ペルソナ5 The My Star 作:アカトンボ
5月4日、木曜日。午後。
メメントスにて。蓮――ジョーカーは、オーシャンに「今日何も予定が無いなら、一緒にメメントスに来て鍛えてほしい」と言われ、そこら辺にいるシャドウを相手にしていた。モナはというと、ジョーカーなら大丈夫だろうと判断して現実の方でその辺を散歩している頃だ。モナはジョーカーがプライベートで誰かと過ごす際、空気を読んで席を外しているのだ。
モナがいないため、出来るだけ遠くにいかないよう、ジョーカー達はホームから近くのシャドウを相手に鍛えている。もう少し奥に行けば強いシャドウと戦えるのだが、オーシャンに無理をさせるのはよくない。しかも今回は二人しか居ないので尚更だ。一定数のシャドウを倒し終えると、オーシャンは疲れたのか息が上がっており、ジョーカーは「少し休むか?」と声をかけた。
「…俺なら大丈夫だ。それよりもっと強くならねぇと……」
そうは言っているが、自分を追い込んで無理しているのがバレバレである。無理をするな、的な事を言ってもオーシャンは絶対に休もうとしないだろう。何をそんなに焦っているのかはわからないが、このままではオーシャン自身が倒れるまで戦闘をしかねない。そう思ったジョーカーは、「自分が疲れたから休みたい」と伝えた。
「……嘘つけ、さっきからお前全然息が乱れてないだろ。真顔で言われても説得力ねぇよ」
オーシャンも大体ポーカーフェイスだろと心の中で突っ込みを入れたくなるが、そんなことを言っている場合ではない。いい加減そろそろ休ませないと、本当に倒れてしまうかもしれない。そう思ったジョーカーは「何を焦っているんだ?」と問いかける。
「別に焦ってなんか……ただ、俺は強くなりたいと思っただけだ。お前だってその方が都合が良いだろ?」
確かにオーシャンが力を付けていくのは良い事であるが……いつもと様子が違うオーシャンに、ジョーカーは何か理由があるとみた。どうやらオーシャンは思うことがあるみたいだ。こうなったらダメ元で、訊き出してみよう。
>話せば楽になる。
まるでカウンセリングのような感じで訊かれ、オーシャンはしばらく無言だったが、意を決したようにやがて口を開いた。
「……俺にはどうしても改心――いや、復讐したいやつがいる。絶対に…絶対に、だからこの力を使いこなさねぇといけないんだ。必ず……俺の手で」
拳を握り、その瞳には復讐のオーラが出ていた。もしここで、オーシャンが改心させたい人物の名前を言えば、そいつを次のターゲットに出来る。いつも冷静なオーシャンにそこまで言わせる人物とはどんな悪人なのだろう。そしてその悪人は一体どんなことをオーシャンにしでかしたのだろう…?
「名前は知っているのか?」と訊くジョーカーに対し、オーシャンは首を横に振りながら答えた。
「それが…今は探してる最中なんだ。俺が芸能界に入ったのも、そいつを見つけ出すのが目的だったりする」
ここでオーシャンが何故、恋愛リアリティショーに出たのかようやく理解できた。おそらく彼は、先ほど改心させたいと言っていた人物に近付くためだったのだろう。少しでも情報を得るために、なるほど――ようやく腑に落ちた。
「お前にも感謝しないとな。お前達と出会ってから、俺はペルソナという力を手に入れた。おかげで、これからは異世界を通してでも調べることが出来そうだ」
きっと彼の言っているのは本心だろう。怪盗団に入った事情も分かり、オーシャンから感謝の気持ちが伝わり、距離が縮まった気がする……。
それから再開して、湧き出るシャドウを何体か倒してから2人は現実世界に戻った。
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「…ふぅ、悪いな。結構付き合わせてしまって」
気にするな、と返す蓮。今では仲間であり友人のアクアに力を貸すのは当然である。
時刻はいつの間にやら、夕方6時を回ろうとしている。異世界で何体もののシャドウを相手にしていたので、アクアも疲れているのがわかる。流石の蓮も全く疲れていないわけではなく、空腹と眠気の両方が襲ってきていた。
このまま帰るのもあれなので、何処かでアクアと一緒に食べに行こうかと思い、彼を誘うことにした。
「まあ、俺も腹減ったし別にいいけど。どこに行くんだ?」
せっかくセンター街にいるわけだし、自分のバイト先でもある『ラーメンくらいし』を提案する。アクアもこの際どこでも良かったようで、あっさりと決まった。蓮達は早速ラーメンくらいしに向かい、店内に入った。
