リアルではモブなわたしは、GBNでずっと暮らしたい。 作:ゼラチナマスター
オープニングムービー:閃光のΖドライバー
雨雲を切り裂き、まばゆいメガ粒子砲の奔流が大型機へ押し寄せる。
左翼へ着弾したその一撃はエンジンを爆発させ、片翼の半ばまでを大きく削り取る。
空中で爆発四散しなかったのは、さすがジオン公国の誇るガウ攻撃空母というところか。
それでもガウ攻撃空母は真っ黒い煙を吐き出し、徐々に高度を下げ、湿地帯に胴体着陸した。
「そ、総員退避ーっ!」
ガウから悲鳴じみた周辺チャットが周囲へ響き、ガウの前方ハッチが勢いよく開く。
飛び出て、転んで、折り重なって、頭を抱えてしゃがみこんで、全部で4機。
コミカルな動きでガウから飛び出してきたのはリアル等身の18mガンプラ達だ。
MSM-04 アッガイ。茶色なボディのずんぐりむっくりしたフォルムが愛らしい。
ジオン公国水泳部の中でも、愛らしさに特化した偵察用の水陸両用機体である。
「み、皆の衆、無事かっ!」
「無事っすボス! けど、まだガウの中には今朝捕獲したばかりの野生のベアッガイが……!」
互いに声をかけあうアッガイ達の背後で、ガウ攻撃空母がついに激しく炎を上げ、爆発する。
アッガイ達は盛大に爆発で吹き飛び、湿地の泥に揃って頭から埋まり、じたばたもがく。
「せ、せっかくパーツ集めたPVPサーバ限定ベアッガイたんが……」
「わ、ワイのガウ攻撃空母ぉ……せっかくミッションポイントで買うたのに」
ここはフルダイブ型オンラインゲームGBN(ガンプラバトルネクサスオンライン)の、
PVPサーバーにある戦闘エリア、南米の湿地帯エリア(UC)である。
泥から助け合って脱出したアッガイ達が、湿地帯の陸地で膝を抱えて体育座りする。
爆発で吹き上がった泥水の雨が、 アッガイ達の丸い頭部に刻まれたエンブレムを汚していく。
この4機のアッガイ達は、GBNで共に遊ぶためのプレイヤー集団、”フォース”に揃って所属しているのだ。
「くっそ、ワイらが何をしたっちゅーねん!?」
「ゆーてもボス、ここはPVPフリーサーバーっす!」
「判っとるわ……って、ちょ、散開ーっ!!」
”ボス”と呼ばれたリーダー格のアッガイが悲鳴を上げた直後、
彼方から飛来したメガ粒子の太いビームがアッガイ達の真横に着弾する。
湿地の水が激しく水蒸気爆発を起こし、泥と水がアッガイ達をまだらにそめていく。
「なんやねん一体ー!?」
「ボス、アイツっす……奇襲かけてきたのは!」
アッガイが腕で指さす先には、高速で接近する飛行機型のガンプラが一機。
「ウチらのガウ落とした、ウェイブライダー!」
MSZ-006 Z(ゼータ)ガンダム。機動戦士Zガンダムの主役機が変形した飛行機形態、ウェイブライダーだ。
凄まじいスピードだった。スラスターの光が輝き、ゴマ粒大だった機影があっと言う間に大きくなる。
高速飛行のまま、ウェイブライダーの下半分に吊られた大型火器、ハイパーメガランチャーがもう一度火を噴く。
ほとばしったビームは、大慌てで回避行動をとったアッガイの1機を飲み込み、その上半身を貫いた。
「た、対空迎撃や、皆!」
「う、うぃっす、ボス!」
ボスアッガイの叫びで、残り3機のアッガイ達が頭部のバルカンや腕部のロケット砲を空へと一斉に打ち放つ。
だがウェイブライダーはその高機動でゆうゆうと弾幕を振り切り、アッガイ達をあざけるように急旋回する。
「無理っすボス! ジュアッグのランチャーとかブーメランとかオプション全部ガウごとアウトっすよ!」
「……っく。こら、そこのZドライバー!
一体何してくれんねん!!」
あまりの機動性の違いに、ボスアッガイは物理的な迎撃でなく、通信による”口撃”に切り替えたようだった。
いきなりPVPを仕掛けてきたウェイブライダーに対し、ZタイプMSを駆るダイバーの総称で呼びかける。
ボスアッガイは頭に輝く葉巻煙草をくわえたアッガイのエンブレムを叩き、大声で叫んだ。
「ワイらは野生のアッガイたんの密輸を執り行うフォース!
人呼んで”アッガイマフィア”や。わかってケンカ売ってるんやろな!?」
「我らは泣く子も笑う”アッガイマフィア”!」
「貴重な野生のアッガイたんを保護せよ!」
3機のアッガイが、揃ってエンブレムを叩き、決めポーズをとる。
Zドライバーの答えは無慈悲に撃ち込まれたハイパーメガランチャーだった。
ビームが真横に着弾し、3機とも盛大に湿地をごろごろと転がる。
「くっそ、通信も乗ってこぉへんとは、マジで何が楽しゅうてやっとるねんあいつ!?」
湿地に大の字でぼやくボスアッガイの真上で、ウェイブライダーの姿が変わる。
バイオセンサーじみた光に包まれ、ガンプラの可変機構によって人型へと姿を変える。
「な、なんやアイツ!?」
Zガンダム、のはずだった。だがそのガンプラは明らかに普通と違う。
その異形に、ボスアッガイは思わず叫んでいた。
成績は優秀。素行も品行方正。
ママの言うことに逆らわない、
“あの子“はリアルの優等生。
けれど、GBNでは……
「“アッガイマフィア”だと?
