『ザコの事をニコって呼ぶのやめろ』 作:kurokawa
かつて女神は万物を創造した、そこに女神の妹である魔神がやってきて勝手に余計なモノまで作った。
それが魔族や魔物の始まりである。
魔族は種を超えて魔神を信仰しており、年に3度捧げものをする。
主に血の生贄が多いが、食べ物であったり宝石であったりなど種族によって様々。
吸血鬼は「女神の祝福を受けた者の血」を最上の捧げものとしており、黒紅の一族もまたそうして高貴な人間などを狙う事がある。
ある時、一国の姫の血を捧げものとして杯に注ぎ、儀式の準備を行っていた所……途中でその血が何者かに飲まれる事件があった。幸いながらまだまだ血は絞れた為に何とかなったものの犯人は不明のままだった。
察しの良い者なら気づいただろう、ニコの呪いは魔神によってかけられたものである。
幼い日のニコは杯に捧げられた血を勝手に飲んだが故に魔神の怒りを買い、力を奪われた上で不運と災厄の呪いをかけられた。
それ以降、どうにか呪いを解いて貰おうとニコは様々な場所へ行き、魔神の赦しを得られそうな捧げものを探しているのである。
◆
この世界の地下には無数のダンジョンがある、それは古い時代に作られた実験場であったり宝物庫であったり……あるいは墓所であったり。
既に絶滅した種族や、滅びた国が作ったものが多く、様々な罠や怪物が守護しているものの……とても貴重なモノが多く遺されており、基本的には重要性から保護下にあるのだが。
こういったダンジョンに無許可で潜っては盗掘を行っている者も少なくない。
彼女もその一人、シーフの少女エララだ。
「フッフーン、単純な仕掛けね。正しい道を通らなければ罠が作動してお陀仏……こんな見え見えの罠に引っ掛かるなんてノロマ……」
うっすらと色の異なる地面のブロックを渡り、華麗にステップで通路を駆けていく。
そんな彼女の進路の地面に何か黒いモノがへばりついてた。
落ちて来た天井に潰されたニコである。
「居たわ……引っかかるノロマ……」
さすがにそのまま踏んづけてしまえば転んでしまうので足を止めて、吐き捨てられたガムめいて地面にこびりついているニコを見下ろす。
エララはダガーで地面にくっついたニコを削ぎ落して道を確保しようとした、その時である。
「ひどいめにあった」
呪いによって何事もなかったかのように復活したニコがポップしていた。
罠のスイッチとなるブロックの真上にだ。
「ウワーッ!!!!」
「グワーッ!!!!」
先程までの余裕はどこへ、エララはニコに蹴りをかまし駆けだすとそれまで居た場所を落ちて来た天井が潰す。吊天井トラップだ!
「なんでよーっ!!!」
ズドン!ズドン!と次々と落ちてくる天井、駆け抜けるエララ、蹴られた勢いで転がり続けるニコ。
そして行き止まりが見えてエララは死を覚悟した。
私の冒険はここで終わるのだ……走馬灯の中、エララとニコは突如開いた床の穴へと落ちていった。
どうやら死ななかったらしい、ニコがクッションとなってエララは生き延びた。
一方で下敷きになったニコはエララの尻の形に潰れており原型を失っていた。
「どうしてくれるのよおおお!!」
「知らない、盗掘は自己責任」
当たり前の様に元に戻ったニコがさらりと言い切るがエララの怒りは収まらない。
出口は分からない、現在地もわからない、ただただ暗い迷宮だけが目の前に広がる。
そんな時、ゴボゴボと粘性のある水音が聞こえて来た。
ベチョとニコの上に落ちて来たのは南無三!スライムである!暗所に住み着くこの魔物はあらゆるものを溶かして吸収してしまう!それはニコも例外ではない!
「ひっ!」
エララに突き飛ばされてスライムに包まれたニコはあっという間に泡となって溶けて消えて服だけがプカプカとスライムの中に浮かんでいた。
流石に死んだものと思いニコを捨てて逃げたエララ、だがその先はまた行き止まり……それ以上の「詰み」巨大なスライムの壁だった。
「い……いやああー!!」
愚かな盗掘者は哀れにもスライムの養分となり、二度と外に出る事は出来なかった。
「一人で盗掘に臨むなんてバカのすること」
「迷子になったら意味がないでしょ?」
スライムの残骸の中から起き上がったニコの側には一人の魔法使いの少女が居た。彼女はアレーナ、数少ないニコの味方であり友人だ、人間でありながら魔族に与するが故に魔女と呼ばれる彼女は古代文明についての研究者でもあった。
かつて人間と魔族が共に暮らしていた時代の痕跡を探し、こんな危険なダンジョンに潜り込む命知らずだが、彼女には死なないという自信があった。
「だってアレーナ、ワームに食べられて中々消化されなかったから」
「助けるという選択肢はなかったの?」
「私が行ってもワームのお腹のふくらみが増えただけ」
アレーナもまたニコと同じ呪いにかかっていた、というのも己の研究の為だけに一国の姫を黒紅の一族に売り渡したのもアレーナであったが生贄にする前に素材として王族の血を採取するのを忘れており、ニコに血の杯を取って来る様に唆した共犯者だ。当然呪われた。
とはいえアレーナは不死の呪いをポジティブに受け入れていた、不幸になろうとも弱くなろうとも研究には何の支障もないのだ。
「ワームのうんちから復活した時に誰も居なかった時の心細さわかる?」
「アレーナは心細いとかそういう感情から一番遠いと思ってる」
ニコにとってはアレーナを正直見下している……が自分と同じ呪いを受けている身として仲間意識はある、ついでにいえば知識もあるので利用価値はある…と複雑な感情を抱いている。
アレーナもニコを見下してる、バカだしすぐやられて頼りにならないし、トラブルの原因になるのだから、聖騎士団に捕まって一緒に火あぶりになったのもまた記憶に新しい。
しかし他に居ないのだ、同じ呪いを分かつ愚かな存在は。
「アレーナ、見て。宝石」
「待って、今それ何処から取ったの?」
「ここ」
ニコが自慢げに赤い宝石を見せびらかす、それは石像から引き抜いたもの。
罠だ!
「このマヌケ!クズ!なんで何も考えず行動するの!?」
石像は動き出し二人を両の手で掴み、握りつぶして粘土の様に捏ね、一塊のマーブル模様の物体にして投げ捨てた。
壁に叩きつけられてへばりついた二人の愚か者はしばらく運命を共にしていた。