ペルソナ5 The My Star 作:アカトンボ
4月25日、火曜日。午前。
四限目の英語の授業中、2ーGの教室の中でかなは昨日の放課後にあった出来事を思い出していた。アクアの友達?である蓮に、はっきりと自分を知らないと言われたことだ。あの時は落ち込んでしまったが、今思い返してみると腹立たしいという感情も出てくる。ようは、かなは怒っていたのだ。
(ほんっっとになんなのかしらね。類は友を呼ぶって言うし、一緒にいたあいつも失礼な奴なのかも…)
アクアと一緒にいるところを当たり前のように見るので、友達なのは間違いないだろう。かなも何度か校内でアクアを見かけた時に声をかけようとはしたものの、心なしか蓮と仲良さそうに話していたので、邪魔はよくないと思い空気を読んで避けていた。タイミングが悪かったのだ。それで昨日、向こうから蓮がやってきて丁度いいと思っていたらアレである。
それにしても、人に全く興味のなさそうなあのアクアによく友達ができたものだ。幼い頃は今のような性格ではなかったはずだが、これまでの人生で一体何があったのだろうか。気付くと、かなの頭はアクアのことでいっぱいになってしまう――ついでに憎たらしい蓮の事も片隅に。
「Ms.有馬! ちゃんと聞いているの!?」
「――は、はいっ!?」
英語の教師である蝶野に大声で注意されて、かなはふと我に返る。これが公民の牛丸なら今ごろ、チョークがものすごい勢いで飛んでくるところである。どうやら問題を出されていたようだが、授業の内容を聞いていなかったので答えようがない。それを察した蝶野は溜息を吐きながら言った。
「…もういいわ。じゃあ、Mt.明智。『優秀な人』を英語で答えて」
「はい、A person of talentです」
蝶野が「Excellent!」と言いながら拍手をし、かなの後ろの席にいる明智を褒める。他のクラスメイトの女子達もガヤガヤと黄色い声を上げていた。
「明智君やっぱり頭良いなぁ〜」
「今度勉強教えてもらお!」
「さすが私の探偵王子…」
明智が入学式の日に転校してきて以来、女子達はこんな調子である。別に顔だけなら他の男子も引けを取らないが、やはり陽東で唯一の『探偵』であることが大きいのだろう。物珍しさから明智の女子人気は未だに衰える事はなく、別のクラスの女子生徒も見にくる程だ。少し前も、警察ではお手上げであった事件も華麗に解決したようで、メディアの露出も段々と増えてきた。彼が大多数の大衆に認知されるのは時間の問題だろう。
そんな自分のクラスでも人気な彼に対して、かなは少し苦手意識が出てしまっている。
(ハァ…早く席替えしたい…)
そして英語の授業がなんとか終わり、昼休みとなる。すると、明智はすぐに席を立ち、教室から出て行く。その様子が目に入ったかなは「またか」と言ったような表情になる。
(ここのところいつもあんな感じね。案外明智くんも迷惑に思ってたりして)
かながそう思っていると、同じクラスの女子達が残念そうにしながら明智のことをボヤいていた。
「今日こそ一緒にお弁当食べようと思ったのにぃ〜…」
「もしかして明智くん…彼女とかいたりしないよね?」
「だとしたらその女許すまじ…!」
明智のことで教室内が殺気立ってしまう。今までも教室でよく色恋沙汰の話はもちろんあったが、今回のはなんというかやばい。このままここにいても居心地が悪いため、かなは場所を移動することにした。
(…今日は屋上にでも行こう。一人でちょっと考えたい事もあるし)
その頃、蓮はモルガナと貴美子の作ってくれた弁当箱の入った鞄を持って、現在の怪盗団のアジト――もとい屋上に向かおうとしていた。昨日の夜に井上康夫から聞いた『金田カツエ』という今回のターゲットとなる人物について明智やアクアと話し合うためである。怪盗団関係についてなので教室では話せる内容ではない。
蓮は後ろの席にいたアクアと一緒に教室を出てから、屋上へと続く階段を上がっていく。そして何故か鍵の閉まっていないドアに手をかけ開けると明智が既に来ていた。どうやら昼休みに誘ってくる女子生徒を撒くのにも慣れてきたようである。蓮は自分で開けたドアを閉めたのを確認して、会議を始めることにした。
「チャットで言っていた通り、井上君には会えたみたいだね。早速だけど、昨日あった出来事を話してもらえるかい?」
蓮は昨晩で起きたことを明智に話す。井上康夫は明智の睨んだ通り、闇バイトを行なっていたことを、それで闇バイトをさせているボスである『金田カツエ』という人物に脅されていると――。話しを聞き終えた明智は少し考え込み、スマホを取り出して何かを調べ始めた。というより、イセカイナビを開いていた。
