五条悟の専属家庭教師   作:家庭教師

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1日目 2時間目 国語

「さて、次は国語です。」

 

〜14時30分〜

 

 

 

 

「国語かぁ·····」

 

「苦手ですか?」

 

 算数ドリルをバックの中に戻す唯。

五条悟は座布団にかいていた胡座を崩して後ろに倒れる。

 

「だって「この時の作者の気持ちを〜」とか「〇〇はどんな解釈で〜」とか。わかんねーよそんなの」

 

「そうですか。ならそこは飛ばします。」

 

「え?」

 

 漢字ドリルを取り出して広げる。

 

「やんなくていいの?」

 

「やんなくていいんです。何故だと思いますか?」

 

「ん〜·····?··········っても今までの家庭教師はやれやれ言ってきたしなぁ·····」

 

 倒れたまま足を組んで頭の後ろに手を編む。

 

「五条悟様が言ってる「気持ち」「解釈」云々は、基本小学校・中学校の義務教育でしかやりません。言い方は悪いですが高等学校も普通科は入らないでしょう?高専に入るかは五条悟様が決めるとして、恐らく高専の座学でも出ないでしょう。そして、作者の意図を汲み取るような問題は小学校高学年から出てきます。五条悟様、今何歳ですか?」

 

「4歳」

 

「小学校1年生は何歳でしょう?」

 

「·····6歳だっけ」

 

「そして小学校高学年というのは4年生〜6年生の事です。作者の意図を汲み取る問題が本番で出るのは、凡そ6年後という事です。ここで豆知識ですが、小学校・中学校で使われる教科書というのは4年に1度改訂されます。小改訂、大改訂と違いはありますが、五条悟様が危惧している問題が出るまでに少なくとも1回、タイミングが良ければ2回教科書が改訂されます。現在、1994年に使用されている教科書を元に授業を行っても、実際小学校に通ってみたら改訂されて無駄だった、なんてオチがあるかもしれません。なので、嫌なら無理にはさせません。漢字は義務教育の後も使いますし、作者の意図を汲み取る問題でなくとも読解力や人間性を組み立てられる問題はあります。なので、この国語の時間では主に漢字、後は読書をやっていきたいと思います。少々お待ちください」

 

 五条悟の部屋の襖をあけ、部屋を出ていく唯。ペティナイフを持ってきた時のように退出し、今度は中々帰ってこない。暫くすると、本を100冊程持って帰ってきた。

 

「よく持てるね〜」

 

「えぇ、まぁ。こう見えて鍛えてますし、お忘れですか?私は1級呪術師ですよ。というか、流石御三家、流石五条家と言うべきですかね。書庫がとても広くジャンルも多かったです。実を言うと、私が1番好きな教科は国語だったりします。なので今少し嬉しいです。」

 

「·····そうは見えないな。」

 

「顔が変わらないのは昔からです。さて、五条悟様にはこの本の中から今日中に最低2冊読み切ってもらいます。短編もあるのでそれでも良いですよ。」

 

 100冊程の本を部屋の隅に置き、五条悟の対面に正座する。

 山のように積み重なった本を見て少し辟易する五条悟だが、それを見た唯が少し考える。

 

「本はお嫌いですか?」

 

「··········いや、別に嫌いなわけじゃねーよ。ただ多いなと思って。」

 

 改めて100冊の本を2人で眺める。

 

「これ全て読み切って貰うつもりだったのですが·····」

 

「1日2冊?」

 

「えぇ。算数は出来ていたので出さなかったのですが、国語は宿題があります。1日1冊の読書です。授業中に2冊、宿題で1冊。大体1ヶ月でここにあるのは読み切れますね。」

 

「うげぇ。本気?」

 

「本気です。読書はいいですよ。漢字の読みや意味を知るきっかけにもなりますし、読んだ数だけ五条悟様の危惧してらっしゃる作者の意図を汲み取る問題への対策にもなります。」

 

「なんのかよ?」

 

「なりますよ。·····後、家庭教師、尚且つ1日目で何言ってるんだと思うかもしれませんが、私は作者の意図や気持ちを汲み取る問題の出題には懐疑的なんです。」

 

「それ言っていいのか!家庭教師!」

 

 起きて机に頬杖を付いた五条悟。

 

