リアルではモブなわたしは、GBNでずっと暮らしたい。   作:ゼラチナマスター

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ミッション2-3 敵を知り、己を知ろう。

 ピンク色のビーム弾幕が頭部へ着弾し、CPUドートレスの最後の一機が爆散した。

 ロウジはダイバーギアを握りしめたまま、厳しい眼差しでモニターを見つめる。

 

『Battle ended WINNER!……ロウジ!』

 

 システムメッセージの祝福が流れても、ロウジは愛機のコクピットで難しい顔を崩さない。

 ここはGBNのバトルフィールド、勝手しったるグランドキャニオン(AW)である。

 

「足裏のローラーのお陰で小回りは効くけど、空中でのブースト持続がてんでダメだ。

 装甲もシールドなしじゃCPU弾すら怖いし、ビームガンは連射性だけで火力不足」

 

 自作ガンプラで記録した戦闘結果を見ながら、ロウジは一つずつ不満点を述べていく。

 ひとまず完成したばかりの自作ガンプラ、デコトレーナーの試運転だった。

 同じ難易度、同じ相手を、と選んでミッションを選択し、CPU戦に挑み、その結果がこのぼやきである。

 同じミッションで使わせてもらったエニルのジェガン・Cとは比べ物にならない。

 

「サーベルスティックは威力だけなら及第点。モーションが遅いし全然誘導しない。

 これ、モーションパターン学習させないと実戦じゃ使い物なんないや……」

 

 火器はCPUすら数発叩き込んでようやく撃破出来るレベル。

 警棒ぐらいの長さの白兵武装はデフォルトそのままの格闘モーションで、

 威力こそ敵機を一撃だったが、リーチが短く判定も激弱だ。

 ドムの突きや振り下ろしの優秀さがとても良く判る。

 

「やっぱりエニルさんもセセリアも、すごいんだな、ガンプラ作り」

 

 痛感した腕の差を、ロウジはため息と共に吐き出す。

 問題は機体コンセプトではない。ガンプラの完成度の差だ。

 それが判っただけでも試運転した甲斐があった。

 ロウジは気持ちを切り替え、ダイバーギアの操縦桿を握り、モニターへと目線を戻す。

 腕が反射で動いたのは、多分奇跡的だったろう。

 

「……ぇ、うわっ!?」

 

 ロックオンアラートと同時に景色が横に流れる。

 回避機動のデコトレーナーの真横を、図太いメガ粒子の帯がかすめていった。

 

『敵機が接近しています。注意してください!』

 

 NPCオペレーターの警告音声が遅れて響いていく。

 全身から一気に血の気が引く。完璧な奇襲だ。レーダー範囲外の超長距離からの狙撃。

 ローラーダッシュで遮蔽物の陰に飛び込み、モニターの敵影を拡大する。

 

「ウェイブライダー? それもハイメガタイプ!」

 

 家のゲームで飽きるほど見た機影だ。

 その機影がぐんぐん迫り、あっという間に上空を通り越し、急旋回する。

 遮蔽はもはや盾ではなく、退路を断つ死地だ。

 

「こいつ、違うぞ! エゥティタよりずっとすごい!」

 

 慌てて遮蔽物を飛び出すデコトレーナーの後ろでメガランチャーの光が炸裂する。

 Ζガンダムが最高コスト、最高性能だったゲームと比べてさえ、明らかに高性能だ。

 この相手、ぜったいめちゃめちゃ強い!

 引いた血の気が戻り、ぐつぐつとロウジの背骨辺りで沸騰する。

 ウェイブライダーは真下が死角のはず!

 モニターを上向け、真上のウェイブライダーを捉えロックオン。ウェポントリガーを引き絞る。

 右手のビームガンから、決闘用ビームの弾幕が軽い音で吐き出される。

 だが、ロックオンカーソルが嘘をついたかのように、弾幕はウェイブライダーの後ろへそれていく。

 

「……うっそでしょ!?

