ゲーム終了と共に、神代は椅子に深く腰掛ける。
(ゴミクズ共の要らぬ抵抗のせいで献金が減ったが、致し方あるまい)
槞彁の視界を共有すると世界が90度傾いていた。
不審に思い中坪の目で見ると、首が直角に折れた状態で笑っている。
(この男、この期に及んで何か企んでいるのか? 透視能力の使い方からして、儂の能力に気付いているんだろうが……ゴミクズに一体何ができる)
念の為中坪に、外で待機させている他のボディーガードを来させるよう命令しておく。
「あっひゃっひゃ!! 途中でゲームが終わってしまったのは残念ですが、是非もなし!! 早速清算に移りたいと思います!!!」
ケタケタと笑いながら武田が各々のチップを回収し、獲得金額を発表する。
どこから用意してきたのか大型のモニターにでかでかと『結果発表』という文字が表示されている。
「集計結果が出ましたので発表したいと思います!! まずは初音様のチームからです!! 合計獲得金額は~~~27億2000万です!!! これ半分わたくしの物になりませんかね!?」
モニターの表示が『27億2千万円』という数字に変わる。
画面下には、『神代×9枚』『中坪×2枚』と獲得チップ枚数が表示されており、更に一番初めに書いた賭金の画像も添付されていた。
確かに30億と、1億と書かれている。
「そして皆さんご覧あれ!! 最後の勝負に辛くも勝利した神代様のチームの合計獲得金額は~~~~ッ!!!!」
(どうでもいい、早く清算に移れ、無駄に時間を取らせるな)
神代の考えと裏腹に、武田は溜める、溜める、まだ溜める。
段々と顔が赤くなり、プルプルと震え始めた所で、解放。
「-28億2000万ですッッッ!!!!!!」
「「……は?」」
再び、呆気にとられた様な声が神代チームから出る。
中坪がモニターに目を向けると、画面には『膳藤×10枚』『小野×2枚』。
「おい待てディーラー……間違っているぞ、何を言っている?」
思わず神代が抗議の声を上げる。
(チップ枚数は正しい、ディーラーは何を言っている? それに今……
そして、神代の脳の片隅で不意に疑問が浮かんだ。
それは謎を解いた快感が隠していた疑念。
膳藤槞彁はいつから透視能力を使っていた?
「初めからですよ、神代さん」
中坪の視線が下がり、小切手に書かれた賭金が目に映る。
『-2,900,000,000』
「初めから、ボクは『-』を透視していました」
神代の能力は、相手の視界を共有するだけ、その能力が仇となった。
相手の見ているものが分かっても、相手の立場に立てるわけではない。
「んなッッ~!? たわけた事を抜かすな!!! 賭けた金額が-29億だと!? そんなことが許されるか!! そもそもそこのディーラーが初めにルールで賭金の上下限をッ……」
『賭金は9ケタから10ケタまでにして下さい! つまり最高金額は99億!!』
上限は10ケタの99億。
「……ッま、まさか───」
「あっひゃっひゃっひゃ!!!! お気付きになられましたか!? 下限はマイナス10ケタの-99億です!!!」
一般的に〇桁と言えば正の数を指すものという事が暗黙の了解である。
が、ことゲームにおいては暗黙の了解などというものは許されない。
「それじゃあ何だ!? 儂が少しでも低く賭けていれば!! ディーラーがマイナスなど認めなかったら!! お前の策は破れていたという事か!?」
神には槞彁の思考が理解できなかった。
最も賭金の多いものにはチップを初めに得ることができるこのゲームでは、もし神代が槞彁の29億という数字に乗らずに低額で賭けていれば、槞彁が賭けた金額は29億ではないという事が判明してしまう。
そしてそもそもディーラーが認めなければ負の数を賭ける事などできない。
「それが、ギャンブルじゃないですか」
槞彁は首を戻し、真っすぐに神代を見る。
「アナタがボクの罠に気付かない事も、初音様がアナタに勝つ事も、逆にアナタがボクの能力に土壇場で気付くことも、全部ギャンブルですよ、ボクはそのギャンブルに全て勝った、それだけです」
槞彁は笑う。
「武田さん、
「ひゃっひゃ!! ばっちり計算しておりますよ!!! 初音様のチームに~~~『55億4千万円』が神代様から支払われます!!!」
法外な金額、神代と言えども払える金額ではなかった。
予想だにしなかった槞彁の罠に、初音も驚いていた。
「55億って……持ち帰るのも一苦労ね」
「勝てたのは初音様のおかげでもあるんですよ」
「私何かしたかしら?」
「ええ、それはもう……それより初音様、ボクの仕事は恐らくこれから始まります、気を引き締めてください」
ギャンブルの勝敗は力によって簡単に覆る。
故に、ギャンブラーは抑止力としてボディーガードを雇う。
暴力に訴えてくる相手は少なくないのだ、そしてそれは神代もまた例外ではない。
◇◇◇
「『相手の強いカードを弱くする』」
柏木と槞彁の声が重なる。
そして柏木は自らの破ったカードを一枚、槞彁の持っていた『12』のカードの横に付けた。
「ま、これなら相手がどんなに強いカードだろうが一瞬で弱くすることができるな」
『l』と『-12』
「流石です、柏木先輩」
相変わらず気色の悪い笑みを浮かべる槞彁に柏木はシッシッと手で追い払う動作をする。
「おら勝者にはジュース買ってこい! ドクペな!!」
「ジュース一本なんて随分と健全なギャンブルですね」
笑いながら槞彁は立ち上がる。
「賭金なんて飲み物代くらいが丁度いいんだよ」
柏木の言葉に頷いて外へ出ようとするが、槞彁はあることに気がつく。
「先輩、そういえばボク財布に一万円札しか入ってません」
「ホントお前そういう所な!!!」