リアルではモブなわたしは、GBNでずっと暮らしたい。   作:ゼラチナマスター

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ミッション2-2 自慢のガンプラを披露しよう。

 

 課題を終わらせ、余裕の週末。

 わくわくの世界が“わたし”達を待っている!

 

「ごめんなさい、エニルさん、お待たせしちゃって!」

 

 広い空間に、ロウジの声が吸い込まれていく。

 ここはロウジのガンプラハンガー、水星の魔女で見たアスティカシア学園の景色が辺りには広がる。

 また新しいカラッポのMSハンガーが3機分、1機分だけMSハンガーが埋まっており、そこには整備、移動に使う巨大なMSコンテナが置かれている。中身は見えない。

 MS周りの設備の綺麗さとは対象的に、やたら高い天井や横の壁はやや薄汚れており、貼られた手書きの注意事項マニュアルは黄ばんでテープがはがれかけている。そんなところはまるでリアルの体育館みたいだ。

 

「セセリアが、“エニルさん紹介して!”ってうるさくって……」

「今日は、課題キチンと終わらせてきたんだね」

 

 巨大なMSコンテナの足元にロウジはエニルといた。

 恥ずかしそうにうつむき、ロウジは遅刻した理由を釈明する。

 エニルの優しい微笑みが逆にいたたまれない。

 

「あはは……お察しの通りです」

「えらいぞ。リアルあっての充実したガンプラライフだからね。

 それで、肝心の当人の姿が見えないようだが……」

 

 セセリアと二人協力して、リアルミッションは終わらせてきた。

 リアルミッション報酬の受領……セセリアのダイバーギア返却も、つつがなく終わるはずだ。

 

「そろそろ、ログインしてくるはずなんですけど……」

「ごめぇん、ロウジ、お待たせ!」

 

 ロウジの背後のゲートから明るく、軽い謝罪の声が響き、こちらに駆け寄る軽やかな足音が聞こえる。

 振り返り、セセリアの姿を確認する。小走りのセセリアがそのまま勢いよくロウジの前へと滑り込んできた。

 

「はっじめましてー! ジェガン乗りのおねーさんだよね?」

 

 セセリアが胸をはり、エニルを挑戦的に見上げる。

 ロウジは慌ててセセリアの腕の裾を掴み、その横へと並ぶ。

 

「エニルさん。この子が僕の友達の、セセリアです」

「はじめまして、セセリア。

 エニル・エルだ。君のことはロウジから良く聞かせてもらっているよ」

「こちらこそ、うちのロウジがこの前は大変お世話になりました!」

 

 何だかとても語調が強い。

 お願いだからエニルさんに失礼なことしないでよね、セセリア……

 ロウジははらはらしながら心の中で祈った。

 

「うわ、おっぱいでっか!」

「セセリア!?」

 

 祈りも虚しく、特大の失礼が飛び出す。

 エニルを指差すセセリアの腕をはたき落とし、ロウジはセセリアに頭を下げさせようと後頭部をひっぱたく。

 

「見てほら、ロウジ。ボクよりでっかい!」

「セセリアー!?」

 

 セセリアがするりと逃げ、エニルの横に並んでポーズを取ってみせる。

 ロウジは悲鳴をあげ、セセリアの腕をひっつかむ。

 

「ごめんなさいエニルさんこの子ホントバカなんです!」

「なんだよロウジ。

 キミだって好きでしょ、おっきいおっぱい」

「……セセリア!?」

 

『セセリア・ドートがガンプラハンガーから退出しました』

 

 そろそろロウジも色々限界だった。

 いたずら笑顔のセセリアが、ロウジの視界からかき消えた。

 ロウジは勢いよく出禁コマンドを押し、肩を落として荒い息で呼吸を繰り返す。

 

「……ロウジ、アタシは気にしていないよ。

 セセリアは、大切な友達なんだろう?」

 

 エニルの優しい声が、まるで女神さまのようだった。

 涙でにじみそうな視界でエニルの方を振り仰ぐ。

 

「エニルさん、ほんとのほんとにごめんなさい!

 あと十五分ください。あのバカ、リアルでシメます」

 

 ”わたし”はエニルさんの大人の余裕と優しさに甘えている。

 遅刻した挙句にあと十五分。とんでもなく失礼な事を言っている自覚がロウジにもある。

 それでも、大切なものは譲れなかった。

 

「僕も、紹介したいんです。

 僕の自慢のガンプラと、僕の自慢の友達を」

「焦らず、ゆっくりな?

