「バイト二人組早速だが、新しい仕事だ」
咳払いの後にそういうボス。
「…え、俺ら二人でやるんですか?」
寝耳に水と言った感じで思わず柏木は聞き返した。
「ああそうだ、とりあえず二人で話を聞いてくれ、依頼人はもう下にいる」
下を指しシッシと二人を追い払う。
だから俺が遭遇しないのおかしいだろ、と思いながら渋々部屋から出た柏木は後ろに着いてくる
「槞彁、ウチのボスはいつも急に仕事を押し付けてくるから気を付けろよ」
「何か言ったか?」
閉めた扉越しに声が聞こえてきた。
「…槞彁、ウチのボスはいつも従業員の事を考えてタスクをアサインしてくれるんだ」
渋そうな顔をして頭をかく柏木を見て
「そういえば柏木先輩、あの後アタッシュケースの中身確認したら9000万しか入ってませんでしたよ」
ふと、先日の事を思い出しそう告げる。
「……勝ったら片方持ってっていいってルールだっただろ?」
「ボクが勝負を仕掛けるって分かってたんですか?」
「いや、そうしておいた方が何かに使えるって思っただけだよ」
柏木が持って行った片方のアタッシュケースには1億1000万入っていた。
そう言って階段を下りていく柏木の背中を見てまたしてもあの気味の悪い笑みを浮かべる槞彁。
「あァ…先輩ともう一回だけやりたいな…」
「お前怖いから二度とやんねぇよ」
独り言で呟いたつもりだったが普通に柏木に聞こえていた。
少し黙った後、再び後ろにくっつき柏木に顔を近づける。
「先輩とボスって似てますね」
「え、どこが!?」
◇◇◇
「今回担当させて頂く柏木と、
長机を挟んでバイト二人組とスーツを着た女性がソファに座っている。
「あんた学生? 随分と若いわね、本当に私の事を守れるの?」
脚も腕も組み、柏木を睨みつける初音。
「貴女がこちらを信用していただければ」
毅然とした態度で柏木も見つめ返す。
数秒の時が流れ、初音がスッと目を閉じた。
「───高い金払ってるんだから、その分の仕事はしてもらうから、と言っても仕事する事がない方がいいんだけれど」
「仰る通りです、では早速依頼内容を初音様の口からお願いいたします」
二人の働く
そして中でも依頼されるものは
「何でそれを私の口から言わないといけないわけ? 既に内容自体は送ってあるはずだけど」
当然それを見ていない柏木はボスの事を恨みながら対応する。
「もう一度口に出して仰る事で我々だけでなく貴女自身も何をするべきなのか再確認することができるからです」
苦しいか…? と思っていると、女性が口を開いた。
「依頼内容は身辺警護、これから私はギャンブルをする、相手は新興宗教の開祖である
柏木が返事をしようとした時、横から肘で小突かれる。見ると槞彁が発言したそうにしていたので滅多なこと言わないように目で合図する。
「
(バカ、踏み込み過ぎだ!)
柏木が止めようとするが、初音が先に返事をした。
「───いいわ、ただし私にゲームで勝ったら教えてあげる」
初音は懐から取り出したメモ帳から2ページ破りそれぞれに『l』『2』と書いた。
その二枚を目の前のテーブルに置き、槞彁に見せる。
「お互いにカードを取って数が大きい方が勝ち、そういうルールよ」
ゲームになっていない、と柏木は思った。
それもその筈、このゲームは『2』が書かれたカードを取った方の勝ちだからである。
先手必勝のゲームだからこそ、ゲームになっていない。
対する槞彁は口角を吊り上げながら、ギギギと首を傾けていく。
「……? あんた気持ち悪いわね」
至極当然の反応をする初音に、思わず柏木は頷きそうになってしまう。
やがてその首が傾き終わり、同時に槞彁が『2』のカードに手を伸ばす。
(所詮…こんなものね、いくら会社が有名だからって…)
その光景を見て初音は落胆する。 依頼する会社を変えようかとも思った瞬間、槞彁は『2』のカードを取り、更に手をスライドさせ、『l』のカードも
「合計で『3』、ですね」
2枚のカードを見せる槞彁、初音が取るカードは残されていない。
「はぁ…少なくともあんたは一番下の人間じゃなさそうって事が分かったわ」
そう言いながら初音はジャケットのポケットから1枚のカードを取り出す。
「でもあんたの負け」
そこには『4』と書かれたメモ帳の切れ端。
事前に数字の書かれたカードを用意しておくならわざわざ『4』などという小さい数字にする必要はない、つまりこれは───
「まるでボクがこうする事を読んでたみたいだ」
呟いた槞彁に初音が重ねる。
「当然よ、これでも今日の為に軍資金を4億用意してきてるの、どうやって用意したかはご想像に任せるわ、小手先のイカサマなんて私には通じないし、読み合いも負けるつもりはない」
「……このゲームはそもそも粗が多すぎます、どのカードから選ぶかの指定も無ければ、先手後手、おまけに一度に獲得できる枚数まで決まっていない…だからあえてルールの確認はしませんでした、貴女はこのゲームで勝ちたいんじゃなくて、ボクがどう勝つか見たかったんじゃないですか?」
例えば──と続け、槞彁は2枚のカードをくっつける。
「これで『21』です」
余白の部分を折って近づけてできた数字。
「──ま、話してあげてもいいわ」
初音はポケットから『22』と書かれたカードを取り出して机に投げると、要点だけを話し始めた。
