リアルではモブなわたしは、GBNでずっと暮らしたい。   作:ゼラチナマスター

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ミッション1-12 すなおな気持ちで、話し合おう。

 

「”ガンプラを買いたい”とは、随分と唐突だね。

 まずは、アタシ達の信条を聞いてほしい」

 

 ロウジはかすかに表情をこわばらせたまま、エニルにうなずく。

 人目を避け、ロウジはエニルと共に、エニルのガンプラハンガーへと移動した。

 キャットウォーク途中のベンチに並んで腰かけ、右手首が修復中のジェガン・Cを眺める。

 

「確かにアタシはガンプラ売買を行うガンプラ商人だ。

 けれど基本的に、ニュービーの子達は商売の対象にしない」

 

 改めて見ても、ジェガン・Cはしっかりしたつくりのガンプラだった。

 穏やかなエニルの語りを聞きながら、ロウジは羨望を浮かべる。

 

「ガンプラ作りのうまい下手は確かにある。

 けれどやはり、自分で作ったガンプラには愛着が湧く。

 自慢のガンプラで遊ぶ方が、GBNはずっと楽しいものになる」

 

 確かにエニルの言葉にはうなずけるものがあった。

 自分のガンプラで自在にこの世界を歩けたなら、どれほど楽しいだろう。

 

「それに、ニュービーは未来に無限の可能性をもった存在だ。

 お仕着せのガンプラを渡しては、無限の可能性を奪ってしまう。

 それは、何よりも避けたい。ここまでは、判るかい?」

「……はい、大体は」

「だからまず、一度ガンプラを作るよう勧めているんだ。

 その上でガンプラ販売に頼りたいと言うなら、改めて話に乗るよ」

 

 エニルの声も表情も、とても優しい。

 だからこそ、その優しさに素直に応えられないことが辛い。

 

「キミは設定作りが好きで、得意だ。

 だからきっとキミのガンプラも、”好き”のつまった素敵なものになるだろう」

「僕は……ガンプラが、作れないんです!」

 

 優しいエニルの声を遮るように、ロウジは叫ぶ。

 息を吸って、吐いて。その音だけがガンプラハンガーに響く。

 エニルは何も言わず、穏やかな表情を崩さない。

 エニルの表情が涙でぼやける。

 情けない。そう思っても、涙が止まらなかった。

 

「……ありがとう。すまない、辛い事を言わせたね」

 

 顔をぐしゃぐしゃにしながら、ロウジは何度も首を横に振る。

 エニルは悪くなどない。悪いのは情けない自分だ。

 辛抱強く、エニルがじっと待ってくれている。

 

「情けない、話なんです。

 ……聞いて、くれますか?」

「聞くとも。けして笑わない」

「エニルさんは、いつもそうですね」

 

 きっと、そう言ってくれると思っていた。

 涙でぐしゃぐしゃの情けない顔で、それでもロウジはふわりと笑うことが出来た。

 その優しさに甘え、ロウジはゆっくり息を吸って吐く。

 

「ずっと昔、ガンプラをねだって買って貰ったんです。

 説明書通りに作った素組のガンプラは、きっとひどい出来だったですけど、

 大好きなガンダムの世界が掌にあるようで、とっても楽しかった……」

 

 心の中の繊細で傷つきやすいものをそっと引っ張り出し、ロウジはたどたどしく語り出す。

 どのガンプラを買うかも、さんざん悩んだりした。

 おすすめされたガンプラを拒否し、自分がひとめぼれした子をロウジは買った。

 確かその機体は、今とは趣味の違う、とてもおしゃれなワンオフ機だったと思う。

 

「それでもパパは褒めてくれて、とっても僕は嬉しかった。

 こうしたらいいよ、っていっぱいアドバイスをもらいました。

 凄く嬉しくって、下手なりにアドバイス通りにスミ入れをして、塗装もしたんです」

 

 あのとき感じた思いを、ロウジは今も覚えている。

 でも、だからこそ、その先待ち受けた奈落は深かった。

 

