ペルソナ5 The My Star 作:アカトンボ
5月5日、金曜日。昼。
今日は子どもの日である。だからと言って蓮に何か特別な事もないのだが、朝に貴美子からフルーツ味の飴玉をいくつか貰ったくらいだ。蓮は口の中で飴玉を転がしながら、潜入道具を補充しており、今日はこのまま過ごそうかと思っていると不意にスマホが鳴った。一体誰だろうと思って出てみると、どうやら相手はラヴェンツァだった。
『ごきげんよう、ラヴェンツァです』
「ラヴェンツァ殿だって!?」
いきなりのラヴェンツァからの連絡に、さっきまでまったりとしていたモルガナが飛び起きる。何かわかった事があったのだろうかとモルガナも思ったのか、静かに彼女からの言葉の続きを待つ。
「貴方にお願いしたいことがあるのです。もし時間がおありでしたら、ベルベットルームの前まで来て欲しいのですが……」
これはどうやら只事ではないようだ。蓮は、今すぐ行くと言ってから電話を切り、センター街にあるベルベットルームへの扉まで行くことにした。
早速、ラヴェンツァのいるところに着き、蓮の姿に気が付いた彼女は心なしか嬉しそうな表情をしている。
「ごきげんよう。よく来てくださいました。早速ですが、お願いを聞いていただいてもよろしいでしょうか?」
>どうした
蓮が固唾を飲んで何事かと言葉の続きを待っていると、ラヴェンツァは意を決して言った。
「実は…是非行ってみたい場所があるのです。そこは有名な人物達が集まる家?と言うべきなのでしょうか……貴方ならご存知と思いまして」
……蓮とモルガナは彼女の言葉に固まってしまう。そういえばラヴェンツァは元々カロリーヌとジュスティーヌの双子だったということを思い出し、元に戻った今でもこの世界の好奇心があるのだろう。今思えば、双子とは海やメイド喫茶、教会といった色々な場所に出掛けたものだ。そんな蓮の気持ちを汲み取ったのか、ラヴェンツァは慌てた様子で申し訳なさそうに言った。
「あ、あの! 世界がまた危機的状況でこのような事を言うのは、少々憚られるのですが…無理とは言いませんから…」
ここで断るのはなんだか悪いと思い、蓮は連れて行くことに決める。場所は……おそらく『苺プロ』のことだろうか。蓮はラヴェンツァを連れて向かうことにした。
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苺プロに着いて中に入ると、そこにはミヤコが仕事をしている姿があった。ミヤコはこちらに気が付くと、意外そうな目をしながら言った。
「あれ? 今日は何も無かったと思うけど……ってその子は?」
ラヴェンツァに気が付いたミヤコは、彼女をじっと見る。プラチナブロンドに金色の瞳、それに普通の少女とは違うミステリアスな雰囲気をもつラヴェンツァにミヤコもどう対処していいか悩む。
すると、ラヴェンツァはスカートの裾を持ちながら上品に自己紹介をした。
「なるほど、貴女がここの主ということですね。初めまして、私はラヴェンツァと申します」
「こ、こちらこそ初めまして。私は苺プロダクションの代表取締役の斉藤ミヤコと申します……って主?」
突然のことにミヤコは蓮に近付いて耳打ちする。
「えっと、この子は一体なんなの? 君の知り合いか何かかしら?」
「知り合いではありません。私にとってこの方はマイトリックスターです」
しっかりラヴェンツァの耳にも聞こえていており、ミヤコにそう言う。話がこじれそうになるのは覚悟していたが、これは弁明するのに骨が折れそうだ。すると、ただでさえややこしいところに、さらにややこしい人物の声がかかる。
「あ! 雨宮くん来てたんだ――って、誰その可愛い子!?」
蓮と同じ高校の同級生であり、苺プロ所属のアイドル(のたまご)の星野ルビーである。今ではルビーも芸能人とも言えるわけだが、そのルビーはラヴェンツァを見かけるやいなや、興味津々に近付く。
「えっと…はろー、まいねーむいず――」
「初めまして、私はラヴェンツァと申します」
「あ…日本語上手なんだね。私は星野瑠美衣だよ! よろしくね♪」
ラヴェンツァの容姿から何処かの外国人と思ったのか、どこかホッとするルビー。日本語が上手とわかると、ルビーはラヴェンツァにぐいぐいと話しかける。
「ねえねえ、ラヴェンツァちゃんはどこの国から来たの?」
「ベルベットルームです」
「べ、べるべ…? ごめん、私わかんないや……ミヤコさん知ってる?」
「うーん、そんな国あったかしら……」
流石のルビー達も、ベルベットルームと言われて困惑する。無論そんな地名は現実に存在しないため、蓮はつかさずに「デンマークから来た」と誤魔化した。
