勘のいいガキはデカパイハーレムの夢をあきらめない! 作:そとみち
頂上が近づくにつれて、周囲の景色の色が徐々に闇に染まりだした。
「闇の魔素が濃くなってきましたね……」
「何とも
「どうだリン……見覚えあるか? この辺」
「……うん。なんか、なつかしいにおいがする……」
「ブラックドラゴンがいるのはこの先のはずだ。一度降りるぞ」
この光景はグランガッチで見られた守護結界の暗転に似ている。あん時はフォルクルスが仕組んで闇の魔素を国中に満たしたが……あの時と同じくらいにこの場は闇の魔素が濃いって事か。
ノインさんが忠告してくれた通り、ここは魔族にとっては快適な環境なのだろう。
ホエール山脈が人類の生活圏と魔族領を分断する山脈だから、この頂上を超えて向こうに行くと魔族ばっかりが住んでる土地になるってわけだ。
目的地が近づいたことで俺たちは一度空から降りた。
岩壁が多数あるが、その中でも道のように平らになっている所に着地する。
「……今まで人が踏み入ったことがほぼない場所だからもっと切り立ってるかと思ったけど。割と歩けるな」
「確かに……まるで誰かが歩くことを考慮されたような道ですね」
「ここは昔からこうだ。雲より高いから雨は降らぬが、風による風化で自然と削れてなだらかになったのだろう」
ちゃんと歩ける道っぽくなってるのは助かるわ。足場が安定してないとみんなが大変だろうしね。
なお俺は足場がボッコボコだろうが壁だろうが天井だろうがゴキブリみたいに這って高速で動けるので戦闘では問題なし。回避特化マン。
「……あっちのいわやま、みたことある! こっち! こっちに、おっきなドラゴンがいたはず……!!」
「おっと……落ち着いて。逸る気持ちは分かり申すが一人で先行するのは危ういぞ、リン殿」
「むー! ……それもそうか!」
「もう逃げも隠れも出来ないところまで来ちまってるわけだしな俺ら。腹据えて行こうぜ」
「ここに来るまでは向こうから何もアプローチなどはありませんでしたが……万が一の戦闘も考えられますからね、気を付けていきましょう。ところでマスター、勘の方は?」
「とりあえず一筋縄ではいかないので全力で警戒よろしく」
「物騒だな……ブラックドラゴンなら先も話した通り、気性は温厚だ。娘を無事に育て送り届けたのだ、無礼を働くこともないとは思うが」
「俺もそれを願いたいすけどね」
気の逸りで走り出そうとするリンをサザンカさんがやんわり止めてくれて、俺たち5人はゆっくりと頂上に向けて歩き出す。
今の所誰も体調崩したりしてないし、酸素も確かに地上に比べれば薄い感じはするけど動くのに苦労するって程でもない。飛んで運んでくれたイレヴンもリンも体力的に問題はなさそうだし。
しかし俺の勘に響くのは嫌な予感だ。ヒルデガルドさんはブラックドラゴンは優しいよって言ってくれてるけど、それだってわからんからな。娘を奪われて半年近く経ってるんだから激おこしててもおかしくはないし。
あとは……やはり考えられるのは魔族の襲撃だろうか。
これだけの魔素だ、幹部級なんて襲ってきたら苦戦するかもしれない。
そん時はおつよいらしいブラックドラゴンさんに助けてもらいましょう。魔族と仲悪いらしいしね。
※ ※ ※
そうして歩くこと5分ほど。
俺たちは山道を登り終えて、大きく開けた山頂にたどり着いた。
「なんやこれ。噴火口……?」
「そのように見えますね。溜まっている物はマグマよりも恐ろしいものかもしれませんが」
頂上の景色を見てそんな感想を零す。
平らに切り取られたかのような台地があり、その中心部に深い穴が広がっていて。
穴の底では黒い霧のような……恐らくは闇の魔素なのだろう、それがゆらゆらと揺蕩っているように見えた。
