ペルソナ5 The My Star   作:アカトンボ

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今のところこの作品での警察関係のキャラはペルソナ2に出てきた詩織さんだけでしたが、推しの子の方でも警官(あかねパパ)が出てきたのでネタに助かります( ´ ▽ ` )


第十五話 闇バイト

 4月24日、月曜日。朝。

 蓮が陽東高校近くの駅から降りて、他の生徒達と混じって通学路を通っていると、蓮の少し前にいる男子2人組の会話が聞こえてきた。

 

「そういやさ、お前例のサイト見てるか? ほら、怪盗お願いチャンネルっていかにも胡散臭いサイト」

「ああ、ハンニャが改心してから出来たやつだろ? 一応掲示板とか見てるけど、なんかまた改心させたっぽいぜ? 『お願いをきいてくれてありがとうございました!』だってさ」

「嘘くせー。管理人の自作自演じゃねえのそれ」

 

 話を聞く限り、まだまだ怪盗団という存在は信用されていないようだ。初めて怪盗団として、鴨志田卓を改心させた時もこんな感じだったので当然と言えば当然かもしれない。

 すると、男子の会話を聞いていたモルガナが不満そうに呟いた。

 

「ったく、好き放題言ってくれるぜ。その怪盗はオマエらの近くにいるってのにな」

 

 モルガナの気持ちも分からないわけではないが、まだ影響力のある人物を改心させたのは、反谷教頭1人だけだ。みなみのストーカーだった桑原慎も改心させたとはいえ、大衆に怪盗団を認知させるためには、より大物を狙わないといけない。アクアが怪盗団に加わったことで戦力もアップしたし、そろそろ大物をターゲットにしたいところではある。かと言って、小物でも困っている人がいれば迷わず助けるのが怪盗団であり、地道にやっていくしかなさそうだ。

 それにしても蓮も『管理人』が一体誰なのか気にはなっていた。やはり、この世界にも三島由輝がいて怪盗団の協力をしてくれているのだろうか。陽東を隈なく探せば三島がいたりすれば良いのだが、思い返してみれば今まで三島らしき人物は見た事がないので、いたとしても陽東ではないだろう。

 竜司と杏がこの世界にもいたので、三島もいるという淡い希望を捨て切れずにいる蓮がそう考えていると、後ろから背中を軽く叩きながら挨拶をする人物がいた。

 

「はよーす! 雨宮っていつもこの時間に来てんのな」

 

 その人物はついさっき考えていた竜司であった。元の世界の竜司であれば、『蓮』や『れんれん』と親しく呼ばれていたのだが、名字呼びはなんだか違和感を感じる。

 蓮は、朝から元気だなと返すと竜司は機嫌良く言った。

 

「へへっ! 聞いてくれよ! 俺昨日、部活で50メートル走の記録更新したんだぜ? お前にも俺の凄え走りを見せたかったぜ!」

 

 嬉しそうに言っている竜司を見ているとこっちも嬉しくなってくる。どうやらスランプは脱したようだ。これでもう、この世界の竜司の心配はいらないだろう。

 竜司の走りは元の世界では間近で見ていたのだが、蓮は竜司の特訓に付き合って、一緒に走っていたあの頃を思い出して懐かしく思っていた。

 

「てか、雨宮も陸上部に入んねぇか? 入る部活決まってないなら歓迎するぜ?」

 

 そう言いながら、蓮の首に手を回しながら陸上部に勧誘する竜司。本気なのか冗談で言っているのかはわからないが、蓮はやんわりと断ることにした。

 

「そうか…俺の見立てだとお前走るの速そうだし、体力もありそうなのにな。まあ無理にとは言わねえけど、気が向いたらせめて見学だけでも来てくれよな!」

 

 残念そうにしている竜司だが、どうやらまだ諦めていないらしい。蓮としては竜司と一緒に陸上をするのも悪くはないと思ったが、自分には色々とやることがあるため、竜司には悪いがそもそも部活自体に入ることはないだろう。

 それでも蓮は気が向いたら、と返事をすると竜司が気を悪くすることなく言った。

 

「おう! その時は俺と競争しようぜ。負けたら牛丼の豚汁セット奢りな」

 

 こっちが一方的に奢らされそうな約束をされてしまった。元の世界で竜司やすみれに身体を鍛えられたとは言え、この世界では陸上をバリバリ続けている竜司に勝てる気がしない。まあ、そもそも元の世界の竜司にも勝てたことはないのだが。

