勘のいいガキはデカパイハーレムの夢をあきらめない! 作:そとみち
天井をブチぬいて恐らく地上まで投げ飛ばされちまっただろうイレヴン。
目前には崩落してくる天井。
「……ッルドルフさん!!
「御意」
「だっひー!? アイツらバカじゃにゃいか!? 落ちてくる天井に突っ込んだにゃ!?」
大丈夫だ。
イレヴンなら大丈夫。
なぜなら俺の謎の
さっきの謎の感覚。
今度は気絶しないで感じ取れた。声を聞けた。
女の子の声が響き、俺の指輪から魔力をくみ上げるように魔力励起が生じているのを感じ取った。
イレヴンのスキルを開放する時に感じるような、俺の中の魔力が何かを生み出すような感覚。
それを味わったのだ。
俺の意志で、誰かを助けないとって強く念じた時に動いてくれるのか。
こりゃ便利だ。
さて、イレヴンは一足先に地上に逃げ飛んだが問題は俺たちである。
崩落する天井に向かい飛び込む俺たちにカリーナが渾身のツッコミを繰り出してくるが……まぁ当然だ。
普通に考えればどうやっても死ぬシチュエーションだろう。
だが俺たちならこの混乱に乗じて逃げ切れる。
「ちぇぇーーい!!」
「ヒューゥ……素直にすげェな。まるで曲芸師だ」
「にゃんだそのゴキブリみたいな動きはぁー!? キモーっ!?」
落ちてくる瓦礫に対して、生まれる隙間を縫うようにくねくねと姿勢をゆがめて崩落の中を駆け上がっていく。
自分に向けて落ちてくる瓦礫は俺を殺さんとする物言わぬ刺客だ。ぶつかったり挟まったりしたら死ぬ。
「ふんふんふんふんふん!!!」
瓦礫そのものを押し出すような攻撃はできなくとも、落下の勢いを捌き斬りでそのまま瓦礫に返すことはできる。
無機物だろうが生きてなかろうが捌き斬りは入れられる。生きてなきゃダメって話なら剣とか相手に捌き切れないしな。実際できてるし。
俺は両手の親指以外8本の指を使いこなしてヤバい軌道の瓦礫を捌き斬りで押し返しながら進んでいく。
「……ルドルフさん大丈夫!?」
「
だが、今この瓦礫の群れに挑んでいるのは俺だけではない。
ついてきてもらっていたルドルフさんもいるのだ。この人を置いていったらノインさんが悲しむだろう。助けなければならない。
しかし
出来る限り二人分の経路を確保しようと頑張りたいが、俺に向かってくる瓦礫しか捌き斬りできないし……と苦悩して声をかけた所、頼もしい声と共にルドルフさんもまたその力を発揮する。
「────『シルバーエッジ』。昔取った杵柄ですな」
ルドルフさんの指にはめられている10個の指輪。
そこから、目に見えないほど細く、そしてしなやかに形を変える鋼鉄の糸が放たれる。
ルドルフさんは糸使いなのだ。
王都で唯一の糸の魔道具『シルバーエッジ』を十全に使いこなせる執事。それがルドルフさんであった。
ルドルフさんが放つ鋼糸が瓦礫をまるでバターのように切断する。
時には瓦礫同士をぶつけるように糸で操作し、弾き、切り刻んで地上までのルートを開拓。
俺もその動きに合わせて捌き斬りでブチ抜きながらもちょこまかと軌道修正して押しつぶされないように逃げ登り。
そして、5秒ほどの攻防の末。
「っだあッ!! 突破だこんにゃろーっ!!」
「肝が冷えましたな」
地下二階の隠し部屋からブチ砕かれた天井の隙間を縫うという絶技で、地上まで戻って来た。
同時に魔族どもを崩落に巻き込めている。これで死ぬとも思わないが、時間稼ぎはできる。
「マスター!」
「イレヴン! 無事だったか!」
「ええ、助かりました。マスターのバリアーが衝撃から護ってくれたおかげでダメージは軽微です。マスターたちもよくご無事で……!」
「何となくコツ掴んだわ! みんなと合流する……って何この状況!?」
「ふむ……この国の獣人の方々が我を忘れて詰め寄ってきていますな」
そして脱出した先でイレヴンとも合流出来た。
かなり埃にまみれてはいるが、五体満足の様子だ。俺のバリアーやっぱり防御性能半端ないな。イレヴンを守れてマスターとして誇らしいぜ。
さてしかし、飛び出た先は王宮の中庭のようだが……状況がヤバいことになっている。
王宮内にいた王族もメイドも騎士の人も。
王宮外の冒険者も街の人たちも。
老若男女関係なく。
ほぼ全員が我を忘れて、王宮に詰め寄ってきていた。
「やっぱさっきの咆哮で操られてんのか!? フォルクルスの野郎こんなことも出来んのか……!」
「全国民が敵に回ってしまった。ここでこの事態を止められなければ本格的に国家間の戦争となりそうですな」