これが闇の魔素の吹き溜まりなんかな。まぁ頂上にある穴だからそうなんだろう。
そしてそんな巨大な穴を眺めていたところ……急に、俺達が立つ地面に影がかかった。
雲ではない。雲よりも高い標高のここで影がかかるということは、それほどの大きさの何かが俺らの頭上に現れたということで。
「……うおおっ!?」
「これが黒龍……!! リン殿の親御殿か!? なんたる巨躯よ……!!」
「50mはゆうにありますね……敵意は感じられませんが」
その影を生んでいたとてつもない大きさの黒い竜は、ばさりと巨大な翼を羽搏かせて俺らから少し離れた所、噴火口の手前に着陸した。
ずん、と地面と空気が軽く震えるほどの質量を以て降りて来たその龍は、じっと俺らを見下ろすように
思わず怖気づいてしまうほどの迫力だ。まるで黒曜石のように鋭く輝く全身の鱗、長い牙、大きな翼。
ドラゴンと名のつく存在は勿論図鑑などで見たことはあるが、実物を見るのなんて当然初めての事で。ワイバーンなんかと比べ物にならないほどの迫力が、生命力がそこにはあった。
「……おとう、さん……?」
「そうだ、リン。あれがお前の生みの親……闇のマナを管理するブラックドラゴン。その名を────」
そんな黒竜を見上げて、リンが呟く己が父を呼ぶ言葉。
そして顔見知りと言っていたヒルデガルドさんが頷き、それに応じるように黒龍が口を開いて。
『────私の名前は『ノワール』。帰って来たのですね、我が子よ……』
心に響く様な声色が……いやちょっと待って?
「おとう、さん……!! おとうさん!! あいたかった……!!」
待って?
『人の言葉を覚えたのですね。綺麗な召し物も……心も、力も、本当に大きくなった……よく無事に戻ってきました、我が子よ……』
待てぃ!!(例の逆光)
ブラックドラゴンのノワールさんが!! 女の人の声なんですけど!!!
おとーさんじゃねーじゃん!! おかーさんじゃん!! ママじゃん!!!!
「初めましてリンの保護者やってますロックですッ!! 娘さんとお義母さんを僕にください!!!」
「最悪のタイミングで最低な発狂をしやがったなクソマスター」
「初対面で求婚する癖どうにかなりませぬか主殿」
「お前はドラゴンへの畏敬より性欲が勝るのかロック=イーリーアウス」
もう声からして美人じゃん!! 俺には理解! 美人だよ絶対これ!!
いやまぁ今はドラゴン形態だけどさ!! ドラゴニュートに変身できるんでしょヒルデガルドさん情報だと!! オスと交尾するために変身できるんでしょ!!
なんだよママかよ早く言えよンモー! リンとそっくりの美人さんだって知ってたらもっと早く会いに来たわ勘フル回転させてよぉ!!
『……貴方がこの子を育ててくれた少年……ロック=イーリーアウスですね』
「はい! ドラゴン形態怖いんでドラゴニュートになれませんかノワールさんグッヘヘ!!」
『申し訳ありません、今の私には変身に費やすほどの魔力も貴重なのです……もう間もなく私の命は潰えるでしょう』
「えっ……」
「おとうさん……!?」
『寿命が近づいているのです。それを察した私は、この子を……貴方がリンと名前を付けてくれたこの子を産み落としました』
しかし急に冷や水ぶっかけられて上がったテンションもちょっと落ち着いてしまった。
寿命か……いや、そんな話はカリーナも言ってたけどさ。ドラゴンは自分の寿命を悟ると次代を継がせる子を産むって話は。
しかしドラゴニュートに変身するための魔力行使も難しい状態とは。親子の再会ギリッギリだったじゃねーか。
勘が導くままにリンをグランガッチに連れて来ててよかった―マジで! いや昨日麓で一泊しちまったけど! すぐサヨナラなんてならんだろうな?