 

「っと、そろそろ行こうぜ。遅刻しちまう」

 

 お互いの教室に着くまで、蓮は竜司と一緒に登校したのだった。

 

 

 

 そして昼休み。

 蓮のスマホと後ろの席にいたアクアのスマホが同時になる。アクアと一緒に画面を見てみると、怪盗団マークのアイコンのグループチャットのようでメッセージを送ってきたのは明智だった。

 

【明智:2人ともこれから屋上に来られるかい? 次のターゲットについて話をしたいんだ】

【アクア:わかった。今から行く】

 

 2人が会話している中で、蓮も了解とチャットを送る。チャットはそこで終わり、蓮はアクアと一緒に屋上に向かった。

 

 そして階段を登り、屋上の扉まで着いた蓮達はその扉を開ける。すると、既に明智がスマホを見ながら待っており、蓮達が入ってきたことに気がつくと蓮とアクアの方に向き直った。

 

「やあ、みんな待ってたよ。早速だけど、ちょっと僕の話を聞いてくれるかい?」

 

 蓮とアクアは小さく首を縦に振る。モルガナも蓮の鞄から出て、そのまま床に着地すると、明智に確認するように言った。

 

「次のターゲットが決まったんだってな。アケチ、話してくれ」

 

 モルガナに言われ、明智はおもむろに話を始めた。どうやら、最近になって学生の間で窃盗や薬の運び屋といった犯罪が多発しているらしく、警察も手を焼いているようだ。そこで、明智はその裏には金城のようなマフィアのボス的な何かが居て、学生達に指示出しているのではないのかと睨んでおり、次のターゲットはそいつがいいと明智は言っている。とはいえ、まだそのボスの情報を得られていないため、蓮達にも協力してほしいとのことだった。

 そこで、黙って話を聞いていたアクアが口を開く。

 

「ターゲットは『闇バイト』を促しているグループのボスか。てか高校生の俺たちに出来るのか?」

「いいや、できる。忘れたか? ワガハイ達は心の怪盗団なんだぜ?」

 

 まだ怪盗団に入って間もなく、自信を持てていないアクアにモルガナはそう断言する。アクアは知らないが、これまで蓮達は数々の修羅場を潜ってきた。すでに元の世界で似たような金城を改心させたので、モルガナは余裕そうに先の白い尻尾をゆらゆらと振っている。

 蓮も弱音を吐くことなく、明智に対して、まだ話は終わってないだろ?と話の続きを促すと、明智は首を縦に振りながら話し始めた。

 

「ああ、これからが本題なんだけど、実は闇バイトをさせられている学生が渋谷にあるクラブに入り浸っていると噂があってね。名前は『井上康夫』くん、これは警察も知らない情報だよ」

「その情報は確かなのか? というかどこでそんなことわかったんだよ」

 

 疑問に思っているアクアに、明智は笑みを浮かべながら言った。

 

「それは僕が超能力者だから――って理由じゃ駄目かい?」

「……聞いた俺が馬鹿だったよ」

 

 そんな明智の言葉にアクアは溜息を吐きながら呆れている。

 蓮としては何故明智が警察も知らない情報を知っていたのか、大方予想がついていた。おそらくだが、メメントスを使って聞き込みをした人のシャドウに会ってきたのだろう。しかし全員が全員、異世界にシャドウがいるわけではないので、それなりに苦労したと見える。とはいえ、昨日の今日で有益な情報を手に入れた明智は流石と言える。まあ、欲を言えば詐欺グループのボスの本名を知れたら良かったのだが、贅沢は言えない。

 

「話を戻すよ? 3人には今日の夜、渋谷にあるクラブに行って彼から話を聞いてもらいたいんだ。もちろん、直球に闇バイトのことを聞いちゃ駄目だよ。素直に答えてくれるはずがないからね」

 

 明智の含みのある言い方にモルガナは思わず質問をした。

 

「なんでだ? 別に普通に聞きゃいいじゃねえか」

「考えてもみなよ。闇バイトははっきり言うと犯罪行為なんだ。自分から『お金が欲しいから犯罪をしている』なんて本人の口から言うはずがないだろ?」

「…それもそうだな。なら、ソイツに会ったとして一体どう訊けばいいんだよ?」

 

