賭博師身辺警護人   作:しらべ

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ギャンブルの勝ち方 その7

 

 

 

 「55億……か、ゴミクズには身に余るな」

 

 目を閉じている神代が呟く。

 

 その視界は今、何を見ているのか。

 

 「中坪よ、どう思う……()は敗北したか?」

 

 中坪は無表情で答える。

 

 「いいえ、まだでございます、そしてこれからも……起こることは無いでしょう」

 

 その返答に初音が眉をひそめた。

 

 「アンタ達、まさか払わないつも───」

 

 直後、中坪が目の前の机を蹴り上げる。

 

 「……ッッ!?」

 

 そして、瞬時に腰に装着していたハンドガンを構えた。

 

 しかし、中坪は視界を塞いだ両者をその机諸共撃つつもりだったが、目論見が外れる。

 

 机が初音らの方に飛ぶかと思いきや、真上に飛んだからである。

 

 槞彁も中坪と同時に机を蹴り上げていた。

 

 (透視能力か、厄介だな)

 

 机を透視して中坪の脚の動きを見ていたのだろう。

 

 それでも後手に回るはずだが、槞彁の方が単純にスピードが速い。

 

 攻防は高速で行われる。

 

 失敗はしたが、やることに変わりはない。

 

 中坪が引き金にかけた指に力を入れようとした瞬間、笑う槞彁の手にある物が目に入る。

 

 (マガジン…ッ!? いつの間に───)

 

 反射的に、ハンドガンに意識が向く。

 

 「嘘ですよ」

 

 槞彁のつま先が中坪の手を蹴り上げハンドガンが宙を舞う。

 

 「チッ…!!」

 

 中坪が手の痛みを感じる暇もなく、そのまま槞彁の脚が振り下ろされる。

 

 咄嗟に腕をクロスさせて、かかと落としを受け止めた。

 

 (重……!?)

 

 体勢的にも中坪は不利だった。

 

 槞彁はハンドガンを蹴った時点で立ち上がっていたが、中坪は未だ椅子に座ったままである。

 

 ゴミクズの方が上、その位置関係を嫌った中坪は槞彁に足払いをかけた。

 

 が、避けられる。

 

 槞彁はかかと落としを受け止めた中坪の両腕を引っ張るように、足を引いていた。

 

 突如横向きに加わる力に中坪の腕はいともたやすく頭上から前方に動く。

 

 直後、残った足で飛び上がり、中坪の足払いを避ける。

 

 その勢いで中坪の頭を抱え、渾身の飛び膝蹴りを守る物の無くなった顔面に食らわせた。

 

 「ガッ……パァッッ!!!」

 

 中坪の椅子に乗りあがっている槞彁の背後に蹴り上げた机が今更のように落下する。

 

 槞彁は手すりの部分に立ち上がり、中坪を見下ろすと上に手を上げた。

 

 (舐めやがって…!!)

 

 ギリギリ意識を保っていた中坪は身体をズルッと滑らせ、股下を通るように椅子から脱出しようとする。

 

 チャキッと頭上から音が鳴った。

 

 必然的に見上げる体勢になる中坪の目に映ったのは、ハンドガンを構えた槞彁の姿だった。

 

 机に続き拳銃も重力に従い槞彁の手元に落ちてきていた。

 

 「ゴミクズがァァァァ!!!!!」

 

 「違います、ボディーガードです」

 

 真下の中坪に向かって躊躇なく引き金を引き、全弾撃ち尽くす。

 

 中坪は服の下に防弾チョッキを着ていたが、これはあくまで貫通を防ぐ為の物なので衝撃は全て身体に加わる。

 

 「グ……ァ!!!」

 

 当然骨折などは免れない、痛みで噛み締めた歯の間から血が噴き出る。

 

 運がいいのか悪いのか、槞彁の撃った弾は顔などには当たらず全て腹部や胸に当たったので激痛こそ走ったものの致命傷にはならなかった。

 

 (ゴミクズの分際でェ!!! だが今ので全弾無くなった、銃は武器には──)

 

 

 槞彁はマガジンを所持している。

 

 一瞬でリロードし、再び全弾真下に向かって撃ち尽くした。

 

 「……!!!!」

 

 銃弾の嵐に中坪は耐えきれず、気絶する。

 

 一転静まる部屋。

 

 「───殺したの?」

 

 破ったのは初音。

 

 「ん~、瀕死ですかね」

 