 アタシの気持ちより、キミとあの子の関係の方がよっぽど大切なのだから」

「……ありがとうございます!」 

 

 もう一度深々と頭を下げ、ロウジは離席マークを点灯させた。

 ギアバイザーを外し、近くに置いた携帯電話に手を伸ばし、大きく息を吸い込む。

 ”わたし”の大切な、けれど時々バカでガキで、デリカシーがない友達へ、怒涛のお説教が始まったのである。

 

 

 

 

 大型クレーンに接続された昇降ゴンドラが、ゆっくりゆっくり上がってゆく。

 ゴンドラに横並び、ロウジを真ん中、左にエニル、右に再入場を許されたセセリアが立つ。

 床から15mほどの高さにまで上がり、ゴンドラがゆっくり止まる。

 大型のMSコンテナの高さからして、ガンプラの胸元、コクピット位置ぐらいの高さだ。

 ここならガンプラを横から存分に見渡せる。これがロウジの考えるベストポジションである。

 

「さあ、学級会は終わりだ!

 キミのガンプラを見せてくれ、ロウジ」

 

 先ほどまでの暗い空気を振り払うように、エニルのクールな声が響く。

 セセリアへのお説教とエニルへの謝罪、本当に無駄な時間を使ってしまった。

 かかった時間と尽くした言葉の数、正直考えたくもない。

 

「さあ、行きますよ、エニルさん!」

「見せてやろう、ロウジ。キミとボクで作ったガンプラをね!」

 

 横のセセリアへうなずき、ロウジは努めて声を張り上げる。

 エニルさん、貴重なお時間を奪ってしまい、本当に申し訳ありませんでした。

 ロウジは心の中でだけでエニルにもう一度頭を下げた。

 優しいエニルは快く謝罪を受け入れてくれたのだから、

 もう自分が暗い気持ちを引きずる訳にはいかない。

 

「「フィックス・リリース!」」

 

 声を揃えて、水星の魔女の決闘委員会ポーズ。

 圧縮空気の漏れる音が響き、MSコンテナが上部から左右に割れる。

 ロウジのガンプラが、ゆっくりと全貌を現す。

 丸っこい頭部にバイザー型のカメラアイ、ジェガンを彷彿とさせるシンプルな肩アーマーにフロントスカート、丸っこい腕部に、頑丈さを重視した三本指のマニピュレーター、

 いかにも量産機然と言ったフォルムに、エニルが好ましげに口元を歪める。

 

「ほう、これは……いい趣味だな、ロウジ」

「ふふ。ロウジ、このコにひとめぼれだったよね。

 そういう直感、すごく大事」

「はい。見ての通り、我らがブリオン社の誇るベストセラー機です!」

 

 MSJ-121 デミトレーナー 水星の魔女に登場する訓練向きとされるモブ用の量産機である。

 ガンプラとしても複数のハードポイント、HGながら肘、肩、前腕部、脚部、膝など、多数の可動部を持つ。

 

「塗りとか細かい技法は、ボクの指導だよ。

 でも、センスに関しては全部ロウジ。そこは、絶対譲んないもんね」

 

 得意げに胸を張るセセリアのしなやかな指を、ロウジは感謝を込めてそっと握る。

 このデミトレーナーは素組ではなく、約束通り、ロウジの思いの丈を込めてカスタムされている。

 武器と全身の装甲はピンクを基調とした色に塗り、膝、肩、背面バックパック各部、そして何より武器と盾には手芸用のビーズがちりばめられ、きらきらと輝いている。

 ロウジはエニルに向き直り、胸を張って告げる。

 

「名付けて……MSJ-121D デコトレーナーです!」

「ふふ。実に、これは……かわいいな」

 

 つぶさにガンプラを観察するエニルが、口元を少女のようにほころばせた。

 

「このデコトレーナーは、アスティカシア高等専門学園での様々な経験を経たロウジが、

 グエルさんと共に働くセセリアをサポートするため、自分用にカスタムした機体です。

 主な運用目的は、ブリオン社が行う様々なイベント運営に登場し、自社宣伝を行うことです!

 もちろん、有事にはビームガンやシールド、サーベルスティックを使用し、自衛も可能ですよ」

 

 高揚した気持ちのまま、ロウジはたっぷり考えた設定をエニルに叩きつける。

 こだわりの設定、そしてこだわりの色合いと装飾。正真正銘、ロウジの全力である。

 

「……どうですか、エニルさん?」

 

 全力は出した。恥じらいも悔いもない。

 プロの審査員の採点を待つ素人の面もちで、ロウジはエニルの返事を待つ。

 

「全体的に見て、塗りや改造の技法はもちろん未熟なところがいくつか見受けられる。

 だが、面倒なゲート処理をきちんと行い、限られた時間と技術でベストを尽くしたことが感じられる」

 