「やはりフォルクルスを討つしかありません! ヤツは……!?」
洗脳されている獣人たちが王宮に迫るその様子は現実感を感じられないほどの圧となり、群衆の暴動による津波のような叫び声があたりに響き渡っている。
これはマジで厳しい。あのフォルクルスの咆哮の一発でここまで洗脳されちまうとは。
獣人だけを対象とした洗脳……なんだろうな、多分。これで王都の大会に派遣した冒険者も操ってたって所か。
この国を起点にして人類を滅ぼすための準備をしていたか……そしてそのトリガーを俺らが来たタイミングで引いたって所か。
俺らを殺した後は王都に向けて出兵して人類と獣人同士で争わせて……って感じだろうな。
だがここで俺らが止められれば状況は一変する。
グランガッチ全体を助けて、魔族の企みの一つを潰せるかもしれない。
やるしかない。
「───ふゥゥゥんッッ!!!」
「フニャーーーーッ!?」
ノインさんたちとも合流したかったが、しかし状況が許さなかった。
魔族の間で何やら狙われてるらしい俺の命を狙ってフォルクルスもあの瓦礫の山を突き抜けて来たらしい。
垂直の爆発を伴って、俺らのすぐそばの瓦礫から飛び出してくるフォルクルス、とその片手に捕まれたカリーナ。
どちらもダメージはほとんど入ってないようだ。まじぃな。
この二人だけではなく、迫りくる獣人たちをも捌きながら相手をしなければならない。
多人数戦は闘技大会で経験があったが、あれはあくまで試合だ。
正気を失い命を狙ってくる獣人相手にどこまでやれるか。
「フォルクルス……!!」
「ロック様、イレヴン様! 周囲の暴徒は私が出来る限り食い留めますぞ!」
「やってやらぁこのライオン頭!! お互いまずは10秒目を閉じるルールでやろうぜェ!!」
「ケケケ……おもれ。なんなら閉じてやってもいいぜェ? カリーナがよ」
「ウチまで巻き込まにゃいでほしいにゃ!?」
こちらは3人。向こうは2人と、無限の肉盾。
かなり厳しい戦いを強いられるが、ここは何とかして隙を作って───
「──────魔剣、奥義」
……いや。
俺にも頼れる友がいた。
「『
カトル。
謁見の間からバーストダッシュで飛び出してきた俺の幼馴染が、得意の広範囲攻撃で迫っていた獣人たちを思いっきり吹き飛ばしてくれた。
さらに炎を伴って放たれた衝撃波は、俺らとフォルクルスを除いた周囲に炎の壁を生み、正気を失った獣人たちがうかつに飛び込めないように結界を生み出してくれた。
「カトル!! 助かる!! 向こうは!?」
「俺だけ先に飛んできた!! 謁見の間で襲われるのは分かってたからみんなで防衛戦してる時にとんでもねぇ音がしたからな……!! 向こうも殺さず制圧出来たらこっち合流してくれるだろ、こんだけ目立つ目印付けてりゃよ!!」
俺らの横に着地するカトルに声をかけて、状況を確認する。
向こうも襲撃は読んでいたようで場内で獣人たち相手に防衛戦をしているらしいが……気を失わせるならヒルデガルドさんの咆哮もある。時間はかからないだろう。
援軍がすぐに来る。それまで俺らもまた時間稼ぎをするだけだ。
フォルクルスはここで殺す。
「やるねェ」
「爪ッ……エクスアームズ12『ガードビット』!!」
「フシャアアアアッ!!」
「むんッ!」
しかしフォルクルスも流石に六大将軍と名乗るだけはある。
戦いに慣れている。味方が合流したこの瞬間に俺らに生まれる安堵という名の隙をついて、何でもない言葉を零しつつもその剛腕による爪撃の衝撃波を俺に向けて繰り出してきた。
同時にカリーナも手から生み出す魔力弾でフォルクルスの援護射撃を行う。
だがこちらのメンバーも猛者の集い。
イレヴンがフォルクルスの突撃を止めるために防御に秀でたスキルを使って俺を守った。
新しく開放したスキル『ガードビット』。
イレヴンの周囲に4つの遠隔操作可能な飛行機能付きのメカメカしい盾が生まれて、それが合体変形しつつどこにでも展開できる盾になるという便利な機能だ。
それが俺の目の前に展開され、フォルクルスの放った衝撃波を見事に抑え込む。
続いて飛んできた魔力弾はルドルフさんが見えない糸をテクニカルに使ったようで、糸に沿うような軌道に逸らされて俺らに当たる前に広がるように飛んでいき、直撃を防いだ。
(……勝てます。先ほど掴まれて投げられた時の巨力は恐ろしい物がありましたが、及ばないほどの高みではない。油断さえしなければ押し切れる……!)
