五条悟の専属家庭教師 作:家庭教師
1994年3月8日
〜13時〜
「悟様、先生がお見えになりました。」
「··········そ」
前回の授業から4日経った。
五条悟は着物に付けていたタスキを外し、女中に渡す。五条家の理科室から出て、自室へと向かう。
部屋の扉を開けると、いつものポーカーフェイスの横顔が見える。
「こんにちは、悟様。今日もお元気そうでなによりでございます。」
「お前許さねぇからな。」
「なんの事ですか?」
五条悟が床の間の前に座る。
会話をしながら唯が茶を入れ、五条悟の前に置く。
「読んだよ。人間失格。」
「そうですか。どうでしたか?」
「誰が4歳に
「ドロドロ愛憎劇なんて言葉よく知ってますね·····嫌がらせではありませんよ。ですが、悪意があった事は認めます。確かに4歳児には早いですよね。太宰治については調べましたか?」
「いいや別に。」
「太宰治自身も1948年、玉川上水で入水自殺をしています。」
「ん?あとがきまで読んだけど、人間失格って太宰治の話じゃないんじゃないの?」
「確かに完全にノンフィクションという訳ではありません。しかし太宰治は作中のような左翼活動、自殺未遂、薬物中毒と多くの経験をしています。人間失格の主人公、
「へぇー··········」
「ちなみに今日は国語から始めようと思うのですが、挑戦課題はしましたか?」
「1日1〜3冊の読書だろ。これだけ読んだ。」
ポスッと五条悟が部屋の隅にある本を7冊机の上に置いた。
「短編が多いですね。芥川龍之介、
「あれもこれもって読んでたら楽しくなってきてな。」
「ちなみに3ー3ー1ですか?3ー2ー2ですか?」
「3ー2ー2だな。人間失格も含めるなら1ー3ー2ー2だ。」
「そうですか。人間失格で印象的なシーンはありましたか?」
「···············」
「悟様?」
「··········ヨシ子が·····その」
「あぁ〜·····無理やり犯されるシーンですか。悟様、そういうの気にするんですね。」
「気にするどころかトラウマだよ。本当にさぁ、何処の誰が恋人が無理やりさせられるシーンのある本を4歳にオススメするんだよ。」
「というか悟様、知ってるんですね。ハッキリ言うと犯す犯されるは分からないまま進めるかと思ってました。」
「まぁ最初は分からなかった。でも人間失格は女遊び?も結構出てきたしな。調べながらやってたら·····って感じ」
「なるほど。精通なんてまだ8年は先ですもんね。性欲という感情を理解出来ない4歳児でも、流石に強姦シーンは来るものがありましたか。」
「まぁ性欲云々は分からんけど、知識としては知ったからな。マジで辛かった。」
「よくリタイアしませんでしたね。私が念押したからですか?」
「それもあるけど、1番は終盤だったからかな。もう残りページが少なかったから、リタイアするより読み切る方が早いし良いと思ってな。その後宮沢賢治で癒された。」
「宮沢賢治は·····『
「宿題は?」
「後はアルコールランプの安全な点火と鎮火でしたね。実験器具のある部屋が遠いので最後に行います。1年生の漢字は大方反復練習です。『赤』は書けるようになりましたか?」
「おう。」
「ではこのノートに書いてください」
『赤』
「んぅ·····」
「なんだよ。」
「まぁいいです。書き順はあってます。よく頑張りました。」
『赤』に花丸を付けて唯がパチパチパチと小さく拍手する。
それに対し五条悟は複雑な顔をする。
「なんですか。」
「下手って思ってるだろ。」
「思ってます。」
「正直だな。」
「悪い事じゃありません。漢字の書き始めなんてこんなもんですよ。」
「お前はどうなんだよ。」
「私ですか·····」
『赤』
「·····上手いな」
「最初も言いましたが得意でも苦手でもないのでそう言われると困りますね。あ、今日は悟様にプレゼントがあります。」
「ろくなもんじゃねぇだろ。」
「小学1年生で習う漢字ポスターです。学年別に1年生から3年生まで、部屋用3枚、風呂用3枚持ってきました。」
「ろくなもんじゃなかった。てか風呂?」
「はい。風呂入ってる時も有効活用できるように。個人的なやり方ですし、科学的根拠は1mmもありませんが、風呂入ってる時が1番冴えてる気がしませんか?」
「·····そうかぁ?」
「風呂入ってる時というか、濡れてる時ですかね。私はこの方法で元素記号を全て覚えました。」
「全て?」
「全て。」
「70番は?」
「イッテルビウムです。」
「·····俺がそもそも知らねぇや。」
「ポンコツが。」
「は?」
「漢字ドリルを進めましょうか。小学1年生で習う漢字を左上から右下にかけてすべて書いてみてください。書き順を覚える事から始めましょう。間違えていたら指摘するので、まずは見て学んでください。」
「見て学んだ後は?」
「見ずに漢字を指定するので、書いてもらいます。あんまり上を見過ぎると首が痛くなるので、下を見てください。まずは
