リアルではモブなわたしは、GBNでずっと暮らしたい。 作:ゼラチナマスター
「異形のΖ、既に遭遇済だったんですか!?」
「ああ。ロウジのガンプラがよほど趣味にあわなかったようでね。
複数回襲われたらしい。残念ながら勝利には恵まれなかったらしいが」
現実はいつも想像をあっさりと越えてくる。
そんな言葉が思わずクランプの脳裏をよぎった。
腕組みしてうなるクランプの目の前には、エニルのクールなバストアップ画像がウィンドウに映っている。
GBNでダイバーが使用できる動画通話機能だ。表情が判るのは何かと便利なのである。
「それで、ロウジ君は大丈夫でしたか……?」
「むしろ、自分のガンプラで勝ちたいと意気軒昂だよ。
自分からマフティーを探し、一度自分から乱入もしたらしい。
今はフレンドと勝利のために作戦会議中だ」
「なるほど、むしろリベンジに燃えているんですね」
クランプは南国風のビーチハウスに設置されたおしゃれ椅子の背に体重を預け、アバターの額に浮かんだ汗をハンカチでぬぐう。
クランプは自分の思い込みと過保護を恥じた。
確かに思い返せば、ロウジは大人しく繊細そうな顔立ちに、しっかりした芯を秘めているようだった。
「かなり厳しい目標だが、かなうならロウジを勝たせてやりたい。
アタシはそう思っている」
「そうですね。当事者同士で決着をつけるのが一番いい。
たとえ勝利に届かないとしても、ロウジ君の心がきっちり整理出来るよう……」
通信越しのエニルに、クランプは穏やかに頷いてみせる。
ロウジが初心者とは言え、バトルの敗北の悔しさは自分で晴らしたいだろう。
「情報提供を約束しておいてすまないな、クランプ大尉」
「リベンジの順番を、ロウジ君へ先に譲るだけです。
知人のアッガイ達の無念、彼に託しますよ」
謝意を示すエニルに笑顔を見せ、通信ウィンドウを閉じる。
クランプは素早く椅子を引き、テーブルの向こうで通信を傍聴していた相手へ向き直った。
小柄な相手は不敵にクランプへと笑いかけてくる。
「ずいぶん面白そうな話になっているじゃないか。クランプ大尉
さきほどの彼女と、そのロウジ君がこの前言っていたダイバー達かね?」
「はい。その通りです、大佐。
……お聞きの通りです。私も件のZドライバーの件、ロウジ君にひとまず任せたいと思いますが」
「うむ、大尉の判断を尊重しよう。
キャプテンジオンへは私から伝えておくよ」
鷹揚に許してくれた相手へ、クランプは深々と頭を下げる。
さぁ、これからが大忙しだ。急な方針変更を知人たちに告げるため、クランプは慌ただしく通信を始めるのだった。
クランプとの通信を終え、エニルはロウジのガンプラハンガーへと戻る。
さて、ロウジとセセリアの作戦会議の方はと言うと。
「ううん……とにかく、全性能で負けてるんだよね。
一番問題なのはビームガンが牽制にならない事なんだけど……」
「くっ。ボクがお小遣いピンチで水星の魔女武器セット未入手でなければ……」
おのれベアッガイラテマキアート!」
案の定、煮詰まってしまったらしい。
ロウジが難しい顔でデータをこねくり回し、セセリアがテーブルに突っ伏して何やらわめいている。
休憩していいと言ったのに、二人で激論を交わしていたようだ。
「お疲れ、二人とも。
意見はだいたい出尽くしたようだな」
こちらに気付く様子もないロウジとセセリアの頭を軽く叩き、エニルは二人の苦労を労う。
ログを追い、改善点をピックアップしながらエニルは二人の苦労をねぎらう。
本当は飲み物でも差し入れてやりたいところだが、
残念ながらGBN内での水分栄養分の摂取は実用化されていない。
「出尽くしたってゆーか、どん詰まった?」
「……正直なところ、手持ちの手札とお小遣いじゃ、
どう強化してもたぶん届かないって結論が出たところですね」
まったくもって、仕方のない結論である。
どう考えてもこの二人、未成年の学生としか思えない。
予算もガンプラ作りの腕前も、一朝一夕で伸びるものではないのだ。
「アタシの見たところ、マフティーの駆るZガンダム、あれは準メイジン級の出来栄えだ」
「確かにいい出来だとは思いましたけど……メイジン・カワグチ並の工作精度って事ですか!?」
正確には現役メイジンには一歩劣るだろう。ただ、次代のメイジン候補として名が挙がるレベルではある。
自身もビルダーとして自信のあるエニルだからこそ、その腕前がはっきりと判る。
「頭部の破損もあり、人型モードでは遠距離射撃性能はだいぶ落ちているようだが、
機動性、装甲は動画で見た通り、非常に高ランクだ。
ガンプラの出来栄えは走攻守全てに影響を与える。普通のやり方で勝つのが難しいのは当然だ」
「にゅーん! ますます勝利が遠のいた気がするぅ!」
セセリアが机に突っ伏したまま、足を駄々っ子のように暴れさせる。
エニルはそんなのセセリアの横に座り、二人に出来るだけ優しく言葉を投げかける。
「正確な現状分析は、勝利と成長の第一歩だ。
……さ。ひとまず、いったん休憩してきたまえ」
