異世界の国を出現させる魔法 作:ハイオク満タン
ーグラナト伯爵領へと続く道 ー
「うぉぉ!車ってこんなに速いんだな!」
「これでもゆっくり走らせてるんですよ。本気を出せばこの車の場合、130km程度は出せます」
「130km?!聞いたことないスピードだぜ…」
ロクに舗装もされていないあぜ道を、時速30km程度の巡航速度を維持しつつ車列は進む。
一応これでも街道なので整備されているほうではあるが、道には石がゴロゴロと転がっており、脇には柵すらない。少しでも運転ミスをすれば事故は免れないだろう。
「なぁ2人とも。さっきからずっと黙ってるけど、どうしたんだ?
せっかくこんなすげぇのに乗せて貰ってるんだからもっと堪能しないと損だぜ?」
「シュタルク様はよくそんなに元気でいられますね…
私なんて朝ごはんを戻しちゃいそうですよ…うぅ…」
「うぷっ…二日酔いしたハイターってこんな気分だったのかな…」
流石に自動車など初見のフリーレン達に最初からあぜ道走行は刺激が強すぎたのか、見事に車酔いを発症してしまった。
藤田もまったく車酔いについて懸念していなかった訳ではないが、時速30km程度なら大丈夫だろうと少し甘く考えていた。
「お二人とも大丈夫ですか?少しスピードを落としますね。目をつむれば多少はマシになりますよ」
「うん…そうさせてもらうよ…」
そう言ってフリーレンはすぐに横になった。
すぐにいびきをかき始めたあたり、本当はただ寝たかっただけなんじゃないだろうか?
その後フェルンも軽く目を瞑り始め、そのまま窓に寄りかかりながら小さく寝息をたて始めてしまった。
疲れさせてしまったかな、と少し申し訳ない気持ちを感じながら藤田とシュタルクは残り少ない時間を雑談で過ごした。
どうやらシュタルク曰く、師匠であるアイゼンという人はとてつもなく頑丈で、それは突き刺された槍を弾き返すどころか逆に折り返すほどらしい。
子供騙しにしか思えない武勇伝の数々を、あたかも実際に見たかのように目を輝かせて語るシュタルクに、自然とヒーローモノの話をする自分の息子が重なり、藤田は思わず笑みがこぼれた。
その後フリーレンが言っていた例の魔物らしき生物も現れず、無事に何事も無く街道を抜け出すことができた。
街道を抜けた先は高原が広がっており、開けた道の奥には遠くに薄らながらも目的地のグラナト伯爵が見えた。
「す、すげぇ…歩きだったら早くても夜になってただろうに、たった2時間とかで着いちまったよ…」
あまりの車の移動速度の早さにシュタルクは唖然としている。今まで徒歩か馬車でしか長距離移動をしてこなかったのであれば当然の反応でもあるか。
その後シュタルクに起こされたフェルンとフリーレンも到着時間の早さに驚き、フリーレンに関しては“神話から伝わる魔道書”とかいうなにやら凄そうな本と引き換えに1台頂戴とまで言ってきたが、フェルンに止められてしまった。
その時のフリーレンはかなり悲しそうだった。
念の為車両は伯爵領から1km程度離れた茂みに隠し、見張りの隊員数名を残してから一行は伯爵領へと向かった。
ーグラナト伯爵領 入口正門前ー
「では私達とはこのあたりでお別れですね」
「お別れと言っても暫くはお互いにこの伯爵領にいるんでしょ?」
「フリーレン様…そう言うのは分かってても言うもんじゃありませんよ…」
相変わらずフェルンとフリーレン、どちらが年上か分からなくなってくる。
「はははっ、若い子は元気でいいですね」
「あ、失礼ですよ高山さん。フリーレンさんは1000年以上生きている大先輩なんですからもっと敬意を払わないと。お婆さんに向かって若い子って言ってるのと同意義ですからね」
愉快そうに笑う高山に藤田はすかさず訂正を入れる。
上下関係が厳しい自衛隊ならではの職業病なのだろうか。
「…今の1カウントだからね、フジタ」
「えっ?カウントってなんです?というかなんでそんなご機嫌斜めに…」
「…藤田さん、“女の子”に向かってそれはないですよ?」
「えっ、ちょっと?江川さんまでどうしてそんな冷たい目で見てくるんです?」
女性陣に言い詰められる一等陸尉とは、惨めである。
「まぁまぁ、フジタに言い寄るのもそこら辺にしといてやれよ。何やかんやで恩があるしな」
「…ま、私のカツ取り返してくれた恩もあるしね。」
「そうそう」
シュタルクのおかげでなんやかんやで話が丸く収まり、各自解散ムードとなった。
「じゃ、またね」
「短い間でしたがニホンの皆さん、お世話になりました。役人のお仕事も頑張ってください」
「またどっかで会ったらそんときはよろしくな!」
3人の挨拶に軽く手を振って返した日本の面子達は、とりあえず伯爵と話ができないか交渉するために伯爵の屋敷に向かって足を進め始めた……直後だった。
「おい貴様!何をやっている!」
いきなり後ろから野太い男の怒鳴り声が聞こえたかと思ったら、ついさっき別れたばかりのエルフが取り押さえられていた。
その周りには沢山の野次馬と、恐らく応援で駆けつけたであろう多数の衛兵の姿。
「えっ、ど、どうします?藤田一等陸尉」
「えっとだな…」
付き添いの隊員が藤田に指示を求めるが、肝心の藤田も急なできごとに脳が追いついていない。
「…もしかしてエルフ差別みたいなのが横行してて、魔女狩りならぬエルフ狩りみたいなのが行われてるんじゃ…?」
「ちょっと高山君!不謹慎でしょ!」
そんな不吉な会話をしている内に、とうとうフリーレンはどこかに連行されてしまった。