「デンマークか〜。ミヤコさん、この子も私達のユニットに入れたりしない?」
「いやいや何言ってるの!?」
「ら、ラヴェンツァ殿がアイドルだって…?」
いきなりラヴェンツァをアイドルに加入させようとするルビーに、ミヤコとモルガナは戸惑いを隠せない。なんだかデジャヴを感じる一方で、蓮はラヴェンツァにアイドルをやらせたらどうなるのかという興味の方がないこともない。
すると、アイドルと聞いたラヴェンツァは、蓮にしか聞こえないような声でこんな事を言い出した。
「アイドル……男性女性問わず、夢中にさせるだけさせてお金を貢がせて家庭崩壊まで起こす存在とか…」
どうやらとんでもない偏見をしているようだ。確かに以前、明星リリナというアイドルに夢中になった『不破安司』という家庭持ちの男性をメメントスで改心させたことがあるが、その事を言っているのだろうか。その話をルビーが聞いたら嫌な気持ちになるだろうから、聞こえてなくて良かった。
ルビーはそんな様子をラヴェンツァが不安がっていると思ったのか、優しく声をかけた。
「大丈夫! ダンスなら私教えられるよ!」
「だからそういう問題じゃなくて……実は彼女、雨宮君の知り合いらしくてね。ここに見学に来たらしいわ」
「え!? 雨宮くんの? 一体どういう経緯で知り合いになったのか気になるんだけど」
蓮がどう言おうかと考えていると、ラヴェンツァが代わりに答えた。嫌な予感しかしない。
「ふふ、まさに縁は異なもの味なものと言ったところでしょうか。彼は真っ二つに引き裂かれた私をふぐっ――」
嘘は言ってないのだが、誤解を招くような言い方をするラヴェンツァの口の中に、貴美子から貰った飴玉を2つ放り込む蓮。まさに早業というか一瞬の出来事だったので、モルガナでなければ見逃している。
「真っ二つ…?」
「引き裂かれた…?」
ラヴェンツァの口を止めることには成功したが、ミヤコとルビーによからぬ疑いをかけられる蓮。2人は蓮に対して「この子に一体何をしたの?」という目で見ている。何か誤解をしてるのは間違いないので、蓮はゲームの話だと誤魔化すことにした。ここで蓮は吉田寅之助のモットーである『分かってもらえるまで諦めない』が脳裏に浮かぶ。粘り強く、わかりやすく、何事もまずは伝わらなければ意味がない。諦めずに伝えることで、ミヤコもルビーもきっと分かってくれるはずだ。これまで培ってきた経験を活かして2人に説明をした結果、なんとか納得してくれた。
「なんだ! そういうことだったんだ」
「ごめんなさいね。君のことちょっと誤解してしまってたみたい」
まさか吉田もこんな場面で演説技術を披露されているとは思わないだろう。今の状況を吉田が見たら、「ははは」と笑われそうである。
「オマエ、すげぇな……」
モルガナはモルガナでこの窮地を乗り切った蓮に感心していた。
すると、蓮が弁明していたうちに口の中にあった飴玉が溶けて無くなったのか、ラヴェンツァが微笑みながら口を開く。
「流石はマイトリックスターです。この困難を無事に乗り越えましたね」
元はと言えばラヴェンツァのせいだが、本人にその自覚はないみたいだ。その上で楽しんでいないかとさえ疑う。
蓮への誤解も解けたところで、ルビーは再びラヴェンツァに話しかける。
「ところでラヴェンツァちゃんはどうして苺プロに来たの? やっぱりアイドルに興味あったり?」
どうしてもラヴェンツァを勧誘する気満々である。しかし、いくらなんでも見た目7〜8才くらいの女の子が、アイドルをやるのは早すぎるのではないだろうか。そのラヴェンツァは親指と人差し指を顎に当てる仕草をしながら、ルビーを見つめている。
「見聞を広めるためです。そう言う貴女はアイドル…なのですか?」
「うん、そうだよ♪ といってもまだ活動すらしていないんだけどねぇ〜…まだ出来ないというか…」
その辺の事情は察する。そもそもまずユニット名も無く結成すらしていないので、活動したくてもできないのだろう。自分のやりたいアイドル活動が全く出来ないので、ルビーもうずうずしているに違いない。
「一体何の騒ぎ――あれ? 蓮いたの?」
そこへ、ルビーと同じアイドルになったかながやって来た。ちなみにユニット名が決まってないのは、かなが積極的じゃないせいもある。
「先輩見て! 新メンバーのラヴェンツァちゃんだよ!」
「こらこら、勝手に入れないの。この子は雨宮君の知り合いの子で、苺プロに見学に来たらしいわ」
ルビーにした説明を親切にかなにもう一度するミヤコ。
どこか普通の子どもと違う雰囲気を感じ取ったかなは、少し戸惑いながら虚勢を張るように自己紹介した。
