勘のいいガキはデカパイハーレムの夢をあきらめない! 作:そとみち
デカパイに囲まれた温泉でなんか色んな種類の汗を流してスッキリした後。
温泉卵なんか作って昼飯を食べて、午後も各々息抜きで過ごして俺も落ち着いてもう一回風呂に入って山小屋で軽く昼寝なんかして。
夜もサザンカさんの料理を味わっていただき、暗くなってきてからはみんなで山小屋に入って明日の準備を各々進めて。
そんな落ち着いた時間を過ごしてそろそろ明日に備えて寝る時間が近づいてきて、寝る前に見張りしてくれてるイレヴンの様子見にいくか……って思ったところでジャストタイミングで俺の相棒からテレパシーが飛んできた。
(マスター)
(うぉう!? 急にどした? 敵か?)
(ああ、驚かせてすみません。特に敵影などはないのですが……その、少しお話しませんか?)
(ん。ええよ。ちょうど俺も行こうとしてたところだし、一人で見張りは暇だろしな。今外に出るよ)
聞けばむこうも暇なんで俺と話したかったらしい。
テレパシーでこのまま会話しててもいいんだけど味気ないしな。やっはり直にあって話すのが一番よ。デカパイ見ながらの会話は健康にいい。
温泉が温かいから夜でも外はそこまで冷えてないし、少し夜風に当たりながら話してきますか。
そう決めた俺は腰を上げて山小屋の入り口に向かう。ミャウはもう寝袋の中で寝てるので置いていこう。
道中、刀の手入れをしているサザンカさんが外に出ようとする俺に声をかけてくる。
「ん。主殿……なにか?」
「いや特に何かってんでもない。夜風に当たりつつイレヴンとちょっと話してくるよ。見張りしてくれてるから……労わってくる」
「左様でござるか。主殿も夜風でお体を冷やさぬよう」
「うん」
心配いらないと伝えて、改めて外に出る。
そこは満天の星空。見上げれば今日は月も3つともよく見えて。
湯気に月光が反射してかなり幻想的な雰囲気だわ。硫黄の香りに混ざる夜風の冷たい匂いがなんとも旅してんなぁって気持ちになる。
こういうの結構好きなんだよね。冒険者は旅が好きじゃないとやってられん。
「……よっす。お疲れさん」
「マスター。……すみません、呼び出してしまって」
「いいよ。いつも見張り助かってるしな……暇つぶししたいなら寝るまでテレパシーしててもええんぞ?」
「マスターの睡眠時間まで潰すつもりはありませんよ。ただちょっとだけ話したくなっただけです」
イレヴンが座っている大きな自然石の、すぐ隣に俺も座る。
二人して肩を並べて星空と夜景に白く浮かぶ湯気を眺めて……このままでも雰囲気があって実に穏やかな夜を過ごせていると感じるが。
でもまぁイレヴンが俺を呼んだのは暇をつぶしたいからだろうしな。
暇つぶしの話題を提供してやらないとな。
「じゃあ議題は俺の知人女性デカパイランキングを発表していく感じで」
「もうちょっとこの静かな雰囲気味わえよカスがよ」
「ごめん」
しかし小粋なトークを繰り出したらコイツマジで……って顔された。
おかしい……異世界転生チートさんの小説だとエッチな話をし始めたら「やだー○○くんのえっちー!」って感じから「でも○○くんなら……」みたいな感じで話が広がるはずなのに。
事実は小説よりも奇なりってやつか。現実はいつだって俺に厳しいぜ。
「はぁ……どこまで行ってもマスターらしいといいますか」
「よくわかってんじゃん」
「付き合いも長くなってきましたからね。私を見つけてもらってから…………色々、ありましたね」
「せやね。出会った瞬間は可愛かったんだけどなぁ……」
「それは私が口を開かなければという評価ですか? よりにもよってマスターがそれを言いますか??」
「冗談だって。お前はいつでもエロ可愛いよ」
「接頭語外してもらえませんか?」
「ははは」
会話の内容はお互いにトゲを刺すような内容だが、お互いの顔に浮かぶ表情は微笑みで。
周りに誰もいないからかな。お互いに何を言ってもコイツだしな、と心底での許容が出来てるっていうか。
俺とイレヴンだもん。いつも俺らはこんな感じだよ。
お互いにくすりと笑って、改めて俺たちは振り返る。
俺たちのこれまでの旅路。共に歩んだ時間を。
「……王都近くのダンジョンでマスターに出会って、すぐにノックスも来て……私のドリルブラスターで脱出したんですよね」
「懐っつ。あん時はすげーや! ってなったけど……本気のドリルブラスター一発でガス欠してたしホントにポンコツだったなイレヴン」
「マスター契約が仮登録のままでしたからね。……今だから言いますと、あの頃はまだマスターを本当の主として認めるつもりは欠片もなくて。仮マスター登録だとレベルキャップがありましたので、本当に機能が解放されていない状態だったんですよね」
「マジかい。それはあれだよな? 命在る者やら命無き者やら……なんかバアルが言ってたアレなんだろ?」
「おや、気付いていましたか。ええ、おっしゃる通りで……150年前の冒険者飽和時代には、命在る者と呼ばれる英雄たちが数多く存在していたのです。それはアンドロイドには見分けがつくもので、基本的にアンドロイドは命在る者にしか仕えないのです。命無き者には……本当は私達を見つけられるはずがない。そのような場所に封印されているモノなのです。でも、マスターは私を見つけてくれた」
「150年前の魔王軍との戦いでいなくなっちまった……って事なんかな? その命在る者ってのが。俺にはよくわからんけどさ……でも確かに、誰か見つけててもおかしくないようなところにイレヴンいたもんな」
