数時間前、英警備会社にて
「今回の依頼はめんどくさいことになりそうだな」
金を取りに一度戻ると言った初音を帰らせた後、柏木は愚痴る。
机に置かれた数字の書かれたカードをピラピラと振りながら先のゲームを思い出す。
そんなことをしていると、ボスに報告に行かせた
「柏木先輩、ボスが『新人にやらすなテメぇが来い』って怒ってましたよ」
「ブハッ!! 滅茶苦茶似てる!!!」
柏木が大笑いしていると『次笑ったら殺す』という旨の内線がかかってきた。
「それで、何してたんですか?」
「……、いやギャンブルの勝ち方って色々あるなって思ってさ」
柏木は『l』『2』と書かれたカードを机の上に投げる。
「例えばさっきの内容だったら、『そもそも相手にカードを取らせない』、『配られたカード以外で勝負する』とかだな」
先のゲームでは槞彁は二枚の手札を同時に奪い取った。 初音はそれを読んで配った二枚以外の手札を用意していた。
「あれはルールが厳格ではなかったからできた勝ち方ですよ」
「ふ~んそうか、じゃあもうちょいルール付け足してやるか……選べるカードはこの二枚の内のどちらか一枚だけです、とか?」
そこまで言うのと同時に槞彁は『2』のカードを先に取った。
「『相手より先に強いカードを取る』」
数秒止まった柏木は、順番決めのルールも追加するべきだったか、とぼやきながら、『l』のカードを
「ll」
カードを横に破いた事によって線が二本生まれる。
多少不格好だが、11に見えない事もない。
「『弱いカードを強くする』」
「……このゲームとは関係ないですけど、さっき
にっこり笑いながら、槞彁は懐から『12』と書かれたカードを取り出した。
「はぁ、ちょっとズルくねぇ?」
まあまあと槞彁がなだめる。
「あと、勝ち方っつったらあれか」
「ええ…あれですね」
次の言葉は二人同時に出た。
「「『相手の強いカードを弱くする』」」
◇◇◇
「折角ですし、自己紹介でもしますか、ボクの名前は
「……この緊張感のない男の雇い主の
「
「要人警護の
自己紹介の最中にディーラーの武田は、全員にチップ、じゃんけんのデッキ、小切手用紙、ボールペンを配り終えた。
「あっひゃっひゃ!! では皆さん賭金の金額をお書きください!!」
用紙を受け取った初音は迷うことなく全財産の『400,000,000』を書き記す。 自ら退路を断ち、このゲームに絶対勝つという覚悟の現れだった。
(そういえば、
出発前に槞彁は初音に必要になるかもしれないからと自分の金を持ってきていた。
ちらりと横を見ると、紙の端をつまんで数字を書いている槞彁がいる。
見えた数字は『2,900,000,000』。
(……ッ!? 29億! 何を考えているのこの男!?)
槞彁の顔にはあの笑顔が浮かんでいるだけだった。
書き終わったのか用紙を裏返すと武田に手渡す。
「……ひゃっひゃ!! 命知らずですねぇ!!」
その後、全員分の小切手を回収し、武田が最も賭金の多かった人物を発表する。
「神代源楽様です!! それでは小野様と膳藤様は自分のチップを二枚、神代様に譲渡してください」
初音は二枚をはじくように飛ばし、槞彁は押し出すようにして渡した。
「次に攻防の順番決めですが───」
「我々が攻撃だ、さっさと終わらせたい」
武田のセリフに神代が被せる。
「ひゃっひゃ! 今話してる最中だろうが黙ってろよクソジジイ」
態度を豹変させた武田を槞彁がなだめる。
「こちら側は防御から始めても問題ないですよ」
「ちょっと勝手に決めないでくれる」
「……お二方に異論がなければ神代様のチームが攻撃側から始まりますが」
武田の言葉に数秒思考した後、初音はまあいいかと頷いた。
「では、攻撃側は神代様のチームからと言う事で!!」
どこから取り出したのか武田はタイマーを手に持ち、机の横に立つ。
「それでは一ゲーム目の一回戦をスタートしましょう!! このタイマーで10秒計測しますので、アラームと同時に場にカードを出してください!!」
よーいスタート! と武田がボタンを押すと、タイマーに表示された時間が減り始める。
