賭博師身辺警護人   作:しらべ

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ギャンブルの勝ち方 その4

 

 

 

 神代源楽は能力者である。

 

 能力は目を閉じている間、対象の視界を共有するというもの。

 

 要は、他人が見ているものを見ることができる能力である。

 

 中坪は文字通り神代の目であり、大抵は彼の視界を能力で共有させている。

 

 また中坪も、許可された人間の思考を受け取ることができる能力者であり、神代が脳内で下した命令を忠実に守っている。

 

 ただし、あくまでも受信専門の能力であり、対象がこれを伝えようと思っている物しか受け取ることはできない。

 

 神代が人間かゴミクズかを判断する材料は、相手の視界を共有した際に、相手が自分を『どう見ているか』である。

 

 神に敵意を持つ者は皆ゴミクズであり、この世に存在する価値がないと考えている。

 

 ゲーム開始前、神代は初音をゴミクズ認定すると、次に槞彁に能力を使ってその視界を見た。

 

 (……この男、中坪を見る目と儂を見る目が同じだ、神と人間の区別がつかないとは……しかし無知は憐れだが罪ではない、回心の余地ありとして見るべきか……)

 

 槞彁は期待の眼差しとでも言うべき視線を二人に向けている。 そしてそれは初音に対しても同じであった。

 

 

 そしてゲームが開始された。

 

 

 今回のゲームはルールに全員同時に出すというものがあるので、相手が出すカードを能力で見る事で対応したカードを出す、という事が難しい。

 

 無論難しいだけで不可能ではないが少しでも手間取るとルール違反とみなされる可能性がある。

 

 裏向きに出す二枚目のカードは残りの手札を見る事で、防御側の場合は相手がどちらの手を出すのかが先に分かるので、神代はリスクは取らない選択をした。

 

 まず行われたのが賭金の記入。

 

 (中坪、お前は1億と書け)

 

 中坪の能力によって脳内でやり取りが完結する。

 

 次に自身の能力によって初音が書く金額を見る。

 

 (ゴミクズは4億……最小金額で確実にチップを取りに来たか、浅知恵だな)

 

 そして槞彁に能力を移すと、

 

 (……29億? 何を考えているこの男…ルールを理解していないのか?)

 

 30億は流石の神代にとってもおいそれと賭けられる金額ではない。 しかし神代には能力がある。

 

 チップの確実な確保を最優先にし、神代は小切手に『3,000,000,000』と書く。

 

 

 一回戦のカードは中坪に自分とは違うカードを選ぶよう指示する。 相手は中坪と自分のどちらに攻撃されるか分からない為、両者に勝てるカードを出してくる。 よって二枚目のカードがある程度読みやすくなるという事である。

 

 初めに場に出されたカードは以下。

 

 

 神代『パー』

 

 中坪『チョキ』

 

 初音『パー』

 

 槞彁『グー』

 

 

 (儂が膳藤に攻撃する)

 

 中坪に思考を送り、神代も能力で槞彁の視界を見る。

 

 (チョキを出してくるかと思ったが、この男……全く()()()()()、別のカードか)

 

 槞彁の目線はチョキに全く向かず、グーとパーだけに注がれている。

 

 神代は『チョキ』を裏向きに置き、攻撃でも『チョキ』を選択した。

 

 案の定、槞彁の視界で残りの手札を見ると、『パー』が減っている。

 

 初音の残り札も確認し、『チョキ』を出せと中坪に命令する。

 

 一回戦の勝負の結果は

 

 神代『チョキ』 VS 槞彁『パー』

 

 中坪『チョキ』 VS 初音『チョキ』

 

 となり、神代は計四枚チップを獲得した。

 

 そして防御側、相手が先に攻撃選択をする時点でこちら側の負けはない。

 

 カードの使い切りを悟らせないために神代は『グー』を選択し、相手側が『パー』を二枚使っている為グーチョキの出る可能性が高い、と判断し、中坪にも『グー』を出させる。

 

 

 神代『グー』

 

 中坪『グー』

 

 初音『グー』

 

 槞彁『チョキ』

 

 

 神代は槞彁ではなく初音が自身に攻撃してくると読み、二枚目は『パー』を選択、一回戦の槞彁の傾向から中坪にも『パー』を出させる。

 