「金田カツエ」
『ヒットしました』
やはりといった感じで、金田カツエにもパレスが存在するようである。すると、さっきから黙っていたアクアが口を開いた。
「金田カツエ……確か芸能関係に投資している投資家だったような気がするな。しかも最近になって急に羽振りが良くなってるらしい」
「なるほど、表向きは投資家で羽振りが良いのには裏があったわけだな。ワガハイも腕が鳴るぜ」
次のターゲットにモルガナは張り切ってるようだ。昨日の井上康夫のように、金田にいいようにされている人達がまだまだいることだろう。これ以上被害を増やすわけにはいかない。好き勝手されないように何としてでも改心させてやろう――そう決意した蓮を尻目に、アクアが疑問を投げかけた。
「それで、金田を改心させるために放課後、異世界に……メメントスに行くのか? 俺は別に構わないが」
「いや、今回はメメントスではなくパレスだな。学生に闇バイトなんかさせているカネダは、とてつもない歪んだ欲望を持っているに違いない」
「アクアくんはパレスに入ったことはまだ無かったよね? じゃあ今回が初めてなわけだ」
蓮はアクアにパレスについての事を簡単に説明する。パレスはメメントスとは違い、『ターゲットの名前』『根城にしている場所』『その場所を何と思っているのか』の3つのキーワードが無いと入れない。しかもメメントスとは違い、パレスはかなり入れ組んでおり、中には仕掛けもあるので入るのに充分な準備が必要だ。
以上の説明を聞いたアクアはいつものポーカーフェイスを崩すことなく……いや、少し複雑な表情になっている。
「…かなり面倒なんだな。蓮達はウチの教頭の時もそうしていたっていうことだよな?」
「まあな。ハンヤの時はワガハイ
「……というか、
アクアはパレスに入ったことがないため、いまいちピンと来ていないようである。蓮も初めて竜司と一緒にカモシダのパレスに入った時は、途中までパレスに入ったこと自体に気付いてなかったので、無理もないのかもしれない。
「調べたところ、金田カツエの住んでいるのは、渋谷駅から少し歩いたところにある豪邸みたいだよ。パレスはきっとそこなんじゃないかな?」
明智の言葉に蓮は試しに「金田邸」とイセカイナビに音声入力してみる。すると、イセカイナビは見事にヒットした。
「流石アケチだぜ……次はカネダが自分の家をどう思っているかだな」
「……」
手慣れている感じでやっている蓮達を見て思わず黙ってしまうアクア。そんなアクアに対して蓮は「何か心あたりはあるか?」と振るとアクアは申し訳なさそうに言った。
「悪いが見当もつかない…」
「当てずっぽうでもいいから言ってみろよ。もしかしたら当たるかもしれないぜ?」
蓮もアクアと一緒に考える。とりあえず、金城の時と同じ『銀行』と音声入力するが、『該当しません』と返される。他に何かないかと思考を巡らせていると、明智がさらっと言った。
「『宮殿』はどうかな?」
『ヒットしました』
イセカイナビが反応する。見事に正解だったようで、蓮、モルガナ、アクアの3人は目を丸くしていた。というか、今回も明智が当てたのである。
すると、明智は自分のスマホ画面を蓮達に見せた。
「ちょっと調べてたんだ。ほら、よく見てみなよ。ニュースサイトの記事に『いつかあたしの家を宮殿のようにする』とインタビューに答えていたみたいだ」
まさにグッジョブである。どうやらアクアが金田のことを投資家と知っていたのを聞いて、ずっと調べていたらしい。何にせよ、これでパレスに行く段階まできた。
「よし! オマエら、学校が終わったら早速パレスに向かうぞ!いいな!」
蓮達はモルガナの言葉にうなづく。
そこで、昼休みが終わる前の予鈴が鳴り、そろそろ解散しようと蓮達がドアに向かう。が、蓮は違和感を感じた。
「どうした、蓮?」
なんと、さっき閉めたはずのドアが半開きになっていたのだ。もしかしたら自分は閉めたと思っていたつもりが、実は開いていたのではないか?そんな考えが浮かんだが……いや、自分はちゃんと閉めたのを確認したはずだ。誰かに会話を聞かれていたかもしれない――蓮がそういうと、明智達の表情が強張る。モルガナも不味いと思ったのか、警戒をしている。
「もしやワガハイ達の正体、誰かに知られちまったか……? 蓮の話が本当なら今の話も当然聞かれてたってことだよな?」
「…その可能性はあるだろうね。けど、もし聞かれていたとして、僕達の正体を知ったならすぐさま公表すると思う。それをしないってことは僕達の言っていたことを本気にしていないってことじゃないかな」
