個性『滅尽龍』のヴィラン 作:玉ネギのソテー
よろしくお願いします
破壊、蹂躙。
そのようにしか表すことの出来ない地獄がそこに広がっていた。
保須市の市中は、突如現れたヴィランによって火の海となった。
そんな中、遠目でもわかるほどの異様な存在感を放つヴィランが一体。
四足歩行の黒い獣、または龍の如き怪物。
巨大なその怪物は時折何かを探すように鼻を鳴らし、見つけたヒーローや一般人を見境なく食い殺してゆく。
共に現れた三体の脳みそが剥き出しのヴィランも、そのうちの一体がすでに怪物に食い殺された。
怪物に生え揃った棘は、炎を反射して〝金剛のように〟輝いていた。
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数日前
職場体験を数日後に控えた緑谷の前に、見覚えのある人影が見えた。
ベンチに座り込んだ黒いパーカーの人物、しかしその隙間から白い髪と褐色の肌が見え隠れしている。
(……っ、アレって──)
「……お前、ちょっと前に会っただろ」
緑谷が立ち去ろうとしたその時、相手の方から声がかかった。
自分じゃないことを信じて背を向けたまま立ち去ろうとしたが、緑谷は首根っこを掴まれて止められる。
少女は鼻を鳴らして緑谷の匂いを嗅ぐ、そして
「お前さ、オールマイトに何かしら縁があるだろ?」
「っえ?いや、そんなわけないじゃ──」
「ウソ吐くなよ、匂いでわかるぞ。アイツと同じ匂いがする……、オレは黒神ネルだ。お前は?」
「……緑谷、出久」
「そうか。んじゃあ、どうせお互いに何も出来ねェんだからさ、少し駄弁ろうぜ」
「何も出来なくなんて──」
「免許がないお前ができんのなんて通報くらいだろ。ヒーローに貢献したいなら、少しでもオレと話して情報とか持ち帰った方がいいだろ?お前が上手く話せばオレも口が緩むかもな」
その誘いに意を決して首を縦に振った緑谷を、黒神は先ほどまで自らが座っていたベンチの、自分の隣に緑谷を座らせると自らは立ち上がって自販機の方へと歩いて行く。
「ほらよ、これ飲めるよな?」
黒神は緑谷に缶コーヒーを投げ渡す。
しかし、彼女は自身の分を持っていなかった。
「……あ?オレの分?コーヒー空きっ腹に突っ込んだらマズいだろ」
そこからしばらく、二人は最近は気温の高低差が激しいだとか、この前雨に降られて服がびしょ濡れになったとか他愛のない会話を続けた。
そんな時、ネルの腹の虫が大きく鳴る。
しばらくの沈黙の後
「……お腹、減ってるの?」
「──うるせぇ」
「そういえば、同い年だよね」
「……たぶん17だ」
「家族は、どこに?」
「オレが喰った」
その返答に緑谷は目を見開く。
実の家族、両親二人を食らったという事実を、彼女は事もなげに言い放った。
「ど、どうして?」
「イラついた、んで腹減った」
「そ、そんな理由で?」
「そんな理由って……、あぁそうか、まだ話してなかったな。オレは人食わなきゃ餓死すンだよ。正確には人の個性だな。人間丸々一人食ってその個性を食わねェといつか飢え死ぬ」
「それで、お父さんとお母さんを……?」
「おうよ、殴られたから食い殺した。あー、なんだっけ?アレだよ、正当防衛ってヤツだ」
「……それは正当防衛にはならないと思うよ」
「ハハハっ!んじゃあアレが初めての殺人だな!年齢一桁で四人殺してるって、オレ天才じゃねェか?……んで、他に何が聞きたい?」
彼女の、縦に裂けた瞳孔を持つ猫のような金色の瞳が緑谷を見透かすように細めて向けられる。
「どこまで聞いていい?」
「なんでも聞けよ、どうせ暇だしな」
黒神は眠そうに欠伸をしながらそう答えた。
「……ヴィラン連合との関係は?」
「協力関係。オレが暴れられる舞台とそのためのメシを用意すんのがアイツら、ンで存分に暴れんのがオレだ」
「君の個性は?」
「お前も見たろ?個性を食って、それを燃料にして暴れる異形型と発動型の半々みてェな個性だ。……言っとくが、アレがフルパワーじゃねぇからな。オレの全力はあんなもんじゃねぇ、リベンジマッチを待ってろってオールマイトに伝えろ」
「あ、うん。……君は、どうして戦うの?」
「──楽しいからに決まってンだろ。殴って、殴り返されるだけの命のやり取り、あれ以上に楽しいことなんてこの世にねェよ」
その時、黒神の電話が鳴り響く。
緑谷から少し離れた黒神は、電話の相手と話しながらUSJで見たような獰猛な笑みを浮かべた。
「……悪いな、用事が出来た。また会おうぜ」
そう言って黒神は人混みの中に消えていった。
緑谷がその出来事をオールマイトへ連絡すると、雄英の教師数人とオールマイトが集められた場でそれを話す事になった。緑谷から聞いた全員の内、相澤消太が無言で席を立った。
「名前を聞いても思い出せなかったが、黒神という名字は聞いたことがあった。覚えていないか?5年前の怪事件を」
席を立った相澤が持ってきたのは一つのファイル。
『黒神一家惨殺事件についての調査書(旧:虐待疑惑のある家族についての調査書)』
と書かれた無地の表紙を捲る。
初めのページには事件の詳細が書かれていた。
《xxxx/04/01に発生した事件。黒神家の母親と父親、そして〝次男と三男〟の四人が何者かによって殺害され、長女が行方不明になった。
以下、人物名。
父:黒神棘人。母:黒神永理。長女:黒神寧。次男:黒神永徳。三男:黒神尖棘
上記のうち死体で発見された四名の遺体には、食い荒らされたような傷が残されており、遺体は個人の特定が難航するほど損壊していた。》
相澤はそれを見せた上で話す。
「この時間は5年前に起こり、最初は長女に手を出そうとした犯人が長女の家族を惨殺したと見て捜査を続けていた。しかし、長女を目撃した人間が多数、そして犯人が長女である可能性、つまりは未成年犯罪の可能性が浮き彫りになってからしばらくしてこの事件の捜査は不自然に打ち切られた」
「相澤君、それは……」
「そう、理由はこの家庭にある。元から虐待の疑惑があった家庭である以上、これが正当防衛だった可能性もあり、しかしそれを立証できる存在もなく、この事件は被害者が誰なのかすらわからない事件と化した」
それを聞いて、周囲の全員が黙り込む。
その中で、校長が口を開く。
「緑谷くん、彼女ともう一度話すことは可能かい?」
「っ校長!」
相澤の静止にも止まることなく、校長は話を続ける。
「当時警察と雄英の間で、彼女を雄英で保護できないかという議題があったのさ。結局彼女を発見できなくて霧散した話だったんだけど、もしかしたらがあると思う。だから話をして欲しい、そして彼女にその意思があるなら、雄英で彼女を保護したい。僕はそう思うのさ」
「しかし、緑谷との会話を聞く限り、彼女の性質は好戦的で殺人を罪と思わない、もはや戻ることなど……」
「まだそうと決まったわけじゃないさ、相澤くん。とにかく、もう一度会った時には提案をしてみてほしい」
緑谷はそれに頷き、その場は解散となった。
緑谷が保須市にて、爆炎の中で黒神と再開することとなるのは数日後の話であった。