「文部科学省に怒られてしまいますね。私も学校の授業でよくそのような問題が出ますが、のらりくらりかわしてます。ハッキリ言って意味がわかりません。作者の意図やその時の気持ちなんて、分かるの作者本人だけじゃないですか。それを文部科学省が勝手に決め付けて教科書に載せているのは私的には気分が良いものではありませんね。(いち)読書家として。まぁ、(いち)学生としては間違えようのない問題ですが·····ここで何故私が間違えないか。わかりますか?」

 

「さっき言ってた読んだ数だけってヤツ?」

 

「そうです。当たり前ですが、本の数だけ物語があり、作者の数だけ書き方があります。本を読んでいると、国民的作家の書き方の癖、著名作家の共通点、ベストセラーの理由等、嫌でもなんとなくですが分かってきます。ここには教科書に載ってるような本もありますし、ハッキリ言うと4歳にはまだ早い本もあります。今のうちに知見を深めれば、いつか貴方も本をかけますよ。」

 

「別に書かなくていいなぁ·····」

 

「ここにはないですが、呪術師の書いた本もこの世にはあります。五条家の書庫ともなれば、探せばありそうです。まぁ、世間一般的には陰謀論者の3流ノベル。所謂(いわゆる)オカルト本に分類されてしまっていますが·····さて」

 

 とりあえず部屋の片隅にある本の山から目を逸らし、机の上の漢字ドリルを見る。

 

「まずはこちらから片付けましょうか。」

 

「なぁなぁ。」

 

「·····はい。なんでしょう。」

 

「何時まで居んの?」

 

「逆に聞きますが何時まで居て欲しいですか?」

 

「えっ」

 

 まさかの返答に言葉を詰まらせる。

少し考え込む五条悟。今まで住み込みの家庭教師が居なかった訳じゃないし、大体住み込みは長かった。それでも半月持った人は居なかったが·····

 

「唯って住み込み?」

 

「違いますが、家から自転車で通えるので終電とかは大丈夫ですよ。」

 

「ぁんむぅ〜·····」

 

「何言ってるんですか?」

 

「飯は?」

 

「時間によっては食べていっていいと五条聡様に許可を頂いております。今が·····14時半。ここに着いたのが13時頃ですかね。」

 

「どーしよーかな。」

 

「ちなみに長くても短くても報酬単位は(にち)なので、私としてはどちらでもいいです。好きな時間を選んでください。」

 

 五条悟は勉強が好きでは無い。その不真面目さに心折れ挫折して行った家庭教師も過去に居た。別に父がこの家庭教師に大金を払っているらしい事なんて自分にとっては関係ない事だし、この家庭教師を今すぐ帰しても自分の良心は痛まないだろう。

 しかし、なんというべきか。

 自分は勉強をしたのだ。休憩を挟みながらだが、この家庭教師が五条家の、もっと言えば自分の部屋の敷居を跨いで1時間半経っている。

 

「(なんだかなぁ·····)」

 

「五条悟様、悩むくらいだったら漢字ドリルやりませんか?」

 

「··········まぁ、それもそうか。」

 

 帰って欲しくなったら帰ってもらおう。

 

「さて、まずはこの漢字です。」

 

 唯が漢字ドリルの1ページ目の漢字を指差す。

 

 

『一』

 

 

「帰れよ。」

 

「なんですかいきなり。」

 

「やっぱ舐めてんだろ。」

 

「品定め中です。」

 

「品定めんな。」

 

「じゃあこれはどうですか。」

 

 

『五』

 

 

「もう帰れ。出てけよ。」

 

「いいですけどなんでですか。」

 

「確かに俺まだ漢字あんま得意じゃないけど自分の名前くらい書けんだよ。」

 

「意外ですね。」

 

「殺すぞ。」

 

「安易にそんな言葉使わないでください。御三家ともあろうお方が。それで、私は帰ればいいですか?」

 

「·····いや、まだいい。」

 

「そうですか。じゃあ次これを」

 

 

『天』

 

 

「書ける。」

 

「書き順も大丈夫ですか?」

 

「なんとなく。」

 

「はらいを忘れないように。次はこれを。五条家相伝術式『無下限呪術』の術式反転と同じ読みですね。本家は『赫』なので義務教育では習いません。」

 

「よく知ってんな」

 

 

