勘のいいガキはデカパイハーレムの夢をあきらめない! 作:そとみち
【side ノイン】
ロックくんと透明になったイレヴン、そしてルドルフが大部屋の窓を音もなく開き、外に飛び出して行った。
完全に足音を殺したロックくんとルドルフ、そして私のチートスキルを使っても感知できないステルス状態のイレヴン。
あの3人ならばきっと魔族を探し出してくれるだろう。
それがどんな結果を生むのかは、私にも分からないのだけれど。
そんな展開は
「……アンナ姉様、アンドレ兄様」
「ん、なんだーノルっち?」
「どうした、不安か? ロックが心配なのはわかるがあやつも立派な大会優勝者。イレヴンもルドルフも同行している……万が一があっても主を守るであろう」
「ああ、いえ~……ロックくんの心配というよりは、ここにいるみんなの心配というか~」
「なに……?」
でも、ロックくんが頑張っているなら私も頑張らないといけない。
今この部屋にいるみんなを、魔族の不意打ちから守るために。
「この後グランガッチの王様と謁見しますが~……間違いなく謁見の最中に襲撃があるので。備えてくださいね~」
「「─────は?」」
だから私は改めて注意喚起する。
転生した私だから持ち得る知識を使って。
急にこんなことを言い出した私に、姉様も兄様もぽかんとした顔で此方を見てくる。
二人が何か言葉を紡ぐ前に、アンドレ兄様の後ろからヴァリスタが一歩前に出て、頭を下げてから会話に挟まってくる。
「……ノルン様。浅学菲才な身ながら質問をお許しください。確かに今、グランガッチ全体が魔族の手に落ちているのではないかという懸念を全員が抱えています。ロックくん達が証拠を探しに行ったのもそのため。襲撃も可能性として考えられる。……ですが余りにも先程のノルン様の言葉には疑念がなかった。なぜそのようにお考えになられたのかをお教えください」
「ええ、それは簡単ですよ~……何故なら───」
確かに今の私の発言は疑問が残るだろう。
そのようになる可能性が無いわけではない。既にこの王宮全体が魔族の手に落ちている……というロックくんの勘の通りだとすれば、私たちはいつ襲われてもおかしくはない。
そう、それこそ今この瞬間に魔族や、それに操られている獣人たちが襲ってくることだってある。
ではなぜ私は謁見の最中と断言したのか?
簡単だ。
これはAIオンラインの第二部に発生するメインイベントの一節に酷似しているからだ。
「───このゲームの世界では必ず起きるイベントなんですよ~。第二部のメインストーリーのイベントなんですけどね~、私がプレイヤーだった時代にwikiで調べたから知ってるんですよね~。もうイベントには入ってて、謁見の最中に襲ってくる獣人たちからの攻撃を耐え続けて何とか国を脱出するっていう流れなんですが~、ロックくんたちがシナリオを超えて動いてくれているので~、魔族の幹部と六大将軍がいるはずなのでそれをロックくん達が見つけて、何とかみんなで討伐できれば~、多分グランガッチは助かります~」
だからそのままそれを口にする。
口にした。
口に、してやった。
私は転生者で。
この世界はゲームの中の0と1で構成されたシステムで。
決定しているイベントの中の一節だからこそ、襲撃タイミングはズレないはずだ、と。
「「「──────」」」
今度こそ全員が絶句する。
そうだろう。
それはそうだろう。
何故なら。
「────すまん、ノルン。
「ごめ、聞き逃しちったかもー? もっかい言ってくれんかー? なんてー??」
「……ノルン殿、恥ずかしいが私もさっぱり聞き取れなかった」
「拙者も……どこか別の国の言葉でござろうか?」
「わたしもわからん!」
『みゃあ?』
「……もう一度お願いしてもよろしいでしょうか、ノルン様」
私は小さくため息をつく。
分かっている。私達がプレイヤー……『命在る者』としてこの世界にいたころからずっと、この世界に生きるNPCたちには一貫してNGワードが存在する。
それは、このAIオンラインの世界がゲーム上の世界であることを匂わせるワード全て。
彼らは高度なAIを搭載しており、自分で考えて行動する余りにも人間らしい思考を持っているが……ゲームがサ終してから150年が経過したと思われるこの時代においても、絶対にこの世界がゲームであるという事だけは理解しない。
どんなに遠回しに匂わせた表現で説明しても、言葉そのものを受け取らない。
そこに思考が至る事がないのだ。
これまでに何度も試している。察しが素晴らしく早いルドルフにだって理解してもらえないのだから、やはりAINPCには絶対にそこを理解させるつもりはないのだろう。このゲームを開発した人は。
もちろん、そうでなければ世界観が崩れてしまうから理由は分かるし、今の時代においては転生してプレイヤー知識でチートしてる私の方が異物であることも分かっている。
だからこれはまぁ憂さ晴らしのようなもの。理解して欲しくて口に出したというわけでもない。