 すると、明智の代わりにアクアが代弁した。

 

「俺達も稼げるバイトがしたい、とか都合の良い事言えばいいんじゃね。大体そういう奴らって他にも闇バイトに誘うように言われてるだろうしな」

「流石はアクアくん、話が早いね。それじゃあ3人とも、今夜頼んだよ。例の学生は21時半くらいには来てるらしいから」

「おい待てよ、アケチはどうすんだ?」

 

 てっきり明智もついてくると思っていたモルガナがそう訊く。こういう時は明智もいてくれた方が良いと思うのだが、明智は首を小さく横に振りながら理由を言った。

 

「実は僕、闇バイトに関する捜査チームに入っててね。学校が終わったら、また警視庁に行かないといけなくてさ。警察と遅くまで捜査をすることになってるから無理なんだ…」

 

 そういうことなら自分達に任せろ、と蓮は頼りになりそうな言い方で快く引き受ける。

 明智は警察と目と鼻の先で近いところにいるので、例え捜査チームに入ってなくても動きづらかっただろう。警察もまだわからない闇バイトをしている学生と接近なんてしたら妙な疑いをかけられてしまう。もしその学生が逮捕された時に明智と会っていたなんて事を証言してしまうと何かを勘繰られるため、それを見越して明智は蓮達に頼んだのだ。

 明智の意図を汲み取った蓮に対して、明智はどこか嬉しそうにしている。

 

「助かるよ。でもくれぐれもヘマはしないでくれよ? そうなると本末転倒だからね」

 

 明智の言うことに蓮達はそれぞれうなづく。

 昼休みの残り時間は3人と1匹で昼食を取り雑談をして終えることとなった。

 

 

 

 

 そして放課後。

 アクアと途中まで帰ろうと思い、下駄箱で上履きから靴に履き替えて校舎を出たところでルビーと赤髪のストレートボブヘアにベレー帽を被っている小柄の女子生徒の姿を見かけた。蓮はルビーの友達かと思っていると、アクアもルビーの姿に気が付き、ぼそっと呟いた。

 

「ん? ルビーと有馬?」

 

 どうやらもう1人の女子生徒は有馬と言うようだ。正門前でなにやら話している2人にアクアは近づいて行ったため、蓮も一緒に行くことにした。

 

「今日はみなみちゃんも杏ちゃんもモデルの仕事でさ…先輩、よかったら一緒に帰らない?」

「どうして私があんたと帰らないといけないのよ。こう見えても暇じゃないの――アクア?」

「よう、何やってるんだ?」

「今絶賛アンタの妹に絡まれてるところよ。あ…」

 

 有馬がアクアの隣に来た蓮に気がつく。

 蓮はさっき、ルビーが有馬の事を『先輩』と呼んでいたことを思い出す。どうやら上級生のようなので蓮は一応敬語で、どうも雨宮蓮です、と有馬に自己紹介をする。

 

「前にアクアと一緒にいたのを見かけた事があるわ。雨宮くんって言うのね。私は――」

 

 有馬も自己紹介をしようとすると、横からルビーが割って入って有馬のことを紹介をし始めた。

 

「紹介するね! なんとこの人は『重曹を舐める天才子役』の有馬かな先輩――」

「だから! 『10秒で泣ける天才子役』って言ってんでしょーが!」

 

 そう強く突っ込む有馬に、蓮は思わず吹き出しそうになるのを我慢して無表情を貫く。蓮がひっそりと心の中で『重曹』と覚えておこうと思っていると、ルビーは有馬のことを尻目に蓮に言った。

 

「多分、雨宮くんも名前くらいは聞いたことあるんじゃない? ほら、『ピーマン体操』とか有名だったし」

 

 ルビーの口ぶりからするに、どうやら有馬もルビーや明智と同じ芸能科の生徒のようである。とは言っても蓮は芸能界に疎いと言っていい程なので、有馬かなという名前は初めて聞いた。この世界にしかいない芸能人か何かなのだろうか? そもそも元の世界でも、原宿に遊びに行った時に杏から貰ったアイドルのポスターの名前すらまだわからないくらい疎いのだ。

 誤魔化してもしょうがないので、蓮が正直に知らないとはっきり答えると、心なしか有馬がグサッときたように見えた。

 