「俺達のできることは様子見ってことか…会話に気をつけないとな」
会話を聞かれていたかもしれないのは不覚だったが、すでに過ぎてしまったことだ。聞いていたのは一体誰なのかは気になるが、今は金田を改心させることが先決だ。そう思い蓮達はそれぞれ教室に戻ることにした。
放課後。
蓮達は渋谷駅前広場から少し歩き、金田邸近くまでやってきた。遠目でもわかるような金持ちが住んでいるみたいな大きな屋敷である。屋敷の前には、2人の黒服の見張りがおり、家の中には簡単に入れそうにない。仕方がないので蓮達は少し離れたところでイセカイナビを起動させることにした。人目がないことを確認すると、蓮達はイセカイナビで3つのキーワードを入力し、異世界へと入った。
異世界に入ったジョーカー達の服装が怪盗服に変わる。既に警戒されているようだが、モナがまわりの光景に対して思わず叫ぶように突っ込みを入れる。
「って! また海かよ!? 宮殿なんてねーし!」
金田のパレスに潜入したはずが、反谷の時と同じ海辺だったのだ。しかも海の向こうに建物のようなものも無く、ジョーカー達の視界には砂浜と海の水くらいしかない。
「あそこに何かいるぞ」
ジョーカーとモナが途方に暮れていると、どうやらオーシャンが何かを見つけたようである。このままこうしているわけにもいかず、ジョーカー達はオーシャンの見つけたもののところへと向かう。すると、クロウが『何か』の正体の名前を言った。
「これは、亀だね。ウミガメかな?」
「か、カメぇ?」
ウミガメはピクリとも動かず、ただ寝ているだけだ。異世界とはいえ、寝ているウミガメを無理矢理叩き起こしてみるという強行突破はせず、ジョーカーはウミガメの甲羅を、まるで扉にノックするような感じで軽くつついてみる。しかし、ウミガメは何の反応もせずに寝続けている。
「よし、ワガハイに任せろ」
ジョーカーに代わり、今度はモナが前に出た。息を大きく吸い込み、大きな声でウミガメの顔近くで言った。
「おーーい!!! 起きろーーー!!!!」
ウミガメは無反応である。もしかするとすでに死んでいるのではないかとも思えてきたが、よく見ると呼吸はしているみたいだ。
「…ああ、なんとなくだけどわかったよ。パレスが宮殿なわけもね」
何かに気付いたクロウがそう呟く。一人で納得しているクロウにモナも続いた。
「ワ、ワガハイだってわかってるぜ! それは…アレだろ!」
絶対にわかっていない発言である。ジョーカーもこの状況でなんとなくパレスがどこにあるのか察した。
――パレスは海の中だ。
「は? 海の中だって?」
「あー、そういうわけか。宮殿は竜宮城ってことだな」
オーシャンの言う通り、某昔話に出てくる『竜宮城』である。あの話では悪い子どもが亀をいじめていたのを、ある青年が助けて亀が竜宮城に連れて行ってくれるのである。この理屈だとパレスに行くための仕組みもきっと、亀が竜宮城へと連れて行ってくれるはずだが、亀はまだ寝ているままだ。
すると、クロウはニヤリとしながら言った。
「僕達がこの亀を痛めつけてみるかい? そうしたら何か起こるかもしれないよ?」
「やめとけって……」
モナが思わず引き気味で諌める。すると予想していたとばかりにクロウは笑顔で返す。
「はは、冗談だよ。むしろ案内してくれなくなって困るのは僕達だしね」
お前のは冗談に聞こえない、とジョーカーとオーシャンは心の中で突っ込む。
とはいえ、このまま何もせずにいるのはもっと駄目だ。何か手はないかと考えるが、やはりこの亀を起こすことだろう。
「こりゃ…カネダの認知の問題かもな」
「認知? どういうことだ?」
「簡単に言うと、金田は僕達の存在を知らない。だから金田に僕達を認知させる必要があるってことさ」
今までも何回か現実の本人達にジョーカー達を認知させてパレスの先へ進んでいた。どうやら今回もそれが必須らしい――が、それと同時に危険性も伴うため慎重にならないといけない。
「どうせ改心させるんだから、戸惑っている暇はないよ。さあ、現実に戻ろう」
蓮達は一旦現実へと戻り、金田邸前を見る。すると、さっきまでいた黒服の男がいなくなっており、蓮達は思わず金田邸に一気近づいた。おそるおそる玄関近くまで来ると、中から女性の声が聞こえてきた。
『は、離してっ! はなし――』
「っ! 有馬の声だ…!」
「ちょ! おい、アクア!」
モルガナの制止も聞かず、アクアが慌てた様子で金田邸の玄関前のドアを開けて中に入っていく。蓮と明智も続いて中に入ると、玄関で黒服の男がかなを押さえつけて動けないようにしていた。