 乱暴に銃を放り投げ、槞彁は椅子から降りる。

 

 僅か十数秒の攻防だった。

 

 「な…中坪! 何をしている! 起きんか!!!」

 

 神は己の目を失い、焦りを隠せない。

 

 槞彁は初音に立つよう言い、武田に後を託す。

 

 「武田さん、今日神代さんが持ってきている金額は?」

 

 「あっひゃっひゃ!! イイモノを見させてもらいました!! 本日は10億ほど持ってきておられます、既に部屋の外に用意しておりますので、ご安心を……残りも手数料を頂いた後必ず初音様にお渡しさせて頂きます、本日は当カジノのご利用ありがとうございました!!! 楽しんでいただけましたか?」

 

 ケタケタ笑う武田、その問いに槞彁はチラリと初音を見る。

 

 「何?」

 

 何故かこちらを見てきた槞彁に疑問の目を向ける初音。

 

 「ええ、ボクも面白いものを見る事が出来ました、楽しかったです」

 

 「それは何より」

 

 笑い合う二人を、気持ち悪っと初音が思うのと同時に、背後で神代が声を荒げる。

 

 「お、おいゴミクズ共!! 神とその従者に対してこんな仕打ち、許されると───」

 

 その時、能力で初音の視界を共有していた神代は気付く。

 

 先程までとは違う、神代を見る目が違う。

 

 「そッ……その目で儂を見るなァァ!!!!!! ゴミクズが!!!! 神と人間の区別がつかないのか!!??」

 

 目を見開き大声でまくし立てる神代、初音はもう、彼を見てはいなかった。

 

 「膳藤の言った通りね、僅かに残った溜飲が全部下がったわ……決着は着いた、これ以上アンタに執着する理由が何処にあるの」

 

 初音は振り返り、扉に向かって一歩、踏み出した。

 

 「教えてあげるわ、神は人の目を気にしない、人の目に囚われ続ける限り、アンタはそこで停滞し続ける」

 

 「……ッッ!! 知ったような口を!!!」

 

 神代の戯言は届かず、初音は歩き始める。

 

 「行くわよ、膳藤槞彁」

 

 「仰せの通りに」

 

 ボディーガードが扉を開け放ち、ディーラーはその背に礼をする。

 

 「このゲーム私たちの勝利よ」

 

 

 

 『じゃんけんポイポイ』

 

 勝者 小野初音 膳藤槞彁

 

 獲得金額 55億4千万

 

 

 

 「遅かったですね、待ちくたびれましたよ」

 

 裏カジノから出た所で柏木が待っていた。

 

 ボディーガードのくせにどこに行っていた、とクレームを入れようかと思っていた初音は、辺りの光景に絶句する。

 

 「こ、これ全部アンタが一人でやったの?」

 

 柏木の周りには何十という数のスーツの男たちが地に伏していた。

 

 傍には何台もバンが扉が解放された状態で放置されている。

 

 「ええ、ここで待ってたらぞろぞろやってきて、聞いたら神代の護衛だって言うじゃないですか、流石に入れさせる訳にはいかないんで、止めたらいつの間にかこんな事に……そうそう、初音様いくら勝ったんですか?」

 

 負けたとは全く思っていないような口ぶりで柏木が聞いてくる。

 

 「はぁ、アンタ達の会社に依頼して良かったわ、55億4千万よ」

 

 「55億……? えーっとこの間槞彁に勝った時に1億1千万貰ったから……あれの50倍!?」

 

 随分稼ぎましたね~、と呑気に言う柏木に、膳藤に勝ったのか…と変な物を見るような目をする初音。

 

 「柏木先輩、初音様がもう素晴らしかったんですよ、能力に固執し過ぎた人間には出せない攻略法で神代さんに勝ってました、先輩にも間近で見てほしかったです」

 

 思い出し笑いをする槞彁に若干引き気味の柏木が質問する。

 

 「お、おおそうか、お前はどうだったんだ? 足引っ張らずに勝ったんだろうな?」

 

 「ボクですか? ボクは負けました」

 

 「……初音様、こいつちゃんと役に立ってましたか?」

 

 「少なくとも、今日私の人生はもう一度動き始めた……その点については感謝しているわ」

 

 柏木と槞彁は初音の発言に顔を見合わせる。

 

 「どこか…、ご飯でも食べにいこうかしら、金なら大量にあるし、アンタ達も来なさい、奢るわ」

 