『赤』

 

 

「··········こう、か?」

 

「ちょっと待ってください。早速書き順が違います。五条悟様は横線の下を先に書いてしまってますね。2画目は横ではなく縦です·····そうすると·····この漢字わかりますか?」

 

 

『土』

 

 

「分かる。」

 

「書いてみてください。」

 

「··········」

 

「·····違いますね。これも2画目は縦です。でも下がしっかり長くかけているのは良いことです。さて、それを踏まえて『赤』を書いてみましょう。」

 

「··········」

 

「どういう思考回路してるんですか·····4画目から7画目、何故左から右に一気に書いたんですか?ぐちゃぐちゃじゃないですか。」

 

「じゃどーすんの。」

 

「『とめ』『はね』『はらい』は分かりますか?」

 

「なんとなく。」

 

「·····そうですか。じゃあゆっくり書きましょうか。とりあえず書き順を覚えましょう。一通り教えますね。1〜3画目は『土』と同じです。でもマス目上部の4分の1か3分の1くらいのイメージで書いてください。サイズ感は慣れです。4画目は中心左下。流れるように、はらいを忘れず書いてください。5画目は中心右下。ちゃんとはねてください。6画目は1番左。ここ注意なんですが、とめではなくはらいです。最後7画目、1番右ですね。ここはとめです。」

 

「ぐぬ·····」

 

「上手く書こうとしなくていいです。今は書き順を覚えましょう。『赤』は1年生にしては書き順も覚えにくいし『とめ』『はね』『はらい』全ての技術を使うので、個人的には小学1年生で1番難しい漢字です。のくせに中途半端な2学期くらいで学びます。3学期の期末とかに出てきて欲しいですよね。」

 

「しらねーよ·····」

 

「なら今知ってください。後で自慢出来ますよ?」

 

「··········」

 

「どうですか?」

 

「なんとか·····覚えた。」

 

「早いですね。」

 

「お生憎様。眼がいいもんで。」

 

「六眼関係あります?」

 

「あるよ」

 

「あるんですか。」

 

「よく『視える』からね。」

 

「六眼って普段もそんなに視えるんですか?良いですね。眼より先に手が肥える事は無いですから。漢字は覚える事も多く小学1年生だけで80文字あるので、ゆっくり覚えましょう。とは言っても他の漢字の基礎的なものが多いので、ここを乗り越えたら義務教育の大体10%くらいは覚えられます。」

 

「少なっ!?」

 

「9年間の10%ですよ。デカいです。まぁ漢字はこのくらいで·····後は読書に充てましょう。」

 

「おっけ」

 

「五条悟様は感受性豊かな方なので·····」

 

「ん?」

 

「え?」

 

「え?」

 

「え?」

 

「··········」

 

「·····豊かな方なので、有名なベストセラーから抑えましょう。最初ですからね。私オススメの芥川龍之介(あくたがわりゅうのすけ):著の短編『羅生門(らしょうもん)』にしましょうか。漢字は全部読み仮名が振ってあるので、読みは大丈夫でしょうが、どうしても意味が分からない所があったら聞いてください。」

 

「こういうのって自分で調べるのが大事とか言わねぇ?」

 

「あぁ··········無駄じゃないですか。すぐそこに聞けるヤツが居るのに。」

 

「今までの家庭教師はそうじゃなかったな」

 

「自分で調べるのが大事。は時と場合によりますからね。今この時この場合は、自分で言うのもなんですが近くに生き字引が居るのに聞かないのは損です。」

 

「そ··········この『ゐ』って何?漢字?」

 

「違いますね。仮名の『い』が昔はこの『ゐ』と書かれていたんです。昔とは言っても最近もですけどね。まだ生きている作家の方で『ゐ』を使ってる方も居ます。」

 

「へー·····」

 

「羅生門は独自の言葉や言い回しが多く、初見だと意味が分からない所が多いと思いますので、分からない所はちゃんと聞いてくださいね。聞くことは恥ずかしい事ではありません。まぁ公然の場だったら萎縮する気持ちは分かりますが、ここには私と五条悟様しか居ないんですし遠慮せず聞いてください。」

 

「·····あのさ」

 

「はい。」

 

「その五条悟様っての、やめない?」

 

「··········はぁ。」

 

「長いだろ。五条は俺だけじゃないし」

 

