ペルソナ5 The My Star 作:アカトンボ
「蓮くん!! そろそろ起きる時間よ! 早く朝ご飯食べちゃいなさい!」
4月10日。
気持ちのよい朝――とは程遠く、蓮は五反田の母親である貴美子の大きな声で起こされた。ルブランで過ごしていた時から自分で起きていたので、こうして誰かに起こされるのは随分と久しぶりなのだ。
蓮が寝惚け眼で階段をおりてリビングに着くと、モルガナがテーブルの上で牛乳の入った皿を舐めていた。蓮が世話をすると言ったにも関わらず、すっかり気に入られたようだ。惣治郎にもそうだったが、やはり猫は人間に人気である。
「猫じゃねー!」
食卓にあったのはご飯(大盛り)に美味しそうな味噌汁、目玉焼きとウインナーだ。蓮は「いただきます」と手を合わせてから貴美子の用意してくれた朝食を食べ始めた。味は美味しく、朝早く起きて作ってくれること事態は、ありがたくて嬉しいことには嬉しいのだが何故こんなにも米を食べさせようとするのか……。昨日の夕方の時もおかわりを急かされて、2杯目を頂いた時に「もう大丈夫です」と言ったのだが、「成長期なんだからもっと食わなきゃ大きくならんよ!」と返されてそのまま5杯まで食べることになった。
出された以上は食す。そうでないと失礼というものだ。秀尽に通っていた頃の後輩――芳澤すみれならこの程度もペロリと平らげるだろうと蓮はそう思っていた。
「おかわりいるかい!?」
蓮が「もうお腹がいっぱいになった」と今度こそ言おうとした時、既に貴美子はしゃもじを右手に持ち、左手に茶碗にご飯を入れて蓮の前に差し出していた。あまりの早業に蓮は思わず苦笑いをしたのだった。
なんとか朝食を食べ終えた蓮は陽東高校へと向かった。マップアプリによると――線に乗って――駅に降りてそのまま歩きらしい。そこからは同じ高校の制服を着た生徒達について行けば大丈夫だろう。
陽東高校は中高一貫で普通科、芸能科の2つの学科があるらしい。蓮が通うことになる普通科は特に他の高校と変わらないが、もう一つの芸能科に入るには芸能事務所に所属している証明書が必須らしい。芸能科は芸能科という名前だけあって、普通ではなく有名人が通う学科と言った方がいいかもしれない。つまり、この高校にいれば有名人に会えるということだ。
蓮は特に気になる芸能人やアイドルなどいないが、その中で高校生活を送ることになるのだ。
「ここが陽東高校か。秀尽ではオマエの扱い散々だったからな。だが、ここにはオマエの過去を知る者はいないぜ」
モルガナの言う通り、この世界の蓮は冤罪に巻き込まれておらず、至って普通の高校生なのだ。ならば堂々としていればいい。秀尽に転入したての頃は、鴨志田のせいで根も葉もない噂を立てられてしまい、しばらく他の生徒からあからさまに距離を取られていたものだ。
いざ陽東高校の正門を通って学校の中に入る。しばらく廊下を進むとクラス分けの紙が貼り出されていた。確認すると蓮は1ーDの教室だ。
入学式と陽東の校長の我が校のカリキュラムだの教訓だのと長い話を聞き終わり、ようやく1ーDの教室に入る。
黒板には座席表が貼られており、幸いにも蓮の席は秀尽の時と同じ位置だった。またこの位置の席ならモルガナが机の中に入っていても見つかることもおそらくない。
「はいはい、あんた達席についてー」
クラスの担任らしき人が教室に入ってくる。
「今日からあんた達のクラスの担任になる高見冴子。皆、これからよろしく頼むよ」
今度の担任は男っぽい性格でさっぱりとした感じの女性だ。歳は川上より少し上くらいだろうか。
そんなことを考えていると、いつの間にか自己紹介の時間がやってきていた。蓮も無難に自己紹介を終え、最後の人の順番になった。
「星野
入学式とHRがおわり下校時間となる。蓮は予定通り、渋谷駅に向かおうとしていたが、正門を出ようとしたところで後ろから呼び止められる。
「あの〜、ちょっといいですか?」
蓮に声をかけてきたのは、まるで宝石のような赤い目をした金髪の女子生徒だった。怪盗団の仲間、高巻杏とは違うタイプの美人である。
