ペルソナ5 The My Star 作:アカトンボ
入り口のエスカレーターに乗り、蓮達は駅のホームのような場所に出る。前と同じように、元々駅のホームなだけあって足元には線路が張り巡られている。
メメントスは大衆の無意識が生み出した『大衆のパレス』で、入る度に内部構造が変動しやすく、内部には通常のパレス同様にシャドウが出現する。非常に広大な作りになっている。ちなみにだが、メメントスは天気によって変化が起こり、例えば花粉が流行っていればシャドウはウトウトとしており、雪の日だと凍っていることがある。
探索にはモルガナカーというモルガナが変身姿、シトロエン・Hトラックを思わせる自動車に乗って行っていた。あまり大きいとは言えないが、乗り心地はかなり良く、怪盗団の皆にも好評であった。
ちなみに普通の人間は存在しないはずが、元の世界のメメントスでは、ジョゼという頭に卵の殻の形をしたものを被った不思議な少年が、人間のことを学習する為に『花』という物を集めていた。蓮達もメメントスを進むついでに、道中で拾った花を渡して色々なアイテムと交換して貰っていた。しかし、この世界にはジョゼの姿は見かけない。当たり前としては当たり前かもしれないが、彼はあれから人間の事をわかったのだろうか。それで迷走していて蓮達と戦ったが『人間の事がもっとわからなくなっちゃった』と言われた時は思わず脱力したものである。
蓮があれこれと今までの事を振り返りながらモルガナカーを運転していると、うろうろとしているシャドウを見かけた。シャドウはこちらには気付いておらず、蓮はチャンスと思い、モルガナカーのままシャドウに突撃する。すると、ペルソナのジャックランタン、スライム、ピクシーのような形をした悪魔が3体姿を現した。
モルガナも変身を解き戦闘に参加する。
「ナビがいない今、情報支援はワガハイがする。ジョーカーとクロウは戦闘に集中しろ!」
「ああ、この感覚…久しぶりで血が騒ぐよ……」
クロウはそういうと、黒い仮面に手を当てて一呼吸置いてペルソナを召喚した。
「凍てつくせ!ジャアクフロスト!」
先程イゴールから手に入れたジャアクフロストを召喚するクロウ。すると、単体技の最上位氷結スキル『ダイヤモンドダスト』を使い、ジャックランタンが氷漬けになって最後には砕け散った。クロウは見事にジャアクフロストの力を使いこなしている。
「所詮は雑魚か。この程度じゃ肩慣らしにもならないな」
「やるじゃないかクロウ…もうその力に馴染んでやがるぜ。ジョーカーも負けてられないぞ」
敵はあと2体。敵はまだ怯んでいるため、今が攻め時だ。クロウは残りの悪魔の弱点のつけるスキルを持つモナにバトンタッチした。
「モナ、しくじるなよ?」
「任せとけ!ワガハイもいくぞ! 威を示せ!ゾロ!」
モナのペルソナ『ゾロ』の風属性の単体スキル『ガルダイン』がスライムに直撃する。するとスライムが消滅し、残りは1体のピクシーのみとなった。
「バトンタッチだぞ! ジョーカー、やっちまえー!」
――了解。来いっ!アルセーヌ!
ジョーカーがそう言うと、アルセーヌの闇属性スキル『エイガオン』がピクシーに炸裂する。バトンタッチで威力も上がっており、もちろんこれも一撃だ。
戦闘が終了し、ジョーカー達はペルソナを解く。連携も決まっており、鈍っている心配もなさそうだ。
この調子でジョーカー達はシャドウを見つけては倒していき、次の階へのホームを発見する。モナも変身を解いて上りのエスカレーターに乗って次のエリアに着くと、最深部に着いてしまった。
「どうやら行き止まりのようだね」
「……ちょっと確かめてみるか」
奥にある壁にモナはペタペタと触ってみる。しかし、ウンともスンとも言わず、びくともしない。
「やっぱりダメか……」
「なるほど、この世界の大衆は怪盗団の事を認知どころか存在すら知らないからね。今の所メメントスも此処までが限界ってことかな」
元の世界でも鴨志田や斑目、金城と言った悪人を改心させて大衆に怪盗団の名を上げることによってメメントスの奥へと進めていた。どうやら今回もまずは大衆に認知されないと奥へ行けないようだ。
「いつまでもここにいても仕方がない。一旦現実に戻るとしようぜ」
これ以上進むことが出来ず、どうしようもない蓮達はメメントスから出て現実へと戻る。メメントスにあれ以上進めないとなると、やる事は1つしかない。
そう思った蓮は、また悪人達を改心させていくのはどうだ?と提案をしてみる。
「確かにやれることと言ったらそれだけだもんな。ワガハイは賛成だぜ」