 案の定二回戦では神代の読み通りとなり、初音が神代に攻撃してくる。

 

 神代には相手の選択が能力によって見えるので負ける事は無い。 だが初音が『パー』を選択したのを見て思わず叩きつけるように自分も『パー』を選んだ。

 

 一枚しかチップを賭けない事も、あいこになってしまう事も、ゴミクズに時間をかけたくない神代をいらだたせる原因となった。

 

 しかし、槞彁のチップは難なく獲得できたので心を落ち着かせる。

 

 

 二回戦、途中経過

 

 神代視点での残りカード、獲得金額

 

 神代『グー』『チョキ』、15億3千万円

 

 中坪『パー』『チョキ』、0円

 

 初音『グー』『チョキ』、0円

 

 槞彁『グー』『パー』、0円

 

 

 疑問なのは槞彁が二回戦で一枚目二枚目共に『チョキ』を出したことである。

 

 (……この三回戦で何かを狙っているな)

 

 「ひゃっひゃっひゃ!! このゲームで最も面白い三回戦のスタートです!!」

 

 カウントダウンが始まり、神代は槞彁が選択するカードについて考える。

 

 というのも神代の場合は残りのカードが割れてしまっている為、一枚目二枚目で出す順番など考える必要がないからである。

 

 中坪には『パー』を出すよう指示する。 中坪は一二回戦で二枚目のカードを開示していない為、割れているカードがグーチョキだけである。

 

 実際の残りは『チョキ』『パー』であり、『チョキ』を一枚目で出した場合、相手からすると二枚目がパーである確率が高くなる。

 

 つまり『チョキ』出しておけば負けはないと判断されてしまう。

 

 相手の確実な引き分け以上を防ぐ為『パー』を出させる。 もし中坪が負けたとしても賭金は1億であり、痛くはない。

 

 アラームが鳴り、全員の一枚目のカードが開示される。

 

 

 神代『グー』

 

 中坪『パー』

 

 初音『グー』

 

 槞彁『グー』

 

 

 「あっひゃ!! 今度は中坪様が仲間外れの番ですね!! さて、では二枚目のカードはもう置いてしまって結構ですよ、どうせ残り一枚ですしね!!」

 

 全員が最後のカードを裏向きに置く。

 

 「膳藤に攻撃する、チップは二枚だ」

 

 「小野初音に二枚」

 

 神代と中坪が再び二枚賭け、初音と槞彁がこれを受ける。

 

 (膳藤はグー……という事は、二回戦の二枚目で出したカードをパーだと思わせたい訳か)

 

 このゲームで二枚連続同じ手を場に出すメリットはほとんどない。

 

 あるとすればそれは、残りのカードを誤認させることである。

 

 槞彁から見て、相手は『チョキ』『パー』のカードの所在が分かっていない状況、しかし、二回戦で槞彁は一枚目に『チョキ』を出している。

 

 故にメリットのない、チョキ二枚出しは()()、と思わせる事で、三回戦の二枚目のカードを『チョキ』だと誤認させる。

 

 (儂の手札は『グー』『チョキ』だと割れている、膳藤の場のカードが『グー』『チョキ』だと誤認した儂が出すカードは『グー』)

 

 つまり、槞彁の選択する手は二枚目に隠された『パー』である。

 

 神代は二枚目のボタンを押し、中坪には『パー』を選択させる。

 

 初音の視界を見た時、場に出た一枚目の『グー』を意識していた。

 

 (あいこ以上狙いの『チョキ』と見せかけての『グー』か)

 

 恐らく中坪の二枚目がチョキであることが読まれている。 自身の手が全て割れているが故にできる選択である。

 

 「攻撃チームの選択が終了しました!! それでは……ゴホンッ!! じゃんけんポイポイどっち出すの!! こっち出すの!!」

 

 

 

 神代『チョキ』 VS 槞彁『グー』

 

 

 

 中坪『パー』 VS 初音『チョキ』

 

 

 

 ドンッ!! っと本日三度目の机に拳を打ち付ける音。 しかしそれは初音や神代の物ではなく、中坪が発した音だった。

 

 「神を欺いてんじゃねえゴミクズ共がぁあああああ」

 