思わず蓮は、杏を初めて見た時と同じように少し見惚れたが顔には出さないようにして、「自分に何か?」と返した。
「雨宮蓮さんですよね? 私、星野
「ホシノ? ホシノって言ったらオマエの後ろの席にいた金髪のやつじゃないのか?」
モルガナに言われ、蓮はそういえばと親指と人差し指を顎に当てる。確か、愛久愛海と書いてアクアマリンという凄い当て字の男子生徒だったはずだ。彼もかなりのイケメンで金髪も似合っている。同じ学年ということは、アクアマリンとルビーは双子の兄妹なのだろう。とそんな事を考えていると、当の本人がやってきた。
「…おい、余計なことすんな」
「だって…お兄ちゃんこのままだと入学ぼっち確定だよ!? それでもいいの!?」
この星野兄妹が何やら言い合い?を始めてしまった。その少し後ろから遅れてやってきた少女が、あたふたと困っている様子が目に入った。フワッとしたピンク色の髪と目、さらに温厚で優しそうで奥村春と同じような雰囲気をしている。あとスタイルがかなり良い。竜司が見たら鼻の下を伸ばしそうである。
その女子生徒は蓮と目が合うと、微笑み返しながら言った。
「えっと…うちは寿みなみ言います。ルビーちゃんと同じ芸能科で…よろしゅうお願いしますー」
「ほらほら、お兄ちゃんもこの人に挨拶して!」
「いや、クラスで自己紹介やったしなんで今更?」
いつの間にかさっきまで言い合いをしていたルビーとアクアマリンが、自然に会話に入ってくる。妹の勢いに押し負けたアクアマリンは観念して蓮の方に向き直って挨拶をした。
「まあ、なんだ。よろしく」
>よろしく、アクアマリン
「…アクアって呼んでくれ。他のやつもそう呼んでるから」
「よかった……お兄ちゃんに男の子の友達ができて安心したよ…っ」
涙を手で拭うような仕草をするルビー。本気で双子の兄を思って心配していたようだが、ちょっと兄に対して失礼な気もしないでもない。
「じゃあ、この後どっか遊びに行く?」
「いきなりすぎね? 雨m…蓮も困るだろ」
雨宮と言おうとしたアクアが途中で蓮に変えたのを聞き逃さなかった。蓮としては構わないことだが、心境の変化でもあったのだろうか?
とはいえ、誘ってくれたのは嬉しいが今日はメメントスに行く予定なのだ。蓮がどう言い訳をして断ろうか考えているとそれは第三者の声が遮った。
「探したよ、蓮」
聞き覚えのある声に蓮は思わず振り向き目を見開く。そこには薄い茶色で首下まである癖毛な髪の青年――いつかは『2代目探偵王子』と呼ばれた蓮のライバル、明智吾郎がいた。蓮が決着をつけたいと思っていた相手がそこにいるのだ。ちなみに彼に渡された黒い手袋は未だ持っている。
「あはは、君がそんな顔をするなんて珍しいね。いいものが見られたよ」
明智が蓮の驚いた顔を見て笑っているのはきっと本心だろう。
流石のモルガナも明智の姿に驚いて声をあげる。
「アケチッ!? オマエ、生きてたのか!」
「まあ、ね。それよりも場所を変えた方がいいんじゃない? だんだん人も集まってきてるしさ」
「わわっ! もしかして流行りもののスイーツに目がない『美食探偵王子』の明智吾郎さん!?」
「明智さんも陽東だったんや…」
ルビーとみなみは明智を見るなり、有名人を見たような感じで言い出した。明智はこの世界でも有名なようだ。前の世界でも彼は揚げパンを食べてたり、蓮と一緒に吉祥寺にあるカフェでケーキを食べていたので『美食』が足されているのは納得である。
明智は嫌な顔を何ひとつせずにこやかに返す。
「初めまして、改めて明智吾郎って言います。僕を知ってるなんて光栄だよ」
「私は星野瑠美衣です! だって最近ネットでも話題になってますし! そういえば、明智さんは○○カフェ新作のパンケーキはもう食べました? 私はまだなので食べてたら美味しいか教えて欲しいです!」
「パンケーキ…パンケーキは…その、食べてないんだ」