「まあ、何もしないよりはいいかな。それが結果的に、僕達をこんな所に連れて来た元凶に近づけるかもしれないからね」
全会一致でやる事が決まり、今ここに心の怪盗団『ザ・ファントム』が再結成する。自分達が元の世界に帰る事も大切だが、この世界でも世直しを再び始めるのもいいかもしれない。悪人から困った人達を助けていけば、メメントスの行ける範囲も自ずと増えていくだろう。
蓮は「また明日学校で」と言って、明智と別れてそろそろ帰ることにした。久しぶりにメメントスに入ってペルソナを使ったため、ヘトヘトである。
五反田の家に着き、帰って速攻で自分の部屋のベッドに倒れ込む。そのまま眠りにつこうとした時、部屋の扉がバンッ!と勢いよく開いた。貴美子である。
「ご飯よそってるわよ! 降りてらっしゃい!!」
相変わらず元気な御仁である。蓮は疲れてはいたがお腹も空いていたので、すぐに行きますと返事をしてリビングに向かうことにした。
「今日の夕飯は焼き鮭にサラダか。おっ、ワガハイの分もあるぞ!」
モルガナの分の焼き鮭はほぐされて骨が無い状態にしてある。わざわざ猫が食べやすいようにしてくれたのだろう。
蓮も椅子に座って、いただきますと言ってから用意された夕飯を食べることにした。鮭の塩加減が絶妙に美味しく、思わずご飯も進む。
しばらくしてから五反田もリビングに降りてきて、蓮達と一緒に食事を取る。
「陽東はどうだった? 上手くやっていけそうか?」
蓮が友人が出来たと返事をすると、五反田は安心したように言った。
「そいつは良かった。実は俺の弟子も今日そこに入学してな。星野アクアって言うんだが…知り合ったら仲良くしてあげてくれ」
>むしろ同じクラスだった
「マジかよ! 凄い偶然だな…」
そんな話をしながら夕飯を食べ終わる。蓮は世話になっているからと洗い物を率先してするようにした。貴美子から「すまないわねぇ」と言われて、お構いなくと蓮は返した。
洗い物を全て洗い終えると同時にテレビに気になるニュースが目に入った。
『続いて続報です。行方不明中の○○事務所のアイドル、○○が廃人となって今朝見つかった事件についてです。彼女は目が虚ろになっていて、喋ることもままならなくなっており――』
「廃人化だって…? もしかしてこの世界でも起こってるっていうのか?」
モルガナも思わず反応する。元の世界でも廃人化や精神暴走事件があった。しかし、それは獅童が明智を通して起こしていた事件だったのだ。あろうことかその罪を怪盗団になすりつけられた時は色々と大変だったが、仲間達と協力して乗り越えて解決した。
おそらく、この世界でもメメントスやパレスを使って悪用している人物がいる――蓮とモルガナはそう感じていた。また悪人達を改心させていこうと思っているので気をつけないといけない。
リビングの椅子に座っていた五反田は他人事のように呟く。
「この子も人気出て来たとこだったんだけどな。一体何があってこうなってしまったんやら…」
「怖いわねぇ…物騒なことばかりだわ…」
蓮はシャワーを浴びてから部屋に戻り、今度こそベッドに横たわる。いつもなら異世界で活動した日は川上にマッサージを頼んでいたのだが、生憎この世界に川上はいない。今となっては恋しいものである。明日も学校なので、それに備えて寝るしかなさそうだ。
そう思って目を瞑る蓮は、寝る直前にモルガナに聞きたいことを思い出した。
「ん? どうしたんだ?」
モルガナのペルソナがゾロに戻っていた事に、あれは一体どうしたんだと訊く。最終的にディエゴに進化していたはずだ。
「実は、この世界ではゾロに戻ってたんだ。詳しいことはまだわからんが…」
モルガナだけではなく、明智もあの後ロキを使っていた。この世界と元の世界での違いはまだありそうである。
いい加減、蓮が眠そうにしていたので、モルガナはお約束の台詞を言った。
「さてと、今日は疲れただろ? もう寝ようぜ」
○○○○○○
4月11日。昼休み。
明智と今後のことを話し合うため、蓮は中庭にあるベンチで待ち合わせしているのだが、昼休みになってから10分を過ぎても明智は来ない。
すると、鞄に入ってるモルガナは顔を出して、お腹をグゥ〜と鳴らしていた。
「アケチのヤツ遅いな……ワガハイもうお腹ぺこぺこだぜ…ゴタンダのカーチャンが作ってくれた弁当、先に食べてもいいか?」