 オート照準の想定をはるかに超えた速度ってこと?」

 

 次弾を狙う前にウェイブライダーがビームの射程外へと逃げていく。

 射程をはかったかのようにウェイブライダーが悠然と旋回、低空へ降りたウェイブライダーのハイパーメガランチャーがモニターの真正面。砲口が輝く!

 

「当ててやるっ!」

 

 シールドを構え、相打ち覚悟のビームガン。凄まじい衝撃が受け止めたシールドから走り、警告音がコクピットを埋め尽くす。

 幾つか当たったはずのピンクのビームを無視し、真正面からウェイブライダーが突っこんでくる。

 必死にひねった操縦桿で、ローラーダッシュがデコトレーナーをスライドさせた。

 轟音と共に低空、真横をウェイブライダーが抜けていく。

 

「うっわあ!?」

 

 一気に血の気が引いていく。体当たりも辞さない動きだ。よほどの自信があるのか。

 背面のブースター目掛けて放った弾幕を、ウェイブライダーは急上昇で難なく避けてみせる。

 まるで勝負にならない。シールドの半壊警告を横目に、ロウジはモニターを必死ににらむ。

 急上昇したウェイブライダーが、紫色に輝く。

 トリガーに手をかけたまま思わず見入ったロウジの視界で、ウェイブライダーが青空をバックに人型へとトランスフォーム。

 第一印象は、青空よりも蒼く、鋭いフォルムのガンプラだった。

 

「……異形の、Zガンダム」

 

 くしくも、その呟きはエニル達と同じ表現だった。

 その姿に、ロウジは思わず見とれた。

 頭部の角が欠け、右のデュアルアイをえぐり取られたその相貌は鬼気迫るものを感じる。

 ハイパーメガランチャーを構え、上空から傲然とデコトレーナーを見下ろす姿は、まるで死神だった。

 

「なんて奇麗なガンプラ……」

「なんて醜いガンプラだ……」

 

 サウンドオンリーの通信呟きは、ロウジと相手、正反対だった。

 動きも、同時。デコトレーナーの右腕ビームガンと、Zの左腕が相手を狙い定める。

 放たれたビームとグレネードが交錯し、Zが重力に従って急降下。グレネードが中空で炸裂し、モニターが爆炎で埋まる。

 

「……シールドで、相打ちなら!」

 

 見えないモニターの中、自由落下で迫るZを捉えようと真正面にシールドとビームガンを構える。

 だが、爆炎晴れたモニターに、Zはいない。

 

「……どこ、へっ!?」

 

 凄まじい衝撃と共に、モニター画面が激しく揺れる。衝突警告、転倒警告。

 至近距離に突き付けられた銃口が、後部サブモニターで黒光りする。

 

「貴様のガンプラが犯した過ちは、マフティーが粛清する!」

「うわあああああああ!?」

 

 ビームの閃光と共に、モニターがブラックアウトする。

 まるで全身を焼かれたように感じて、ロウジは声も限りに叫び続けたのだった。

 

 

 

 

「これが、1回目の遭遇の記録です。うん、やっぱり完敗ですね」

「……なるほど、異形のZにこの腕前、噂のマフティーに間違いないな」

 

 ハロが投影した動画の記録を見せ終わり、ロウジとエニルが冷静に言葉を交わす。

 セセリアは無言のまま、ひそかに拳を握り締めた。

 初撃墜だったのだろう。ロウジの最後の叫びがセセリアの耳から離れない。

 

「エニルさん。このトドメさされたところ、意見を聞かせて欲しいんですけど」

「大体推測はつくが……グレネードが誘爆する直前からスローで見せてくれ」

 

 ロウジがハロに命じて動画を巻き戻し、勝負を決めた爆炎のシーンをスロー再生する。

 

「……最後の瞬間。Zが自由落下と見せかけて、スラスターを吹かして切り返しているな

 空中機動でデコトレーナーの裏をとり、後頭部にハイメガの銃身を叩きつけたようだ」

「……うわあ、まんまとフェイントに引っかかったって訳ですか」

 確かに、あの機動力なら十分あり得ます」

「ちょー待って、もう一度ボクにもスロー!」

 

 解説を聞いた後、もう一度セセリアは再生してもらう。

 爆炎にまぎれてかすかなスラスターが光、画面端のレーダーの光点が鋭い軌道を描く。

 セセリアは敵機の動きに思わず舌を巻いた。

 真正面からと見せて、裏を取られた。

 いい腕だ。そして良い性能だ。

 でも、だったらそれこそ、どうしてこんなこと!