そう、説明するのが面倒だから自棄になって零したわけではないのだ。
……私、ロックくんが傍にいないからってちょっと情緒不安定になってるかも。
よくないな。NPCでも兄様姉様は家族だしここにいるのはみんな心強い仲間たち。
ちゃんとしないと。
「……ごめんなさい、ちょっと表現がよくなかったですね~。理由は簡単で……さっきこの部屋に通される前に、謁見の間がある方角から嫌な気配感じたんですよね~。ロックくんが頑張ってくれるのを邪魔しちゃいけないなってさっきは思って口に出しませんでしたけど~」
「……ふむ? 拙者らでも感じ取れなかった気配を察されたのか、ノイン殿は」
「こう見えて私、サザンカさんよりもレベル高いので~」
「なんと」
「サザンカがどれほどのレベルかは分からぬが嘘は言っておらぬな! なにせ闘技場での活躍の後にレベルを無理矢理計ったら計測魔導器がカンストした! 王家で一番レベルが高いのがノルンだ!!」
「なー、マジでいつそんなにレベル上げたんだよなーノルっち。スキルもすごい覚えてたしよー、そんなノルっちが言うんならねーちゃん信じるぞー! ついでにグランガッチの救い方もわかんなら教えてくれノルっちー!!」
「ええ、分かっていますアンナ姉様。私もグランガッチは救いたい……大丈夫です~、きっとロックくんたちが何とかしてくれます~」
さて、話は戻して……まぁ適当に理由をつけて、私の直感について説明する事にした。
レベルが高いというのは本当。限界突破をしたうえで、さらにレベル上限まで上げている私がこの中では一番レベルが高い。
それに並びかけてるサザンカやヒルデガルドもいるし、同じく限界突破しているヴァリスタやカトルくん……この遠征中に一気にレベルを上げて限界突破に至ったリンちゃんもいる。
兄様姉様も王家に伝わる防御力の高い装備を身にまとっているし、それぞれレベルも高い。
現在のオーディンの中でも指折りの実力者が揃っている今の状況なら後れを取ることはないはず。
「襲撃は魔族がこの国の国民たちをけしかけてくるので、獣人相手には命を奪うような攻撃をしないように気絶させましょう~。魔族であれば魔装具の一撃をもって。獣人は物理防御に優れるのでヴァリスタさんやカトルくんは魔法か魔法剣を上手く使ってくださいね~。私とアンナ姉様は回復に専念して……ロックくん達が敵の首魁を見つけ出すまではみんなで力を合わせて防衛戦です~」
第二部メインシナリオ『深淵氾濫』。
ネレイスタウン、グランガッチ、フォレスタルマルチのどこかで発生する魔族襲撃イベント。
ゲーム上ではこのイベントが起きている裏でエルフの集落が必ず襲撃されるので魔族の囮作戦に人類が引っかかるという展開だが、現在の世界にエルフの集落はない。
どこか別の集落か街が襲われているのか、それともまったく別の展開になるのかはわからないけれど……確かなことは、今ロックくんがこのイベントを壊すために自発的に動いてくれているという事で。
きっと彼ならば、自分が大切にしている女を守るための最善の行動をしてくれると信じて。
(お願い、ロックくん)
愛する彼の活躍を願い、目を閉じて祈りを捧げた。
※ ※ ※
【side ロック】
(なんかゴメンめっちゃくしゃみ出そう)
(出したらシバくぞマスター)
ルドルフさんと並んで完全に気配も音も消して王宮内をサクサクと勘の響く方向に進む中で、急に鼻がむじゅむじゅしはじめて俺は思わずくしゃみをしそうになったのでイレヴンにテレパシーで報告したら怒られた。
慌てて鼻の下、人中のツボを指先でぐりりっと押さえてくしゃみをストップさせる。
くしゃみが出そうになったらこれやってみるといいよ。マジで止まるから。
(しかし……ルドルフの隠密技術には驚かされますね)
(な。俺よりも気配消すの巧いぜマジで……なんだこのじーさん)
さてしかし隣のルドルフさんがマジで気配消すのが巧すぎる。
俺だってそりゃシーフだし、今は闘技大会のような戦闘中に気配を消すのとは状況が違うから本気で忍んでる。
直視されなけりゃ見張りの兵士とかも横をそのままスルー出来るくらいの存在感の薄さでするすると動いてるんだけどさ。
それに並ぶルドルフさんがやべーのよこのお爺ちゃん。動きに全く無駄がない。力みもない。
こんな状況慣れておりますよホッホッホって涼しい顔で足音立てずに俺らについてくる。同時に周りも注意深く観察している様だ。
なんなの……この人……(デデン!)。
(まぁ頼れる分には有難いからいいけどね……さて、こっちだな)
初めて歩く王宮内だが、既に俺の勘は魔族の位置を完全に捉えている。
そちらの方向に近づいて、王宮内の警備ケモ兵士の人外の嗅覚を見事にすり抜けていって……そして、とうとう目当ての所に到着した。
そっと手を挙げてルドルフさんに一旦停止の合図を出す。
ここは王宮内の……しいて言うなら通路か。一階の、何の変哲もない通路だ。
扉もない、左手に壁が右手に窓がある何の変哲もない廊下だが……ここだ。
(ロック様?)
