勘のいいガキはデカパイハーレムの夢をあきらめない! 作:そとみち
【一分前】
【side ノイン】
謁見の間で、シナリオイベント通りの襲撃が発生した。
「グルァァァァッ!!」
「正気を失っているな!! 大変心苦しいが気を静められよ国王殿ッ!!!」
「ごめんな
「リン、先日教えたドラゴンシャウトを使え!! 殺さぬ程度に気を失わせるのだ!!」
「わかったヒルデ!! ───ッガアアアアアアアアアッッ!!!」
「サザンカ殿、この数と素直に打ち合えば漏れが生じよう!! 一撃のもとに峰打ちして動ける相手を止めていくぞ!!」
「承知!! 即刻この場を治めて主殿の加勢に向かわねば!!」
大広間からどこにそんな隠れていたんだってくらいの洗脳された獣人たちが襲い掛かってくる。
それにすぐに相対するパーティメンバー。そう簡単にやられることはないだろう。
この後は守護結界が洗脳された獣人の手に堕ちて、闇の瘴気に包まれることになるが……しかしその前に私の知らないイベントが発生した。
「なっ!? 何の音だ!?」
「崩壊音……!? 中庭の方の地面が崩れてる!!」
「ロックか!? くっそ、悪い! 俺あっち援護行きますッ!!」
中庭の地面が崩落して、崩れた地面からイレヴンが飛び出してきたのだ。
謁見の間にある大きな吹き抜けから遠目にその様子が見えた。
距離はあるが、カトルくんがバーストダッシュで獣人の群れを飛び越えてロックくんたちの加勢に向かう。
……え、向かえるんだ!?
この謁見の間を制圧しきる前にこの部屋飛び出して行けるんだ……?
「ノルン!! 呆けている場合ではないぞ!!」
「そだぞー!! バリアーとか回復とかやる事いっぱいあっかんなー!? アレだろつえーんだろノルっちー!! いい感じに気絶させられんかー!?」
アンドレ兄様、アンナ姉様の声で気を取り直す。
思わずびっくりしてしまった。
このイベントは魔族に操られた獣人たちが謁見の前に襲撃して来て、襲撃の間を乗り越えてから今度は王宮内通路、王宮の門の前、街中、とそれぞれの個所で迫ってくる獣人を倒して脱出するというイベントだったから。
一つ一つの個所でしっかり制圧してからじゃないとエリアを移動できないと思っていた。
実際にゲームでは不可視の壁が生まれて、クエストをクリアしないとそこから脱出できなかった。
でも、今のこの世界は違う。
そもそも既にロックくんがシナリオを無視して魔族を探しに行っている。獣王国だから多分フォルクルスがいるのだろうけど……ゲームシナリオではどこに誰がいたのかは判明してなかったけど、先程の崩落音を聞くに、きっとロックくんはフォルクルスを見つけたのだろう。
囚われてはいけない。
私は今、みんなを助けるためならどんな手段も取れるのだ。
ならば。
「ごめんなさい兄様、姉様! 私ちょっと大元を止めに行ってきます!! この後闇の魔素が広がってしまいますがすぐ止めるので何とか凌いで!!」
「なに!? ノルン、どこへ行こうというのだ!?」
先回りして魔族の企みを潰すこともできるはず。
この襲撃イベントの難易度を上げている理由が守護結界の陥落による闇の魔素の放出だ。それで強化された獣人たちが厄介極まりない事になる。
イベントでは守護結界を生んでいる装置には移動できず、退却戦となってしまうが……しかし今は違う。
私は自由に動ける。
私はこの街の守護結界発生装置がどこにあるかを知っている。
再起動の方法も知っている。
ならやるしかない!!
みんなを守るためにイベントの枠を超えろ!!