「私は有馬かな。うちに見学ってことは芸能界に興味があるのかしら?」
「はい、その認識で構いません。なるほど、貴女が鹿の……ここにいるという事は貴女もアイドル、なのでしょうか?」
「そ、そうよ」
かなに至っては成り行きと言った方が良いかもしれない。実際怪盗団に入ったのも押しに負けて入ったし、それでアイドルである。蓮もその場に立ちあったが、彼女の押しの弱さには心配になるほどだ。
「先輩がゴネるからユニット名も決められないんだよね〜……」
ルビーの嘆きに、ラヴェンツァはコホンと小さく咳払いをしながら言った。
「では僭越ながら、私が考えましょうか?」
「え? ラヴェンツァちゃんが?」
なんだか嫌な予感しかしない。蓮がやめておいた方がいいとルビーに言うが、むしろその制止を払う。
「ちょっと興味あるし、言ってみてよ!」
ルビーの好奇心を抑えることができなかった。ルビーに持ち上げられ、ラヴェンツァは自信ありげに答えた。
「『メギドラオン』というのはどうでしょうか?」
「何その会場どころか東京ドームすらぶっ壊しそうなユニット名……」
「却下よ却下」
ラヴェンツァの得意技であるメギドラオンをユニット名に持ってくるあたり、ちょっとカロリーヌの部分が垣間見える。ルビーとかなに否定されたので、ラヴェンツァは少し不服そうな表情をしている。
「むぅ…私としましてはインパクトがあって良いと思ったのですが、ダメでしたか」
インパクトがあるにもほどがある――いや、物理的にありすぎる。アイドルのユニット名に万能属性のメギドラオンとか逆に推してしまうかもしれないが、それは少数だろう。
ミヤコに至っては溜め息をしながら、頭を押さえている。最初こそ整っている顔立ちと雰囲気で好奇な目で見ていたが、どこかずれてる彼女に今は頭を抱えていた。それはかなも同じで「この子変わってるわ……」と心の中で思っている。
「…そうだ! 『B小町』のDVD見てみる? ラヴェンツァちゃんもアイドルにハマると思うよ!」
「B小町……その人もアイドルなのですか?」
「え〜と、B小町はユニット名で7人のグループだよ。今はもう解散しちゃったけど、私が1番推してるの!」
そう言いながら、ルビーはB小町というアイドルグループが映っているDVDと観るためのノートパソコンを持ってきた。解散したというのは、つい最近の事なのだろうか? ルビーがそのB小町のDVDを持ってくるあたり、それなりに人気だったと考えられる。
「じゃ再生するよ! ついでに雨宮くんとモルガナも観てて、絶対に目覚めるから!」
「ワガハイ達はついでかよ!!」
ついでにB小町の映像を観ることになった蓮とモルガナ。観賞会が始まるやいなや、モルガナはルビーに無理矢理、膝の上に乗せられてしまい、本人は諦めたのかもはや無抵抗である。
映像が始まり『サインはB』という曲が流れる。ルビーもつい口ずさんでいたが、気になるほどではない(ついモルガナの両前足をまるでサイリウムのように持ちながら小さく振っていたので、モルガナは困っていたが)。
しばらくして映像が終わる。すると、勧めた本人であるルビーが1番満足そうにしていた。
「やっぱりマ――B小町はいいなぁ! ねえ、ラヴェンツァちゃんもそう思わない?」
「ふむ、確かに悪くはありませんね。あの動き、あの不特定多数に向ける笑顔……今度我が主にもお見せすることにしましょう」
「我が主…? まあいいや! じゃあさ、これとこれとこれ貸してあげるから観てみて! 絶っっっっ対、推せるから!!」
ルビーとラヴェンツァはアイドルについて話を咲かせていた。意外にもラヴェンツァは興味を持ったようで、ルビーにまた違うDVDを出して貰っていた。ルビーは布教成功と知ると嬉しそうにしている。
つい流しかけたが、もしイゴールがアイドルにハマるような事があったら自分はどんな顔をしてベルベットルームに赴けばいいのか。まあ、イゴールに限ってそのようなことはないと思うが……あの見た目でサイリウムを振っているのを想像したらしたで面白いのが逆に困る。そもそもベルベットルームでDVDが観れるのか疑問ではあるが。
すると、ルビーから解放されて疲れているモルガナがこちらに寄ってきた。
「ハァ…ワガハイにはイマイチわかんねーな。蓮、オマエはどうだったよ?」
特に何も、と答える蓮。芸能人に全く興味が無い蓮からすると、何も思わなかったようである。強いて言えば、センターのアイドルは存在感があったという印象だ。まさに両目に星が宿っていたように異彩を放っていた。天才とは多分あのセンターの人の事を言うのだろう。