今日から授業もあるため、貴美子が蓮のために弁当を用意してくれたのだ。ちなみにお節に使うような二段弁当箱である。まるで、芳澤すみれの弁当箱のように量は多く、蓮は思わず苦笑した。とはいえ、せっかく作って貰ったので残すわけにはいかない。去年のGWに行ったビュッフェの時の方が遥かに強敵だったのでこれくらいは大丈夫だろう。
「もぐもぐ…おい、スマホ鳴ってんぞ。もしかしたらアケチじゃないのか?」
いつの間にか、弁当箱の蓋を開けて、中にあるタコの形をしたウインナーを食べていたモルガナの言葉に蓮はスマホを開く。すると、明智からチャットが来ていた。
{ごめん、クラスの女子達に捕まっちゃって…悪いけどお昼食べててくれ}
蓮は『わかった』と返事をして、スマホをしまう。明智に言われた通り、モルガナと一緒に貴美子の用意してくれた弁当を食べることにした。有名人も大変なものだ。というか、芸能科はほとんどが芸能人のはずだが――。蓮が秀尽に転入した時とは扱いがえらい違いである。
そういえば明智は元の世界でも、女性に人気のある探偵だったのでこうなるのは必然というべきだろう。彼も見た目だけならイケメンなのだ。しかし、この高校の女子達が、明智の本性を知ったらどんな反応をするのか気になるところだ。
「坂本竜司! 貴様、何だその反抗的な態度は!!」
聞き覚えのある名前…元の世界での仲間の名前を聞いて、蓮とモルガナは噴水のある場所の方へ顔を向けた。そこにいたのは、なんと怪盗団の仲間の1人である坂本竜司だった。その他にも竜司の陸上部のメンバーだった男子達もいた。竜司は陸上部のメンバーを背にして、この陽東の先生らしき人を睨みつけている。
「そんな事だから、中等部の頃から記録も伸びず成長せんのだ! 髪も似合わん金髪にして…さっさと黒に戻さんか!」
「はぁ!? てめえには関係ねぇだろうがよ! それに俺の他にも金髪に染めてる奴なんてこの高校にはいっぱいいるだろうが! さっさと俺のダチに言った言葉を撤回しろ、このハゲハンニャ野郎!」
「ふん、何度でも言ってやるぞ。所詮お前らなぞ、この陽東にとってはただの役立たずだ! 仲間共々、早く辞めるがよいわ!!」
「ふざけやがって……てめえなんか、ぶっ殺――」
竜司が拳を振りかぶって、先生らしき人を殴ろうとする寸前、蓮は咄嗟に動き出して竜司の手を止めた。
「離せよ! 何なんだお前は?!」
あんなことを言われては無理もない。血が昇るのも当然だろう。しかし、蓮は冷静に真剣な顔をして、挑発に乗るなと竜司に言った。
「クソッ!」
竜司は舌打ちをしながら蓮の手を解いて、この場から陸上部の仲間と一緒に去って行ってしまった。
元の世界の竜司は、鴨志田に手をあげて陸上部を廃部にされたあげく、脚も正当防衛という形で走れなくされてしまった。それを知っていたからこそ、蓮は同じ過ちを繰り返さないために、竜司を咄嗟に止めたのだ。だが、この世界の竜司は蓮のことを知らないようだった。もしかしたらという希望があっただけに蓮は落胆する。
残った先生らしき人は、薄気味悪い笑いをしながら蓮に向かって言った。
「ククク…もし教頭である私に手を上げれば即退学に出来たのだがな。貴様! 何年何組の誰だっ!? 氏名とどっちの学科か言え!! さっさと言わんかぁ!?」
威圧的な態度で言ってくる教頭に蓮は怯むことなく、自分の学年と学科を言った。この程度、尋問室で真の姉である『新島冴』に詰められていた頃に比べればどうとでもない。
いつの間にか、この騒ぎで周りに人が集まって来ている。きっと、教頭が無駄に大きな声で言っているせいだろう。遠巻きで見ている女子達の話し声が聞こえてきた。
「またハンニャが生徒に偉そうなこと言って虐めてるよ……」
「あの子かわいそう…きっと1年生よね」
皆見ているだけで、この状況をどうもしようとしない。しまいには、スマホで蓮と教頭を撮っており、面白がっている生徒もいる。自分達が巻き込まれるのが嫌なのは分かるが、スマホを取り出して勝手に録画するのはやめてほしい。
だが、この教頭は外野のことは気にせず蓮に目線を外さずに言った。
「ほう、昨日入学してきた新入生の雨宮蓮か。貴様のその顔覚えたぞ! せいぜい問題行動を起こさんことだな。さもなくば退学にしてくれるわ!!」
それだけ言い放つと、教頭は校舎に戻っていった。蓮もモルガナのいるベンチに戻って座ることにした。
鞄の中に隠れていたモルガナは蓮に気付いて顔を出す。
「あの教頭、とんでもないヤツだな。オマエもアイツに目をつけられちまって……」
>放っておけなかった