 セセリアはZドライバーに心の中で毒づく。

 

「それで、これが次の日、2回目の遭遇ですね」

「……2回目!?」

 

 何気ない様子で、ロウジが次の動画をハロに再生させる。

 セセリアは食い入るようにその動画に見入った。

 展開はほぼ同じだった、ミッション中に乱入され、どうしようもない機動力の差で翻弄され、

 シールドが耐え切れなくなったところをデコトレーナーが真正面からぶち抜かれる。

 

「それで、次が金曜日の3回目。この日は乱入がなかったから、探して僕から乱入しました」

「えらいロウジ。向こうが売ってきたケンカだもんね」

 

 次の動画ではロウジはシールドを強化したらしく、見栄えと性能が明らかに上がっていた。ウェイブライダーから、Zガンダムから、ロウジは避けきれない攻撃を角度を合わせ、シールドでハイメガをしっかり受け止めていた。シールドは耐えていたが、人型に変形したZに強引に距離を詰められ、白兵でシールドをねじ伏せられ、空いた胴にハイメガをねじ込まれ、ジ・エンド。

 

「……Zの動きには、ついていけるようになってるじゃん」

「続いて4回目。撃墜後のクールタイム挟んでもう一度、マフティーさん探しました。

 乱入してるのを運よく見つけられたので、こっちから挑みました」

「……4回、目だと?」

 

 呟くエニルが、ちょっと呆然とした顔の気がした。

 セセリアと言えば、腕組みしてじっと動画を睨んでいた。

 おそらくロウジは、ビームガンが有効打にならないため、サーベルスティックを本命で戦闘を組み立てたようだった。

 盾の裏でビームガンを捨てて一突き。セセリアも思わず拳を握ったが、まるでスティックのリーチが足りず、デコトレーナーは無惨に蹴り飛ばされ、ハイメガを喰らって乙。

 

「いやあ、強かったです、マフティー。完敗ですね」

「強い? 違うよ、こーゆーのは卑怯って言うんだよ、ロウジ!!」

 

 のんびり呟くロウジの肩を握り締め、セセリアは叫んだ。

 悔しかった。ロウジが懸命に組んだガンプラを罵倒されたことが。ロウジが弱いと貶められたことが。

 ホントのロウジはもっともっと強い。セセリアの心がそう叫ぶ。

 

「作り立てのガンプラ、不慣れな機体、それを狩って強さを誇る。

 雑魚狩り専のイキりダイバーじゃんか!」

「違うよ、セセリア。この人、ほんとに強いんだ。

それに、PVPフリーのエリアで乱入だよ。何も悪いことじゃない」

 

 ロウジはあくまで冷静に返す。

 セセリアはじれったそうにロウジの手を掴み、ぐいと引く。

 

「ロウジ、今すぐリベンジいこ!

 ルブリス・ジェミニ貸すから。

 いや、ボクがサブで補助するから!」

「セセリア、それじゃ意味がないんだ」

「どーしてさ! キミとボクのルブリス・ジェミニならどんな奴にだって負けるもんか!」

 

 けれど、ロウジが動かない。

 混乱するセセリアの前で、ロウジがゆっくりと笑みを浮かべた。

 

「セセリア、今週ほんと、僕につきっきりだったよね。

 ガンプラ選び、組み立て技術の指導、塗料のレンタル、パラメータ設定の相談……

 キミが遊ぶための時間も、勉強するための時間も、貴重な時間のほとんどを僕のために使ってくれた」

 

 とてもとても静かな言葉と、静かな笑顔。

 セセリアは、自分の誤解を悟った。

 

「マフティーはね。言ったんだ。

 “貴様のガンプラは過ちを犯した”って」

 

 ロウジの目、まったく笑ってない。

 セセリアは思わず息を呑む。 

 ロウジがセセリアの手を握り返し、声のトーンをあげた。

 

「マフティーが否定したんだ、セセリアの費やしてくれた時間を、優しさを。

 ……僕が弱かったせいで!