(レベル上げした甲斐があるってもんだぜ。よし……息合わせるぞイレヴン!!)
カトルが獣人を露払いしてくれて、ルドルフさんも適宜多彩な援護をしてくれる。
この4対2の状況なら……いや、さらに俺らの方には後から援軍が来てくれる見込みだ。
ここで逃がしたくない。前のヴィネアの時のような転移魔法での脱出をされる前に息の根を止めたい。
強力な一撃で一気に殺し切りたいところだ。若しくはそれほどの威力の攻撃を捌き斬りで返してやりたい。
「……ケケケ。勝てそうってツラしてるじゃあねェか。流石の英雄様だなァ」
「イレヴン、カトル! 俺が今から激うまギャグでフォルクルスを笑わせるからその隙をつけ!」
「会話に乗って隙を作った方が絶対よくないですか?」
「余裕ねえぞこっちはあんまり」
「聞けよ人の話をよォ! ホントに気が合うなてめェは。どうだ? 魔王軍に寝返らねェか? テメーほど愉快で実力もありゃあ重宝されるだろうぜ。一緒に魔族領に一度戻らねェか?」
「舐めんなバーカ!! お前とかバアルみてーなむっさい男共がいる所に俺が行くかよ!!」
「ヴィネアとかこのカリーナみてぇのもいるぜ? 六大将軍の残る二人はぼいんぼいんの超美人」
「…………そんなことで俺の意思が揺らぐかよ!!」
「返答に間があったにゃ」
「まずいですぞ」
「俺が女あてがってやってもいいぜェ? 英雄ってのは女抱いてナンボだろ。好みの悪魔っ娘いっぱい廻してやるぜ?」
「うるせー!! 既に俺のまわりにはえっちな美女がいっぱいいるんじゃい!! ハーレムとは己自身の手で作るモノ!! 魔族を潰して支配して最終的に全員俺が寝取ってやるわ!!」
「マジかよお前男だな」
しかしフォルクルスも口で動揺させてくる。
魔族に俺が寝返ればハーレムか……いやちょっと揺れる所はあるが!! ヴィネアのおっぱいは今でもたまにオカズにするが!!
だが別に魔族に寝返らなくても魔族を滅ぼして俺が美女は引き取ればいいのだろう? 力でわからせしてちんちんでもわからせすればロック様抱いて! ってなるはずだ。
それで行こう。俺は魔族を滅ぼして魔族の女をゲットする!!
このメンタルを常に心に抱いていれば甘言に惑わされることはない!! ヨシ!!
「ケケケ……いやァやっぱお前と話してると面白いぜェロック。話に花が咲くしよォ。オイラと相性いいぜお前」
「頼むから今からでもえっちな女になって出直してきてくれ」
「まァそういうなよ……ありがとよォ、くっだらねェ会話に付き合ってくれてよ」
「……!?」
とか思ってたら急にフォルクルスの雰囲気が変わる。
攻撃……ではない。
それは確信。
この勝負に負けることはないという勝利の確信を得たかのような余裕を浮かべて。
「……王宮に素直にお前らが来た時点でオイラの負けはなかったんだよなァ」
「──────な、」
次の瞬間。
この国を覆っていた守護結界が
普段は無色透明でドーム状に国を覆っているはずの守護結界が、暗く闇の色に染まり。
国全体に、闇の魔素が溢れ出した。