勘のいいガキはデカパイハーレムの夢をあきらめない! 作:そとみち
「久しいなァッ!! この瞬間を待ち焦がれたぞロックよッ!!」
「暑苦しいわボケ!! 男はお呼びじゃねぇんだよヴィネアだけなら許すわ!!」
「あら分かってるじゃないお前。私に殺されたいって言う事ね?」
「殺されるのはお前らの方じゃい!!」
唐突に現れた魔王軍幹部の二人。
さらにこの二人だけではない。転移陣は他にも複数展開されている。
二人に一歩遅れる形でワープしてきたのは……3人。
初めて見る顔だが、見たことがある体躯だ。
竜翼。竜尾。
露出した裸身に、鱗のようなそれで胸や際どい箇所を隠す女性の姿。
間違いない。3人とも全員、
「あれは……竜帝ニーズヘッグ!? 幹部の二人を連れて……!?」
「─────
イレヴンがその魔族を見て名前を叫ぶ。どうやらまたしても六大将軍の一人のようだ。
同時にヒルデガルドさんが叫んだ内容のほうが驚きだけど……姉だって?
たしかヒルデガルドさんは三つ子だ。長女は死に次女が管理人を継いだって聞いたが……管理人が魔族になってここに来てたらそうは言わないだろう。
長女か? 死んだってのはまた別の意味で……?
「ハァァァァッ!!!」
「ッち……!!」
しかしそんな思考の間も許さず、バアルが喜色の表情を見せながら俺にひたすら突っ込んできた。
速い……ッ!
「マスター!?」
「主殿ッ!!」
「ロック!!」
「邪魔するんじゃないよお前らッ!! 狙いはロックだけなのよねぇ!!」
咄嗟に俺を守ってくれるみんなだが、しかしそれを阻むヴィネア。
爪を固く鋭く素早く伸ばす技だ。しかもその爪が縦横無尽に曲がりくねりイレヴンたちの加勢を阻む。
その瞬間にもバアルがかつてダンジョンの地下で交錯した時を思い出すような魔力を籠めた突撃を、あの時の数倍の速度で迫って来た。
だが、迫ってきたのが見えているんだ。
こっちだってあの時よりも命の遣り取りの経験を深めてきている。
「ムゥッ……ガハァッ!! ───クハハハハハァ!! こうでなくてはなァッ!!」
「しっつこいんだよ筋肉ホモが……!!」
捌き斬りを叩き込んだ。
あの時と違い俺の方がノーダメージで、あの時と同じように向こうが再び吐血する形で捌き切った。
真正面にはじき返してお互いに距離を取り、向こうも周囲に魔族で集まり対峙する形となった。
俺らの後ろにノワールさんが控え、その後ろには闇のマナを噴き出す噴火口。
向こうはバアルを先頭に、ヴィネア、そして竜帝ニーズヘッグとその部下の幹部二人のドラゴニュート。
『答えなさいニーズヘッグ!! なぜここに今……!!』
「答える必要がありますか? 察しの良い貴方なら分かるでしょうノワール……始末しに来たのです。貴方と……そして、ロック=イーリーアウスを」
「俺もかい!?」
「マスターをやらせるものか……!!」
ノワールさんとニーズヘッグはどうやら顔見知りだったようで、ここに来た理由を聞き出すが……マジか。なんでこのタイミングで殺しに来たんだよノワールさんを!?
俺か? 俺がここに来たからなのか?