「ええ。なので最初はどこかに命在る者がいないかと……次の主をずっと求めていましたね。図書館でもその辺りを調べていたりして」
「物騒だなオイ。よかったー命在る者がいなくて!! NTRされたらショック死してる自信あるわな俺なぁ!」
「ふふ。そうですね……私も見つからなくてよかったと今は思っています。これほどに私の才能を開花させられるマスターは他には存在しなかったでしょうから」
「そうやろ? やっぱ俺と出会うのは運命だったんだって」
「そう言う事にしておきましょう」
「雑」
「ふふ。……ネレイスタウンの戦いで仮マスター登録のままでは力不足であると痛感した私は、改めてマスターと本登録を交わして……そこから、驚くほどの速さでレベルを上げることができました。本当に、命在る者だってこんなに早くレベルは上げられない。これはマスターにしかできなかった」
「その辺俺もよくわかってねぇんだよなー。凄い勢いでレベル上がってたよなイレヴン。アレ結局どういうこと? 俺欠片もレベル上がってねぇんだけど」
「私もはっきりわかってはいませんが、推理するならば……マスターは次のレベルまでの必要経験値が異常に高いのだと思います。それ故にレベルの高い相手と戦えばレベル差が大きいので取得できる経験値が大量増加して、でもマスターはレベルが上がらないままだから私のレベルだけが上がる。そしてさらにレベル差を無視できる技術をマスター自身が持っている」
「なるへそ?」
「そして私のレベルが高くなれば同時にそれは相手のためにもなる。私と戦ったケンタウリスのメンバーなどは私の高いレベルを経験値の参照にするわけですから、向こうも効率的にレベルが上がる。そんな現象が起きていたのだと思います。でなければ、この短期間でこれほどのレベル上昇はあり得ないと考えています」
「なーる…………よくわかんなかった。15文字にまとめると?」
「マスターが変態で本当によかった」
「ひっでぇ!!」
「……マスターは冒険者の、人間の枠を超えています。孤児院の子供たちよりも低いレベルのはずなのに、隠密スキルや開錠スキルは金級も舌を巻くほどの極みにあり、その上で性欲から生まれる魔力は無尽蔵、そして切り札の勘による捌き斬りまで……攻撃力も防御力も皆無なのに最強級と相対する時には頼りになり過ぎる。本当にピーキーですよね」
「うるへー! シーフなんだから仕方ないやろがい!」
「自分みたいなシーフを他に見たことあるんですか?」
「……ねぇわ」
「でしょう? おかしいんですよマスターは。サザンカが魔族に操られた時なんて……私が何としても守ろうと決意した途端に自分一人でやるなんて言い出して」
「いやだってサザンカさん助けなきゃならなかったしさ。お前の武器だと万が一殺しちゃってもアレだし、操られてるって分かってればサザンカさん無傷で助け出す自信があったし……」
「そういうところですよ。隼断なんて誰も返せない技でしょうに、それをあっさりと返してしまうんですから。デコピンで。変態ですよ変態」
「だーれが変態じゃい。イーリーアウスの勘は誰かを助けるために使うモンなんだからデカパイ美人を助けるためならなんだってやるわい俺は」
「またそう言って。…………ところでマスター」
「なんぞ」
これまでの振り返りをしつつ、俺の異常性をツッコまれつつ……それでも穏やかな雰囲気でお互い思い思いに言葉を交わす中で。
ふと、しかし俺が零した言葉にイレヴンが反応した。
「マスターの苗字にもなっているイーリーアウスですが。……親御さんの苗字ではありませんよね。同じ孤児出身のティオも苗字はなかった。この世界では、由緒正しき血筋でないと姓は名乗れない」
「鋭いね」
「マスターの頭おかしい能力は置いておくにしても……いくつか疑問が残るのです。マスターの年齢で、私と出会う前の半年間で銀級に昇格するほどには活躍されているとしても、あれほど大きな家を持つことは並大抵のことではありません。アイテムボックスも最上級で……つついてしまうと、ギルド長との縁もマスターには似合わぬものです」
「まぁなぁ。その通りだよなぁ……」
「……聞かせてくれませんか、マスター。私と出会う前……いえ、孤児院を卒院してから、貴方がどんな経験をされたのかを」
彼女が聞いてきたのは、俺の過去。
12歳になり孤児院を卒院してから、俺がどのような軌跡をたどり、冒険者になったのか。
それが気になったらしい。いやまぁ自分の主のガキの頃なんてそりゃ気にもなるか。家持ってるガキなんて早々いないし。
「……聞きたい?」
「ええ。それがマスターにとって辛いお話でないのなら……いえ、辛いお話であっても、私は貴方の事を知りたい。知って、共に抱えていきたいと想っています」
「そっか。じゃあ話すか……いやまぁ別に辛い話ってんでもないんだけどね」
真っすぐに俺の目を見てくるイレヴン。
そんなに綺麗な目で見られちまえば、俺だって別に隠しておく理由もない。
これまでだって特にいう機会がなかったから話してなかっただけだ。好き好んで話す内容ではないが……俺だってイレヴンには俺の事全部知ってほしいって想ってるし。
相棒だからな。隠し事は無しにしようか。
「あれは俺が孤児院を卒業してすぐの話だな──────」
満天の星空の元、俺は己の過去を語りだす。
『ロック』というガキが『ロック=イーリーアウス』という名の冒険者になった、その物語を。