明智の顔がだんだんと曇ってきている。以前、怪盗団を罠に嵌めようとした際に裏切り者ということがバレてしまった要因でもある『パンケーキ』がトラウマになっているのだ。本人も「パンケーキなんてしばらく耳にしたくない言葉」と言っていたほどである。
「えっと、すまないけど蓮を借りてもいいかな? ちょっと大事な用があるんだ」
「そうなんですか!? つい呼び止めてしまってすみません……」
「うちの妹がすまなかった。よかったらこれから仲良くしてやってくれ」
「あはは…僕でよければ」
人が(特に女子)どんどん集まってきている。このままでは目立つと思い、蓮とモルガナと明智はアクア達と別れて陽東から離れることにした。
場所を変えて渋谷駅前広場へとやってきた。元々はメメントスに行こうとしていたので、忠犬の像の前で落ち着いて話すことに。
「ここなら大丈夫かな。早速だけど、この事態について話したい。もちろん良いよね?」
「ああ、ワガハイは構わないぜ。蓮もだよな?」
首を縦に頷く。それは蓮も同じだからだ。見たところ明智は正気であり、蓮を知っている。
最初に蓮は丸喜パレスを攻略した後、どうしていたのかを聞いた。
「そうだね、まずはそこから話そうか。思い出したんだ――獅童のパレスで君達と別れた後、僕がどんなだったか……」
丸喜との決着をつけたあと、明智は都内の大きな病院で目を覚ましたらしい。医者も看護師もあの傷からよく回復したと言われた程のようで、目を覚ました後はリハビリを頑張っていたそうだ。3月に蓮が地元に帰る日には退院していたらしい。
つまり、明智は獅童パレスで獅童の認知上の明智に撃たれたあと、意識を失う前にカエレールを使ってパレスから出ていた。その後、国会議事堂の前で倒れていた彼を誰かが病院に連絡し、救急車に運ばれ、病室で意識不明の状態だったということになる。今となっては丸喜が生み出した明智は、実際の現実で動けなかった明智の怪我をすぐに完治させたみたいなものだったのだろうか。
「多分そんな感じで合ってると思うよ。蓮の事は一度たりとも忘れたことは無かった。このまま負けっぱなしなんて御免だからね」
>望むところだ
「へぇ…言うじゃない」
「お、おいオマエら…今にもおっぱじめそうな雰囲気出すのやめてくれよ!」
蓮と明智がまさに目線で火花を散らしている。お互い久しぶりに再開したライバルに闘志を燃やしているようで、モルガナは『ここがメメントスでなくて良かったぜ…』と心の底から安堵していた。
「そ、そういえばその制服…さっきから気にしてはいたんだが、アケチも蓮と同じ陽東なのか?」
「ああ、これかい? どうやらそうみたいなんだ。それも今日から芸能科の2年に転入したことになってる」
>何処かの事務所に入ってるのか?
「いや、前も今も入ってないよ。さっきの人達の言う通り、この世界ではまだ僕は探偵らしい。多分そのコネかな」
「いかんいかん、話がなんか脱線していってるな…」
モルガナの言葉でハッとして蓮は話を戻そうとする。
>何故明智もこの世界にいる?
「さっきから僕ばっかり答えてる気がするけど? まあいいか。というかそもそも僕が巻き込まれたのは、君のせいでもあるんだけどね」
どちらかというと、むしろ蓮も何者かの陰謀に巻き込まれた被害者なのだが、明智にとっては関係ない知ったこっちゃないらしい。蓮は何か言い返そうと思ったが、状況が状況なので話の流れを切らないようにした。
「巻き込まれた……? どういうことだ?」
「この世界に連れて来られる前日の夜に――夢に出てきた男にこう言われたんだ。『これから君は、邪悪で巨大な意志と戦わねばならん。さあ、君の友人と共に世界を取り戻すのだ』とね。それで気付いたらこの世界にいたってわけ」
夢に出てきた男……口調的にはヤルダバオトを思い浮かべたが、悪神の二人称は『君』ではなく『お前』である。ベルベットルームの住人にもこのような感じの男はいない。一体何者なのだろうか。
「とにかく、僕をこんなところに連れて来た元凶を潰さないと。また誰かの手の平の上だと思うと吐き気がするよ」
>また怪盗団になる?
