ペルソナ5 The My Star   作:アカトンボ

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さてさて、とうとう十話までやってきました。
ここまで読んでくださってる皆様、ありがとうございます。


第十話 怪盗お願いチャンネル

 明智にコーヒーを振る舞ったその深夜。

 蓮は群青色に染まった部屋、ベルベットルームにて目を覚ます。どうやらイゴールとラヴェンツァに呼ばれたようで、蓮は怪盗服になっているのを確認し、既に空いている牢から出て両肘を机に立てながら座っているイゴールの元に参じる。

 すると、イゴールが蓮に拍手をしながら言った。

 

「フフフ、素晴らしい。貴方は以前お仲間だった方を救い、さらに憤怒にまとった者を撃ち倒した」

「流石は私の認めたトリックスターです。貴方は破滅への道を見事に遠ざけています」

「大変結構」

 

 どうやら賞賛の言葉を送ろうとして蓮を呼んだようだ。いや、この2人がベルベットルームに呼ぶ理由はそれだけではないだろう。蓮はそう思い、とりあえずありがとうと礼を言ってイゴール達からの言葉を待つことにした。

 

「さて、本題に入ると致しましょう。既にお気付きになられているやもしれませんが、どうやら貴方の迷い込んだ世界にもパレスやメメントスを利用する者がおられるよう……」

「私達はそれを忠告しに貴方をベルベットルームへとお呼びしました。その者は、先日貴方が戦った憤怒にまとった者よりもはるかに凌ぐ力を持っています。どうか合間見える事があればご注意ください」

 

 もちろん蓮も承知の上ではあるが、その廃人化を起こしている犯人がどんな奴なのかを蓮は知りたがっていた。蓮は2人は犯人を知らないのか?とダメ元で訊く。

 すると、ラヴェンツァは渋い顔をして首を横に振る。

 

「…それが私も主にも分からないのです。おそらく犯人の後ろにいる――貴方をこの世界に閉じ込めた者は我々よりも上位の存在でしょう…その者が廃人化の犯人に手を貸している事は私でも分かるのですが……」

 

 どうやら蓮達はとんでもない存在を敵に回したらしい。あのイゴールでさえわからないとなると不安の衝動に駆られそうではあるが、この程度のことで蓮の心は折れる事はなかった。以前の仲間達と色んな困難を乗り越えてきたからこそ、蓮には諦めるという選択肢はない。

 蓮の返答を聞いたラヴェンツァは笑顔になって言った。

 

「貴方が諦めないのであれば、私も諦めません。私達も全力で貴方を支えます」

 

 ベルベットルームにサイレンが鳴り響く。そろそろ起きる時間のようだ。

 

「これ以上のお引き止めは出来ますまい。では、また合間見える時までごきげんよう…」

 

 ○○○○○○

 

 4月18日、火曜日。

 昼休みに陽東高校にて様々な新聞社や、テレビ局のマスコミが取材に来ていた。どこから嗅ぎつけたのか、昨日、反谷孝志が自ら警察を呼び逮捕されたことについて詳しく取材したいとのことだった。流石に芸能科の生徒に取材すると、通っている女優や俳優が何処の学校か特定されてしまう可能性があるため、普通科の生徒限定にインタビューされた。蓮にも記者の人にインタビューをお願いされたが、目立つ事はしたくないので彼は丁重にお断りした。

 おそらく、今日の夕方にはニュースで報道されることになるだろう。

 

 

 そして時刻は夕方。案の定、『陽東の教頭に一体何が?』というタイトルでニュースが流れた。普通科の生徒達がそれぞれインタビューに答えており、「自分も進路先について恐喝された」「目が合うとすぐに説教されて嫌だった」「学校生活が平和になって良かった」と生徒達からの安堵の声が取り上げられていた。それともう一つ、反谷が改心したきっかけの理由に怪盗団の予告状が取り上げられており、ちょっとした話題になっている。

