五条悟の専属家庭教師   作:家庭教師

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 1994年3月4日。

 

〜13時〜

 

 

「悟様、次の家庭教師が着任します。」

 

「··········」

 

 呪術界御三家が一つ、五条家。

 云百年ぶりに生まれた六眼と無下限呪術の抱き合わせ。

 次期当主。

 世界の均衡を崩した男。

 天上天下唯我独尊。

 

 彼、五条悟を形容する言葉は様々存在する。

 彼はいずれ最強になる。

 しかし、上記にもある通り彼は天上天下唯我独尊。

弱者を見下し、雑魚に見られるのが不快にすら感じる。

そんな彼に様々な家庭教師が挑み、敗れた。

 

 ある者はその六眼のプレッシャーに耐えきれず·····

 ある者は彼の唯我独尊ぶりに辟易し辞めていき·····

 ある者は勉強嫌いの彼の不真面目さに堪忍袋の緒が切れた。しかし相手は依頼者であり御三家次期当主。ちゃんとやれと声を大にして言いたいが、立場を考えると言えず病んでいった。

 去年の12月7日、五条悟4歳の誕生日に英才教育を始めようと家庭教師を付けたが、様々な理由で付いては辞めてを繰り返した。

 

「毎回聞くけど、それ、意味ある?」

 

「あります。御三家次期当主として、最低限の学は付けて頂かなければ困ります。ヴァイオリンやピアノ等はしたくないのであればしなくて構わないのですが、勉学だけは疎かにされては由緒正しき五条家として·····」

 

「あー、はいはい。もういいよ。連れてきて」

 

「··········かしこまりました」

 

 どうせ今回も半月と続かないだろうと思い、五条悟は女中を下げた。代わりに、細身でショートカットヘアの青年が入ってきた。

身長は160cm程。男性平均を考慮すれば、小さいくらいだろうか。

 

「初めまして。今日から五条悟様の専属家庭教師を務めさせて頂きます。」

 

 部屋に入り、畳の上に正座する青年。

 

「名前は?」

 

「···············(ゆい)と申します。」

 

「女みてぇな名前してんな。まぁいいや。今スーファミしてるから終わったら」

 

「ダメです。今からして頂きます。」

 

「··········は?何?」

 

 初対面にして初めての反発。しかもいつもなら自分から相手に反発するのに、今回は相手から反発されてしまった。五条悟はそれが少し気に食わなかった。

スーパーファミコンのコントローラーを捨て、唯と名乗った正座している男の前に立つ。身長的に、丁度五条悟の六眼と唯の眼が合う。

 

「何?五条家次期当主に逆らうの?」

 

「私の雇い主は現当主の五条(さとし)様です。次期当主である五条悟様のお言葉も大事ですが、現当主且つ雇い主である五条聡様の言伝を優先させて頂きます。」

 

 五条悟の六眼に気圧される事無く、唯は五条悟の六眼を見つめる。五条悟は子供離れした洞察力やカンの鋭さを持っている。その五条悟から見て、唯の目から凡そ感情という物を感じられなかった。

しかしそれは「冷たい眼をしている」という訳ではなく、唯があくまで「家庭教師という仕事である」という見た目に反したプロ意識がそうさせているように感じる。

 

「·····自己紹介してよ。」

 

「かしこまりました。再度申しますが、名は唯といいます。年齢は今年の8月11日で15になります。京都教育大学附属桃山中学校2年生です。勉学は得意でも苦手でもありませんし、好きでも嫌いでもありません。程々でございます。3年程前から趣味で作成している「パンダでも分かる物理学・量子力学」というブログが五条聡様の目に止まり、ブログコメントから「家庭教師をしてみませんか?」というお話を頂きました。」

 

「ブログ?父さんそんなの見てんの?」

 

 唯がバックから分厚いノートPCを取り出し、自身のブログを開く。

ノートPCを机の上に置き、画面を五条悟に向ける。

 

「最初は私も半信半疑だった上、ブログへのコメントが多く気付かなかったのですが、二月(ふたつき)程前にコメントに気付き、一緒に載っていたメールアドレスにご連絡した所五条聡様のお名前と五条悟様のお名前、現状をお聞きしました。」

 

 カタカタとキーボードを打ち、ノートPCの送信メールフォルダを開く。

 

『タイトル:家庭教師のお話について。

 

 聡 様へ。

 

 詳しいお話お聞かせください。』

 

 次に、受信メールフォルダを開く唯。五条聡からの最初のメールを開き、五条悟に見せる。

五条悟は、自分の知る父とは思えない程丁寧な文章に少し驚いた。

 

『Re:家庭教師のお話について。

 

 唯 様へ。

 

 初めまして。アドレスへのご連絡ありがとうございます。お互い素性も知らず、結論のみのコメントにご連絡を頂けるとは思いませんでした。

 唯様の書く論文に深く感銘を受け、知見の深い方と見越してコメントさせて頂きました。

 恥ずかしい話なのですが、私の息子は我が強く、今まで様々な家庭教師を付けたのですが、半月も持った事がありません。年齢も18〜60と男女様々な方にご依頼したのですが、成功と言える程長く続いた方は居ませんでした。