「おっけー、ボク一抜け。自販機行ってくる。
ロウジもちゃんと水分とるんだよー」
「ありがとセセリア。そっちも無理しないでね」
離席表示を押したらしく、セセリアの姿が名札付きのハロに変わる。
パラメータを弄り回すロウジが、難しい顔で呟く。
「まず、敵に嫌がられる程度の火器が欲しいですね」
「そうだな、マフティーはキミの攻撃を恐れず飛び込んで来ている。相手の有利な間合いをとられ、必殺必中の攻撃をねじ込まれている。
ファンプラ相手の定石だな」
ロウジの呟きに、エニルも言葉を継ぎ足す。
強さを追求しないファンプラは、火器をデフォルトのままか、下手すると積んでいないこともあるのだ。
「エニルさんもマフティーみたいな戦いすることあるんですか?」
「今回と逆パターンもたまにあるのさ、ガチ機でソロでやってる最中、ファンプラ集団にノリで乱入されるとかね。
……迷惑行為に及ぶ者は、どんな層でもそどんな場所でも一定数はいるんだ」
出来るだけ平坦な言葉で、エニルはロウジに告げた。
バトル、それも対人バトルを扱う以上、避けられないことだ。
この話題は終わりだと手を振り、エニルはロウジに促す。
「話が逸れたな。
それで、火器の調達については目処がついたか?」
「ひとまず、手持ちの火器には装甲と同じビーズを加工してみます。ただ、その上でやはりもう一つ二つ必要で……」
言葉を丁寧に選び、ロウジがエニルを真正面から見てくる。
エニルは静かにその眼差しを受け止めた。
「セセリアとも相談しました。
その上で、エニルさん。
あなたのガンプラ商人としての腕を見込んでのお願いです。
デコトレーナー用の武器、何か良いものを調達してもらえませんか?
どんなものかは任せます。価格も言い値でいいです」
やはり、そう来たか。
予想していたロウジの提案に、エニルは口元に笑みを刻む。
どこでそんな言い方を覚えてきたのやら。
見据えるロウジの顔は真剣だった。
「言い値で買いますと来たか。悪い武器商人に投げて良い言葉じゃないぞ?」
「だって、結構な無茶じゃないですか。
僕のガンプラで使えて、僕のガンプラの調和を崩さず、可能なら僕のガンプラを勝利に導けるものが欲しいんです」
思った以上の無理難題だ。
心の中でだけため息をつき、エニルは二本立てた指をクールにロウジへ示してみせる。
「まず、条件が二つある。
必ずアタシは最善の武器を選び、舞台を整えよう。
一つ目は、それでなお届かない時は、今すぐのリベンジは諦め、地道に研鑽を積むこと」
「はい!」
困った時には力を借りる。それは正しい。
だがそれも度を過ぎれば、違法改造やブレイクデカールなどまで選択肢に入るようになる。それは言語道断だ。
「二つ目は……時間がいる。最低半日、出来れば一日。
さすがのガンプラ商人も、武装コンテナもなしに最適武器を召喚は出来ん」
「贅沢は言いません。作り置きした武器でもいいんですよ」
「そんな武器であのガンプラに勝てるか!
それに、アタシにもガンプラ商人としてのプライドがある」
贅沢言ってる自覚があるのかないのか。
エニルはキッドやアストナージではなく、AGEビルダーでもない。
無邪気に見上げるロウジの頭に手を置き、制する。
「作戦決行は明日日曜日。今日はこれから準備だ!
有志の集めた情報によれば、マフティーは平日夜の20時⁻21時、土日のお昼14時⁻16時が出没時間のようだ。
午前中までにアタシが最高の武装をプレゼントし、最終の作戦会議。午後にはいよいよリベンジする。
それで勝てなければ、すっぱり切り替えるように」
「はい!
じゃあ、今日はまずどうしたらいいですか?」
素直な返事が大変よろしい。
「……まずは小休止だ。
三十分後に再集合。具体的な行動はその時指示する」
「……はい。僕もおやつ食べてきます!」
にっこり笑うロウジの姿が離席の証、名札付きのハロに変わる。
一人残されたガンプラハンガーで、エニルは深々とため息をつく。
「あんな目をされては、な……」
こちらを見上げるロウジのきらきらした瞳を思い返し、エニルは困ったように笑う。
エニルならきっと何とかしてくれる。
ロウジの瞳がそう言っていた。
勝手に乗せられた信頼がずしりと重い。
それでも、応えねばならない。応えてやりたい。
先達は後進を正しく教え導くものだ。
「……まったく。出資者は無理難題をおっしゃる」
クワトロ気取りで呟きながら、エニルは必死に自分のガンプラ知識を総動員し始めるのだった。
●読み飛ばしても構わない巻末プチ解説
・離席ハロ
多くのオンラインゲームにある通り、GBNにもしばらく無操作無発言だと、自動的に離席モードに切り替わる。
離席=AFK=away from kyboard=席を外しています。
の意味で、アバター画像が名札付きのハロに変わり、人目で判別がつくようになる。
もちろん、自分でモード切り替えも可能。
無操作だと15分でハロになり、30分でハロが寝息を立て始め、1時間で自動的に切断される。
オンラインゲームをやる時はリアルの身体と心に余裕をもってやろう。