 このニュースを自宅で見ていた星野ルビーに綺麗な女性が声をかける。

 

「あの制服…ルビー達の学校よね? あなた達は教頭に何かされたりしなかった?」

「私は何も無かったよ? アクアも多分関わりなかったと思う」

「そう。それならよかったわ」

 

 ルビーもアクアも巻き込まれていないと知り、ホッと胸を撫で下ろしている彼女の名前は斎藤ミヤコ。芸能事務所の苺プロダクションの代表取締役であり、人気アイドルだった星野アイの元マネージャーでもあった。しかし、星野アイが十数年前ストーカーに殺害されて以降、苺プロの元社長だった斎藤壱護が失踪してしまい、今は彼女が社長を引き継いでいる。先述の事件もあってアクアとルビーの母親代わりもしており、まさに聖人と言っても過言ではない人物である。

 

 ミヤコはアクアとルビーの部屋のある上の回に目を向けた。

 

「最近のアクアは帰って来るなり部屋に篭ってるけど…どうしたのかしらね」

「まさか怪盗団に改心させられたとか?」

「ルビーまでそんな事言わない。怪盗団なんているわけないでしょ? きっと誰かの悪戯よ」

「ミヤコさんは夢が無いな〜」

 

 

 場所は変わってアクアの部屋。アクアは必死にノートパソコンをカタカタとタイピングしており、何かの作業をしていた。やがて、タイピングも終わり、アクアは一息を吐く。

 

「やっと出来た…」

 

 アクアのノートパソコンの画面上には、『怪盗お願いチャンネル』と書かれた赤く染まったサイトが映っている。ルビーが持っていた怪盗団の予告状をスマホで撮り、それを参考にしてデザインもそのままにした。あとはエンターキーを押せば世間に出される。

 

(怪盗団…もしもそんな連中がいるなら…使えるかもしれない)

 

 そう、アクアは怪盗団を利用する気でいた。アクアはアイが殺害された時、アイがいないならこんな世界はもういいと自殺をしようと思っていたが、アイとの相手――すなわち父親に復讐するまでは死ねないと心に誓った。もし人の心が盗めるというなら、アイを殺した父親を見つけ出す鍵になるかもしれない。アクアは自分でもいるのかわからない存在に、藁に縋る思いでこのサイトを作ることにしたのだ。

 

(俺は使えるものは全て使う。だから――)

 

 アクアは怪盗団という謎めいた存在に賭け、エンターキーを押す。すると怪盗お願いチャンネルというサイトが立ち上げられた。

 

 ○○○○○○

 

 

 4月19日、水曜日。朝。

 蓮は陽東高校に着き、靴から上履きに履き替える。教室に行く道中で、何やら生徒達が盛り上がっているのを見る。未だに怪盗団の話題の持ちきりのようで、今日は特に目立つ。すると、気になるワードが蓮の小耳に挟む。元の世界で三島の作った怪盗お願いチャンネルがどうやらこの世界にも出来たようである。蓮も急いでスマホを取り出して調べてみると、確かに怪盗お願いチャンネルがあった。それだけではなく、『あなたは心の怪盗団を信じますか?』とアンケートが表示されていた。もしかしたらこの世界でも三島がいるのだろうかと蓮は考える。

 

「いつまでもそんな所に立ってると遅刻するぞ?」

 

 振り向くとアクアがおり、蓮はおはようと挨拶をする。

 

「…おはよう。早く教室に行くぞ」

 

 考えるのは後にして、蓮は教室へと向かうのだった。

 

 

 

 昼休み。

 今日も怪盗団のアジトである屋上に、蓮はモルガナと二人で貴美子の作ってくれた弁当の入った鞄を持って向かう。当然明智とも待ち合わせをしており、今日は来られるのか心配である。

 そんなことを思いながら屋上に着くと、まだ明智は来ておらず、今のところ蓮とモルガナだけだ。

 