(マスター? ここには何もないように見えますが……?)
(大丈夫、ここで間違いない。……ただ少し音が出そうだな。それはもうしょうがねぇか……宮殿内の兵士もここが動くの織り込み済みだろ多分)
音を立てずに声を出すとか言うビックリするほど器用なことしてくるルドルフさんと、テレパシーで疑問を伝えてくるイレヴンだが……ここには隠し通路がある。
俺の勘の真価を忘れてはいけない。俺は宝の探索、開錠を最も得意とするシーフなのだ。
イレヴンを見つけるほどの俺の隠し通路への嗅覚を舐めてはいけない。
この程度で通路を隠せていると思ってるならグランガッチも魔族もまだまだだな。
(……ん、これか……ほい、ほい、ほいっと。ぽちぽち……なんや魔術式かよこの扉。んー……んじゃこう、こうで、こうこう…………)
(……随分と長く壁をヘンテコに押していますが本当に何かあるんですか?)
(あるの。今この通路開く魔法鍵を無理矢理ねじって物理鍵に変換してるから待ってろって)
(マスターはそんな知識も持っていたのですか)
(全部勘)
(これだよ)
壁をとんとんぽんぽんぷにょぷにょぺろぺろと1分ほど弄繰り回して……そして、ようやくその時が来た。
(うし!)
(うわ。ホントに開いた)
(ホホ。これはなんとも……)
かこんっ、と軽い音がしてから、何の変哲もない壁がぐにょりと形を変えて扉を開けたような四角形の穴を生み出した。
その先には地下に続く下り階段。ヒットだな。
(ッ……これは……闇の魔力がこの先から感じられます。マスター)
(アタリだな。……一応、中の様子まで見ておきたい。何がいるか偵察してからみんなの所に戻ろうぜ)
ここで一旦撤退して戻ってもよかったが……しかしその間に逃げられてもアレだし、勘は踏み込めと言っている。
ここにいる3人ともまだ気配は漏らしていない。兵士が集まってきたりもしていないし、サッと降りて中を見てこよう。
ルドルフさんにも目配せし、意図を読み取って頷いてくれた。行こう。
(……そこまで深くはないな)
(ちょうど地下2階分といったくらいでしょうか……)
全神経を気配察知に集中させつつ階段を下りて、その先にある仰々しい扉を発見。
その向こうに魔族の気配も感じるが……音を立てず扉を開錠して開いて中に潜り込むくらいはお茶の子さいさいよ。
音を一切立てずにすこすこと弄って開錠。蝶番が音を立てないように細心慎重に扉を押し開けて中に進む。
扉の先、少し開けた通路があって、さらにその先に進む。
すると開けた空間が繋がっており、身を隠しつつその先を伺えば、そこには。
(───魔族ッ!! この圧、ライオンの外見……獣皇フォルクルス!!)
(チェンジぃ~!!)
俺が期待していたデカパイ女魔族ではなく、むさくるしいライオンの頭をしたオッサンがおどろおどろしい椅子に座ってるのを発見した。
ふざけんなマジで。(渾身)
幻魔将アイムが女だって聞いてたしヴィネアの上司だってことだからちょっとエッチ確認したかったのによォ!!