「……ノワール。お前はあとどれくらい管理人としての務めを果たせそうなのだ?」
『ヒルデガルド、貴女と会うのも随分と久しい……。そうですね、恐らくはあと2年はもたないでしょうね』
「意外と長い」
『みゃ』
「いえ、ドラゴンの寿命はエルフよりも長く1000年以上。本当にギリギリだと思いますよ」
割と余裕あったわ。
つってもそれは人間の尺度でしかないのかもな。ドラゴンやドラゴニュート……ここにいるノワールさんとリン、そしてヒルデガルドさんが感じる其れはまた別なのかしれない。
この辺はティオとも前に話したな。リンもいずれは寿命の問題で俺が先に死ぬのかも。
まぁ今はそんな俺の感傷は置いておこう。
今はただ、リンが己の親と話す時なのだ。
「おとうさん……わたし、にんげんのことも、せかいのこともいっぱいべんきょうしたの。おとうさんが、やみのまなをかんりして……まぞくがちからをもたないように、がんばってるって……」
『…………』
「それで、おとうさんがわたしをうんだのも、そのしめいをけいしょうするためって……」
『リン…………そんなに人の言葉を喋れるようになって。よく勉強しましたね、私は嬉しいですよ……』
「おとうさん……」
『ドラゴニュート
リンがノワールさんの巨大な体に近づき、見上げるようにして語り掛ける。
そういえばリンは俺が見つけた時から肉体的には結構育ってた。12歳くらいだな、胸以外。
それでも出会った時はホントに孤児院の年少組かってくらい心も情緒も育っていなかったからどうしたもんかと思ってたんだけど……成程、ドラゴニュートは育つ速度が違ったのか。納得。
『……でも、同時に魔族が復活したことを私は察しました。この場を離れることができませんでした。離れてしまえば、闇の魔素を今度こそ魔族が奪いに来るでしょう。人間と魔族のバランスを崩すわけにはいかなかった。闇の魔素を管理する私は、同時に人類と魔族のパワーバランスを保つ使命を持っているのです。それが私がこの世界にいる意味です……』
「……じゃあ、わたしも?」
『ええ……いつかは私のように、ここでマナの管理を果たしてもらうことになるでしょう。それは貴方も感じているはず。ここに来てから……妙に、マナの流れを感じ取れるようになってはいませんか? 闇の魔素に誰よりも馴染んだ肉体を持つ我が子であれば……』
「…………そう、かも……?」
二人の会話を聞いていると、話はリンの肉体……ドラゴニュート
魔素を管理する使命を持ったその肉体は、魔素の、マナの流れを感じ取ることができる……らしい。新しい設定ポンポン出てくるな。
しかし思い返してみれば、リンがいる場で闇の魔素が溢れてたシーンは2回ある。
一つは闘技大会の魔族襲撃。あの時は舞台が闇の魔素を放つ召喚陣になってしまっていたが、その時にシスターと協力して凄まじい出力の防護魔法を生み出していた。リンの魔力はむしろ高まっていたようにも思える。
そしてもう一つ、つい直近で行われたグランガッチでのフォルクルスとの死闘。あの時リンはフォルクルスの魔力防壁を魔装具なしで貫くほどのブレスを見せていた。
闇の魔素と相性のいい肉体……というのがその2つだけでもはっきりとわかる。
しかし、闇の魔素を受けて操られたり思考が悪に染まったり、ということもない。
闇の魔素を管理する存在。ブラックドラゴンと、その継承者……リンは、闇の魔素を受け入れられる素質があるようだ。
『間違いなく私と同じ、闇の魔素を抑える力に目覚めています。あとは少し練習をして、私が管理権を譲り渡すことで……管理を継承する事が出来るでしょう。莫大な力と共に。それだけの下地をあなたは身に着けて……そして、私の元に還って来た……』
「……おとうさん。わたし、どうしてもききたいことがあったの」
