リアルではモブなわたしは、GBNでずっと暮らしたい。   作:ゼラチナマスター

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ミッション2-1 迷惑ダイバーの情報を共有しよう。

 

「スカーフェイスの……Ζガンダム?」

 

 ガンプラハンガーに、エニルのクールな声が響く。

 ガンプラバトル後、雑談タイムでのことだった。

 エニルはガンプラを眺めるキャットウォークのベンチに腰かけ、ぼんやりと目の前のガンプラハンガーを眺める。

 顔にかけたギアバイザーをずらし、リアルのコーヒーを一口。今日のコーヒーは格別に苦い。

 ダイバーギアに飾られたリアルの愛機のピカピカの塗装を愛おしげに眺め、ゆっくりとギアバイザーをかけ直す。

 

「ええ。角が折れ、デュアルアイの片方を破損した……異形のZガンダムです」

「異形、ね。顔の傷ぐらい、名誉の負傷さ」

 

 GBNの世界に入り直し、エニルは隣の相手へぼやく。

 ああ、我が自慢のガンプラよ、なんと無残な姿に。

 目の前に再度映し出されたガンプラハンガーには、大破したエニルの愛機ジェガン・C(キャラバン)の姿をあった。

 

『再出撃可能まで あと 4,982秒』

 

 装甲は黒く焼け焦げ、頭部からコクピットにかけ、深々と斬撃の跡が刻まれている。

 痛々しいその傷跡は、ガンプラバトルの敗北の証だ。

 その敗北を刻んだ相手と言えば、隣に立つクランプである。

 クランプはもうバトルは終わったとばかりに、丁寧語でエニルへと応対してくる。

 

「第一、ガンプラの破損は自動修復されるはずだ」

「そうですね。だから、破損したガンプラをダイバーギアに読み込ませ、GBNにログインしているとしか考えられません」

 

 とはいえ、正々堂々のガンプラバトルだ。クランプにガンプラ破壊の恨みがある訳でもない。

 そもそも、この無残な状態のジェガン・Cでさえ、6000秒ほどのクールタイムを挟めば、GBNログイン時のピカピカの状態へ戻るのだ。

 ただ、実力と運が及ばなかったことを、エニルが悔しいだけだ。

 

「粗末に扱われたガンプラが、復讐のためにGBNに接続したんだろうさ」

「季節外れの怪談話をしたい訳じゃないんですよ、エニル少佐」

 

 苦笑いするクランプに鼻を鳴らし、エニルはリアルのチョコを手探りで口の中に放り込む。

 甘いチョコで苦いコーヒーと敗北の味をリセットし、エニルはベンチから立ち上がる。

 すまないキャラバン、次は負けん。

 愛機へ心で詫びた後、エニルはクランプへと向き直った。

 

「すまない。続きはロビーで話させてくれ。

 そろそろロウジとの待ち合わせ時間だ」

 

 

 

 

 

 スペースコロニーの宇宙港を模したGBNロビーは、いつも通り騒がしい。

 ロウジのログインには、もうしばらくかかるようだった。

 

「以上が、私の知人が遭遇したスカーフェイスのZと遭遇した時の動画です」

「異形のΖガンダムを駆るマフティーか……なんとも不吉な組み合わせだな」

 

 人込みを避けた小広間のベンチに腰掛け、エニルは苦々しげにつぶやく。

 クランプが提供してくれた動画では、マフティー操る異形のZにより、4機のアッガイ達が蹂躙されていた。

 マフティーとは閃光のハサウェイに登場するテロリストの組織名であり、悲劇的な運命を辿る首領の名前でもある。

 

 

『ガンプラが犯した過ちは、マフティーが粛清する!』

 

「過ちに、粛清ときたか。ずいぶんと気合の入ったロールプレイだよ。マフティー・ナビーユ・エリン」

 

 動画で声高に宣言するマフティーの言葉に、エニルはシニカルに呟く。

 

「他人の遊び方を否定し、やり方を押し付けるようなロールプレイ、それではまさしくテロリストだ」

「同感です、エニル少佐。このマフティーを名乗るΖドライバー、ファンプラ狩りに新人狩りと大暴れしているようでして……」

「誰彼構わず乱入するマナー違反ダイバーか。随分噂になっているな……」

 