 だから、GBNで証明するんだ、このデコトレーナーで!」

 

 言葉の熱が、まるてアバターの掌越しに伝わってくるかのようだ。

 こうなったロウジは、絶対に譲らない。

 なら、セセリアのすることは決まっている。 

 

「ごめんロウジ、ボクが間違ってた。

 時間も気持ちもいくらでも貸すよ。

 勝とう。キミとボクのデコトレーナーで!」

 

 セセリアはロウジの手を両手で握り締め、決意を込めて笑みを返す。

 セセリアだって知っている。

 ロウジの十年分だ。 

 デコトレーナーには、ロウジの想いがたっぷり込められている。

 

「ありがと、セセリア!

 ……やるだけやるよ。勝てなかったら」

「まぁた予防線張るぅ!」

 

 ロウジの笑顔がほぐれ、少し後ろめたそうな、恥ずかしそうな照れ笑いに変わる。

 セセリアは笑いながらロウジのぼさぼさ髪を指5本で掻き回す。

 嫌がっても掻き回す。だってそんないつものロウジが大好きだから。

 ロウジの髪を巡る攻防が3巡ほどしたあたりだった。

 静かな拍手の音に手を止め、目を向ける。

 おっぱいおーきなおねーさ……エニルがクールにセセリアとロウジを見ていた。

 

「ロウジ、セセリア。二人の決意を尊重しよう。

 だが、敢えて言おう。ガンプラの性能差は大きいぞ?」

「エニルさん。ガンプラの完成度が足りないのも、組み方の方向性が戦闘向きじゃないのも百も承知です。

 それでも僕は……このガンプラで勝ちたいんです!」

 

 セセリアがエニルに食って掛かる前に、ロウジが言い切った。

 エニルがクールな顔を崩し、悪戯っぽく笑い、手を差し出してくる。

 あ、わざと言ったのか。セセリアは遅れてエニルの意図に気付いた。

 

「ならば、それを踏まえた上で作戦会議だ。

 見せてやれ、キミのガンプラへの想いは“過ち”などではないと」

「よろしくお願いします!」「しまーす」 

 

 エニルの掌にロウジとセセリアの掌が重なり合う。

 悪戯小僧の顔が3つ揃って笑い合う。

 あーあ、今日は久々にバトルのつもりだったのに。

 セセリアは心の中だけで小さくぼやく。

 

「では、改善案を出していこう。

 それに優先順位をつけ、整理する」

「まず、火力があっとーてきに足りてないね!」

「白兵のリーチとモーションが酷すぎて戦力外でした」

 

 けれど、楽しそうなロウジの前では小さなことだ。

 不満など、あっという間に吹き飛ばされていく。

 

「少なくとも牽制の意味があるレベルの火器が欲しいな……」

「でもロウジの強みは白兵だよね。長物が欲しい」

 

 勝とうね、ロウジ!

 セセリアは一人静かに拳を握り締めるのだった。

 

●読み飛ばしても構わない巻末プチ解説

 

・エゥティタ

 正式名称、エゥーゴvsティターンズ。

 ロウジが産まれる前のアーケードゲームだが、その家庭用ゲームバージョンをロウジはだいぶやり込んでいる。

 このゲームのハイメガ装備Ζガンダムは機動力と火力がひたすら強く、特に低コストや初心者狩りで大暴れした印象が強い。

 家庭用はガンダムvsΖガンダムだが、多分ソフトの持ち主がエゥティタと呼んでいたためそう覚えたのだろう。

 ロウジの初代やΖなどの知識は原作ではなくこういうゲームで得たためかなり偏っている。

 クランプなんて“ジオンの顔が濃い人”レベルの認識である。頑張れクランプ!

 

 

 

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