「いらっしゃい〜。おや? お兄さんじゃないか。今日は食べに来たのかい〜?」
倉石のおばちゃんの問いに蓮は首を縦に振る。店主の人と親しげにしているのを不思議に思ったアクアは小声で蓮に訊いた。
「…お前、ここの人と知り合いなのか?」
自分のアルバイト先の店主だ、と答える蓮。それに続くように倉石のおばちゃんもアクアの方を見て言った。
「おや? 今度は友達も一緒かい〜? 連れの金髪のお兄さんもなかなかのハンサムだねぇ〜。さあ、座っていきな」
二人はカウンター席に座り、蓮はゲテモノ――ではなく、普通のラーメンとチャーハンを注文する。ここに来るとたけしくんと悪戦苦闘したことも、今では良い思い出?である。アクアもラーメンと餃子を注文して、出来上がるまで待つことにした。
すると、アクアはさっきの話を続けた。
「蓮ってうちだけじゃなくて、ラーメン屋のバイトもしてたんだな。掛け持ちってことになるが、大丈夫なのか?」
>問題ない。
蓮は元の世界でもいくつものアルバイトを掛け持ちしてたので、このくらいは余裕なのだ。特に牛丼屋なんてほとんどワンオペでやっていたので、あれと比べたら大したことはない。それより今はここで武器を買うためにも、お金が必要なので、アクアが紹介してくれたバイトは渡に船である。まあ……もう少しミヤコに加減をしてくれたら嬉しいのだが。
「へい、お待ちどう〜。注文の品だよ〜」
注文した品がカウンターの上に運ばれてくる。美味しそうな匂いが鼻孔をくすぐる。この店といえば、すっかりゲテモノに目がいきがちだが、普通のメニューもなかなか美味いのだ。もちろん出来立てなので、湯気が出ており、蓮の掛けている眼鏡が曇る。このままでは何も見えなくなるので眼鏡を外すことにした。それを見たアクアは、そういえばとばかりに蓮に訊いた。
「今更だけど、蓮って目が悪いのか? いつも眼鏡かけてるよな」
蓮はこれは伊達でファッションのようなものだとをアクアに教える。蓮が眼鏡をかけている本当の理由は、例の傷害事件(冤罪)の前歴の印象を和らげるためのものである。なので、この世界ではそのような出来事が起きておらず、する必要もないが、元の世界でずっとしていたのもあってすっかりと馴染んでおり、今も掛けている。もはやトレードマークといってもいいかもしれない。
この眼鏡を使って明智に変装させた時のことを思い出し、そのうちアクアにも有名になってきたら、眼鏡と髪型をボサボサにしたあの変装をさせてみるか……と悪いことを考えていると、蓮には聞こえないような小さい声でアクアがぼそりと呟いた。
「眼鏡か…昔は俺もしてたな」
「ほらほら〜、早く食べないと冷めちゃうよ〜」
倉石のおばちゃんの言葉に2人は「いただきます」と言ってから、ラーメンを口に運ぶ。前に食べたゲテモノと違って普通に美味い。アクアにもゲテモノを食べさせたら、いつもの表情が崩れるのだろうかと気にはなったが、それは酷というものだろう。
食べ終えた蓮とアクアは、今日はこの辺で解散することになった。その帰り道、アクアから電話がかかってきた。蓮は迷うことなく電話に出る。
『蓮、今日は付き合ってくれて感謝してる。ありがとう』
わざわざお礼を言うためにかけてくれたようである。そのままアクアは言葉を続けた。
『まだまだ未熟で手間をかけさせることになるが……これからもよろしく頼む』
>期待してる
『…ああ、足手まといになる気はないからな。じゃあ、また』
蓮は電話を切り、そのまま五反田のマンションに帰ろうとした道中、モルガナと合流する。モルガナは気さくに蓮に声をかける。
「無事だったようで何よりだぜ。ま、オマエの実力なら心配してなかったけどな! アクアにちゃんと指導したか?」
モルガナの言葉にうなずく蓮。間違いなくアクアはこれから成長していくだろう。アクアも自分のように悪い大人によって、人生を狂わせられたのがわかる。メメントスで言っていた彼の『復讐』とも言える誓いに、蓮も出来る限り協力していきたいと思った。自分も元の仲間達と一緒に、冤罪をでっち上げた獅童を改心させることが出来たので、今度は自分が仲間のために手を貸す番だ。もちろん、あくまで改心という形で。
モルガナは鞄の中に入り、本当にそろそろ帰ろうと思っていると、以前に感じた誰かに見られている気がした。蓮が視線の方を見てみると、それは電線の上で止まっていた
「おい、どうした?」
>なんでもない