「まあ、ルビーによるとあのグループ、相当人気があったらしいぜ? なんで解散しちまったんだろうな」
確かに。人気があったのなら、あのメンバー自体は世代交代という形で引退するにしてもグループは残しておくものではないだろうか。蓮がそう疑問に思っていると、かなが少し離れたところから蓮に声をかけた。
「蓮、ちょっといいかしら。モルガナも聞い――」
「それじゃ、モルガナも私たちと一緒に続き観ようね〜!」
「ちょ!? ワガハイはもういいって――」
かながモルガナも呼ぼうとしたが、ルビーに抱えられてまたB小町の鑑賞を続けることになってしまった。ラヴェンツァも興味深そうに観ており、こちらを気にしている様子はない。
「…この際、モルガナには後で話してあげなさい。アンタ達が、さっき言ってたB小町が解散した理由よ」
かながおもむろに話し始める。B小町はなんと、苺プロ専属のアイドルだったそうだ。センターであった「アイ」の存在が大きくて成り立っており、最終的には初のドーム公演も決まっていた。しかし、そのアイが公演当日、ストーカーの男に殺害されたのが原因で、悲願であったドーム公演は中止となった。その後も活動を続けていたそうだが……アイのお陰でB小町は認知されていた為に、仕事やメディアの露出は一気に激減したらしい。それで最終的に解散となったそうだ。
思った以上に解散になった経緯が重く、蓮は言葉も出ない。よりによって夢だった東京ドーム公演の日に……殺されたアイも無念だっただろう。
近くで話を聞いていたミヤコも仕事をしていた手が止まっており、どこか辛そうにしている。自分の事務所から死人が出たのだ。当時のことを思い出して、悔やんでも悔やみきれないだろう。よくまわりを見てみると、B小町のメンバーが写っている写真とアイの遺影が目に映る。この事務所でもアイは特別だったようだ。ちなみにかなは子役の時代に、映画で一緒に出演したこともあるらしい。
「どう? ラヴェンツァちゃんもアイドルになってみたいって思うでしょ?」
「えっと…興味はあるのですが、今は私もすべき事がありまして…」
「そっかぁ…でも気が向いたらいつでも言ってね? 歓迎するよ!」
ルビーがわざわざB小町のDVDを持ってきたということは、アイのファンでもあるのだろう。彼女はラヴェンツァに見せるために明るく振る舞ってはいるが、おそらく推しであったアイの死が辛くないわけがない。ルビーがラヴェンツァとモルガナにアイの素晴らしさを力説している様子を見ていた蓮はそう思った。
しばらくして、ラヴェンツァもDVDを一旦見終わり、ベルベットルームまで送り届けることになった。ちなみにモルガナはルビーに付き合わされたのが疲れたのか、蓮の鞄の中で熟睡している。
帰る際に蓮も、ルビーからB小町のDVDを借りることになった(というか半ば強制的に待たされた)。まあ気が向いたら少しずつ見ることにしよう。
「今日はありがとうございました。おかげさまで私もアイドルについて知る事が出来ました」
ラヴェンツァが満足そうで何よりである。彼女もちゃっかりとルビーから、見切れなかったB小町のDVDを借りている。本当にベルベットルームの中で観るつもりだろうか……。もしイゴールも観て「アイ様は素晴らしい! 私の最推しでございます」とか言い出したら、これからの怪盗団活動も支障をきたすかもしれない。と蓮が面白半分でもしもの時を考えていると、ラヴェンツァは慌てたように言った。
「んんっ、もちろん貴方を導くという職務を放棄するつもりはありませんよ? この世界について分かったことがあれば、すぐにお知らせしますので」
まあ、ラヴェンツァもたまには息抜きがしたくなるのも当然だろう。蓮も鬼ではないので、前のようにまたどこか行きたくなったら連れて行くことにしよう。それを伝えると、ラヴェンツァの表情がぱぁぁと明るくなった。
「まあ! ありがとうございます。ふふっ、今から楽しみになってきました。私もこれからのペルソナ合体や処刑も気合いを入れてやらねばなりませんね。いつでも受け付けてますので、その時はおっしゃってください」
今思い出しても小さな女の子が、ギロチンやチェーンソーを使っている光景は衝撃的である。なんなら、前に彼女と戦った時にもチェーンソーを意気揚々と扱っており、本当は荒事の方が得意なのかさえ思う。そういえばまたラヴェンツァと戦う機会はあったりするのだろうか……。
ラヴェンツァもベルベットルームに戻り、蓮も帰る事にしたのだった。
ラヴェンツァの雰囲気ならツクヨミと張れそうな気がしますな。子役に向いてるかは別として。