配られた6枚のカードを見ながら初音は考える。
(このゲームに高額を賭けるメリットはほとんどない…初めに4枚チップを貰えるけど、賭けられるチップが自分のチップしかない以上、自分は高額のチップを賭けてハイリスクなのに対し、相手は低額のチップで勝負をしてくるのでローリスクハイリターン、最低額の1億を賭けるのが賢い選択だけど……)
相手の神代は目を閉じたままである。
(恐らく神代が賭けた額は30億、中坪は1億ってところでしょう、神代は膳藤の賭金を読んで最小の金額で上を行ったはず、考えられる理由は───集金か)
ゲームは最大で6試合、チップは最低一枚賭ければ良いから、全勝しても6枚しか稼げない可能性がある。
故に、初めから得られるチップの数は多くしておいたほうがいい、と考えた。
最高金額さえ賭ければ全勝すれば最低8枚は獲得できる。
(あいつの目的は私たちの金を全て巻き上げる事…だけどそんなことで30億を賭ける事ができるって事は、絶対に読み勝つ自信なり、作戦があるって事ね)
アラームが鳴り、全員がカードを場に置く。
神代『パー』
中坪『チョキ』
初音『パー』
槞彁『グー』
「次のカードは裏向きで場に出してくださいね!!」
再び武田がタイマーでカウントダウンを始める。
(重要なのはこの二枚目のカード…どちらから攻撃されるか分からない以上、神代と中坪の見えているカード両方に勝つ、もしくはあいこになるカードを選ぶのが無難か)
初音は『チョキ』を裏返して場に出した。
他の三人も同時に裏向きにカードを出す。
「では攻撃開始です!! 神代様、防御チームの誰を攻撃しますか?」
「膳藤だ」
「中坪様は自動的に小野様への攻撃となりますが!?」
「問題ありません、続けてください」
表情を崩さず、中坪が返答する。
初音も槞彁も開示されている手では負けているが、まだ勝敗は分からない。
「では皆さん賭けるチップの枚数をお決めください!!」
武田が言い終わるや否や神代はチップをカードの前に叩きつける。
「二枚だ、当然受けるな?」
「ええ、勿論」
笑顔を絶やさず、槞彁はチップを二枚置いた。
「私も二枚賭けさせて頂きます」
「……コール」
初音も槞彁も二回までであれば、2枚賭けは問題ない。 6回勝負で、現在のチップ枚数は8枚だからである。
「あっひゃっひゃ!! 勝負成立という事で攻撃チームの方はボタンで出すカードを決めて頂きます!!」
数秒の後に、武田が再び大きい声を出す。
「攻撃チームの選択が終了しましたので、今度は防御チームもボタンを押してください!!」
初音は視線を下げ、『一枚目』『二枚目』と書かれたボタンを見る。
(中坪の選んだ二枚目のカードは、私が二枚目に選んだカードに勝てるカード、つまり『グー』、でもこれは恐らく出さない……私が選ぶのは──)
使用したカードは毎回回収されてしまうこのゲームでは、二枚目のカードを読まれないようにする必要がある。
三回の勝負の内、前半二回で二枚目のカードが割れてしまっていたら、三回目の勝負ではカードを隠す意味がなくなってしまう。
カードを読まれない為には、一枚目に出すカードを重複させない事と、二枚目のカードで勝負をしない事が重要である。
隣の槞彁は初音の事など忘れたかのようにカードを熱心に眺めている。
(……)
「防御チームの選択が終了しましたので、皆さん一斉に選択したカードを出して頂きます!! それではせーのッ!! じゃんけんポイポイどっち出すの!! こっち出すの!!」
武田の掛け声と同時に全員がカードを取り、見せる。
神代『チョキ』 VS 槞彁『パー』
中坪『チョキ』 VS 初音『チョキ』
中坪以外の全員が二枚目のカードで勝負をする事態となった。
「は?」
声を出したのは初音、槞彁の顔を見ると、口を覆ってはいるもののその頬は吊り上がっている。
2億9千万のチップを計四枚、合計11億6千万を奪われたのにも関わらず。
「……次で分かるかな」