「おやおや、アンタらはこの小娘の仲間かい? 困ったもんだよまったく」
声と同時に蓮達の前に現れたのは、紫のパーマをかけた人相の悪い老婆であった。貴美子と同じ紫のパーマとはいえ、全く正反対の性格だというのがわかる。
かなを押さえつけていたのとは別のもう1人の黒服の男が、かなの生徒手帳を金田に渡していた。
「しかも見たことがある小娘だと思ったら……あの有馬かなだったとはねぇ! 当時アンタの昔いた事務所に投資してやったことがあったけど、結果は散々だったよ! どう落とし前を付けてくれるんだい!」
金田はその時のことを思い出したのか、生徒手帳をかなに向けて投げつけてキレ出した。
「こうなったらアンタに利子をつけて5億くらい払ってもらわないと気がすまないよ! さあ! 返しておくれ! さもないと……」
続けて言おうとしたところで黒服の男が金田に耳打ちする。すると、金田は悪者のするような笑みを浮かべてかなに向けて言った。
「ひっひっひ…アンタの母親、今は田舎の実家にいるんだって? 払わないとどうなることやら…ひっひ」
「や、やめて! ママは関係ないでしょ!?」
「ならあたしに1週間以内に5億払いな! 持ってないなら海外で稼げるバイトを教えてやるよ。完全に違法で場所によっては死刑になるだろうけどね! ひっひっ!」
完全に金城の時と状況が同じだ。かなに金を稼げるだけ稼がせて、最後にかなの体を壊すつもりだろう。いや、殺すといった方が正しいのかもしれない。
アクアも蓮と同じことを考えてしまったのか、怒りで拳が震えており、金田を睨みつけている。それに気が付いた金田は怖がる様子もなく余裕そうにしていた。
「なんだい? あたしに何か文句でもあるのかい? アンタがこの小娘の代わりに払ってくれてもいいんだよ? 払えるもんならねえ!」
「こいつッ!」
「じゃあアンタら4人合わせて5億ってことにしといてやるよ! あたしゃなんて優しいんだろうねぇ!」
無茶苦茶だ。まだ高校生である自分達にそんな金があるわけがない。それをわかって言っているのだろうから余計にタチが悪い。蓮達に闇バイトをさせる気満々である。以前に金城が払えと言っていた300万が可愛くみえるくらいである。
「わかったらさっさとあたしの土地から出てお行き! あと1週間以内に耳を揃えて5億払って貰うよ! お前たち!」
すると黒服はかなを無理矢理アクアの方へと突っぱねると、蓮達ごと金田邸の外に追い出した。金田も後からやってくると、蓮達に捨て台詞を吐いた。
「もし警察に言ったら……ただじゃおかないよ。アンタらの身内から消してやるからねえ。あたしの情報網を侮らないことだ」
それだけ言うと、金田邸に戻っていく。黒服の男達に圧もかけられ、蓮達は少し離れることにした。しばらく黙っていた蓮達だったが、最初に口を開いたのはアクアだった。
「…有馬、俺達のことを付けてきたのか」
「……ごめんなさい」
本当に反省しているようで、かなは元気がないどころ今にも泣きそうだ。それもそのはず、金田にあんなことを言われ、期限以内にお金を払わないと母親の命まで狙われると脅されることになったのだ。むしろ落ち込まない方がおかしいだろう。
「今わかったよ。昼休みに僕達の会話を聞いていたのは有馬さんだったってわけだ」
「……」
かなは沈黙している。肯定と受け取って良さそうだ。自分達の話を聞いて、気になって付けていたらあの黒服に捉えられてしまったというところか。
空気が悪い中、モルガナだけが前向きに言った。
「いや、アリマはよくやってくれたぜ。おかげでもうパレスに入れると思うぜ?」
「は?」
モルガナの言うことにアクアは「マジで何言ってんだこいつ」といった感じで見ていた。かなが危ない目に遭って心配している気持ちはわかるが、もう少し話を聞いてほしい。モルガナもアクアの冷たい視線に、弁明するように続けて言った。
「さっきパレスで言ったろ? あのカメを起こすにはカネダの認知の問題かもしれないってな。今アリマを連れて行けば、あの先に進める…多分」
「かもと多分ばっかじゃねえか。しかも有馬を連れて行くだと?」
淡々と突っ込むアクアに対して、かなはどこか心配そうにアクアを見ていた。
「え? アクア…? まさかこの猫と話してたりすんの…?」
今のかなにはモルガナの声は分からず、普通の猫の鳴き声にしか聞こえていないのだ。かなからすれば、アクアの頭がおかしくなったと思うのも無理はない。
「蓮、イセカイナビを起動しろ! またカネダのパレスに向かうぞ!」
次回、有馬かなと一緒にカネダパレスへ!