モルガナにはそう言う蓮だが、確か前にも視線を感じた先にいたのはカラスだった。蓮がカラスをじっと見ているのに気が付いたモルガナは、少し嫌そうな顔をしていた。
「カラスか……ワガハイが散歩している時もよくいるぜ。この世界でも相変わらず油断ならんヤツだぜ」
やはりカラスは猫の天敵なのか、モルガナもカラスに対して嫌悪感を抱いていた。もしかしたらモルガナを狙っているのかもな、と蓮が冗談で言うとモルガナは嫌そうにしていた。
「そういう事を真顔でサラッと言うんじゃねーよ! オマエのは冗談なのかわかんねぇんだって!」
とっとと早く帰るぞ!と急かすモルガナ。蓮もカラスなんてどこにでもいるだろうと思い切ることにして、今度こそこの場を離れて帰るのだった。
「雨宮蓮……あの子を頼んだよ。あの子を破滅の運命から救えるのは、私ではなく君なのだから」
〜〜〜
夜。
金田の改心の件以来、明智は警視庁本部に入り浸りになっていた。その理由の2つあり、その1つは怪盗団騒ぎである。反谷孝志、金田カツエと極悪ともいえる有名人をどう改心させたのか。そしてそれは『いつ』『どこで』実行したのかだ。金田の件で警察も町中にある監視カメラを観てみたが、結局分からずである。
次に2つ目。つい前まで起きていた精神暴走、廃人化事件がパタリと起きなくなったことだ。そう、蓮達がレオと名乗っていた男に邂逅した頃からと一致している。この事から明智は、僕たちという存在が現れた以上、親玉にお灸を据えられたのではないか――と推測した。だからしばらくは身を潜めるつもりなのだろう。ほとぼりが冷めてからまた人々を精神暴走、廃人化させるに違いない。
その際、気を付けないといけないのは『怪盗団に罪をなすり付ける』といった以前に獅童が取った作戦をまた今回もやられないかどうかである。明智もその時は加担したが、今は自分も怪盗をやっているため立場が違う。まあ、探偵という立場もあるので下手な演技は出来そうにないが。
そう考えながら、そろそろ帰ろうと外に出た明智に女性の声がかかる。
「吾郎君、お疲れ様。ごめんね、今日も来てもらって」
「詩織さんこそお疲れ様でした。いえいえ、前にも言いましたが、僕も探偵なので。では僕はこれで」
探偵王子らしく振る舞い、笑顔で対応する明智。時刻は8時――ここのところずっと仕事だったので早く帰って寝ようと決めていたのだが……。
「あ、私も今帰りだから送って行くわよ? 吾郎君まだ未成年だし、警官である私は君を守る義務があるもの」
真面目に言っているのかどうかはさておき(まあ、彼女の性格上冗談で言っているわけではないと思うが)、ここのところ休み無しで疲れていた明智には有難いことだった。前にも送ってもらったことがあるので、詩織は明智の住んでいるマンションを知っている。明智は詩織の言葉に甘えることにした。
「それじゃあ、お言葉に甘えさせていただきます。ここのところ詩織さんにこき使われてもうへとへとですよ」
「あら、嫌味を言えるってことはまだまだ元気な証拠ね。明日も朝から部署まで来て貰いましょうか?」
「それは……流石に勘弁してもらえると…」
今話題の探偵王子も大人の女性である詩織の前では無力だ。明智の困り顔を見て、悪戯っぽい笑みを浮かべている詩織は何処か楽しそうである。
「なんて冗談よ。明日はゆっくり休んでね? 吾郎君に倒れられたら私も困るし」
「はは……そうします」
そんなやり取りが続いた後、明智は詩織の車の助手席に座り、自宅のマンションまで詩織と一緒に向かうのだった。その道中、詩織は明智を気にかけて話をふる。
「ねえ、吾郎君って休みの日は何をしてるの?」
「休日はサイクリングやボルダリングをやってます。これが結構面白くて、今では趣味になっていますね」
「健康的でいいわね。私もやってみようかしら」
「はは、是非」
そんなたわいもない話をしている途中、さっきと打って変わり詩織が神妙な面持ちになる。明智も彼女の様子に気が付き、きっと事件のことを考えているのだろうと思い、声をかける。
「何か事件の件で気になることでもあるんですか?」
「…ええ、よくわかったわね。ちょっと聞いてくれる?」
「構いませんよ。どうぞ話してみてください」
「最近現れた怪盗団による改心と廃人化事件……何か関係が無いかと思って」
どうやら彼女は勘がいいようで、鋭いところを突かれる。何も言わないのも不審に思われそうなので、明智は同調することでそれを防ぐ。