「わかったよ·····」
『青』
『雨』
『音』
『空』
〜14時30分〜
「これで全部ですね。よく出来ました。」
「書き順直されながらだけどな·····何回直された事か·····」
「間違えた時自動的に罰を与えてくれる人形でもあれば教えるのが楽なんですけどねぇ·····」
「教えられる方はたまったもんじゃないな。」
「そうですね。かなりキツいと思います。見て直してて、特に3回以上書き順を間違えた漢字をピックアップしました。」
『金』
『王』
『中』
『空』
『校』
『車』
「こんなもんですね。まずは『金』。この漢字の『
『王』
「そして『金』の5画目は中央縦線です。更に注意です。ここで下線ではなく、6画目左テン、7画目右テンの順番に書き、最後8画目〆が下線です。」
『金』
「はい完成です。やってみてください。」
『王』
「いいですね。次は『金』を書いてみましょう。」
『金』
「よく書けました。書き順も合ってますね。次は『中』です。これは初歩的な間違いですが、2画目の横→縦線を区切らずに1画で書いてください。」
「これムズいんだよ。」
「慣れですよ。1画で直角に曲がるので初の感触でしょうが、『中』で慣れると後々楽ですよ。次、『空』です。間違われやすいですが、これはウ
「ぐ··········」
「悪い癖です。こればっかりは生まれながらの癖なので、ゆっくり直して行きましょう。次は『校』です。『木』が書けていたので、応用の『校』も書けると思ったのですが、『交』の部分が書けてませんね。」
『交』
「てかその漢字習ってなくね?」
「えぇ。左側の『木』は1年生で習いますが、右側の『交』は2年生で学びます。なのに、それを合わせた『校』は1年生で習います。正直習う順番がおかしいです。『交』のような簡単な漢字が2年生で、『校』のような応用漢字が1年生で習う·····冷静に考えるとおかしな話ですよね。」
「確かに。」
「まぁ習ってないものは仕方ないので、『交』の部分を教えましょう。少し早いですが、『交』の書き順を教えましょう。書いてみてください。」
「··········」
『交』
「はい違います。やっぱ2画目の癖強いですね。まぁ『校』を間違えている時点で分かっていましたが。」
「んで書かせたんだよ。」
「教えます。1、2画目は合ってますね。3、4画目も合ってます。ただ5画目は左上から右下のはらいではなく、右上から左下のはらいです。悟様、漢字はすべて左から始まると思ってませんか?」
「大概そうだろ。」
「大概そうですが、『すべて』ではありません。今回のように似ていても左右別に始まるパターンもあります。」
「どう覚えればいい?」
「そうですねぇ··········今回の場合一筆書きのイメージです。『交』の4画目が終わってから、5画目までは一筆書きでバッテンを書くイメージです。やってみてください。」
『交』
「まぁ良いですね。『木』を入れて『校』を書いてみましょう。」
『校』
「良くかけてますね。花丸満点です。最後に『車』です。ものすっごい気になったのですが、2画目は中央の左線です。決して縦線ではありません。縦線を書くのは7画目。最後です。『車』は『
『車』
「上手·····く書くとこんな感じです。」
「何言葉に詰まってんだよ。」
「自分で上手いって言うの照れますね。悟様がさっき上手いと言ってくれたので、下手ですがと言うのも違うなと思いまして。」
「あっそ。」
「さて、『車』ですが、ハッキリ言うと3画目の横→縦線と、最後の縦線だけ気を付ければそう難しい漢字ではありません。それを踏まえて、もう一度書いてみてください。」
『車』
「ここまで来て言うのもなんですが、悟様は一筆書きが好きですね。」
「お前『交』の時一筆書きって言ってたろ。」
「『今回の場合』『イメージ』とも言いましたよ。それに言う前から一筆書きだったじゃないですか。後で反復練習する時はしっかり《とめ》《はね》《はらい》を意識して書いてくださいね。間違えていた漢字はこのぐらいですね。次は読書です。今回は人気急上昇中の人気作家
「11文字?」
「『
「え、犯人マジかよ·····」
「意外ですよね。」
〜15時30分〜
「後味が·····悪い。」
「感想が薄っぺらいですね。」
「うっせ。このジャンルは初めてなんだよ。」
「確かに·····悟様の読んだ7冊の中に推理サスペンスはありませんね。」
「肌に合わなくてな。推理系はどうにも好きになれねぇ。」
「そうですか·····面白かったですか?」
「面白いかどうかでいったら、70点って所かな。」
「面白いかどうかで言わないタイプですか·····」
「でも楽しくなってきた。」
「何がですか?」
「読書。」
「それは良かったです。」
「·····なんでだろ。」
「秘密です。『11文字の殺人』はこのくらいですかね。」
「さて、次の教科に移りましょう。2時間目は音楽です。」