 そして現在、家庭教師が居ない状態です。そこで、是非唯様に家庭教師に就いて頂きたくコメントさせてもらいました。当方京都市なのですが、唯様はどちらにお住いでしょうか?』

 

「この後報酬等詳しい情報を聞き、結論から言いますと家庭教師の件を承諾したという事でございます。」

 

 まぁ唯が現在ここに居る時点でそうだろうとは思っていたが、まさか父も家庭教師の依頼先が14の青年で尚且つ同じ京都市に住んでいるとは思っていなかったであろう事がありありと想像出来た。

 

「こういうのもなんだけどなんで受けたの?」

 

「··········そう、ですね。ハッキリ言ってしまえば金です。」

 

「金?」

 

「はい。最初は興味なかったのですが、まさか御三家の当主だとは思わず。」

 

「あぁ、呪術知ってんの」

 

「はい」

 

 その後、ノートPCを閉じた唯はバックから小学生用の算数ドリルと小さな筆箱を取り出した。

ペラペラと五条悟が捲ってみるが、本当に初歩の初歩らしき事が書かれている。

 

「俺こんなのも出来ないと思われてんの?」

 

「程度が分からなかったもので。とりあえず始めましょう。ペンを持ってください。」

 

「は?やるなんて言ってないんだけど」

 

「黙ってやってください。」

 

「··········」

 

 仕方ないので、五条悟は座布団の上に座った。机の上にある算数ドリルを開き、問題に取り掛かる。

 

 3+5=

 

「わかりますか?」

 

「舐めてんの?」

 

「舐める舐めないではなく、五条悟様はまだ4歳です。この問題は小学1年生用、即ち6歳以上のレベルの問題です。出来たら褒めれる問題ですよ。」

 

「·····」

 

 3+5=8

 

「正解です。おめでとうございます。」

 

「これぐらい分かるよ」

 

「では今度は視覚で学びましょう」

 

「え?」

 

 唯が机の上にあるバケットからリンゴを3つ、バナナを5房取り出した。

 

「先程左にあった3という数字がこのリンゴです。右の5がバナナです。今机の上にある果物は何個ですか?」

 

「8個だろ」

 

「正解です。」

 

「マジで舐めてる?」

 

「品定め中です。」

 

 その後、同じようなやり取りを30分程繰り返した。

 

「算数に関しては大体分かりました。小学2年生以上3年生未満·····2年生の3学期と言った所でしょう。少し休憩しましょうか。」

 

 机の上にある果物をバケットに戻し、五条悟が握っていたペンを回収する。算数ドリルは最初の1年生用ではなく、同じ出版社の3年生バージョンになっている。

 

「なぁ、こんなの続けんの?」

 

「何か問題でも?」

 

「つまんねぇ」

 

「つまるつまらないではありません。つまらなくとも私は貴方に勉学を教えるのが仕事で、五条悟様はその間勉学に励むのが得策です。せっかくお父様が高額なギャランティを払って私に家庭教師を依頼しているのですから」

 

「チッ··········なぁ」

 

 ゴロンと横になった五条悟が、ずっと正座している唯の事を見上げる。

 

「なんでしょう」

 

「呪術知ってんだよな?」

 

「はい。偶然にも。」

 

「自己紹介では一切そこらへん言ってなかったけど、何?言えない事情でもあんの?」

 

「特にありませんよ。質問されたら答えます。」

 

 ポーカーフェイスは崩さず、五条悟の六眼と眼を合わせて会話する。これに関しては、五条悟からしたらとても新鮮な体験だった。

 人と会話する時は眼を見て話す。人間としては当たり前の事だが、出来る・実行する人間は意外と少ない。六眼と言えば尚更である。

 

「·····術式は?」

 

「六眼で見ればいいじゃないですか。」

 

「··········等級は?」

 

「1級です。年齢から分かると思いますが特別1級呪術師に当たります。」

 

「は?なんで俺の家庭教師やってんのか意味わかんねー」

 

「··········家庭教師のギャランティなのですが、恐らく五条悟様の思ってる5倍は頂いています。単純に1級任務をこなすより余程稼ぎが()いのです。」

 

 その言葉に、五条悟は少し驚いた。

父はそんなに自分の教育に熱心だったのかという思いと、逆に1級は中々に金払いが悪いのかという思いが交差した。

 

「ちなみに言っておくと、別に1級任務の俸給に文句がある訳でも安いと思っている訳でもございません。詳しくは口止めされているので言えませんが、五条聡様の支払われるギャランティに比べれば1級任務の俸給より給与が余程良いのです。単純に相対的な話です。」

 

「そうたいてき·····」

 

「··········比べて、です。休憩は終わりです。小学2年生の算数範囲は理解出来ているようなので、3年生の範囲から始めましょう。少しお待ちください。」

 