 問い合わせをした知人からのメッセージのや、掲示板の検索を漁り、エニルはクールな顔に憂いを浮かべる。

 ファンプラとは、見た目の楽しさ、ネタ的な再現性などを重視したガンプラである。

 基本的にバトルでの強さは度外視され、PVP向きではない。

 

「……ロウジも、マフティーにとって粛清対象か」

「気を付けてあげてください。

 私も、ロウジくんと再戦するのを楽しみにしているんですから」

 

 エニルの脳裏に真っ先に浮かんだのは、今日、ガンプラを見せてもらう約束をした新人ダイバー、ロウジのことだった。

 作り上げた自慢のガンプラが蹂躙されようものなら、あの繊細な少年がどう思うことか。

 

「とはいえ、気をもむのもあと少しの辛抱ですよ。

 どうやら、キャプテンジオンが動いているそうですし」

「“マナー違反にアクシズ落とし!”のキャプテンジオンか。それは頼もしい」

 

 マナー啓発活動で有名な動画配信者の名前に、エニルは口元に笑みを浮かべた。

 もし対戦が実現すれば、さぞ見応えのある動画になるだろう。

 エニルは心の中でスカーフェイスのΖガンダムに合掌した。

 

「それでは、私はここらで失礼させていただきますね、エニル少佐」

「ロウジのガンプラ、見ていかないのか?」

 

 クランプがうなずき、ベンチから立ち上がる。

 意外な態度に、思わずエニルはクランプを呼び止めた。

 

「もちろん、ロウジくんのガンプラに興味はあります。

 けれど。私は言いましたから。”次は君のガンプラと戦いたいものだ”と、ね」

「なるほど。手の内を探るのはフェアじゃない、そう言う訳か」

 

 実に武人らしいロールプレイぶりに、エニルはにやりと笑い、ベンチから立ち上がる。

 そして去りゆくクランプの背に向け、エニルはまっすぐに頭を下げた。

 

「情報提供ありがとう、クランプ。

 ロウジにはアタシからそれとなく伝えておくよ。

 それと……大人気ない対応、すまなかった」

「意外な一面が見れて、お得だったと思っておきます。

 それより、ロウジくん相手に、その分しっかり大人をやってあげてください」

 

 まったく。精神的には自分よりずっと大人だ。

 気安い口調で謝罪を受け入れてくれたクランプに、エニルはもう一度心の中でしっかり頭を下げる。

 大人だって、常に大人のロールプレイが貫ける訳じゃないのだ。

 

「エニルさーん!」

 

 そら、若者がやってきたぞ。胸を張れ、大人の私。

 聞こえてきた元気な声に、エニルはクールな笑顔を浮かべ、悠然と声の方へ向き直る。

 そこには子犬のような人懐こい笑顔で駆け寄るロウジの姿ががあった。

 

「待っていたよ、ロウジ。

 さぁ、今日こそ、約束を果たさせてもらおう」

「……はい! 今の僕に出せる全てをこめたガンプラ、ハンガーに待機させてます!」

 

 拳を握り、ロウジは満面の笑みで宣言する。

 この笑顔、守ってやらねばならん。

 たとえ過保護だろうと、エニルはそう思うのだった。

 

●読み飛ばしても構わない巻末プチ解説

 

・キャプテンジオン G-TUBER

 ガンダムビルドダイバーズRe:RISEに登場する、有名動画投稿者。

 アメコミ風の覆面をかぶった正体不明の風の濃いキャラだが、顔に似合わぬ繊細なガンプラ作りの技術を持ち、動画の多くが派手でドラマチックな展開のため、多くのフォロワーを持つ。

 どうやら公式の某有名ダイバーが別アカウントを使用し、ロールプレイしているようだ。

 キャラを作ってのロールプレイは、GBNでも市民権を得ているらしい。

 ところで、ネットで”知人の話だが”と言った場合、半分ぐらいは本人の事だったりする。

 ねえ、あなたも別アカウントもってたりします? クランプ大尉。

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