くそ、やらせてたまるか───たとえ死の気配を俺の勘が叫んでいるとしても。
それを超えなければならない。
そのために最適な戦力分配は。
「ニーズヘッグは俺がやる!! バアルはサザンカさん、ヴィネアはイレヴン!! ヒルデガルドさんとリンはドラゴニュートの部下を始末して!!」
「マスター!? 相手は六大将軍の一角です! あのフォルクルスと同等の……」
「だからこそ俺じゃないと駄目だ!! ワンチャン狙う……ッ!」
闇の魔素が濃いこの場において、ニーズヘッグだけはここにいる誰の攻撃も鱗が通さないだろう。
だからこそ俺が捌き斬りでワンチャン狙っていかなければならない。それしかない。
バアルもヴィネアも地上で出会った時の数倍は強い状態になっているが、レベルを上げたこちらもそれは同様。
イレヴンなら、サザンカさんなら凌ぎ切れるだろう。空さえ飛ばれなければサザンカさんは常に『隼断』で有利を取れる。刃も通るはずだ。
ドラゴニュートの幹部二人はこちらもドラゴニュートで対抗だ。
「フン!!」
「はっ!!」
とにかくこれで押すしかない……と考え叫んだ瞬間に、バアルとヴィネアが俺に向けて魔力砲を放ってきた。
「『ガードビット』ッ!!」
「『瞬き流し』ッ!!」
だがそれをガードビットで受け流すイレヴンと、大太刀で斬り払うサザンカさん。
助かった。けどやっぱ俺を積極的に狙って来てるな。くっそ。
「フン……中々の配下を持ったものよ。ロック、やはり貴様は俺が殺すべき勇士ッ!!」
「やかましいわー!! まだそっちの自己紹介も貰ってねぇのに二回もアンブッシュしてきやがって!! アンブッシュが許されるのは一回までやぞ!! まず名乗りやがれそこのデカパイドスケベドラゴン三銃士どもがよ!!」
「あら、言われてますよニーズヘッグ様。確かに今から殺される者の名前を言わないのはかわいそうだわ、自己紹介なさってはいかがでしょうか?」
「貴方はどうしてそんなに愚かなのヴィネア。向こうは私のことは知っているようです、名乗る必要もないでしょう」
「必要あるのはお前の二人の部下の方じゃー!! デカパイ美人の名前を知らないで戦えるかー!! 名乗らないなら帰れ!! デカパイは間に合ってるんじゃーい!!」
「時間を稼いでも事態は好転しませんよマスター」
「わかってるけどぉ!!」
完全にお互い臨戦態勢になったところで俺は必死に話題を廻し、一度会話する時間を作る。
イレヴンが冷静に突っ込んでくるけど俺だって色々考えてるんだからさ!
とにかく相手に流れを掴ませちゃ駄目だ。奇襲を奇襲たらしめんのは受ける相手の混乱が生じるからこそ。
一度会話をすることでボルテージを落ち着けたい。まずは向こうから少しでも情報を引き出す。
「……確実にノワールと貴方を殺すために、私の直属の幹部二人を連れて来ています。こちらがジェミニ」
「初めましてこんにちはロックくん。今日で永遠にさようならね」
「こちらがボルックス」
「……貴様だけではなく、ニーズヘッグ様と袂を分かったヒルデガルドも殺す……!! 裏切り者が……!!」
「先に裏切ったのは姉上のほうだろうがァ!」
そしてこちらの話に乗って自己紹介という猶予を貰えた。
ジェミニとボルックスか。一癖も二癖もありそうなデカパイ共だ。
どうしてドラゴニュートってこんなにおっぱい丸出しなんだろう。服を着る文化がないのだろうか……ヒルデガルドさんと同じでギリギリおっぱいのさきっぽとか隠れてるけどさ!
お前ら3人とヴィネアがいてくれるお陰で俺の魔力は常に絶好調だ! 怯えろ!!
「そして私が竜帝ニーズヘッグです。貴方たちがホエール山脈を目指していたことは把握していました。私達だけではノワールの討伐は難しかったでしょうが、山頂の付近であれば転移の範囲内になる……
『ちょうどよかった……?』
最後にニーズヘッグが自己紹介がてら、急にここに来た理由と手段について零してくれた。
ホエール山脈の頂上付近は向こうから転移することが容易になる空間だということで……いや待ってそれおかしくない?
だったら今までにもいくらでもチャンスはあったはずだ。俺らが来る前でも、ノワールさんを殺すために転移してくるチャンスはいくらでもあったはず。
それがなぜ今俺らが来たタイミングに合わせたんだ?
その答えを俺の勘が探り、そして
つまり────ノワールさんがヤバい!!!
「っノワールさん!! 気を付け……ちッ!! 『護れ』ッ!!」
『な────────』
「もう遅い。……貴方たちはここで全滅するのです。無慈悲にも」
咄嗟に護りの指輪に魔力を捧げ、ノワールさんの50mを超える巨体に魔力防壁を全力で展開する。
分かったのだ。勘のだした結論に推論が徐々に追いついてくる。
俺の頭の中に答えが、この後に起きる事が想像を補完するように思い浮かんでくる。
これまでノワールさんが無事だったのは、彼女自身が並大抵の魔族に負けない強さを持っていたという理由があった。
ニーズヘッグはドラゴニュートで空を飛べる。他の将軍クラスの存在でもここに来ることは容易だろう。カリーナが来られたくらいなのだ。
それをしなかったということは、そもそも魔族側の実力不足があったのだと思う。
じゃあなぜ今?