「うにゃー!? ノルっち空へー!? だいじょびかー無茶すんなよー!? ちゃんと帰って来いよー!?」
「大丈夫です、すぐ戻りますっ!!」
謁見の間での戦いをみんなに任せて、私は飛行魔法でカトルくんとは逆方向に飛び出して行く。
全力で加速し、翼を持つタイプの獣人を歯牙にもかけぬ速度で飛行しながら……目指すはこの国の北東部、グランガッチ山のふもとから続いて国を跨ぐように流れているヒンガス川の上流部。
この大河が国の水運をすべて担っており、グランガッチの人たちにとって命の川とも言えるそれだが……守護結界もこの川を使って展開されている。
上流から下流に向けて流れる流水のルートをたどり、国全体に魔法陣の式を生み、結界展開の方程式を組んでいるのだ。
王都とは違う、自然に由来した守護結界の広げ方をしている。王都みたいに国の中央に装置を設置していない。
(場所は覚えてる!! プレイヤーだった時に山登りついでに一度見に行ったことがあるから!!)
空の色が闇色に染まる中、一目散にその場所へと飛んでいく。
記憶にあるとおり、川の上流付近の山麓に洞窟の入り口が存在して。
その中に突っ込んでいけば……進入禁止の防護結界が破られていて、中には数人の呪術師の衣装を着た獣人がいた。
ビンゴ。
「『ギガショックトリッパー』!!」
「「「ッ─────!!!」」」
雷魔法で最も高威力、広範囲の魔法を唱える。
雷撃の暴走に晒された獣人たちは声を上げる間もなく気を失った。殺してしまうのは今後の戦後処理で証言してもらうためにもよくないから。
そして守護結界の装置に取りつく。
既に闇の魔素が流れ出るように魔族式の細工が成されているが……大丈夫だ。これも見たことがある。
別のイベントで、同じように闇の魔素に出力されるように弄られた結界装置を修復するイベントがあったから。
あの時と同じだ。装置を外して再起動……その際に再起動する術者の魔力を根こそぎ吸われるけど、レベルカンストしてる私なら問題なく耐えられる。
(きっと向こうにはフォルクルスも出て来てる!! 闇のマナがずっと展開されたら全滅もあり得る……ロックくん、無事でいて!)
六大将軍が第三部の力を保持して出てきてしまったとすれば、勝率は余りにも少ない。
でも今はまだ世界中の魔素が薄い。魔族も力を取り戻し切れていないはず。
ここで闇の魔素を国中に充満させてしまったら国ごと滅んでいた可能性もあるけれど、今すぐ止めればこのパーティならフォルクルスは止められる。
止めなければならない。
(再起動───魔力を結界装置に充填。私の光の魔力を重ねて再々装填───)
10秒ほどで結界装置の再起動プロセスを終えて、後は私の魔力を注ぐだけ。
プレイヤーにのみ所有することが許される光の魔力をこれでもかと注ぎ込んでやる。
これで通常の守護結界よりも濃密な光属性の結界が展開されるはず。
洗脳されていた獣人たちも上手くいけば解除できるかもしれないし、六大将軍と言えどもその力を僅かでも削ぐことができるはずだ。
戻りの飛行魔法に使う分の魔力もここで使い果たす。戦いにすぐに復帰はできないけれど、魔力回復薬は所持している。
それを飲んで空を飛べるくらいまで魔力が回復したら合流すればいい。
きっとあとはロックくんがなんとかしてくれる。
だって彼は、私の騎士なんだから。
(後はお願い、ロックくん───!!)
装置から生み出される結界が神々しい光属性の色を放っていることを見届けて、私は安堵の息をついて……急激な魔力消費のフィードバッグで気を失った。
※ ※ ※
【side ロック】
守護結界が正常に戻ったことで一気に状況がひっくり返った。
「形勢が逆転しちまったなァフォルクルスさんよぉ!! やっぱさっきの話全部ナシだな勝ち馬に乗りてぇからなぁ俺もなぁ!!」
「意趣返しが過ぎるだろロックよォ。お前も会話で時間稼いでやがったか……クソ、とっとと殺しとけばよかったぜェマジで」
ノインさんがやってくれたことは勘で察している。
彼女が守護結界の異変に気付いて、なんかしらの手段でその場所も知って駆けつけてくれたんだ。
空を飛んでいったんだとは思うけど……いつどのタイミングで飛んでったのかは分からないし、結界装置の場所をどうやって察したのかも知らんけど。
とにかくやってくれたのは間違いない。流石だぜ。
この機を逃す手はねぇよなぁ!
