勘のいいガキはデカパイハーレムの夢をあきらめない! 作:そとみち
国全体に闇の魔素が満ちる。
それは同時に、魔族が力を振るいやすい環境になったことを意味する。
「ゲヒャヒャヒャ!! これを狙ってたんだよなァ!! いい仕事してくれたぜェグランガッチのヤツらはよォ!!」
フォルクルスはすっかりテンションが上がって天高く叫ぶが……その身に宿る魔力が凄まじい勢いで高まっていくのを俺たち全員が感じていた。
隣にいるカリーナも同様だ。
いや、操られているグランガッチの人たちも洗脳下ではその恩恵を受けるのか、明らかに暴徒の勢いが強まっている。
これを狙っていたのか。守護防壁を闇の属性に塗り替えることで自分たちと国民全体を闇に落として強化して、そのまま俺たちを殺して王都に攻め込む……そんなプランニングを。
「まずいぞこれ!? 守護結界を何とかしないと……!!」
「どうやら言っている暇はなさそうですな。炎の壁を超えてくるほどの勢いで群衆もなだれ込んできておりますぞ」
「くそッ……エクスアームズ07『カーニバルミサイル』、08『ヴォルトスパイダーネット』ッ!!」
「こんっちくしょう……俺を『護れ』!! もう言う事聞くだろ護りの指輪!!」
余りにも形勢が逆転した。
先程まででも、フォルクルスの力は俺たちでも容易に御せるそれではなかった。イレヴンが地下室から天井ブチ抜いてぶん投げられた通り、俺がこれまでに見たことのない腕力を振るっていた。
それがこの闇の魔素の充填によりさらに強化され、カリーナも群衆もパワーアップしちまった。
俺ら自身に魔素の影響は薄いが、ジリ貧どころではない……一瞬でも気を抜けば全滅する。
謁見の間にいるはずのノインさんたちも心配だが、しかし今は身を守るしかない。
俺の叫びに護りの指輪が応えて、俺の体を守るように円形のバリアーが展開される。これがあればいけるだろう。
「花火にしちゃあちっと華が足りねぇなァ!! 網も選択肢としちゃ悪くねェが……オイラには通じないぜェ!?」
「ホイっと!! にゃふふふふ!! ウチのスピードに当てられると思ってるのかにゃ!!」
「くっ……!!」
イレヴンが放ったミサイルも、新技である掌から射出して網上に大きく広がったうえで雷を纏わせたネットでの捕縛も、あっさりとフォルクルスたちは回避してしまう。
一斉に炎の壁を超えて襲い掛かって来た群衆たちに網は絡まり電撃で気絶させるが、しかし最もヤバイ二人の動きを止められていない。
「このッ……ロックに比べりゃまだ見えるぜ動きがッ!! はぁァァァッ!!」
「っほォ! いいねぇ元気だねェ魔剣の使い手!! やべェ魔剣を使ってやがんなァ!!」
「ッ……止めやがっ、ぐぁぁっ!?」
カトルが果敢にもフォルクルスに切りかかるが、しかしイルゼの刃を片手で受け止める。
斬れてすらいない。燃える刀身を何ともないかのように受け止め、そのまま振り払うように吹き飛ばした。
「しッ……!!」
「ふみゃ!? 糸……魔装具か!? こんなの爪で斬れるにゃ!! ジジィは無理せず隠居してにゃァ地獄でにゃあ!!」
「ほっほ……うむ、これはいけませんな。ジリ貧というやつでございます」
ルドルフさんもスタイリッシュに糸を操作して飛びかかってくるカリーナを束縛して糸で切り刻まんと展開するが、より鋭くなったカリーナの爪によって糸が切断されてしまう。
その直後に放ってきた魔力砲は辛くも回避したが、速度差で間合いを詰められている。
ルドルフさんがヤバい。あの糸は中距離戦で輝く武器。密着されたら獣の動きには敵わないはず。
「ドリルスティンガーキャノンッ!!」
「っとォ、甘いぜ人形」
「くッ……!?」
「イレヴンッ……!? ルドルフさん!! 『護れ』!!」
「ほほ」
「死んだにゃジジィッ!!」
カリーナの襲撃を止めるためにイレヴンがドリルスティンガーキャノンを放つ……が、なんとフォルクルスがそれを止めた。
一瞬でイレヴンとの距離をゼロにして、回転して放たれる直前の腕を掴んだのだ。
なんて速さ。なんて力。
そのままイレヴンとの近接戦闘に移るが……しかしルドルフさんが危機だ。
カリーナに間合いを詰められた。カトルは吹き飛ばされてて援護には時間が足りない。向こうも吹き飛ばされた先で群衆に襲い掛かられている。
俺は咄嗟にルドルフさんにバリアーを張るために叫んで、彼の体の周囲に魔法防壁を展開するが……何とそれをカリーナが爪の一撃で切り裂いてしまった。
そんなバカな。
ヴィネアの全力の魔力砲すら受け止めた俺のバリアーを切り裂くカリーナの一撃。
幹部間で力の差がある……とは考えづらい。闇の魔素による強化がそれほど生まれているのか、それともあの爪自体に防壁破壊の効果でもあったのか。
とにかくルドルフさんを守るものが無くなってしまって。
ヤバい。糸の防御は間に合わない。死ぬ。
守れ! 今からでも飛び込んで捌き斬りを……!!