「アケチのヤツまた捕まってんじゃねーだろな。チャット見てみろよ」

 

 もしかしたら明智からチャットが来ているかと思い、スマホを取り出すとそれと同時に屋上の扉が開くと、明智の姿があった。しかし、明智の表情はなんだか申し訳なさそうにしているみたいだった。

 

「や、やあ……」

「雨宮くん、やっほ〜!」

「ご、ごめんな? 急に来て…あ、ほんまに猫ちゃんおる」

 

 なんと、ルビーとみなみまで一緒にいた。事情を訊くと、ちょうど二人も屋上で食べようと思っていたそうで、それで明智について来たとのことらしい。本当は明智とモルガナで、いつの間にか出来ていた怪盗お願いチャンネルについて話そうかと思っていたのだが……。

 すると、モルガナは呆れたように明智に言った。

 

「なんで一緒に来させたんだよ…コトブキってヤツにもワガハイのこと見られたじゃねえか」

「仕方ないだろ……勝手について来たんだ」

 

 そもそもルビーもみなみも元々屋上に来ようと思っていたそうなので、別に明智と鉢合わせなくても今頃来たと思えばどっちにしろどうしようもなかったような気もする。当のルビーとみなみはモルガナの方に近寄ると、興味深そうに見ていた。

 

「モルガナって言うんだよね? 可愛いな〜」

「気安く触んじゃ――にゃふ、ふにゃぁぁぁ…」

 

 モルガナはルビーに頭や顎の下を撫でられて気持ち良さそうにしている。

 

「毛並みが最高で気持ち良い! みなみちゃんも触ってみなよ!」

「え? あの……」

 

 みなみがこちらに目を向ける。きっと触ってもいいのか?という目線なのだろう。蓮はみなみの気持ちを汲み取り、どうぞと許可を出した。

 

「じ、じゃあお言葉に甘えてっ…!」

「ま、待てっておい! ワガハイを撫でていいのはニャフぅぅ〜…」

 

 みなみもモルガナを撫で回し、モルガナはされるがままになっている。モルガナは触り心地が凄く良いため、ルビー達が撫でたくなる気持ちもわかる。

 そんな中、今度は明智が呆れた目で見ており、ルビーとみなみには聞こえないような声で毒を吐いた。

 

「…バカ軍団かよ」

 

 その時、また屋上のドアが開いて誰かが入ってくる。なんと今度はアクアだった。アクアは今のこのカオスな状況にも関わらず、ポーカーフェイスを保っているが、ちょっとは動揺していた。

 

「なんだこの状況は…」

「あ、アクア待ってたよ。アクアと仲良くしてくれるの雨宮くんくらいなんだから、見捨てられる前に親睦を深めないと!」

 

 どうやらアクアを呼んだのはルビーだったようだ。蓮は別にアクアを見捨てたりはしないが、それにしても兄に対して失礼なのはいつものことらしい。

 蓮達は早速、それぞれお弁当を出して食べることにした。

 

「うわ、雨宮くん凄いね…何そのお弁当…」

 

 貴美子が用意してくれたお節に使うような二段式弁当箱を見て、少し驚いているルビーに蓮は成長期だと真顔で言う。すると、みなみが困惑気味に返した。

 

「そ、そういう問題やなくない?」

「…やっぱり蓮って変わってるな」

 

 ちなみにモルガナにも手伝って貰っているので、今のところ残したことはない。今思えば、すみれは蓮の弁当箱以上の量を平らげていたので自分もまだまだと思う蓮だった。

 それにしても元の世界の仲間達は一体どうしているのか気になってくる……この世界に迷い込んで十日になったが、今頃自分達を捜していたりするのだろうか――蓮が仲間の事について考えていると、ルビーが思い出したように言った。

 

「そういえばさ、怪盗お願いチャンネルっていうのが出来てるんだけど皆これどう思う?」

 