「ありがちな話よ、10年前、父が交通事故で亡くなった、それから母親が新興宗教にハマって金を貢ぎ始めたの、そして当時高校生だった私の元に神代達がやってきて乱暴されそうになった、勿論未遂で終わったわ、顔面を蹴り上げて窓から逃げたの、その時の母親の絶望したような失望したような、兎に角そういう顔を見て、私は母を失った事に気付いた」
一息吐いて、再び初音は話し始める。
「それから私は復讐を決意した、娘を売った母親と、私から母を奪った神代と、母を守れなかった私にね───でもその母親はもう2年も前に死んでしまったいた」
初音は家を出てからというもの、ただひたすらに金を集め続けた、文字通り死ぬ気で。
集めた金を使ってさらに金を集める、全ては復讐の為に。
しかし初音の中にあったのは憎悪ではなかった。
「私が調べた時には母親は骨壺の中で永眠してたわ、顔ももう…思い出せなかった」
顔を上げ、柏木と槞彁の顔を見て初音は続ける。
「だから私は決着をつけるの、神代を負かして、母が死んだあの日から…止まった人生をもう一度歩み始める為に」
◇◇◇
「なんでボディーガードのくせにあんたら二人とも免許証持ってないのよ……」
初音の運転する車の助手席に槞彁、後部座席に柏木が乗り込む。
「俺17歳ですから」
「ボク新人ですから」
「……」
無言で笹塚方面に向かって車を走らせる初音。
「あ、そうだ言い忘れてた、槞彁俺達が今行こうとしてる所にはディーラーがいる、そいつには能力を使うな」
「…? 分かりました」
「絶対使うなよ、何が起きるか分からない、そういう暗黙の合意の元ゲームが始まるんだ、『ディーラー』は不可侵、手を出すな」
暫く黙った後、再び頷き槞彁は了承した。
「ちょっと待ちなさいよ…能力? 何の話をしているの?」
驚いて柏木はルームミラー越しに初音の顔を見る。 嘘をついている様には見えなかった。
(ギャンブルしにウチに来るくらいだから能力持ちかと思ってたけど、この人無能力者なのか……それで4億も集めた? 無能力者だが無能じゃあないってことか)
「初音様、大金を稼ぐのに並々ならぬ努力があった事お察ししますが、その道中、常識では考えられないような現象に遭遇したことはありませんか?」
柏木の言葉に数秒回想し、こめかみをトントンと叩く。
「いた、確かにそういう
逡巡するが、柏木は言う事にした。
「ええ、俺も能力を持っています」
ふと初音が助手席に座っている槞彁の顔を見ると、気味の悪い笑みを浮かべてた。
「……やっぱり柏木先輩も能力者だったんですね、もっと早く教えてくださいよ」
「嫌だよ、お前だって完全記憶とかいって自分の能力誤魔化してるだろ」
先日のギャンブルの段階で柏木は槞彁が嘘をついていることが分かっていた。
仮に槞彁が本当に完全記憶能力を持っているなら、カードに手をかざして透の邪魔をする必要がないからである。
むしろ自分がカードを見えなくなってしまうだけでメリットがない。勿論、透の能力を探るという点では若干のメリットはあるかもしれないが。
故に柏木はディーラーに対しての忠告を槞彁にしていた。 完全記憶ならばディーラーに干渉はしないがそれ以外の能力ならば別である。
槞彁はサイドミラーに映った自分の顔を見て、口元を隠しながら喋った。
「ボクの能力は相手の能力をコピーするコピー能力です」
「…今の能力は?」
「
大河内透の能力、成程と合点がいく。
(だからあの時エラーコイン使ってもバレたのか)
「俺の能力は磁力を付与する能力だ、触れた所にS極N極をくっ付けられる」
槞彁も納得する。
(あの時部屋の扉が暫く開かなかったのはそういう事か)
黙ってしまった二人に本当にこいつらで大丈夫かと思う初音だった。
◇◇◇
「人の立場になって物事を考えましょう」
そういう老人の前に、数人の男に組み伏せられている男がいた。
「こんな事も理解できないゴミクズが世の中にはたくさんいます、何故か分かりますか? 答えは単純、そいつらは人間ではないからです、神の作り出した人間ではないから理解できない…」
その老人は瞳を閉じているが、まるで見えているかの様に男に顔を近付ける。
男は夜一人で歩いていた老人をナイフで襲おうとしていた。
「そりゃこっちのセリフだ、お前のせいで俺の家族はめちゃくちゃだ、殺してやるよ」
一瞬のうちに男は隠れていたボディーガードに取り囲まれ、腕を締め上げられた。
「お前は人間か? それともゴミクズか?」
老人の名前は
その目を開き男の目を凝視する。
男の瞳に映る源楽の目はどす黒い色をしていた。
源楽は顔をスッと離すと、持っていた杖を思いっきり男の顔面に何度も振り下ろした。
「ゴミクズがッ!! 神をなんて目で見てやがるッ!! お前みたいなゴミクズが増えるから世の中が汚れるんだ!!!」
飛び散った血が靴に着いて、源楽は腕を止めた。
「
ボディーガードに命令し、その内の一人を傍につかせる。
「全く……人の立場になって考えれば『神』の為に働くのは当然だろう、それを…神に刃を向けるとは、これだからゴミクズは困る、掃除しても掃除してもどこからともなく湧いてくる」
「仰る通りです、源楽様」
源楽は
「さて、では今日も向かうとするか、献金を集めにな」