 顔を歪ませ怒りを露わにする中坪。 対する初音と槞彁はどこ吹く風といった感じで無視をする。

 

 「あっひゃっひゃっひゃ!! ここで小野様のチームが初の勝ち星を上げました!! 」

 

 武田が一層大きな声で笑う。

 

 「落ち着け中坪、現状我々は勝っている」

 

 攻撃側は先にボタンを押さなければいけない為、神代の能力はほぼ役に立たず完全な読み合い勝負となってしまう。

 

 (だが全て読まれるとは……ディーラーに提言するか)

 

 「それでは少々の休憩の後、次のゲームを行います!!」

 

 

 

 一ゲーム終了時点

 残りチップ枚数

 

 神代 8枚

 中坪 8枚

 初音 8枚

 槞彁 5枚

 

 

 

 2分ほど経った後、武田がまた大きな声を出す。

 

 「それではカードを皆さんに返却した所で早速2ゲーム目に移行しましょう!!」

 

 「ちょっと待ってください」

 

 武田が再びゲームの開始を宣言しようとすると、槞彁が止めた。

 

 「武田さん、ルールの変更をお願いしたいんですけど…可能ですか?」

 

 「ふむ、内容によりますが、お聞かせ頂けますか?」

 

 「一つ目は賭けるチップ枚数の上限解放です、二つ目はカードの同時出しルールの撤廃です、いつ出しても良い事にできませんか?」

 

 3秒考え、武田は頷く。

 

 「同時出しのルールはあくまで公平性を保つためのルールですので、皆さんがいい、とおっしゃるのであればルール変更を認めましょう、チップ枚数に関しても同様に」

 

 元々、全てのチップを回収できなくなる可能性を危惧した神代も同じ事を武田に言おうとしていたため、問題ない、と返す。

 

 (同時出しのルールを撤廃することに何か意味があるのか? 我々からすれば最もネックだったルールが消えて相手の手が読みやすくなるが……)

 

 中坪と初音も拒否しなかったため武田がルール変更を宣言する。

 

 「それではこのゲームでは賭けるチップ枚数の制限と、カードを全員同時に出す、というルールを撤廃して行います!! タイマーの設定も解除しますが、過度の遅延行為は厳禁ですのでご注意を!! それでは皆さん、一回戦の開始です!!」

 

 と同時に、槞彁がカードを全て場に置いた。

 

 「……? 何をやっている?」

 

 能力により槞彁と視界を共有している神代が思わず声を漏らす。

 

 「ボクは後でカードを出します、初音様の勝負の後で、ね」

 

 槞彁が隣を見ると、鬼気迫る表情でカードを睨みつける初音がいた。

 

 カードは机より下に下げ、選択を見られないようにしている。

 

 

 先の休憩時間の際に、槞彁と初音は部屋を出ていた。

 

 槞彁に言われ、二人で壁に背中を預けながら話す。

 

 「それで何、話って? 最後は勝ったからいいけど、私たちはまだ負けているのよ?」

 

 「次のゲーム、ボクはルールの変更をディーラーに申し出ます」

 

 「……どの?」

 

 「チップ枚数の上限解放と、カードの同時出しルールの解除です」

 

 思わず横を向いて槞彁の顔を見る。

 

 「正気なの? 現状あんたが一番チップの枚数が少ないのよ?」

 

 「初音様、前を向いて下さい、もしその変更が通れば、ボクは次の一回戦でオールインします」

 

 再び振り向き、今度は槞彁の胸元を掴み上げる。

 

 「だから正気なのかって聞いてるの!! 何の意味があってそんな事をする必要があるの!?」

 

 無理やり掴んだ手を引き、こっちを向かせると、槞彁の顔は今までと違う、優しい笑顔をしていた。

 

 「貴女を勝たせるためです、初めに柏木先輩が言っていましたよね、ボクも同じことを言います、貴女がボクを信用してくれれば神代源楽に決着をつけることができる」

 

 「……」

 

 初音は手を緩めると、再び壁に背を預け、前を見る。

 

 「私は何をすればいいの? それを聞いてから判断する」

 

 「…ありがとうございます、ボクから言える事は二つだけです、一つ目は神代源楽は能力者で、能力は他人が見ているものを見る事ができる能力だという事です、ボクに能力を使ってきたので分かりました、そして二つ目は……一回戦でチップを7枚賭けてどんな手でもいい、神代に勝ってください」