 ルビーが自分のスマホを蓮達に見せる。画面には朝見た通り『あなたは心の怪盗団を信じますか?』とアンケートされていた。どうやら書き込みも出来るようで、既に何人かに掲示板に色々書かかれている。蓮達もスマホを取り出して怪盗お願いチャンネルのサイトを見ることにした。コメントの内容はどれも怪盗団を信じていない声が多く、アンケートの方もYESと答えているのは5%ほどしかない。

 

「まさかこんなサイトが出来ているなんてね。多分だけど、怪盗団のファン辺りがこれを立ち上げたんだろう」

 

 蓮も物好きな奴がいるものだ、と明智に続く。とは言ったものの『怪チャン』がこの世界でも出て来たことによって、怪盗団の活動の幅を広げられるのだ。ターゲットも怪チャンを見て決められるし、怪盗団の自分にとっては非常に助かる。またメメントスにいる様々な小悪人のシャドウを成敗していけば、自ずと怪盗団の名前も大衆に認知されることだろう。

 

「明智さんは怪盗団についてどう思う? やっぱりいると思う?」

 

 ルビーに話を振られた明智は、少し考え込むとにこやかに返した。

 

「いたら面白いなとは思ってるよ。これでも僕、サンタクロースとかいたらいいのにって未だに時々考えるからさ」

「へぇ〜、明智さんって現実主義者だと思ってたからちょっと意外かも…」

「明智も年相応なところがあるんだな」

 

 2人とも騙されてるぞと蓮はモルガナと一緒に星野兄妹に心の中でツッコむ。明智の本性を知ったらどんな反応をするか気になるところではあるが、今は怪盗お願いチャンネルの話題に専念することにした。

 

「…掲示板に書き込んだら悩み事とか解決してくれるんやろか?」

「みなみちゃん何か悩んでることあるの?」

「うん…ちょっと…」

 

 言いにくそうにしているみなみにルビーは友達として心配になり、事情を訊いた。

 

「もしよかったら話してみて。ほら、ちょうど探偵だっているし!」

 

 そう言いながら明智に目線を向けるルビー。悩みがあり歯切れの悪いみなみに対し、蓮も話せば楽になると言った。すると、みなみは意を決して話し始める。

 

「実は最近……誰かに付けられてる気がするんよ。学校や仕事の帰り道とかに視線感じるし…」

「それってストーカー…? みなみちゃん大丈夫なの!?」

「今のところは…うちの気のせいかもしれへんし…」

 

 そうは言ってはいるが、みなみは顔を青ざめており、体も震わせている。蓮は早速怪盗団としてなんとかしてやりたいのだが、ストーカーの実名がわからないと改心のしようがない――。

 

「寿さん、警察には相談したかい?」

「……大ごとにしたくないから警察には言わないでって事務所から」

「なにそれ! みなみちゃんがどうなっても良いって言うの!? みなみちゃんがもしマ――」

「落ち着け、ルビー」

 

 取り乱している様子のルビーを抑えるアクア。すると、ルビーは深く呼吸をして落ち着きを取り戻す。

 

「ルビーちゃん、ありがとうなぁ。うちのためにそんなに怒ってくれて」

「当たり前だよ! だって、みなみちゃんまでああなったら私……」

「…寿、一応そのサイトに書き込んでみたらどうだ? 怪盗団が解決してくれるかもしれないぞ」

「え? んー…ほなやってみる」

 

 アクアに言われて、みなみは怪チャンにストーカーのことを書き込む。それを見ていた蓮は、名前はわかる?とみなみに訊こうとしたが思い留まりやめる。さっき彼女は誰かに付けられてると言ったのだ。当然名前など訊いても出てくるはずもないだろう。怪盗団として解決してやりたいのはやまやまだが、ターゲットの名前がわからないと改心どころではない。名前を判明させることが出来れば後はなんとかなるのだが……。