「ぐ…今はともかく、子役時代の私を認知すらしてないですって…? え? それマジで言ってんの…?」

「先輩がなんかダメージ受けてる…雨宮くん、本当に先輩の事知らないの? 幼稚園の頃にピーマン体操踊ったりしなかった?」

 

 何回訊かれようとも有馬かなもピーマン体操も聞いたことがない。流石に幼稚園の頃に何を踊ったのかなんて忘れてしまっているものだ。だが、いくらなんでもピーマン体操という印象の深そうな曲を踊っていれば、忘れようにも忘れられないとは思うので、やはり元の世界ではそんなものは無かったのだろう。試しに隅々まで記憶を辿って掘り起こしてみるが、記憶にないものはない。

 なので、蓮はブレずに今日初めて知ったときっぱり伝えた。

 

「は、初めて…知った…」

 

 がーんと静かに膝から崩れた有馬に対して、アクアとルビーは憐れみの目を向けていた。

 

「悪気は無いんだと思うけど…雨宮くん、容赦ないなぁ〜…」

「有馬のやつ…これは致命傷だな」

 

 なんだか有馬がかわいそうになってきた。モルガナも同じくそう思ったのか、思わず鞄の中から蓮とアクアにだけ聞こえるような声を出した。

 

「オマエな…言い方ってもんがあるんじゃないか? ここは嘘でもいいから『思い出した』とか言って立ち直らせた方がいいと思うぜ」

 

 モルガナの言う通り、自分のせいで落ち込んでしまった有馬を元気付けるために声をかけようしたところ、有馬はゆっくりと立ち上がる。

 

「……帰るわ」

「え? ちょっ……先輩!?」

 

 ルビーの呼び止めも虚しく、有馬はよろよろとふらつきながらそのまま帰ってしまった。その後ろ姿は、まるで1人にしてくれと言わんばかりだ。やってしまったと後悔した蓮は、今度会った時にでも彼女の機嫌を取ることを決める。違う学科とはいえ同じ高校なので、また会う機会はあるはずだ。

 

「はぁ…この際、もうお兄ちゃんでもいいや。一緒に帰んない?」

「でもいいってなんだよ…別に構わないが」

 

 仲睦まじい(?)兄妹を前に自分は邪魔かと思ってアクアに、また後でと小声で伝えて、そろそろ帰ることにした。

 

 ・・・

 

 

 そして夜。時刻は21:05。

 蓮は制服からいつもの私服である白のVネックの上に黒のジャケット、下は暗めの青のジーンズに着替えてからチャットで待ち合わせをした渋谷駅前広場に着く。それから少ししてアクアもやってきて、白無地のパーカーにデニムといった当然彼も私服である。2人が私服に着替えてきたのは理由があり、万が一警察に呼び止められた時や、これから行くクラブに未成年かと怪しまれずにバレないためである。蓮は前に、金城絡みで情報を得るため、新宿にあったバーへ行く時にモルガナに言われて以来学んでいたのだ。アクアもその辺は言われなくても既にわかっていたようで、モルガナはちゃんとしたアクアに感心している。

 

「リュージの奴とは大違いだぜ」

「誰だよリュージって」

 

 アクアも竜司とは違うクラスというのもあり、そもそも知り合っていないので、この反応は当然といえる。もし自分と竜司とアクアが顔を合わせるようなことがあれば、お互い紹介してやろうと思う蓮だった。

 気を取り直し、スクランブル交差点からしばらく歩いて渋谷にあるクラブ『ゾディアック』へと着く。明智からチャットに送られてきた『井上康夫』という人物は春日山高校という学校の生徒であり、気の弱い性格で眼鏡をかけた男だそうだ。ついでにその高校の制服の写真も送られてきたが、正直なところ、これだけの情報で探せというのも酷な話だ。大体、蓮達と同じように井上康夫も私服で来ていたらと思うと、条件に当てはまるのは眼鏡だけと言うことになる。そうなれば、眼鏡をかけた若い男性に片っ端から確認しなければならないのでめちゃくちゃ面倒であるがそうも言っていられない。

 こう考えしまう時間ももったいないため、意を決してクラブの中に入ろうとすると、透明なドアの向こうから誰かがやってくる。なんとその人物は蓮達が探していた男と条件が一致しており、眼鏡をかけた春日山高校の制服を着ていたのである。思わずそのままドア前に立っていた蓮達が動かずにいたので、疑問に思ったのか井上康夫らしき男は蓮とアクアを交互に見ている。その表情からはどこか怯えているようにも見え、男は勇気を振り絞るように声を出した。