「それもそうですね。では悟様と」

 

「うい。じゃ続き読むわ」

 

「はい。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、芥川はなんでいきなり『Sentimentalisme(センチメンタリズム)』なんて横文字使い始めたの?」

 

「その時代の流行りみたいなもんです。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜16時30分〜

 

「――――で、なんで下人は強盗に走ったん?」

 

「それ、悟様の嫌う作家の意図って奴ですよ」

 

「マジ?」

 

「はい。でもまぁ個人的見解でいいなら」

 

「いいよ」

 

「恐らく貪欲に生きるのに必死な老婆を見て、自分も貪欲になってしまおうとなったんじゃないですかね。下人は作中にもある通り勇気の矛先が二転三転する方なので。所謂(いわゆる)ヤケクソって奴です。まぁ上手く意識切り替えられた下人はメンタルが強いと思います。」

 

「へぇそう··········」

 

「どうでした?」

 

「···············ん〜·····時代を感じた。」

 

「まぁそんなもんです。4歳の語彙にしては頑張りました。それで大体1時間半くらいですね·····意味聞きながらですから妥当ですか。次どうします?」

 

「任せ〜る。」

 

 読んでいた『羅生門』を畳に放り投げ、後ろに倒れ込む。

 

「人と話してる時は横にならないでください。それに曲がりなりにも勉学に励んでいるんですよ」

 

「少しだけ〜」

 

「··········まぁ気持ちは分かります。羅生門読むと落ち込みますよね。」

 

「まぁね」

 

「次ですけど、同じ芥川龍之介:著の『(はな)』ですかね。あの夏目漱石(なつめそうせき)に激賞を受けたんですよ。」

 

「芥川好きだね〜?」

 

「大文豪ですからね。1800年代末期、1900年代初頭は私の好きな文豪が多いです。」

 

「あっそ。興味ね〜」

 

「1ヶ月もすれば好きになりますよ。」

 

 五条悟はよっこらせ。と言いながら起き上がり、唯から『鼻』を受け取る。

 

「どんな話?」

 

「鼻が大きい人の話です。」

 

「·····そんだけ?」

 

「そうですね。悟様には無縁の話かもしれませんが、コンプレックスを題材にした話でもあります。」

 

「そりゃ楽しそうだ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜17時〜

 

 

「ぶどうみてぇだな」

 

「ぶどう酒の事ですか?」

 

「それそれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんで夏目漱石はこれを激賞したんだよ?」

 

「そればっかりは夏目漱石に聞かないと分かりませんね。大文豪の感性なんてわかるわけないじゃないですか。」

 

「大文豪というかそもそも物書きの気持ちがわからん。」

 

「··········まぁ、2回目にはなりますが、1ヶ月もすれば好きになりますって。幼少期の強い記憶は長く残りますから。」

 

「今遠回しに俺の事餓鬼って言ったか?」

 

「悟様って性格悪いですよね。」

 

「あ゛ぁ゛ん゛!?」

 

「何をどう考えたら幼少期=餓鬼なんですか。餓鬼の語源知ってます?餓鬼道という地獄に落ちた亡者の事ですよ。今は子供を罵る意味だけで使われてますけどね·····悟様、性格悪いっていうか·····被害妄想·····自意識過剰?」

 

「何?」

 

「·························なんでもないです。4歳ならこんなもんですね·····」

 

「なんだよ。」

 

「いえなんでもないです。国語はこの辺りで終えましょうか。宿題ですが、これ次の授業までに読んどいてください。簡単に感想聞かせてくださいね」

 

太宰治(だざいおさむ)か」

 

「知ってるんですか。」

 

「名前だけな」

 

「『人間失格(にんげんしっかく)』。太宰治:著の代名詞ですね。」

 

「どんな話?面白い?」

 

「どんな話かは言えませんが、面白さは保証します。」

 

「あーそぉ·····」

 

「リタイアとかしないでくださいね。ちゃんと最後まで読むようお願いします。」

 

「駄作じゃなきゃな」

 

「なら大丈夫ですね。さて、今の時間が·····19時ですか。次がラストですかね。」

 

 

 

 

〜19時〜

 

 

「次は、理科です。場所を移動しますよ。五条家は色々あって便利ですね。私も教えてて楽しいです。」

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