「ちっ……」
「逃がさんッ!! 『ドリルスティンガーキャノン』ッ!!」
「くっはァ!? やる気出しやがってよォ人形が───ァアッ!?」
イレヴンがドリルスティンガーキャノンを放ちフォルクルスを穿ちにかかる。
先程までは意にも介さないといった風であったヤツが、今度は腕を振るって放たれているイレヴンの回転腕を打ち払わんとするが……しかしその動きがなぜかぴたりと止まった。
「ほほ……会話に夢中になるのは若さの証拠。隙だらけですな」
「糸か!? このッ……ガハッ!!」
「さらにもう一発ッ!!」
「ごはァッ!? ……ガァ!! うっぜェェェ!!!」
ルドルフさんの糸がフォルクルスを止めていたのだ。
一瞬だけ止まったフォルクルスの腕。しかしその一瞬で十分が過ぎた。
イレヴンの回転腕が分厚い胸部に突き刺さり、さらに続けて放っていたもう片腕も脇腹に突き刺さった。
貫通まではいかなかったのがフォルクルスのタフさを表しているが、しかし無視できないダメージを与えている。
「洗脳が解け切ってるわけじゃねぇみたいだけどよ……群衆の動きは止まった!! なら畳みかけるぜ!! 『剛魔炎斬破』ァッ!!」
「ぐッ……!!」
「カトル!!」
さらに周囲の洗脳されてたグランガッチの人たちの動きまで止まったようだ。
我を取り戻すまではいってないが……これは余りにもチャンスだ。
カトルが群衆に揉まれていたところから飛び出してきて、灼熱の一振りでフォルクルスの鬣を焦がした。
1対4。
完全に流れを取り戻した俺たちは、フォルクルスに何もさせまいとそれぞれ囲むように距離を取る。
「ってめェらァ!! それが英雄のすることかよォ!? 寄ってたかって弱い者イジメしてよォ!! 性格悪いぜクソ人類がァ!!」
「黙れ魔族!! 貴様らが人類の敵である限り聞く耳持たんッ!! 『ファントムレーザー』ッ!!」
「ちっ、目くらましか!? こんなの効かねェんだよオイラにはよォ!!」
フォルクルスが劣勢を愚痴り叫ぶが俺たちにかける手心はない。
グランガッチ全国民を洗脳して王都に差し向けて無限に無辜の民を殺そうと画策していた時点で許す謂れもなく。
再びイレヴンがフォルクルスに攻撃を放つ。
が、ドリルスティンガーキャノンほど威力の無いレーザーでは僅かな隙を生むことしかできなかった……が、その隙を生むのが大切なのだ。
これまでのダメージでもまだ動けるほどの圧倒的なタフさを見せつけ、フォルクルスがイレヴンに飛びかかろうとするが、そこに聞こえる二つの声。
「────秘剣────」
「────奥義、最大出力────」
ああ、そうだ。
群衆の暴動が止まれば、頼もしい味方が駆けつけてくれる。
「────『
「────『ベルンハルト・ドラッヘ』ッッ!!」
「ゴッハァ────!?!?」
零の間を以て断ち切るサザンカさんの奥義と、一文字にぶっ放されるヴァリスタさんの奥義がそれぞれフォルクルスに見舞われた。
謁見の間を凌ぎきって増援に来てくれたのだ。余りにも頼れる奴らが。
これは勝った。最高出力の二人が放ったそれぞれの奥義は、フォルクルスの胴に深い刀傷を生み、肩口を貫通してごぽりと紫の血を滴らせた。
「師匠ッ!」
「サザンカさんも! 向こうは!?」
「ご安心なされよ主殿。一人も殺られず、一人も殺らず……アンナ殿とアンドレ殿が此の国の王族らを介抱されておられる。ヒルデガルド殿もその護衛にあたっている」
「え、じゃあ……リンは?」
「彼女ならば──」
一撃を叩き込んだ二人も俺らを庇うように前に出て構えてくれる。
どんどん味方の層が厚くなる。サザンカさんが謁見の間の方の状態も教えてくれて、そちらも王族二人は無事でヒルデガルドさんがついてくれているということで……心配いらないだろう。ノインさんは結界装置の方だしな。
そして先程、謁見の間のメンバーに含まれていなかったリンは。
「──すぅッ……ッガアアアァァァァーーーーーーッッ!!!」
「ごォォ……ガハァ!? 何だと、このオイラがァ……!?」
「っはぁー!! われらドラゴニュートは、きわまればまぞくのよろいなどこのはのごとくつらぬきうがつ!! ってヒルデがいってた!!!」
「リン……!! 逞しくなりやがって!!」
「すげーぞリンちゃん!! 魔装具なしで魔族と
竜翼を羽搏かせ、高高度からの
ダメージが大きくて回避しきれなかったフォルクルスは、そのブレスで更に全身の体毛が焼けただれる。攻撃が通っているのだ。
リンに魔装具を装備させた覚えはない……が、どうやら竜人の特性でレベルが上がれば魔族の魔力障壁を貫通するらしい。初耳だけど!!