「ッシャアアアアア!!」
だがカリーナの爪が速かった。
俺が跳び込もうとした寸前、バリアを破った爪攻撃から連続して放ったもう片手の爪がルドルフさんの首を真横から
それを。
「シッ!」
「んにゃあーッ!?」
「おわぁッ!?」
ルドルフさんが華麗なヘッドスリップで見事に回避した。
えっ。超カッコよ!!!
「フッ、フッ!! シィッ!!」
「な、にゃっ!? んぐギがはゴフにゃァッ!?」
そのまま両拳を顎の高さまで持ち上げて独特の構えを取るルドルフさん。
大振りの一撃をスカした反動で体勢を崩していたカリーナに、トトンっと軽快なステップから拳の乱打を放つ。
全ての指に指輪をはめた状態の拳で、腹腹顎顔面腹腹顔面顎顔面。
コンビネーションラッシュを叩き込み、存分に脳を揺らしてカリーナがその場に膝をつく。
あれは……まさか。
異世界転生チートさんの作品の中でしか読んだことがない独自の格闘術『ボクシング』か!?
「素早さと力を増して勝ったと勘違いし、特大の隙を晒す。ふむ、どうやら知能は魔獣と大差ないようですな」
「──────」
「そして脳を揺らせば昏倒する。猫は鎖骨が人間よりも細く頸椎が揺れやすい……そのため顎がウイークポイント。体力は減らし切れずとも無力化する方法はいくらでもございますな」
「……オイオイ。一応ウチのナンバー2なんだけどよォそいつ。なんだァ? とんでもねぇじーさんが仲間にいやがるじゃねーか」
唐突なボクシングムーブでカリーナを無力化することに成功したルドルフさん。
強っよ。思わず俺もフォルクルスも真顔で見ちまったよね。
イレヴンは攻撃を凌いだ隙に一度距離を取ったようだ。それでいい。お前も死なないように気を付けてくれ。
俺の方をフォルクルスが狙ってくれりゃあ捌き斬りが試せる。向こうもそれを判ってるようで俺を狙って来てないが。
「ルドルフさん……どこでそんな技覚えたのよ」
「ほほ。私もかつて冒険者稼業をしておりましてな。トゥレス殿とミル殿の世話を随分と焼いたものです」
「シスターが言ってた『お節介なおじ様』ってアンタかいっ!?」
「昔話です。今はこの場を150年前の昔話のようにならぬよう克己する時ですぞロック様。迂闊な突撃で虚を突けたカリーナと違い、フォルクルスは流石に隙がありません。私でも攻めあぐねます」
ルドルフさんから新情報が零れてしまった。
トゥレスおじさんやシスターと一緒に冒険してたおじ様だったのかよ!! 世間狭いなオイ!!
でも確かに年数は合うな……シスターたちが冒険者をやめたっていうのが17年くらい前の話。
そこからこの人は王族の執事になったって事か。この何でもできそうな感じは確かにスカウトされるわな。
「ヘヘ……お褒め頂き光栄だねェ。まぁカリーナ護りながらでも余裕で勝てるよなこの状況からでもよ。どんなに攻撃受けたって痛くもかゆくもねェからなァ!!」
「このっ……インパルスニードルッ!!」
「オラァッ!!!」
「イレヴン!!」
「ぐ……!! 反応が速い!! 今の私でも追いつけないとは……くそっ!!」
「魔剣奥義!! 剛魔炎斬……」
「ガアアアアアアッッ!!!」
「ぐはっ!? くそ、コイツも咆哮が武器かよ……!?」
しかし、状況はまだ好転しきってはいない。
俺は相変らず狙われていないが、イレヴンが果敢に距離を詰めて防御無視のインパルスニードルを突き刺すも、まったく効いていないと言わんばかりに反撃の廻し蹴りで彼女を吹き飛ばす。
その瞬間に群衆の群れを突破してきたカトルが飛び込みながらの剛魔炎斬破を叩き込もうとするが、それに咆哮を放って物理的に吹き飛ばすことで対処された。
判断が冷静だ。力の差も速度の差も大きい。
そして今、イレヴンがインパルスニードルで貫いた腹部の大穴も……見る見るうちに再生していくのが見えた。
マジかよ。自動再生までしやがるのか。
この闇の魔素に包まれているからなのか……やっぱ根本的にこの魔素をどうにかしねぇとここでフォルクルスを殺せない予感がする。
「…………っ。マジか」
「お、その方向見たな? すげェなお前、守護結界を生み出してる装置の位置が分かんのかよこっから」
なので俺が勘をフルに廻して守護結界の大元……それを生み出している魔導器の位置を察知する。
基本的にどの国も、守護結界のある魔導器の位置は極秘の情報となっている。
当然の話だ。もし場所が知れ渡っていればよからぬことを考える輩が何するか分かったもんじゃない。国を守る文字通りの要石なのだから。
だからこそこの国にある守護結界発生装置の位置も知るはずはないのだが、俺の勘ならその位置を察せる。