「淡い色に塗装して、ファンタジーなフィギュアのアクセやアイテムで飾ったりしました。

 SDガンダムとかも好きだから、こんなのもありなんじゃないかな、って。

 塗装もへたっぴで、カラーリングもきっとセンスがなくて、

 それでも僕は得意げに、パパにガンプラを見せたんです。

 めっちゃめちゃに怒られました。こんなのは邪道だ、ガンプラじゃない!って」

 

 パパの事は好きだったし、尊敬している。

 けれど、あのときパパが浮かべた顔が、脳裏から離れない。

 

「パパ。とってもガンプラ作るのが上手な人なんです。

 今でも模型店に見本が飾られたりしてるみたい。

 ……そんなパパに、ひっどい出来の”ガンプラもどき”を見せちゃって。

 本当に情けなくて、恥ずかしい話です」

 

 ロウジは思う。パパは悪くない。悪いのは期待に応えられなかった自分だ。

 だからロウジは、ガンプラとパパから少し距離を取るようになった。

 もう二度と、ガンプラを作りたいだなんて思ったりしないように。

 大好きなパパを、これ以上嫌いにならないように。

 

「だから、僕には”ガンプラなんて作れない”んです。

 ごめんなさい、エニルさん。本当に、つまらない話です……」

 

 出来るだけ明るい声で、明るい顔でロウジは言う。

 言って、エニルの様子をうかがい、声が消え入るように小さくなる。

 エニルが、地獄の窯を覗いたような顔で凍り付いていた。

 まるでコクピット恐怖症が発症中のジャミル・ニートみたいだ。そんなことをつい思ってしまう。

 まずい事を言ってしまっただろうか。

 慌てたようにロウジは視線を泳がせ、言葉を探す。

 だが先に、エニルが絞り出すように声を発した。

 

「……ロウジ。辛い思いをさせたね」

「いえ! エニルさんが悪い事なんて何もないです」

「ロウジ、ガンプラは自由なんだ。

 自分の”好き”をいっぱいに詰めて、作り上げればいい」

 

「けれど、自分のガンプラが”好き”なあまり、他の”好き”を劣ったものだと考えたり、

 邪道なものだと考えて否定してしまう。それは……ダメだ。

 アタシも昔、似たような事をして、他人を手ひどく傷つけてしまった事がある」

 

 エニルは痛みをこらえるようにクールな表情を歪ませ、とつとつと語る。

 

「違います! パパは間違ってなんか……」

「そうだね、ロウジのパパは間違っていないかもしれない。

 ……けれど、昔のアタシは間違っていたんだよ、ロウジ」

 

 言い募るロウジに、エニルが苦い表情で優しい言葉を重ねる。

 

「昔のアタシの愚かさが、キミからガンプラ作りの楽しみを奪ってしまったのかもしれない……」

「そんな!?なおさらエニルさんが悪いはずなんか!」

 

 パパが悪い訳じゃない。エニルが悪いなんてはずもない。悪いのはガンプラもどきしか作れない自分だ。

 ああ、けれど初めてガンプラに触った時感じたわくわくを、手放したかった訳じゃない。

 ロウジの頭の中を、思い出と言葉がぐるぐると回る。

 

「ロウジ。もしキミがアタシが悪くないと言うのなら、

 アタシの勝手な願いを聞いてくれないか」

 

 クールな表情を歪めるエニルに、ロウジははっとした。

 エニルも苦しんでいる。ロウジと同じように自分を責めている。

 

「アタシは、今のキミが作ったガンプラを見てみたい。

 どんなガンプラだって、アタシは怒らないから」

 

 懸命なエニルの言葉に、ロウジの心は決まった。

 もしそれで、この人の心を救えるのなら。

 ロウジは隣に腰掛けるエニルの手を強引に掴み、そっと小指を差し出す。

 

「……約束します。エニルさん。

 どんなにスミ入れがぐちゃぐちゃで、塗装のセンスがひどくて、合わせ目なんて残ったままだったとしても。

 必ずもう一度……ガンプラを作り上げて、エニルさんに見せます」

「約束する、絶対に笑ったりなどするものか。

 ロウジの”好き”を、絶対に否定したりなんかしない」

 

 エニルのしなやかな小指が、ロウジの小指と絡み合う。指切りげんまん、子供っぽい約束の仕草だ。

 けれどきっとその子供っぽさが、”好き“なことへの誓いにはちょうどいい。

 