 厳正な審査員の顔で語り出したエニルの顔が、優しい大人のお姉さんへとゆっくり変わる。

 

「そして、素敵な設定だな。

 設定をガンプラに落とし込もうと、色々苦心したようだね。

 ロウジの”好き”がたっぷり詰まったガンプラ、アタシも好きだよ」

 

 優しい言葉が、過去のトラウマと緊張でこわばるロウジの心をゆっくりと解きほぐす。

 自然と、笑顔がこぼれ出た。ロウジは勢いよく頭を下げ、叫ぶ。

 

「……ありがとうございます!」

「こちらこそ、素敵なガンプラを見せてくれてありがとう」

「ふっふー。エニルおねーさん、見る目あるよ。

 デコトレのこと、シショーも褒めてたもん」

 

 セセリアもロウジの頭を乱暴に撫でまわし、得意げに言う。

 ロウジは満面の笑顔でセセリアに抱き着き、首を傾げたエニルに説明する。

 

「師匠?」

「あ。僕のパパです。

 セセリア、ガンプラ作成でパパの弟子なんですよ」

 

 自称だけど。と、心の中で呟き、ロウジは安堵に大きく息を吐き出した。

 やっぱり、ガンプラは楽しい。

 10年前から心に抱えた傷がほぐれ、”好き”と”楽しい”が心をたっぷりと満たしていく。

 

「まったくこれは見事だ。個性があって実にいい。

 ……だが、少しまずいな」

「どこがまずいんでしょう。すぐ、直します!」

 

 セセリアから手を離し、ロウジは慌ててエニルに向き直った。

 

「いや違う。ガンプラの出来の事ではないんだ。

 少し長くなる。ロウジ、ゴンドラを下ろしてくれ。座って話そう」

 

 クールな顔でエニルがロウジの誤解を解いてくれた。

 言われるがままにゴンドラをガンプラハンガーの地面におろし、ロウジはセセリアと並び、エニルに向かい合う。

 

「こう言うバトルの強さ以外に特化したガンプラ、ファンプラを狙うダイバーが今、出没していてね」

 

 お説教タイムでお待たせした間に色々と調べてくれていたのだろうか。

 エニルの指がすばやくサブウィンドウを呼び出し、異形のZガンダムとダイバーネームを見せてくれる。

 手短で要点をまとめたエニルの説明を、ロウジは首をかしげて聞いていた。

 

「通称、スカーフェイスのZ。

 ダイバーネームはマフティー・ナビーユ・エリン」

「マフティーってアレだよね?

 カボチャかぶって踊る変な人」

「違うよほら、ゲームでよく見る空飛ぶカッコいいガンダムで粛清するって叫ぶボスキャラ」

「……うん、まぁ、詳しくは本編を見てあげてくれ」

 

 ちなみにセセリアはカボチャのダンスを完コピできる。

 運動神経抜群で、実にうらやましい。

 

「こいつに遭遇したら気をつけろ。

 戦闘放棄して離脱しても構わない」

「……えっと。エニルさん。

 僕、多分遭遇しました。動画もあります」

 

 困惑顔のまま、ロウジはおずおずと挙手する。

 

「……何っ!?」

「ちょ、なにそれボク初耳!」

 

 エニルが珍しくクール顔を崩し、セセリアが色めき立つ。

 

「ハロ! 動画再生よろしく」

 

 ロウジはテーブルの上へミッション報酬のハロを呼び出し、サブウィンドウから動画を再生する。

 ハロの目が光り、ハンガーの壁をモニター代わりに数日前のガンプラバトル動画を投影し始めた。

 何がまずいのか、さっぱりわからない。

 流れ出した動画を眺めながら、ロウジはずっと困惑顔のままだった。

 

●読み飛ばしても構わない巻末プチ解説

 

・ロウジのハロ(ミッション報酬)

 水星の魔女でロウジがいつも抱えていたハロであり、

 ロウジがセセリアと一緒に水星の魔女ミッションで取得したものだ。

 ハロとは初代ガンダムから続く高性能ペットロボットだが、今回使用したものは機能が限定されている。

 ガンプラハンガーやマイハウス、フォースネストに設置できる家具オブジェクトの一種であり、

 今回使用されたハロは動画を壁に投影し、皆で見る事の出来る映写機である。

 ちなみに、アバターなしでGBNに接続した場合は各種カラーのハロを選んで遊ぶことも可能だ。

 他にも空気清浄機能、てやんでい機能、トマトの遺伝子分析機能、人類抹殺機能を備えた多種多様なハロがGBNには用意されている。

 ミッション報酬、GBN通貨購入、リアルマネー投入などで目指せハロマスター!

 

 

 

 

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