 明智も同じ事を思っているようで、蓮と目が合う。考えが通じてお互いがうなずき、明智はみなみのストーカー問題解決に協力を申し出る。

 

「寿さん、もしよかったら僕と蓮が協力するよ」

「え?」

「これでも探偵だし、蓮も僕の助手みたいなものだからさ。どうかな?」

「アケチよく言ったぜ! それでこそ怪盗団だ!」

 

 いつの間にか助手にされてしまったが、話を合わせるために蓮はどんとこいとみなみを安心させるように言った。困っている人がいたら見過ごせない――それが蓮達怪盗団である。

 

「で、でも……」

「みなみちゃん、私もアクアも手伝うよ! ね、お兄ちゃん!」

「…ああ、ルビーにも被害が出るかもしれないからな」

 

 一見、シスコンにしか見えない発言だが蓮には最もらしい言い訳をしているように思えた。しかし、ルビーとアクアまで協力すると言ったのは蓮達も予想外では無かったが、ストーカーを取り押さえるのに人数は多いに越したことがないので、まあなんとかなるだろう。

 

 〜〜〜

 

 

 そして放課後。蓮達はみなみのストーカーを捕まえるべく、作戦通りに行動を実行した。まずはルビーとみなみで一緒になってセンター街を歩き、その後ろから蓮、明智、モルガナ、アクアの3人と1匹で遠くから様子を見る。もしストーカーらしき人物を蓮達が発見したら、アクアがルビーのスマホに着信をかけてみなみから一旦離れさせ、みなみが1人になった時にストーカーが手を出そうとした瞬間、蓮達が後ろから総攻撃……ではなく、取り押さえる作戦である。

 見方を変えれば蓮達がルビーとみなみのストーカーに見えてしまうため、できるだけ怪しまれそうにないよう距離を置いている。

 

「おい、あいつなんだか怪しくないか?」

 

 モルガナに言われた方に目線を向ける蓮と明智。すると、小太りの男がみなみ達を付けているのを見かける。どうやら蓮達には気付いていないようで、ストーカーの目はみなみしか見えていないらしい。

 

「わかりやすいね。星野くん、早くルビーさんに合図だ」

「ああ」

 

 

 クレープ屋近くでアクアから着信が入ったことに気づくルビー。みなみに目配せをして、そのまま二人はラーメンくらいしの前に止まった。

 ルビーは近くにいるであろうストーカーに聞こえるような声でみなみに言った。

 

「ごめんみなみちゃん! 私忘れ物しちゃったみたい…ちょっとここで待ってて!」

「う、うん。気ぃつけてな」

 

 ルビーがこの場から去ってみなみ1人となる。すると、みなみの後ろから足音が近づいてくると同時に声をかけられた。

 

「ぐふひぃ〜、やっと二人きりになれたねぇ、みなみちゃぁ〜ん」

「ひっ…!」

 

 気持ちの悪い笑みを浮かべながら、近寄ってくる男にみなみは小さな悲鳴を上げて後ずさる。学校や仕事帰りに付けられていたのは気のせいではなく、やはりストーカーがいたのだ。みなみはこれまでこの男につけられていたと思うと体が震えてきてしまう。

 

「俺、桑原(くわばら)(まこと)って言うんだぁ〜、ひと目見た時から好きになっちゃったんだよぉ〜。今からみなみちゃんの家に行っていい? うひ、いいよねぇ?」

「や、やめて!」

「うひへぇ〜、優しくするから大丈夫だっ――」

「そこまでだ」

 

 ストーカー男の手がみなみに触れようとしていた瞬間、男の後ろから声がかかった。男が振り向いた先にいたのは明智とルビーの2人(・・)であった。

 

「おめぇ…探偵王子の…こうなったらッ!」

「きゃあっ!」

 

 男はみなみの腕を無理矢理掴んで、ポケットからカッターナイフを取り出して、刃をみなみの喉に向けた。

 