「手を組むだけだ。丸喜の時みたいにね」
「話は決まったな。ワガハイ達はこれからメメントスに入るつもりだが、アケチはどうする?」
「それなら僕も行くよ。この世界のメメントスがどうなってるか知りたいからね」
「よし、じゃあ行くぞ!」
『ナビゲーションを開始します』と音声とともに蓮達はメメントスに入る。渋谷駅のまわりにいた人達が消えて、蓮たちだけとなる。服装も変わり、タキシード風の黒いロングコートに白黒のドミノマスク、そして赤い手袋と怪盗に相応しいいつもの格好になった。明智の服装も王子のような純白と赤の衣装……ではなく、黒と紺を基調とした禍々しい本来の姿に変化している。モルガナに関しては言わずもがなだ。
モルガナはメメントス内をキョロキョロ見ながら言った。
「特に内部は変わってなさそうだな」
「いや、よく見てごらん。改札口の先のエスカレーターが上りになってる。どうやらこの世界のメメントスは地下にではなく、3学期の時のように上に進んで行かないと駄目みたいだ。」
蓮達の元にいた世界では下へ下へと向かっていたが、丸喜がメメントスを掌握していた頃と同じように今回は最初から上に向かって進むことになりそうだ。メメントスの頂上まで行くのはまだまだ先になりそうである。
「ごきげんよう、皆さん」
そこへ蓮達の前にラヴェンツァが現れる。ベルベットルームへの扉も前と同じ場所にあった。
「ラヴェンツァ殿……」
「話は中でするといたしましょう。さあ、主もお待ちです」
ラヴェンツァにベルベットルームに案内される蓮と明智とモルガナ。中に入ると、蓮はもう囚人服になっておらず、扉も開いていた。蓮の反逆の意思の表れが出たのだろう。
入ってきた蓮達にイゴールはいつもの挨拶をした。
「ようこそ、我がベルベットルームへ……おや? 貴方はもしや…あのお方にお会いに…」
「あの…僕に何か?」
イゴールは明智をじっと見ている。
「これは失礼…きっと私の思い過ごしやもしれませんな」
イゴールは悪神と人間を見極めるための『ゲーム』を持ちかけられた際、『大衆の歪みを煽る者』として悪神の手駒であった明智に何か思うことがあるかもしれない。蓮がおそらくそうだと解釈していると、イゴールは続けて言った。
「以前、貴方にこのまま何もしなければ世界の滅亡が起きると言いましたな。そのことでお呼びした次第でございます」
「滅亡って言ってもあくまで『この世界』の話なんですよね? なら僕達は別に関係無いと思いますけど」
そうばっさりと言う明智。確かにこの世界が滅んでも、蓮達の世界には影響がない。別の世界から助けに行くとかどれだけのお人好しでも、酔狂でも、馬鹿でもしないだろう。
しかし、ラヴェンツァは明智の言う事に首を小さく横に振った。
「おそらく、この世界は邪悪で巨大な存在の実験台でしょう。この世界を滅ぼした後、貴方達の住む元の世界にもその存在は干渉してくると思われます」
>その存在の正体はなんだ?
「まだ私にはわかりかねます…ですが悪神と同じ――いえ、それ以上の悪意を持っている存在とだけ」
「かつてのお仲間がいない以上、貴方方には新たな関わりが必要。絆を育むことが大切でございます。さすればきっと……」
イゴールが指をパチンと鳴らす。すると、明智の頭上にペルソナカードがゆっくりと落ちてくる。思わず明智は左手でカードを受け取った。
「あの、これは?」
「それは『愚者』のアルカナにございます。貴方は雨宮蓮様と固い絆を築かれているご様子。貴方ならそのペルソナを使いこなせるでしょう」
明智が新たにイゴールから貰ったペルソナは『ジャアクフロスト』。ジャックフロスト、ジャックランタン、キングフロストの3体を同時処刑するとできるペルソナだ。
明智は本来、蓮と同じくワイルドのペルソナ使いの素養があった。だが、双葉によると人生ソロプレイで生きてきたため、目覚めたのは自前の『嘘』のロビンフッドと『恨み』のロキの2つだけだったのだ。その彼が今、蓮と絆を深めたことによって新たな力が覚醒した。
「…まあ、悪い気はしないかな。これで蓮の力に少し近づけたね」
笑みを浮かべながら蓮の方を見る明智。彼はまだ蓮を倒すことを諦めていない。むしろ、今からでもリベンジするつもり満々である。それもそのはず……ビリヤードではともかく、戦闘では蓮に負けてばかりなのだ。
ベルベットルーム内にジリリリと音が鳴り響いている。そろそろ時間がきたようだ。
「我々は引き続き、貴方方の旅路のお力添えをさせていただきます。何かあれば、また呼ぶように致しましょう」
「モルガナ、彼らを再び導いてください。貴方なら今度の試練もきっと大丈夫です」
「はい! 任せてくださいラヴェンツァ殿」
「これ以上のお引き止めは出来ますまい。では、次にまみえる時までご機嫌よう…」
ベルベットルームから出た蓮達は、メメントスの入り口に戻っていた。明智はというと、さっきにイゴールから手に入れたジャアクフロストの力を試したそうにそわそわしている。明智の新たな一面を見た蓮とモルガナだった。
「ねえ、君達さえよかったら、ちょっと進んでみないかい? メメントスの中も気になるしさ」
「元々そのつもりで来たからワガハイは構わんが…ジョーカーは?」
>クロウのお手並み拝見だ
「フッ、誰に言ってるんだ。行くぞ!」
明智の生死については書いた通り作者の解釈です。
ペルソナメインの話ばかりになってるので次回こそは推しの子メインで書きたいところ…