「実は僕も同じような事を考えていました。ですが、僕が気になるのは怪盗団が現れて以降、精神暴走・廃人化事件が起こらなくなったことです。その証拠に『改心』という形に変わりましたよね? 怪盗団が事件に関与している……とはまだ断定できません」
「確かにそうね…今まで見せしめのように殺していたのに急に方向転換するとは考えにくいわ」
探偵としては怪盗団も捕まえないといけないことなのだが、自身も怪盗団という二重生活の中、今度は『怪盗団は絶対悪!』という考えは大衆にさせないようにしたいのが本音だ。今の所は無難な事を言っていくのが正解な気がする。
「やっぱり怪盗団と結び付けるのは無理があったかしら……」
「いえ、詩織さんの言っていることも否定出来ません。実は犯人自体が心変わりをしたかもしれませんし、今は色々な可能性を考えて行くしかないですから」
と言っている明智は精神暴走、廃人化事件を起こした犯人を知ってはいるが、相手も仮面をしていたため顔が分からない。たてがみのように伸びきってボサボサの白髪に、特徴のあるハスキーな声質をした男という事は間違いないのだが……生憎名前がわからない。せめて正体を知れれば、始末できて手っ取り早いが……それはこちらの方でじっくりと調べていこう。怪盗団として活動を行っていくことで相見える時がいずれ来るはずなのだ。その時こそ必ず、全ての元凶である存在のことを吐かせてやる。
「……ねえ、実は吾郎君なら既に目星ついてたりしない?」
さっきまでと違い、静かに…そしてガチのトーンで訊いてくる詩織。もしかしたら彼女は、明智が犯人に心当たりがあることに勘付いているのだろうか……ここで言えば、彼女にも協力者になってもらうのもありだが、犯人は明智や蓮と同じペルソナ使いだ。証拠もないのにいきなり奴(レオ)の特徴を言ってしまえば、こちらも怪しまれる可能性だってある。そもそも明智は怪盗団でもある立場上、警察を当てにする事を考えていないので、のらりくらりとかわすことにした。
「まさか。もし犯人がわかっていたらとっくに僕が捕まえてますよ。今までだってそうだったでしょう?」
「そう、よね…でも吾郎君っていつも私達警察よりもいち早く事件を解決させてきたから…もしかしたら今回もって思ったの」
「僕の事を評価してくださるのは嬉しいですが、今回の騒動はイレギュラーがすぎます。もちろん、探偵として音を上げるような事を言うつもりはさらさらありませんが」
「ええ、期待してるわ。私じゃ頼りないかもしれないけれど、吾郎君もいつでも頼ってね。悩みとかあったら相談に乗るから」
「ありがとうございます」
今の明智の悩みと言えば『元の世界に帰りたい』というものなのだが、詩織に言ったところでどうしようもない。例え万が一、明智の口が滑って暴露したとしてもついに頭がおかしくなったのかと心配されることだろう。詩織の気持ちは有難いが、あくまで気持ちだけ受け取っておこうと思う明智だった。
事件について話をしているうちに、明智の住んでいるマンションに着く。詩織がマンションの前に一旦車を停めると明智が礼を言いながら、車から降りる。
「ありがとうございます、詩織さん」
「ううん、気にしないで。私だってこれくらいはね? じゃあおやすみ、吾郎君」
そういうと詩織は車でマンション前から離れる。明智はそれを見送ると、そのままマンションの中に入って、自分の住んでいる部屋の階までエレベーターで上がっていく。
(……あの人、前から思っていたけど、どうして僕にこんなに気にかけるんだ?)
明智はそれが不思議で仕方がなかった。いくら刑事と探偵という立場だとしても、ただの接し方ではない。かといって、学校の同級生から向けられる好意や眼差しとは別物だ。
(そういえば詩織さん、前に弟が殺されたって言ってたっけ。この世界で廃人化を引き起こしている犯人に……)
だとすれば本当に探偵として頼られているのかそれとも……。
(僕の事を、その弟の代わりにしている――いや、それは考えすぎか)
彼女の弟は今生きていたら、この世界の明智と同じ年齢だと言っていた。明智の事を弟だと思って接しているのかもしれないと考えたが、即座に否定する。
(まあ、僕には関係の無い話だ。それより今は――)
――元の世界に帰ることが最優先だ。
エレベーターが開き、自分の住んでいる部屋の階につくと明智はそのまま自分の部屋に帰るのだった。
今回はアクアと明智の話を書きました。そろそろ今ガチの話を書きたいのですが、それは次の次か…はたまた次の次の次か……。