俺らという、魔族側にとっても更なる障害になり得るであろう有力な冒険者が集った今に襲ってきたのか?
更に討伐がし辛くなるのは容易に考えられる。
なのに俺とセットでいる時を狙ってきた。
それは、俺達をまとめて殺せる算段があることに他ならない。
では俺たちとノワールさんをまとめて始末できるその理由は何か?
今までやってなかった転移陣を、開けるようになったのは誰か?
答えは一つ。
「……
『───────!!!』
俺らの後ろにいるノワールさんの、さらに後方。
闇のマナの噴火口から、全ての気配を消して転移して現れた新たなる敵影。
イレヴンのセンサーも、サザンカさんの気配察知もすり抜けた。二人の顔に驚きが浮かぶ。
俺の勘にのみ引っかかったその魔族は、まるで少女のような姿をしていて。
だがその気配は、深い闇に染まり渦を巻いていた。
「─────さようなら、ノワール」
『ガ───────』
背後からかけられた声に気付き、翼を羽搏かせて逃れようとしたノワールさんに、キンッと軽い音が鳴って少女の指先から細い光が放たれた。
その光は俺の展開したバリアーを容易く貫き、ノワールさんの体を貫通し……次の瞬間に半径20mはあろうかという大穴が、ノワールさんの体にぼっかりと広がった。
なんて────ことだ。
「……おとうさんッ!?」
『ゴァ、はッ……リン、逃げ…………!!』
突如行われた凶行にリンが悲鳴を上げた。
この瞬間を。
これだけを狙っていたのか。
俺ら5人とノワールさんが突如現れた魔族たちに気を取られ、そちらに意識を集中させて……背後から気配を消しての奇襲。
生半可な戦力の逐次投入では俺らは凌いでしまうからこそ、六大将軍と幹部4人を一挙に投入し、これが本隊と思わせてからの魔王軍最強の存在……魔王の降臨。
カリーナが言っていたように、たとえ幹部でも将軍でもそう簡単に後れを取る存在ではなかったであろうノワールさん。
だが今、その体に大穴を開けられ……出血と呼ぶには余りにも夥しい量の血を文字通り滝のように流して、地に堕ちた。
それにリンが駆け寄ろうとするが、今はそれすらも隙となる。
魔王と、将軍と、幹部四人。
これに俺ら5人で挑み、生き延びなければならなくて。
「……魔王様。お見事でございます」
「よい」
ニーズヘッグほか、魔族全員が片膝をついて魔王に首を垂れた。
凶行を成した魔王は、そのまま噴火口からふわふわと飛んできて、俺らの頭上を越えて魔族たちに合流した。
それを迎撃する動きを俺たちはできなかった。
魔王それ自体に隙が無いというのもあるが……混乱していた。
まさしく奇襲を受けてしまったのだ。
今どうするべきかの答えがない。こちらから動けない。
逃げるべきか、攻めるべきか、怒るべきか、悲しむべきか……判断がつかない。
混乱の最中。
だが、そんな中でも俺の勘だけはまだ叫んでいた。
「……ロック=イーリーアウス。この目で見てわかった。確信した」
「はっ。如何でしたか」
「間違いない。この少年の魂の色─────」
勘によれば。
まだ無事な5人のうち、もう一人、命を落とすかもしれなくて。
それは。
「─────六大将軍が一人、全知万将アブソリュート
「はっ」
多分、俺が。
~登場人物紹介~
■竜帝ニーズヘッグ
ドスケベデカパイドラゴニュートの六大将軍。ヒルデガルドの長女。
父を裏切り、妹を裏切り、魔王軍についた過去を持つ。
■ジェミニ
ドスケベドラゴニュートの幹部その1。まともなほう。
ニーズヘッグが魔族と交わり生んだドラゴニュート
■ボルックス
ドスケベドラゴニュートの幹部その2。ヤバいほう。
ジェミニと同じく
■魔王
正体不明。