 

「あ、あの…僕、何かやらかしてしまったんでしょうか…?」

 

 どうやら蓮達を詐欺グループの仲間か何かだと思ったらしく、彼は蚊の鳴くような声でそう言う。おそらく自分がミスしてこれから消されるとでも思っているのだろう。

 すると、蓮がお前が井上康夫だな?と訊ねると男はビクッとしながら「ひぃ!」と蓮達を見てさらに怯えてしまった。反応からして、この男が井上康夫で間違いないだろう。怯えている井上に対して、アクアは誤解を生まないようにつかさず言った。

 

「落ち着いてくれ。俺達はあんたに危害を加えたりしない。むしろあんたを助けたいと思ってる」

「…へ?」

 

 ここでは話をしにくいため、蓮達は少し離れたカラオケ店まで場所を移動する。無事に、井上康夫に接触できた蓮達は彼を落ち着かせてから、闇バイトについての話を訊くことにした。すると井上は取り乱したように慌ててしまう。

 

「だ、誰がそんなこと言ってたんですか!? はっ! まさかアイツが言いふらして――」

 

 言いふらしたも何も、明智がメメントスに行って井上の知人か誰かに聞いた――と言っても当然、井上は信じるわけがないだろう。普通の人間に言えば「何言ってんだこいつ?」と思われて終いである。しかしまあ、闇バイトを知っているか?と訊いただけでここまで取り乱すとは実にわかりやすい。本来の彼は隠し事の出来ない性格なのだろう。だから井上にはシャドウが存在せず、明智も蓮達に直接本人に訊くように頼んだのだ。こうなってくると少々話が変わってくる。彼は蓮達に闇バイトを指示しているボスのことを話してくれるだろうか? 井上は蓮達を巻き込むようなことはしない気がする。

 そんな純粋な井上に対して、アクアはふとこんなことを言い出す。

 

「なあ、あんたは怪盗団って知ってるか?」

「怪盗団…ですか? そういえば前にニュースやSNSで聞いたことがあるような気がします…確か、予告状が出て、とある高校の教頭先生の心を盗んだとか…」

 

 どうやら井上にも認知はされていたようである。怪チャンにはまだ怪盗団を信じていない大衆が多いが、学生の中では興味を引く人が多いのだろう。

 

「でもその怪盗団と今、何の関係があるんですか?」

「怪盗団は悪人の心を盗む。そいつらに頼めば、あんたを脅している奴をなんとか出来るかもしれない――この意味がわかるか?」

「アクア、オマエ……直球すぎんだろ。まあ、闇バイトを指示してるボスの本名が知れれば御の字ではあるが…」

 

 アクアも大胆なものである。確かにモルガナの言う通り、ボスの本名を知れれば、あとはキーワードを特定するだけだ。そのキーワードを特定するのが大変なのだが、今は名前を調べることが先決だ。

 そう思った蓮は、怪盗団に改心させてもらうためにボスの名前を教えてくれと井上にお願いする。

 

「ほ、本当になんとかなるんですか…? 本当は僕もこんな事はもうしたくないんです…大学に行くためのお金が欲しくて、そんな時にあの人達から『楽に稼げるバイトあるんだけどどう?』なんて誘惑の言葉に騙されて……僕はっ――」

 

 井上は嗚咽をもらして、目に涙を浮かべている。騙されていたとはいえ、犯罪の加担に参加され、誰にも言えずに不安だったのだろう。だからと言って、彼の罪が消えるわけではないが、困っている人は見逃せない。それはアクアも同じだった。

 

「あんたを指示しているグループのボスの名前を教えてくれ。俺達が代わりに怪盗団に頼む。あんたのことは一切言わない」

 

 すると、井上は顔を見上げる。まるで救世主を見るかのように蓮とアクアを見ると、しばらく間を置いてからそのボスの名前を言った。

 

「――金田…カツエ…」

 




ちょっとした小話。本当は闇バイトをさせられていたのは吉栄杏奈にしようと思ったのですが、この世界での彼女は大学で目一杯に陸上をやって欲しいと思ったので井上康夫に変更しました。
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