取り残されたフェルンとシュタルクが困り顔でこちらを見てくるので、藤田が手招きするとこちらに駆け寄ってきた。
「えっと…さっきぶり…ですね…」
フェルンが気まずそうに言う。
「我々もまさかこんな早く再開するとは思ってもみませんでしたよ。
……っとそれより、フリーレンさんはどうして連行されてしまったのですか?」
「フリーレン様がいきなりこの伯爵領にやってきた和睦の使者に杖を向けたのでそのまま…」
すでに通り過ぎてしまった和睦の使者たちの後ろ姿を指さしながらフェルンは言う。
「ん?和睦の使者?グラナト伯爵領はどこかと戦争でもしていたのですか?」
「勢力同士の戦争というよりかは、軍の残党との無謀な争いに折れた伯爵領が講話を申し出たようですね」
「うわっ!高山さん、いつの間に後ろに…」
いきなり高山に背後から声をかけられた藤田は思わず体を仰け反らせてしまう。
少し上がった息と殴り書きされたメモ用紙を見るに、急いで聞き込みに言ったのだろう。
「すみません、一声かければよかったですね」
「いえこちらもお見苦しいところを…
して、軍の残党とは?」
「矢継ぎ早で聞き込みしたものなので自分も詳しくは分からないのですが…
どうやらこの街は『アウラ』という人物率いる軍勢と約28年間攻防を繰りかえしていたようですが、戦死者の増加に頭を悩ませたアウラ側が講話を切り出すに至り、疲弊していた伯爵領側もそれを承認。
その講話のためにアウラ側から差し出された人物こそがついさっきフリーレンさんが攻撃しようとした相手とのことです」
「なるほど……。説明ありがとうございます。
フェルンさんとシュタルクさんはそのアウラという人物に対して、何か知っていることはありませんか?」
「はい。フリーレン様やハイター様から大まかなことは聞いたことがあります。
アウラ…通称、“断頭台のアウラ”は魔王七崩賢のうちの一人で、使用魔法は『服従させる魔法』という相手の魔力と使用者の魔力を天秤に乗せ、傾いた方の魔力の持ち主は、絶対服従を強制させられるというものです。
ですが、断頭台のアウラは私の育ての親でもあるハイター様も所属していた勇者パーティーに敗北したはずですが…」
「俺が師匠から聞いた話もそんな感じだったな」
どうやらアウラという人物はそれなりに有名らしく基礎知識かのように説明するフェルンと、それに相づちを打つシュタルク。
フェルンからの話を聞いた外務省の人間が和になり意見を投げ合う。
「まるで漫画やアニメのような内容ですね…」
「ですがここはその漫画やアニメに出てくるような異世界です。現地人が言うなら事実の可能性も十分にあるかと」
「実際に和平交渉の使者が送られて来てるわけですしね」
「にしても魔王だの服従させる魔法だの、この前の聞き込み調査の報告書に一文字も書かれていなかったぞ」
「政府からは地理と政治状況を重点に尋ねろと返答が来たもので…
そもそも私達は魔法らしい現象を見たこともありませんし、いささか信憑性に欠けるとしてあえて時間は設けませんでした」
「そのせいでこんな訳の分からない状況になっているんだろうが」
「あぁ、ちょっとちょっとお二人とも落ち着いて…」
外務省から派遣された中では恐らく最高齢と思われる男性と江川が口論を始めてしまったため、慌てて藤田が間に入って引き剥がす。
この時、藤田はもしフリーレンとフェルンの自己紹介の際に告げられた「魔法使い」という存在や、シュタルクの故郷を襲った「魔族」という存在についてもっと深掘りしていれば、こんなことにはならなかったかもしれないと内心反省していた。
「とりあえず今回の騒動については日本側も無関係では無さそうですね。
フェルンさん。フリーレンさんとの面会は可能ですか?」
「フリーレン様は今はまだ屋敷の地下牢に留置させられてるだけですので、申請すれば一応可能かと…」
「では早速フリーレンさんへ聞き込み調査に行きましょう。少しでもあの和睦の使者とアウラという人物についての情報が欲しい」
「ですがニホンの皆さんが今回の件に関与するのは危険ではないでしょうか?
確かに断頭台のアウラがニホンの皆さんやこの街にとって脅威なのは分かりますが、私達が説得してフリーレン様を釈放させれば自ずとフリーレン様が解決してくれるはずです。
それに恐らくあの和睦の使者も偽物の工作員です。ニホンの皆さんに危害が加わる可能性もあります」
「だったら尚更のことね。少しでも例の和睦の使者たちから情報を抜き出して、アウラ達との和平交渉成立に日本が貢献できれば、そのまま日本との外交成立にも繋がるかもしれないわ」
「ちょっと江川さん…流石にアウラの件についての関与は日本政府からの許可が下りないと…」
「高山くん、今朝の打合せでも伝えたけれど今回のグラナト伯爵領との外交は必ず成功させなければいけないし、それが日本政府からの要請。
確かに強引な箇所もあるかもだけど、それでも外交成立への道筋になるなら利用しない手はないわ。
それにもしもの時は自衛官の藤田さんたちもいるしね」
江川がチラリと藤田ら自衛官の方を見ると、敬礼で返された。
言葉こそないが、どんな言葉よりも頼りになる返事に思えた。
「はぁ…30代で職を失うのだけは勘弁ですよ?」
「多少の問題が起きようとこことの外交を達成できれば全てチャラよ。
じゃあフェルンさん、例の地下牢に行きましょう」
こうして一行は再び屋敷へ向かって足を進め始めた。