「だから……その時には、エニルさん自身を許してあげてくださいね」

「……ロウジ、キミこそ、辛かったらガンプラなんて作らなくていいんだからな?」

 

 二人して、投げかけた言葉は相手を慮るものだった。

 ロウジは思わず笑う。エニルもかすかに笑っている。

 僕達は、不思議と良く似ている。

 ガンプラハンガーへ静かに笑い声が染み入り、

 ロウジの心にたまった澱と涙を、最後まで流し去ってくれた。

 エニルと二人、普段通りの顔に戻り、さぁ何を話そうかと向かいあった時だった。

 

「ひょわっ!?」

 

 ダイバーギアすぐそばに置いた携帯電話が激しく振動し、ロウジは慌ててギアバイザーを外す。

 慌てて取ろうとして机の下に落っことす間に振動が止まる。

 恐る恐る覗いた液晶には、大切なリア友からの着信履歴が燦然と輝く。

 まさかとダイバーギアをつけ直せば、サブウィンドウに文字がうるさく主張する。

 

『セセリア・ドートより9件のメッセージをお預かりしています』

「セセリア……!」

「さてはお友達、リアルミッション終わったんだね」

 

 エニルの言葉に重なるように、今度はGBN内で通信の着信があった。

 慌てて押したボタンで、めいっぱい大きな通信ウィンドウが開く。

 

「ちょっとロウジ! 何ボクの着信ブッチしてんのさ。

 どうせあのジェガン女とガンプラハンガーいるんでしょ!!」

 

 セセリアのけたたましい声が、ギアバイザーのスピーカーいっぱいに響く。

 

「ごめんセセリア。ちょっとむつかしい話しててさ……」

「許す。まずは初勝利おめ!でもあのおっぱい大きいジェガン女いったい誰!

 ずるいぞ今度ボクにも紹介して!」

 

 セセリアってば、いつもこうなんだから!

 怒涛の勢いで喋られ、ロウジはもう笑うしかなかった。

 

「ほらすぐガンプラハンガー出る!

 水星ミッション夕飯までにクリアしないと!」

「わかった、わかったよ!だから一回切るね!」

 

 セセリアに負けじと声を張り上げ、通信を強引に切る。

 エニルへ向き直り、ロウジは申し訳なさそうに頭を下げる。

 

「あの、エニルさん。フレから呼び出しで急に……」

『エニル・エルがあなたにフレンド登録を希望しています』

 

 意外なシステムメッセージに、ロウジは勢いよく顔を上げた。

 

「リアルあってのGBN。友達は大事さ。特にリア友なら」

「あの、良いんですかフレ登録!」

「また遊ぼう。もちろん、嫌じゃなければ」

 

 ロウジの答えは、もちろん決まっている。

 ただ満面に笑みを浮かべ、フレ登録を受諾する。

 

「それではいってらっしゃい。また、“今度”」

「はい、また“今度”です、エニルさん!」

 

 ガンプラハンガーからの退出コマンドを選ぶと、ロウジのアバター姿がぼやけ、歪む。

 自分の姿がエニルから完全に見えなくなるまで、ロウジはずっと手を振り続けた。

 

●読み飛ばしても構わない巻末プチ解説

 

・フレンド登録に関する独自設定。

 両者の承認により行われる他ダイバーへのお気に入り設定機能である。

 相手のログイン状況、滞在エリアが判るようになり、ガンプラハンガーへの動向が可能になる。

 ログアウト中にもメールを送っておくことも出来たりするが、もちろんリアルの個人情報は隠匿される。

 フレンドの戦闘動画を見たりもするようになるが、もちろん一時的に隠したりすることもできる。

 エニルはもちろんロウジと違ってフレンドリストは常にほぼ満員である。

 セセリアはフレンド登録は多かったが、オフ会絡みでやらかして、フレを全切りしてしまった。

 ちなみにロウジのフレンド登録枠は、昨夜にロウジがアバター登録後した後、

 さんざんわめいて騒いだセセリアが一人目のフレンド枠に居座っている。

 かわいらしい独占欲だね、セセリア!

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