まぁいいや!! これでいつでも空中から援護してくれるし安全圏にいるし!! ナイスすぎるぜリン!
状況は極まった。
こちらはそれぞれが健在で、余力も十分に残していて。
フォルクルスは既に満身創痍で、カリーナも気絶させており援護には及ばず。
勝てる。押し切って六大将軍を殺し切れる。
そう、油断さえしなければ。
「クソが……クソ共がァァ!! もうこうなりゃテメェら全員道連れだァァァアァ!!!」
しかしそこでフォルクルスが鬼気迫る表情で雄たけびを上げて。
───────。
「ムッ!! 凄まじい魔力の奔流……力を溜めているかこの
「自暴自棄となったか!! この熱量……自爆か!? おのれ……『隼断』ッ!!」
「ギィィ……ゴアアアアアアアッッッ!!! ガァアアアアアアア!!!」
「効いてる!! けど死んでねぇ!!」
「注意を!! 明らかに錯乱しています!! 全てを巻き込む範囲の魔力爆発を狙っている……!?」
「むむ!! なんかやばい!!」
サザンカさんの隼断の2発目。
今度こそ胴を両断するほどの一撃で、しかし……それでも死んでいない。
分かたれた上半身と下半身、それが地に落ちる前に腕で無理矢理押し付けて、そうして同時に高めた魔力が大爆発を起こさんと光りはじめた
「ほいっと」
「ッ───────!?!?」
その攻撃を手刀での捌き斬りで体内に全部返してやった。
油断はしてない。俺の勘は既にこいつが何を考えているかも捉えている。
こいつ……
「お前絶対キレないタイプだろ。俺に似てるって言うくらいだしよ……話す中でお前の性格もちっとは分かってたさ。自爆に備えた俺たちの隙をついて逃げるつもりだったな?」
「…………そうだよ。ちぇっ、手前ェマジでオイラの事よォくわかってんじゃねェか。ダチになれたなやっぱ」
「悪いけど男はノーサンキューなんで」
「はッ、言うと思ったぜ。……命亡き者にオイラがやられるかァ。時代は変わったな」
体内の全ての魔力を籠めた自爆で全方位を巻き込む……と見せかけて閃光魔法か何かで俺らの目をくらまして、魔力を転移魔法に振り替えて脱出。
そう考えていたのだろう。だがその手はヴィネア戦で既に一度引っかかっている。
あん時にやらかしたのをもう一回やらかしてたまるかよ。護りの指輪の出番はねぇわ。
もう逃がさない。殺せる時に殺す。
「エクスアームズ11『エクスキューショニング』、強化対象『カーニバルミサイル』───」
「魔剣・絶技───」
「秘剣───」
「奥義、最大出力───」
「すゥッ───」
終わりだ。
両断された体を保ち、しかし最後の一撃のチャンスを潰されたフォルクルスに対し、頼れる仲間がそれぞれの最強奥義を構える。
イレヴンは新規開放したスキル、既存のスキルの威力を絶大なものに跳ね上げる『エクスキューショニング』を併用した全身からの一斉発射を構えて。
他の皆もそれぞれ武器に渾身の魔力を籠めて。
「……負けたぜ、ロック=イーリーアウス。あばよ」
全員の必殺技が放たれて、フォルクルスを塵へと変えて。
その塵すらも晴れた後……俺らのギルドカードに討伐記録『フォルクルス』が刻まれたのだった。