個性『滅尽龍』のヴィラン 作:玉ネギのソテー
「私、尊敬してます、ネルギガンテさんのこと!教えてよ、アナタの話!」
黒神がヴィラン連合のアジトに到着した直後、そう言って黒神へ詰め寄ってきた同い年の少女に黒神はたじろいだ。
「あー、えっと?オマエ誰だ?」
「トガです!渡我被身子!」
「んで?なんでオレなんだ?」
「我慢しない、好きなように!私もそうなりたいです!」
「……勝手になりゃいいだろ」
やはり最初に詰め寄ってきた印象からか、一歩引いた対応をする黒神に、見かねた黒霧が口を挟む。
「彼女はあなたのファンだそうです。……ヴィラン連合の勢力拡大のためにも、少しファンサービスというものをしてみてはいかがですか?」
「はぁ?ンなことなんでオレが……?──わかったからちょっと待て」
黒神は自身のパーカーの袖を捲る。
すると、顕になった彼女の腕が黒い甲殻に覆われ、そこから黒い棘が伸びる。
黒神はそれを自ら手折るとトガに差し出す。
「ほら、お守りにでもしとけよ」
「…!ありがとうございます、大切にするね!」
「……勝手にしろ」
「はい!」
パーソナルスペースが広い黒神と、反対に狭いトガはお互いに絶妙な距離感で会話を続けている。
それを見た黒霧は、つい口走ってしまった。
「まるで、姉妹のようですね」
瞬間、黒神の手元からバキリと破壊的な音が響いた。
見れば彼女の右手が先ほどのように黒い甲殻に覆われ、尖った爪がバーカウンターにめり込んでいる。
「──コイツ自身が言うならまだしも、テメェが雑な事抜かしてんじゃねェよクソが……、次はその首掻き切るからな。──オレは寝る、なんかあったら起こせ」
そう言うと黒神は、通りすがりにトガへ驚かせたことを軽く謝罪すると部屋の一番隅に獣のように丸まって目を瞑った。
彼女の豹変した様子に困惑するトガに、黒霧が語る。
「……彼女は、兄弟を亡くしています」
「……」
「理由は……」
「話したきゃ勝手にしろ」
言い淀んだ黒霧に、まだ眠れてはいなかった黒神がぶっきらぼうに言い放つ。
「……彼女自身による殺害です。しかし、殺害に至ったのは、家族による彼女の個性への不理解。」
自分が話し始めたが、本当に話していいのか?それを聞くように黒霧は黒神に視線を送る。
自らへ送られる視線を感じた黒神は相変わらず不機嫌そうな──苛立ちを抑え込みながら無理やり眠ろうとするような──仕草をしながら、翼をと尻尾を生やしてその体を覆った。
「……個性を喰らい傷の再生のためのエネルギーとする彼女の個性は、ある時点を境に細胞の一つ一つまでもを再生させる個性となり、常にエネルギーを消費し続ける体となりました。しかし、彼女の家族は彼女が訴える空腹を無視し続け、死と隣り合わせの極限の空腹状態となった彼女は……」
黒霧はその目を少し悲しげに細めた。
「二日間その空腹に耐え続けたのちに一番近くにいた個性を持つ人間、弟二人を食い殺してしまったそうです。──彼女曰く、食事をしている感覚などなく、本能に突き動かされ気がつけば……と、ですから、今回は不用意にあのような発言をした私の失態です。普段は、優しい人物ですから、どうか避けないでいて欲しい」
「……そうなんですね。ねぇネルさん」
「……なんだ?」
「姉さんって、呼んでいいですか?」
「……あ?」
ギロリの鋭い目つきで顔を上げた黒神にトガは笑顔で応える。
あからさまに不機嫌度が増した黒神に黒霧がどうするべきかと戸惑っているとトガが
「私も、家族に個性を理解してもらえませんでした。あなたと同じ、それに憧れの人ともっと仲良くなりたい……だから、家族。ダメです?」
そう言ったトガを見て、少しの間黒神は黙って考えた。
義姉妹、その響きは彼女にとって、空いた心の穴を埋めてくれるかもしれない暁光のように感じると同時に、過去に殺してしまった弟たちを裏切る行為のようにも思えた。
そうして、考えた末に彼女は
「──わかった。次は食わねぇ、信じてくれ」
そう言って、受け入れた。
『血の温もりよりも温かいものがある』
いつかのどこかで言われたその言葉を頭の隅で思い出した。
思い出したからこそ、それを──弟たちとの間に感じていたようなそれを──彼女は初めて自ら欲したのだった。