 五条悟の部屋から唯が出ていき、暫くするとペティナイフを持って帰ってきた。そしてバケットからリンゴを1つ取り出して、うさぎリンゴを8個作った。

意外に器用である。

 

「どうでもいいですけどフルーツナイフくださいって言ったらペティナイフを渡されました。さて、今度は視覚から始めましょう。ここに何個の赤いうさぎリンゴがありますか?」

 

「(うさぎリンゴ·····)8個だな」

 

 次に、青リンゴを1つ取り出し、青リンゴでうさぎリンゴを8個作った。

 

「ここに何個の緑のうさぎリンゴがありますか?」

 

「8個」

 

「では色関係なくうさぎリンゴは幾つありますか?」

 

「16個。さっきやった足し算だろ」

 

「焦らないでください。ここで問題です。ここにあるうさぎリンゴは何種類ありますか?」

 

「2種類だな」

 

「そうですね。これが四則計算の最後、割り算です。小学3年生から習います。ほぼ全ての割り算は視覚的に見ればとても分かりやすいのですが、数字にするとわかり辛いものが多いです。今のうさぎリンゴの割り算を書いてみましょうか。」

 

 16÷8=2

 

「こんな感じですね。」

 

「·····別にわかり辛くねーけど」

 

「初歩だからです。そうですね。少し意地悪な問題を出しましょうか·····」

 

 18÷8=

 

「五条悟様、これのイコールはなんだと思いますか?」

 

「んー·····んー?出来なくね?」

 

「答えはこうです。」

 

 18÷8=2あまり2

 

「こうなります。」

 

「あまり?ナニソレ。算数に日本語使っていいの?」

 

「使っていいんです。」

 

「算数なのに?」

 

「算数なのに。」

 

 49÷12=4あまり1

 

「少し桁を増やすとこうなりますね。更に桁を増やすと·····」

 

 148÷38=3あまり34

 

「こうなります。」

 

「めんどくさ」

 

「そうなんです。「あまり」有りの割り算はとてもめんどくさいんです。でも小学校で習うので覚えておきましょう。最初は初歩の18÷8=2あまり2など分かりやすいので慣れていきましょう·····いえ、話が進み過ぎましたね。まずは割り切れる割り算から始めましょう。いくつか算数ドリルに載ってる問題を解きましょう·····あ、言い忘れました。次から算数ドリルに直接書き込まないでください。」

 

「え?」

 

 直接算数ドリルに書き込もうとした五条悟がペンを止める。

ペティナイフでうさぎリンゴを延々と作っていた唯は手を止めて、ノートを指差す。

 

「今までは五条悟様のレベルを(はか)る為だったので算数ドリルに書き込むのを許していましたが、今後は本格的に勉学に取り組むので、ノートに書き写してください。」

 

「何?意味ある?」

 

「あります。今後は1問づつ答えを見ているのは非効率なので、何十問か一気にやって頂き答え合わせをします。その時算数ドリルに直接書き込んでいると、消す手間が出てしまう上、間違いは間違いのまま覚えておく必要があるので。」

 

「間違いを覚える?」

 

「はい。少し敬語外れますが「あっこんな間違い方したか〜。次はこんな間違いしないようにしよう」という意識が付きます。」

 

「付くの?」

 

「··········付く筈です。というか付けてください。10問やる事にうさぎリンゴあげます。10問終わったら見せてください。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜14時〜

 

「終わったぞ」

 

 21÷3=7

 63÷9=7

 7÷1=7

 28÷4=7

 42÷6=7

 70÷10=7

 14÷2=7

 35÷5=7

 56÷8=7

 49÷7=7

 

「全問正解です。おめでとうございます。うさぎリンゴをどうぞ。」

 

 唯が青リンゴのうさぎリンゴを差し出す。

 

「ねぇ怖いんだけど。なんで全部7なの?最後らへんもう解く前から「7じゃね?」って思っちゃったよ。」

 

「先程7の段が苦手そうだったので。」

 

「九九?」

 

「はい。」

 

 しゃく。と唯がうさぎリンゴを食べる。

ペティナイフを危なくないようにバケットの中にしまい、先程まで書き込んでいた算数ドリルを開く。

 

「五条悟様は九九の中でも特に7の段を苦手にしていましたね。後は3の段でしょうか。」

 

「悪い?」

 

「悪くありません。7の段で躓く方は多いです。九九は良い暗記法なので是非覚えて欲しいのです。」

 

「·····で?」

 

「おや。お気付きではないのですか?割り算は÷(割る)(イコール)を入れ替えてから÷を×(かける)にしても成立するのですよ。」

 

「··········あっ!」

 

 五条悟がうさぎリンゴを食べながら気付いたようで、ノートをくるくる回している。

 

「別にノートをくるくる回しても入れ替わりませんよ。見易く書き直しますか?」

 

「いや、いいや」

 

「そうですか。とりあえず今日は割り算の初歩を覚えられて良かったです。まだ初歩どころか靴を買ったくらいですが、五条悟様の年齢を考えると上々だと思います。」

 

 

 

 

「さて、次は国語です。」

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