「汚い手でみなみちゃんに触らないでよ! 早くみなみちゃんを離しなさい!」

「黙れ! まさかおめぇもグルだったとは…俺はこれからみなみちゃんとデートするんだから邪魔すんなぁぁぁ!!」

 

 口と行動が合っていないことに呆れる明智。今まさに好きな人を傷付けようとしているのが、この男にはわかっていないのか。こういう状態の奴には何を言っても無駄なのを悟った明智は、路地の向こう側にいた2人に合図を出した。

 

「今だよ、二人とも」

「は? 何を――ぐあぁ!」

 

 男が後ろを振り向いた時には、アクアの突進が決まり、男の体がよろめく。その隙を突いて、後から出て来た蓮に男は取り押さえられた。念のためモルガナは男の手からカッターナイフをもぎ取り、ついでに動けなくなっている男の顔に爪を何度も引っ掻く。

 

「いででででで!?」

 

 >正体を見せろ!

 

 さらに男の顔を思いっきり引っ張りながら言う蓮に対して、モルガナは呆れながら言った。

 

「…蓮、ソイツはシャドウじゃねーぞ」

「ゆ、許さねえぞてめぇらぁぁぁ!!」

 

 蓮が押さえつけていたにも関わらず、ストーカーの男はそれを予想以上の力で振り解く。あまりの力に蓮は思わず、男から押さえつけていた手を離してしまう。

 

「覚えてろッ! もう少しでみなみちゃんを俺のものに出来たのによぉぉ!」

 

 そう捨て台詞を吐きながら、男は逃げ出してしまう。アクアはあのストーカーを追おうとしようとしたが、明智はそれを制した。

 

「明智?」

「今追うのは得策じゃないかな。他にも刃物類を持っているかもしれないし危険だよ」

「で、でも明智さん…またみなみちゃんにもしものことがあったら…」

 

 不安げに言うルビーに対して、明智は諭すように言った。

 

「大丈夫、後は僕達や警察に任せて。必ずあのストーカーを捕まえてみせるから」

 

 明智に続いて蓮も、絶対にみなみには手を出させないと約束し、みなみを安心させるように言う。今のみなみはきっと怖い気持ちでいっぱいなのだ。友人であるルビーもそれを分かっているからこそ、彼女も協力を申し出た。

 

「ねえ2人とも、私とアクアにも何か出来ることはない? なんだって協力するから!」

「そうだね…じゃあ、君達は寿さんを出来るだけ一人にしないようにして欲しいな。僕達が調べている間に、もしものことがあったら大変だし」

「う、うん! わかった!」

「それじゃあ、僕達はこれからあの男について調べるとするよ。自分から名前を言ってくれたおかげで捜査も進むと思う」

「明智さんありがとう! 雨宮くんも!」

 

 蓮もさよならと言ってから3人と別れる。

 

 歩きながらあのストーカー男の言っていた名前を思い出し、確か…桑原慎とわざわざ自己紹介していたような気がする。渋谷の駅前広場にて、一目が少なくなったところで、明智に声をかけられる。

 

「とりあえず、イセカイナビを起動だね。僕の見た感じ、あの男はパレスなんて持ってなさそうだからメメントスで入れてみよう」

 

 明智に言われてイセカイナビを起動する蓮。『桑原慎』『メメントス』で音声入力すると、なんと本当にヒットした。とはいえ、例え小物でも予告状は必要だが、メメントスにいるような小悪党は怪チャンに書き込むだけで予告状となる――なのでやることは一つだ。蓮は怪チャンに桑原慎と掲示板に書き込んだ。

 すると、モルガナは怪盗団の出番だと言わんばかりに、蓮の鞄から顔を出して言った。

 

「あのストーカー、自分から名前を言ってくれて助かるぜ。オマエら、明日はメメントスに行くぞ!」

 




ちょっと長くなりましたが許してください。
次回は再びメメントスに侵入です!
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