『……なんでしょうか』
既に闇の魔素の管理人になるほどの能力をリンは身に備え付けていたらしい。
まぁ魔族の6大将軍とも渡り合えるほど鍛え上げられ、孤児院で人の世についてもバッチリ勉強したもんな。やはりここは俺やシスターの教えが良かった説あるな。
そしてとうとう話は核心、リンがここに来た理由について。
己の親に問いかける、その疑問を。
「……わたしをうんだのは……ここの、かんりにんにさせるためだけ、なの?」
『……』
「わたし、ひとのすむまちでいろんなひとをみたの。おやがいなくてもわらえてるこどももいた。こじいんのみんなはやさしかった。いっぱいともだちもできたし、ロックにもまだおんがえしできてない。……やりたいことが、まだあるの……」
『……リン』
「おねがい、おとうさん! わたしはまだロックたちといっしょにいたい! せめてまぞくをたおすまでは、ロックのちからになりたいの!!」
そして疑問は願いに変わっていった。
マナの管理をするドラゴンが魔力炉心を持った子供を、ドラゴニュート
それ以外の……実の子への愛はなかったのかを確かめたかったのかもな。でもそれをはっきり口に出来ずに自分の願いを先に伝えてしまったって所か。
なんか……わかるわ。俺も子供の頃シスターに悪戯してたのってホントに愛されてんのか確かめるためのそれだった気もする。子供ってそういうところあるよね。
最後に俺の事を想ってくれるリンに心がほろりと涙を流しそうになる。ホントにいい子なんすよ……!
これでノワールさんから厳しい言葉が漏れてきたらマジで親権移すからね! 俺と同じ苗字にするからな! リン=イーリーアウスになってもらうからな!!
「リン、お前……」
「それで────ロックのつがいになってこどもをうむの!!」
「お前ェェえぇー!?!?」
だから声をかけたらまさか急に求婚を超えて子供まで求められて俺は叫んだ。
苗字を移すとは言っても結婚するとは思わないじゃん!? ってかまだ子供だろ!? 胸はともかく!! 身長140cmにもなってないだろまだ!?
「ちなみにリンは肉体的には既に成長を終えているぞロック=イーリーアウス。力が育つのに比例して体が育つのがドラゴニュートだとは以前説明したと思うが、私に近い力を持つ今のリンは肉体的成長のピークだ。単純に身長は伸びなかったのだろうな」
「急に新しい設定零してこないでヒルデガルドさん!?」
「ドラゴニュートは人間とも交尾が出来るぞ」
「どうして今それ言ったんです!?」
『……我が子を救い、ここまで育ててくれた恩は返し切れないものだと感じていましたが。それとして心まで奪い夫になるとなれば話は変わってきますね……?』
「ノワールさん羽広げないでコワイ!!!」
「おとうさん!! ロックはやらせないから!!」
「庇ってくれるの嬉しいけど今じゃないなぁ!? 今は自分の発言を存分に顧みてほしいなぁ!?」
なんか急に苦しい立場に立たされてる!!(確信)
助けて!! 誰か……イレヴンー!! サザンカさーん!! 助けてぇ!?
「……これがマスターの勘に響いていた嫌な予感の正体なのですかね」
「リン殿も十分に
『みゃあ』
なんかあの二人ちょっと離れたところで見学モードに入ってるし! いつの間にかミャウまでサザンカさんの兜の上でくつろいでるし!
ホエール山脈の頂上で俺死ぬのか?? マジで???
~登場人物紹介~
■ノワール
ホエール山脈の頂上にある闇のマナを管理するブラックドラゴン。
50mを超える体躯を持つ巨大なドラゴンで、管理人たるドラゴンはみんなこんなサイズ。
雄雌の区別はない。ドラゴニュートに変身できるが外見はオスにもメスにもなれる。
リンはずっとおとうさんだと思っている。