 

 無茶苦茶だ、一つ目ですら意味が分からないのに、二つ目はもっと分からない。

 

 だが───

 

 「それが私がするべきことなのね」

 

 「初音様の勝負の後、ボクはオールインします、ボクが負ければそこで勝負は終わりで、二度と再戦のチャンスはないかもしれません───決着を付けて下さい」

 

 

 

 初音の脳内ではあらゆる組み合わせが超高速でシミュレートされている。

 

 一ゲームでの神代の出した手、槞彁から告げられた神代の能力とやら。

 

 垂れてきた鼻血を拭い、出す二枚に魂を賭ける。

 

 この1回さえ勝てれば残りの人生、全て敗北でいい。

 

 「初音様」

 

 横から声がかかる。

 

 「もう一つだけ言える事がありました」

 

 槞彁がこちらを見ている。

 

 「はっきり言って初音様は弱いです、神代さんには絶対勝てません」

 

 先の笑顔と違い、意地の悪い…口角の上がった顔でこちらを見ていた。

 

 「……成程、そうね…だとしても、私は今ここで決着をつける」

 

 初音は叩きつけるようにして、二枚のカードを場に出した。

 

 神代は能力で初音の視界を共有している。

 

 (ゴミクズがゴミクズなりに覚悟を決めたようだな、だが無意味だ、何を出したか儂には全て割れている)

 

 表向きに出されたのは『パー』、裏向きに出されたのは『チョキ』。

 

 当然、残りの手札も確認して裏も取れている。

 

 「私は神代に攻撃する、チップは7枚賭けるわ」

 

 「当然、受けよう」

 

 神代は中坪に能力を使い、自分の手札を見させてカードを正確に選ぶ。

 

 表向きに『チョキ』、裏向きに『グー』を出す。

 

 神代のカードを確認して、初音は一枚目のボタンを押す。

 

 (『パー』か)

 

 神代も一枚目のボタンを押し、武田が両者選択し終わったことを確認した。

 

 「あっひゃっひゃ!! 何やらアツい展開みたいですけど、死にかけのやつが突然覚醒! みたいな事は現実では起きませんからね~奇跡は起こらないから奇跡なんですよ!! ひゃっひゃ!! それではわたくしも臨機応変に対応して、小野様と神代様の勝負成立です!! それでは~!! じゃんけんポイポイどっち出すの!! こっち出すの!!」

 

 武田の掛け声に合わせ、両者共に表向きのカードに手を伸ばす。

 

 (これでゴミクズのチップが9枚、合計で3億6千万か、悪くはない)

 

 神代は『チョキ』のカードを初音に向ける。

 

 中坪の視界を共有しており、自分の動作が終わってから中坪が初音のカードに視線を移す。

 

 

 『グー

 

 

 「は?」

 

 それは神代の声か、中坪の声か、ともかく呆けたような声が部屋に響いた。

 

 神代が初音の視界を能力で見ると、そこには『パー』のカードが。

 

 「ゲームのルールは、ボタンで選ぶのは勝負で出すカード、選んだのは『パー』のカードだけど……勝負する()は血で裏に書かせてもらったわ」

 

 神代の能力はあくまでも共有できるのは対象の視界だけ、初音は自分でも見えないように、カードの表を見ながら裏に文字を書いていた。

 

 「~~~ふざッッッ……!!?? ディーラーッッッ!!!! イカサマだッ!! このゴミクズをさっさとつまみ出せ!!!!」

 

 肺から空気を全て吐きだす勢いでまくし立てる神代、対照的に初音は呼吸一つ乱れていなかった。

 

 「ええ、そうねディーラーに判断してもらいましょう」 

 

 神代以外の三人の視線が武田に集まる。

 

 待ってましたと言わんばかりに武田は今日一番の笑顔で勝敗を宣言する。

 

 

 「ルールに乗っ取り、勝者は小野様です!! あっひゃっひゃっひゃ!!!!」

 

 

 

 二ゲーム一回戦、途中経過

 

 

 判明したカードの使用状況、残りチップ枚数

 

 神代『チョキ』、1枚

 

 初音『パー』、8枚

 

 

 





『弱いカードを強くする』
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