(こいつ…正気なの? よく笑っていられるわね……それにしても、中坪はチョキか、やっぱり負けを避けてきた)
中坪から見れば、初音の手は『パー』『チョキ』であるため、『チョキ』を出しておけば負けはない。
「一回戦の勝者は神代様のみです!! 膳藤様はチップを二枚神代様に!! 中坪様と初音様はチップの変動はありません!! 使用されたカードは回収します!!」
一回戦、途中経過
判明したカードの使用状況、残りチップ枚数
神代『パー』『チョキ』、10枚
中坪『チョキ』 、10枚
初音『パー』『チョキ』、8枚
槞彁『グー』『パー』 、6枚
「ひゃっひゃ!! 追い込まれてる方もいらっしゃいますが、まだまだこれからです!! 続いて攻防を交代して二回戦の開始です!!」
10秒のカウントダウンが始まり、初音は相手と自分の残り札を考える。
(一枚目はもう考えるまでもなく『グー』を出すとして、三回戦の事も考えて二枚目を選ばないと)
初音は既にパーとチョキを使った事がバレている為、一枚目でグー以外を出すことは躊躇われた。 どのカードを使い切っているか割れるのは避けたかったからである。
思考終了のアラームが鳴り、全員がカードを場に置いた。
神代『グー』
中坪『グー』
初音『グー』
槞彁『チョキ』
「あっひゃっひゃ!! 膳藤様だけ仲間外れになってしまいましたね!!」
「やってることは他の人と変わらないんですけどね~」
武田と槞彁の笑い声が部屋に響く。
初音は机の下で槞彁に合図を送った。
(私が神代に攻撃する)
そして初音は『パー』を選んだ。
理由は、神代のグーに勝てるから、という事と、三回戦では中坪が再び自分に攻撃してくると考えたからである。
中坪のカードは現在『チョキ』『グー』の二枚が割れている。
初音は中坪の一回戦の裏にしたカードは『グー』だと考えている為、中坪の残り手札は『パー』『パー』『チョキ』。
故に、三回戦で勝つためには『チョキ』を手元に残しておきたい初音は、二回戦で『パー』を選択した。
アラームと同時に裏返しでカードを置く。
「私は神代を攻撃する……チップは一枚」
「ボクは中坪さんで、さっき負けたので一枚で勝負します」
両者一枚ずつチップを前に置く。
「チッ、ゴミクズの延命に意味はないぞ」
「受けましょう」
勝負が成立し、次はボタンでどちらで勝負するかを決める。
(……)
初音は『二枚目』のボタンを押した。
同時に対面から拳を叩きつける音がする。
「中坪、時間をかけるな」
「申し訳ありません」
槞彁はすでに選択済みだったのか涼しい顔をしていた。
「お早い決断、ありがとうございます!! それでは皆さんご一緒に、 じゃんけんポイポイどっち出すの!! こっち出すの!!」
相変わらず誰も声を発さず、無言でカードを取り、提示した。
神代『パー』 VS 初音『パー』
中坪『グー』 VS 槞彁『チョキ』
今度は初音が机に拳を叩きつける番だった。
「あんた何をやっているの膳藤槞彁、勝敗はともかく理由を言いなさい」
中坪が出したカードを見た一瞬、槞彁の顔から笑顔が消えるのを初音は目撃する。
しかし、すぐさま笑みを浮かべると、何事もなかったかのようにカードを二枚武田に手渡した。
「申し訳ありません初音様、三回戦では勝ちます」
その笑顔に何を言っても無駄だと感じた初音は三回戦の勝負について思考を切り替えた。
その光景を眺めながら笑い声を必死に抑える武田。
(ひゃっひゃっひゃ、あの顔……笑いが止まらないぞ~このゲーム、膳藤様は確実に負けるな)
まだゲームは三分の一しか終わっていない。
勝敗がどう転がるかはまだ分からないが、それでもギャンブルの勝ち方というものは、大抵決まっているものである。
二回戦、途中経過
判明したカードの使用状況、残りチップ枚数
神代『グー』『チョキ』『パー』『パー』、10枚
中坪『グー』『チョキ』、10枚
初音『グー』『チョキ』『パー』『パー』、8枚
槞彁『グー』『チョキ』『パー』、5枚
前話にガバポイントが見つかったので修正しています、許してちょんまげ
次話は神代視点になります