……ふざけるな!」
狭いガンプラのコクピットに、怒気を含んだZドライバーの声が響く。
人型へ変形した愛機が、高出力のスラスターの力で滞空し、眼下のアッガイ達を傲然と見下ろす。
目の前のモニターでは、3機のアッガイが無様に湿地を転がり回っている。
「野生のアッガイを密輸する、だと?
ガンプラがそこらを野生で歩いてるかよ!」
右に構えたハイパーメガランチャーを構える。
定まらない照準に舌打ちし、スラスターを切って自由落下。
転がるアッガイを踏みつけるぐらいのつもりの至近距離で、右腕のウェポントリガーを引き絞る。
外しようがない距離だ。放たれたビームを見もせず、スラスター任せで上空へと素早く飛び上がる。
どうやら胴体に直撃したようだ。アッガイが2機に減っている。
「雑魚め……観光客のつもりか?
そんなふざけたガンプラで、GBNを!」
叫ぶ度に、攻撃する度に、Ζドライバーの苛立ちは強くなる。
目の前のアッガイ達は塗装され、表面処理されたしっかりしたガンプラだ。
武装も装甲も推力も強化されていない。
バトルの勝利を願ってくまれたガンプラにはとても思えない。
そんなふざけたガンプラがPVPフリーのサーバを我が物顔でうろつく。それが不愉快で仕方ない。
「おい、そこのZドライバー!」
怒り色の物思いに沈むΖドライバーの思考が、戦闘に引き戻される。
狭いコクピットに、ボスアッガイのやかましい通信が響き渡る。
「このかわいいアッガイの顔に引っかき傷を残されたくなければ、そのでかいビームカノンを捨てぇ!」
「きゃ、きゃあー! 助けてっすー!?」
こ、い、つ、は、何を言っているんだ?
あまりにあまりな通信の内容に、Zドライバーはモニターを呆然と見つめた。
ボスアッガイが別アッガイを羽交い絞めにし、爪を突き付けている。
同じフォースに所属するアッガイがアッガイを人質に取り、敵に武器を捨てろと要求する。
三文芝居ですらない、意味が分からない。訳がわからない。
頭が真っ白になりながら、Zドライバーはハイパーメガランチャーを放り捨てた。
「お、マジか!?よぉしいい子や、こっちにおいで」
ボスアッガイの言葉など聞こえていなかった。
左トリガーを引き絞り、左腕部のグレネードを打ち込む。
呆気にとられたように人質アッガイの頭が吹き飛ぶ。
スラスター全快、上空から突撃。ボスアッガイの顔面へ左の拳を打ち込む。
倒れたボスアッガイに馬乗りになり、右拳、左拳。
マニピュレーター破損の警告も聞かず、冷静にトリガーを引き絞る。
「ま、待ちぃ!! ちょおクールダウンしよ?
アンタの拳はホンマに正しいんか!?」
オレは、つよい。
だから正しい。
誰もそうは言ってなどくれないけれど。
ボスアッガイの叫びを無視し、至近距離から腕部グレネードのトリガーを引き絞る。
「ガンプラが犯した過ちは、マフティーが粛清する!」
Ζドライバーは怒りと共に吐き捨てた。
ガンプラのコクピットが、狭くて不自由極まりない。
全機撃墜の勝利を称えるシステムメッセージかわ流れる中、Ζドライバーは孤独に消えない怒りを抱え続けるのだった。
オレはつよい。
Zとオレなら、誰にだって負けやしない。
でも、誰も褒めてなんかくれない。
ママは言うんだ。
こんな将来の役に立たないゲームなんてやめなさい。って
小説を読め、教養をつけろ。
映画を見て、見識を広めろ。
人と関わり、コネを作れ。
誰も言ってくれないセリフを呟く。
「オレは……強い」
その台詞は、ガンプラのコクピットにむなしく響き渡る。
「落ちろ、カトンボ!」
「こんなふざけた奴ら」
「オレは強い。だから正しい」
●読み飛ばしても構わない巻末プチ解説
・野生のベアッガイたん
残念なことに、GBNでは捕獲可能な野生のガンプラの生息は確認されていない。
アッガイマフィアは、ミッション報酬のガンプラパーツを集めているのである。
完成したベアッガイはGBN内通貨をもらい、希望者へ里子に出し、アッガイ愛好家の輪を広めている。
まぁ、アッガイマフィアはそういうロールプレイしている無害なフォースのようである。
集めたパーツはガンダムベースの3Dプリンターでリアルでのガンプラとしても使用可能。
嗚呼、野生のアッガイが闊歩するアガトピアがあればいいのに……
ないよね、そんなの。Z●IDS世界じゃあるまいし。