 「初音様、申し訳ありませんが、我々はあくまで仕事中ですので……」

 

 柏木が初音を見て続ける。

 

 「ですが、そうですね……飲食店と言えどやはり、毒には注意しなければいけません」

 

 よだれを垂らしながらそう続けた柏木に、意図に気付いた初音は思わず噴き出した。

 

 「フッ……ええ、そうね、アンタ達に毒見をお願いするわ、これもボディーガードの仕事の内でしょう? 嫌とは言わせないわ」

 

 「柏木先輩、これは痛い所を突かれましたね、どうします?」

 

 槞彁もこの茶番に加わった。

 

 「当然護衛する、依頼人の為なら、どこまでも」

 

 

 と、いう訳で

 

 

 「初音様、運転をお願い致します」

 

 「……」

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 白杖を持ち、カジノから出てくる老人が一人。

 

 「ゆ、許さん…ゴミクズどもめ…生かしてはおけん……中坪は役には立たなかったが、まだ儂の護衛は何人もおる、あやつらに……」

 

 杖の先が倒れている護衛の身体に当たる。

 

 「…? こんな所に障害物があったか?」

 

 進路を変えようとした時だった。

 

 ズンッと腹部に衝撃が走る。

 

 次いで、焼けるような痛み。

 

 「な……に…!?」

 

 「さっきはよくもやってくれたなァ!? 神代源楽!!!」

 

 男は神代の腹に突き刺したナイフを手首を捻って内部をえぐった。 致命傷である。

 

 「うッ…ゴブッ……!!」

 

 大量の吐血、神代の命は風前の灯火となった。

 

 (この声……聞き覚えがある、ゲーム前に減らしたゴミクズか!!!)

 

 「なんだか知らねえけど、縛られてた俺をスーツのガキが助けてくれたんだよ!!! 丁寧にアンタがこの店から出てくるって事も教えてくれたぜ!!!」

 

 男はわざとナイフを神代の身体から引き抜いた。 血が噴き出る。

 

 「わ、分かっているのか……神を殺す意味を……!」

 

 神代が最期に見た光景は血だまりの中に倒れた自分の姿だった。

 

 「お前みたいなゴミクズ、生かしておいたら世の中が汚れる」

 

 「……ッその目で……!! 儂を見───」

 

 

 神代源楽、死亡

 

 

 その後、復讐に決着を着けた男は警察に自首をした。

 

 また教祖のいなくなった新興宗教は、資金難に苦しめられ、すぐに消滅した。

 

 初音の自宅には諸経費の差し引かれた44億円が確かに届けられており、それを伝えに初音が再び英警備会社に足を運んできた。

 

 「それで私、今の仕事辞める事にしたの」

 

 「FIREってやつですか?」

 

 「違うわよ、心機一転、別の事をやろうと思ったの」

 

 「まあ、初音さんなら多分何をやっても成功すると思いますよ」

 

 お世辞ではなく柏木は本当にそう思った。

 

 隣で座っている槞彁も頷く。

 

 「そうだ柏木、私の次の仕事当てなさいよ」

 

 「え、俺ですか? 槞彁は知ってんの?」

 

 「ええ、勿論」

 

 「俺ハブる必要なくない? 何で俺だけ知らないんだよ」

 

 しばらく柏木は考える。

 

 ふと横を見ると、槞彁が笑っていた。

 

 正面を見ると初音も笑っている。

 

 嫌な予感がした。

 

 「…………………………ここ?」

 

 下に指を向け、恐る恐る聞く。

 

 「ピンポーン! これから英警備会社の事務で働く小野(おの)初音(はつね)です、よろしくお願いします、柏木()()

 

 予感が的中した柏木は渋い顔をしながら、何とか笑顔を作る。

 

 「そ~、そっそうだったんですね……じゃ、じゃあ先輩にドクペでも買ってきて貰おうかな~なんて」

 

 「あ?」

 

 「はい、調子乗りました……」

 

 最年少、柏木の憂鬱が始まった。

 

 

 

 








ギャンブルの勝ち方編終了です、非ログイン状態でも書けるので感想等々頂けると嬉しいです。

次話はおまけの話になると思います。

元々、一話だけの話のつもりでしたが、稀代のギャンブラーがニュースで登場してしまったので居ても立っても居られず、続きを書いてしまいました。

読んでいただきありがとうございました。

おまけ以降も、もしかしたら書くかもしれません、その時はまたよろしくお願いします。
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