「ああ、わかってる。それにしてもリュージ…オマエのこと知らない感じだったな。ラヴェンツァ殿の言ってた『怪盗団の存在しない世界』というのはこういうことか」
姿形は竜司でも、あくまでこの世界の竜司ということだろう。おそらくあの竜司は、異世界の事もペルソナも知らないただの一般人で怪盗団じゃない――蓮はそう割り切ることにした。
時計を見ると昼休みも残り10分くらいになっている。蓮とモルガナは急いで弁当を食べて、教室に戻ったのだった。
放課後。
蓮と明智はなんとか校門前に待ち合わせすることが出来た。明智もクラスの女子に話しかけられる前にとっとと教室から抜け出してきたようだ。しかし、いつまでもここにはいられず、これから怪盗団の今後の活動をどうするかを決めるために、何処かをアジトにしないといけない。元の世界ではルブランで会議をしていたのだが、生憎この世界にはルブランは無い。
以前使っていた学校の屋上や、渋谷の連絡通路も考えたのだが……明智がこの世界でも有名なのでどうしても目立ってしまうだろう。
待てよ?と蓮が明智を見て何かを思い付く。
「ん? どうかした?」
>いいから来い
「え? そっちは校舎だよ――って、ち、ちょっと!」
蓮は明智の腕を掴んで再び校舎の中へと入っていく。明智が連れて来られたのは一般科の棟1階の男子トイレだった。着くなり、蓮が鞄をガサガサしていると思ったら、蓮のしている眼鏡がもう一つ出てくる。
蓮は明智を見てニヤリとした顔をする。
「ま、まさか……」
明智の中にある記憶がフラッシュバックする。去年の6月頃、蓮とカフェで議論しようとした際にミーハーに見つかって蓮に――変な変装をさせられたことを。
とりあえず今は屋上をアジトにすることにした。今のところは、屋上が安全だろうと思い、蓮は早速会議を始めようとするが……。
「プ、プッ……くく…」
モルガナが、眼鏡をかけてボサボサの髪をしている明智を見て必死に笑いを堪えている。ちょっとでも蓮が何かを言えば、今にでも声を出して笑うことだろう。そういえば、あの時はモルガナが見ていなかったことを思い出す。
当の明智はと言うと蓮をものすごく睨みつけていた。眉間に皺を寄せてめちゃくちゃ怒っている。
「おい…これはもう二度と御免だって言ったよな? 屋上に来るだけならこの変装は要らないだろ」
思わず本性が出てしまっている明智の言い分に、そうはいかないと蓮は言う。昼休みの時点で、クラスメイトの女子に捕まっていたので念には念を入れたのだ。もし誰かが来ても、明智だと気付くことは多分ない。その証拠に、屋上に来るまで何人かとすれ違ったが誰にも気付かれなかったではないか。
モルガナはモルガナで笑いを堪えるのが精一杯だ。
「と、とりあえっ、ず……どうっするかを、決めよう、ぜっ」
「チッ…蓮とモルガナ…あとで覚えてろ」
蓮はわざとらしい咳払いをすると、まずは昼休みにあった出来事を明智に話した。明智も明智で、気持ちを切り替えて蓮の話を真面目に聞いている。
「竜司がいて、だけど蓮のことは知らない感じか……別にこれは丸喜の時と同じ『曲解』でそうなってるとかじゃなくて、どうやらこっちの世界の彼は
「ああ、リュージはどうしようもないバカだが、蓮を忘れる筈はないからな。あんなヤツでも別人だと思うとなんだか寂しいぜ……」
さらっと竜司に失礼な事を言うモルガナだが、寂しいと感じているのは嘘ではないようだ。言い合いをすることは多かったが、これまで怪盗団で一緒に活躍してきた仲なので、モルガナも思うことがあるのだろう。
「それともう一つ、この陽東高校の教頭だね。3年前に転勤してきた先生で名前は『
「アケチよく知ってるな」
「予めこの高校の下調べはしてたからね。というか、通う事になる学校の先生くらい覚えておきなよ…入学式で先生の紹介とかあったはずだよ? 君達もしかして寝てたのかい?」
呆れたように言われて、蓮は入学式のことを思い出してみる。言われてみれば、校長のありがたい話を聞いてからの記憶が曖昧で、その後の教室に移動したことしか覚えていない。というか、寝てたと言うより聞いてないと言った方が正しい。
蓮がそう考えていると、モルガナは慌てたように言い出した。
「そ、そんなことねえし! ワガハイはきちんと聞いてたし、アイツが教頭だって知ってたぞ! 蓮も黙ってないでなんか言い返せねえのか?」
>なんか
「絶対言うと思った! オマエ相変わらずだな!」
「…僕達、本当に元の世界に帰れるのか不安になってきた…」
7000字を目処に書いてますけどどうですかね…?
とりあえず、まだ投稿する気力はあります。