リアルではモブなわたしは、GBNでずっと暮らしたい。 作:ゼラチナマスター
数学、国語、英語。
つまらない日常の、つまらないミッション。
終わらせたところで報酬もなく、経験値もほんのわずか。
学校の宿題を終わらせ、机に座ったまま深呼吸して大きく伸びを一つ。
明日も代わり映えのないミッション。
明日を何度か繰り返したら試験って言うボスミッション。
現実って、どうしてこうつまんないんだろう。
そんな毎日を何か変えたくて、
きっと”わたし”は友達の誘いに乗ったんだと思う。
時計を見たら、友達との約束の時間はもうすぐだった。
参考書と辞書を片付けて、椅子を踏み台にクローゼットの上へと手を伸ばす。
積もった埃を払いのけ、取り出したたくさんの機器を勉強机にセッティング。
椅子に深く腰掛け、ヘッドセットとバイザーを装着し、手探りで機器を起動する。
起動音声とガイダンスが流れ始め、静かなBGMが意識を埋め尽くす。
ガイダンスに従って、慣れない操作にもたもたしながら選択していく。
友達を待たせたくないから、昨日のうちに準備はしておいた。
「……はじめまして、”わたし”」
悩んで悩んで作った、”わたし”を選んで、ボタンを押す。
涼やかな音楽と共に、視界を景色が流れていく。
VRの世界へ、フルダイブ。
胸が高鳴る。
ここはもう、つまんない現実の私の部屋なんかじゃない。
目の前に広がる宇宙と、星々と……スペースコロニー。
『ガンプラバトルネクサスオンライン へようこそ!』
機械音声に歓迎され、初めてのGBNが幕を開けたのだった。
『マナー違反にアクシズ落とし! 抱け、心の南極条約!』
「ひやっ!?」
いきなり流れてきたクールな音声と、
濃いマッチョな男性がど真ん中に陣取るサブウィンドウに、
思わず情けない悲鳴を上げてしまう。
たぶん、ログイン直後の文字列と情報量に圧倒され、
うっかりG-Tuberの宣伝コメントをクリックしてしまったらしかった。
あわあわしながらウィンドウを閉じ、
口元を抑えてぺこぺこ頭を下げながら隅っこに引っ込む。
幸い、周りから妙なものを見るような視線なんかは飛んでこなかった。
「ここが、GBNのメインロビー……」
たぶん、スペースコロニーの宇宙港、って言う設定なんだろう。
都会の大空港を思い出させる明るく天井の高い空間に、
様々な電光掲示板や大きなモニターが映っている。
”わたし”の知らないカラフルなアニメ調の人たちや、
”わたし”がどこかで見た事あるアニメ顔の人たちが、
どこを見回しても、いっぱいいた。
彼らは、彼女は、互いに談笑しながら、
もしくは吊られた大モニターや手元のサブウィンドウを見ながら、
とても楽しげに、何か言葉を発している。
そんな景色と、他のプレイヤー……”ダイバー”の人たちの姿を見て、
”わたし”はただ、情報量にあっぷあっぷ。
物陰から顔だけのぞかせ、落ち着かなげに顔と目だけ動かす。
まるで、都会に出て来たばかりのおのぼりさん。
冷静に考えてみれば、この時のわたしの姿はとてもみっともなかったと思う。
そういえば。今の”わたし”の姿、”わたし”の”ダイバー”としてのアバターは。
灰色がかったぼさぼさの髪と、内気そうな顔立ち。
小柄な体をアスティカシア学園の制服に身を包んでいる。
ロウジ・チャンテ。水星の魔女の、ロウジくんのアバターを借りている。
昨夜さんざんにアバターに悩んで、この子の姿を借りた。
内気で、引っ込み思案なのがとても共感できる庫だった。
鋭い観察眼まで真似出来る気は、とてもしないけれど。
”わたし”……ロウジは、すっごく不安げだった。
でもそりゃあ仕方ないだろう。初めてで右も左も判らない。
何が欲しい情報で、何をすればいいかもわからない。
判らないことを誰に聞いたらいいかもわからない、ときたもんだ。
でも、ロウジには、とっても頼れる友達がいる。
セセリア・ドーテ。水星の魔女のセセリア。
正確には、そのアバターを使った私のとっても頼もしいお友達だ。
セセリアはこのGBNの事も良く知っている。
さて、そのセセリアはどこだろう。約束の時間はそろそろのはずなんだけど。
まさにそのタイミングで、画面端でメッセージがポップアップした。
『セセリア・ドーテからメッセージの着信があります(1)』
いっぱい着信した運営からの未読メールに被弾しないよう、
セセリアのメッセージを選ぶと、ボイスがいきなり流れ出した。
「ごっめーん、ロウジ! 今日ボク無理かも!
ママに英語の長文和訳の課題が見つかっちゃって」
アニメでよく聞いたセセリアのCVで、お友達のメールが再生されていく。
「課題終わるまでってダイバーギア没収されちゃった!
なるはやで急ぐから、悪いけど、終わるまで一人で楽しんどいて!」
なるほど、長文和訳の課題。あれはとても難しかった。
セセリアの英語苦手っぷりからして、たぶん夕方までかかるだろう。
つまりそれまで、頼れるセセリアなしでロウジは何とかしないといけないわけで。
「いよっし! 全員揃ったな!」
「今日こそ難関ミッションクリアするよー!」
「AVALON主催のビッグイベントの観戦もある。そこまでに終わらせるぞ!」
元気な声をあげて、ダイバーさん達の一団がロウジの横を駆け抜けていく。
その陽キャオーラがあまりにまぶしくて、ロウジは慌てて物陰に飛び込んだ。
「一人で、楽しんで……?」
喉がからっからになった気がする。
心臓の鼓動が、めっちゃ聞こえてくる。
見回す。
辺りを見回す。
知った顔のキャラの姿をした、知らないダイバーさん達で、
どこもかしこもいっぱいだった。
その中で、内気なロウジが一人で楽しむなんて。
「……無理!」
否定の言葉ばっかり、力強く。
ミッションに挑んだばかりなのに、ロウジの心はもう撃墜寸前だった。
●読み飛ばしても構わない巻末プチ解説
・ガンプラバトルネクサスオンラインとアバターについて
ガンダムビルドダイバーズシリーズ並びにビルドメタバースに登場する架空のゲーム。
ガンプラを読み取り、愛機として使用できる。
また、プレイヤーは自分の分身であるアバターを使い、プレイする。
アバターは非常に自由度が高く、ケモ耳や獣人など非常に多彩。
原作ではアバターはオリジナルを使用するキャラばかりで、原作キャラはごく少数だが、
この作品は表現力の都合により、登場人物は全員、原作キャラの姿と名前を使用する。
・ロビー
ダイバー達が集まる非戦闘エリア。
ロウジ達がいるのはミッション中のPVP可能エリアだが、
ロビーはガンプラ搭乗不可で、もちろんダイバー同士の生身PVPは不可なので平和。
コミュ力の強いダイバーは、周辺チャットなどで人を募って難関ミッションへ行ったりするが、
ロウジのようなタイプは募集掲示板などを使うのが恐らく基本。