位置を察して、そして重ねて察してしまった。
「場所が分かってもどうにもならねェよなぁ……王宮から遠く離れた位置にこの国の結界作る装置は置いてある。だからこそテメェらがホイホイ王宮に来るまで待ってたんだよ。これなら一網打尽に出来るもんなァ。うぜェ埃はまとめて掃除するに限るんだ」
「────フォル、クルス……!! てめぇってやつはどこまで汚ぇんだ!!」
「おいおいどうしたよ、随分と殊勝な事言うじゃねぇか! もっと楽になれよロック……良いんだぜ? ここで殺したって何にもならねぇが、オイラ達についてくりゃお前の命はオイラが保証してやるよ。楽しむつもりはねェのか? 勝ち馬に乗れる頭はあるだろお前ェさん?」
「…………」
「いやよ、結構マジな話……オイラお前さんの事気に入ったんだよ。あるじゃん? こう、話してすぐに『あ、コイツ気が合うな』って感じることがよォ。王宮でオイラたちを探しに来た度胸もいいし、ノリも合うしよ。死んじまったら何にもなんねぇだろ? どうだ? これが最後の誘いだ。 オイラたちについて来ねぇか?」
ああ。
成程、これはもう俺の答えは決まったようなもんだ。
勘で察したから。守護結界を操る魔道具の位置を察して、遠すぎることが分かったから。
位置を察して、今から行くには届かないことを察して。
「───よし分かった!! お前の話に乗ろう!! これからはマブダチだぜフォルクルス!! 早速カリーナを俺に寄越してもらおうか!! どこまでエッチOK!?」
「っ……マスター!? 何を言っているのですか!?」
「ハハハハ!! ああやっぱお前最高だぜロック!! じゃあ歓迎の握手と行こうか……おっと。そっちの人形もオイラたちについてくるかい? 魔王様にいい土産になるってもんだぜ」
「黙れ!! マスター、目を覚ましてください!! あの日私に誓ってくれたではありませんか!!」
「うるへー!! 俺はエッチなことして毎日を過ごすんじゃい!! イレヴンがカリーナよりもエッチだったらなー!! 寝返るのやめるんだけどなー!! 今からでも脱いでくれねーかなー!?」
「じゃあ脱げばいいんでしょう脱げば!! そんなケモノよりも私の体の方が美しいに決まってるでしょう脱ぎますよ今ここで!!」
「アハハハハ!! なんだお前ら、バカとバカなのか!? オイいいのかよこんなところでストリップしてよォ!? やっぱこういうノリがいいんだよなァ!! 魔王軍はいっつも辛気臭くてよォ!!」
俺が寝返り宣言をして、イレヴンが驚いた声で抗議をしてくる
テレパシーで俺の本意は既に伝えてある。だからこそお互いにバレないように全力で煽りあう。
本気の声色で裏切り宣言を覆してほしけりゃ脱げ!! ってお願いしたら上着に手をかけ始めるイレヴン。そのままマジで脱いでも俺は喜ぶぞ!!
んでそんな俺たちがツボに入ったのかフォルクルスがゲラゲラと笑いながら喜んでいる。
いいぞ。
「ヘッヘ……どうすんだお前ら、ストリップもいいけどよォ。来るなら早く決めろよな? あんまゆっくりもしてらんねェだろ」
「ロックお前……っ、馬鹿野郎!! 見損なったぞテメェ!! お前なんかもう知らねぇわバーカ!! 魔族側に行っちまえとっとと!! 味方にいるほうが害になるわ邪魔だわお前!!」
「姫様には魔族の女の色香にやられて裏切りましたと伝えておきましょう」
「もうちょっと引き留めてくれてもいいんじゃねぇかな二人とも!! まぁもう裏切る気満々だけどね!!」
「マスター……!! こんなに私が肌を晒しているのに魔族の女如きに心奪われてしまうのですか……!?」
「いやもうちょっと露出しろよ胸元ちらってするくらいじゃもう動じねぇよ俺も!? 俺の相棒なら最後までちゃんとしっかり脱げよ!?」
「ハハハハ!! ─────で、もういいか?」
「
カトルもルドルフさんも、俺という男をよく理解しているからこそこの茶番に付き合い始めた。
いや演技だよな。演技だって信じたい。ルドルフさんだけガチの雰囲気出てんだよなマジで。
まぁ俺が俺の女(欺瞞)ほっといて裏切るはずもないわけで。
ここまでのクッソどうでもいい会話はただの時間稼ぎだ。
話している最中に攻撃してこなかったフォルクルス。油断しやがったな。意趣返しだこんにゃろ。
俺の勘は
遠方にある、誰もその位置を知らない守護結界発生装置。
「──────な、にィッ!? これは予想外が過ぎるだろォッ!?」
「ざまみろ」
闇に染まった守護結界。
それが唐突に再び清浄なる光へと色を変え、闇の魔素を払い落とした。