リアルではモブなわたしは、GBNでずっと暮らしたい。   作:ゼラチナマスター

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ミッション2-4 後進達を見守ろう。

「異形のΖ、既に遭遇済だったんですか!?」

「ああ。ロウジのガンプラがよほど趣味にあわなかったようでね。

 複数回襲われたらしい。残念ながら勝利には恵まれなかったらしいが」

 

 現実はいつも想像をあっさりと越えてくる。

 そんな言葉が思わずクランプの脳裏をよぎった。

 腕組みしてうなるクランプの目の前には、エニルのクールなバストアップ画像がウィンドウに映っている。

 GBNでダイバーが使用できる動画通話機能だ。表情が判るのは何かと便利なのである。

 

「それで、ロウジ君は大丈夫でしたか……?」

「むしろ、自分のガンプラで勝ちたいと意気軒昂だよ。

 自分からマフティーを探し、一度自分から乱入もしたらしい。

 今はフレンドと勝利のために作戦会議中だ」

「なるほど、むしろリベンジに燃えているんですね」

 

 クランプは南国風のビーチハウスに設置されたおしゃれ椅子の背に体重を預け、アバターの額に浮かんだ汗をハンカチでぬぐう。

 クランプは自分の思い込みと過保護を恥じた。

 確かに思い返せば、ロウジは大人しく繊細そうな顔立ちに、しっかりした芯を秘めているようだった。

 

「かなり厳しい目標だが、かなうならロウジを勝たせてやりたい。

 アタシはそう思っている」

「そうですね。当事者同士で決着をつけるのが一番いい。

 たとえ勝利に届かないとしても、ロウジ君の心がきっちり整理出来るよう……」

 

 通信越しのエニルに、クランプは穏やかに頷いてみせる。

 ロウジが初心者とは言え、バトルの敗北の悔しさは自分で晴らしたいだろう。

 

「情報提供を約束しておいてすまないな、クランプ大尉」

「リベンジの順番を、ロウジ君へ先に譲るだけです。

 知人のアッガイ達の無念、彼に託しますよ」

 

 謝意を示すエニルに笑顔を見せ、通信ウィンドウを閉じる。

 クランプは素早く椅子を引き、テーブルの向こうで通信を傍聴していた相手へ向き直った。

 小柄な相手は不敵にクランプへと笑いかけてくる。

 

「ずいぶん面白そうな話になっているじゃないか。クランプ大尉

 さきほどの彼女と、そのロウジ君がこの前言っていたダイバー達かね?」

「はい。その通りです、大佐。

 ……お聞きの通りです。私も件のZドライバーの件、ロウジ君にひとまず任せたいと思いますが」

「うむ、大尉の判断を尊重しよう。

 キャプテンジオンへは私から伝えておくよ」

 

 鷹揚に許してくれた相手へ、クランプは深々と頭を下げる。

 さぁ、これからが大忙しだ。急な方針変更を知人たちに告げるため、クランプは慌ただしく通信を始めるのだった。

 

 

 

 

 クランプとの通信を終え、エニルはロウジのガンプラハンガーへと戻る。

 さて、ロウジとセセリアの作戦会議の方はと言うと。

 

「ううん……とにかく、全性能で負けてるんだよね。

 一番問題なのはビームガンが牽制にならない事なんだけど……」

「くっ。ボクがお小遣いピンチで水星の魔女武器セット未入手でなければ……」

 おのれベアッガイラテマキアート!」

 

 案の定、煮詰まってしまったらしい。

 ロウジが難しい顔でデータをこねくり回し、セセリアがテーブルに突っ伏して何やらわめいている。

 休憩していいと言ったのに、二人で激論を交わしていたようだ。

 

「お疲れ、二人とも。

 意見はだいたい出尽くしたようだな」

 

 こちらに気付く様子もないロウジとセセリアの頭を軽く叩き、エニルは二人の苦労を労う。

 ログを追い、改善点をピックアップしながらエニルは二人の苦労をねぎらう。

 本当は飲み物でも差し入れてやりたいところだが、

 残念ながらGBN内での水分栄養分の摂取は実用化されていない。

 

「出尽くしたってゆーか、どん詰まった?」

「……正直なところ、手持ちの手札とお小遣いじゃ、

 どう強化してもたぶん届かないって結論が出たところですね」

 

 まったくもって、仕方のない結論である。

 どう考えてもこの二人、未成年の学生としか思えない。

 予算もガンプラ作りの腕前も、一朝一夕で伸びるものではないのだ。

 

「アタシの見たところ、マフティーの駆るZガンダム、あれは準メイジン級の出来栄えだ」

「確かにいい出来だとは思いましたけど……メイジン・カワグチ並の工作精度って事ですか!?」

 

 正確には現役メイジンには一歩劣るだろう。ただ、次代のメイジン候補として名が挙がるレベルではある。

 自身もビルダーとして自信のあるエニルだからこそ、その腕前がはっきりと判る。

 

「頭部の破損もあり、人型モードでは遠距離射撃性能はだいぶ落ちているようだが、

 機動性、装甲は動画で見た通り、非常に高ランクだ。

 ガンプラの出来栄えは走攻守全てに影響を与える。普通のやり方で勝つのが難しいのは当然だ」

「にゅーん! ますます勝利が遠のいた気がするぅ!」

 

 セセリアが机に突っ伏したまま、足を駄々っ子のように暴れさせる。

 エニルはそんなのセセリアの横に座り、二人に出来るだけ優しく言葉を投げかける。

 

「正確な現状分析は、勝利と成長の第一歩だ。

 ……さ。ひとまず、いったん休憩してきたまえ」

「おっけー、ボク一抜け。自販機行ってくる。

 ロウジもちゃんと水分とるんだよー」

「ありがとセセリア。そっちも無理しないでね」

 

 離席表示を押したらしく、セセリアの姿が名札付きのハロに変わる。

 パラメータを弄り回すロウジが、難しい顔で呟く。

 

「まず、敵に嫌がられる程度の火器が欲しいですね」

「そうだな、マフティーはキミの攻撃を恐れず飛び込んで来ている。相手の有利な間合いをとられ、必殺必中の攻撃をねじ込まれている。

 ファンプラ相手の定石だな」

 

 ロウジの呟きに、エニルも言葉を継ぎ足す。

 強さを追求しないファンプラは、火器をデフォルトのままか、下手すると積んでいないこともあるのだ。

 

「エニルさんもマフティーみたいな戦いすることあるんですか?」

「今回と逆パターンもたまにあるのさ、ガチ機でソロでやってる最中、ファンプラ集団にノリで乱入されるとかね。

 ……迷惑行為に及ぶ者は、どんな層でもそどんな場所でも一定数はいるんだ」

 

 出来るだけ平坦な言葉で、エニルはロウジに告げた。

 バトル、それも対人バトルを扱う以上、避けられないことだ。

 この話題は終わりだと手を振り、エニルはロウジに促す。

 

「話が逸れたな。

 それで、火器の調達については目処がついたか?」

「ひとまず、手持ちの火器には装甲と同じビーズを加工してみます。ただ、その上でやはりもう一つ二つ必要で……」

 

 言葉を丁寧に選び、ロウジがエニルを真正面から見てくる。

 エニルは静かにその眼差しを受け止めた。

 

「セセリアとも相談しました。

 その上で、エニルさん。

 あなたのガンプラ商人としての腕を見込んでのお願いです。

 デコトレーナー用の武器、何か良いものを調達してもらえませんか?

 どんなものかは任せます。価格も言い値でいいです」

 

 やはり、そう来たか。

 予想していたロウジの提案に、エニルは口元に笑みを刻む。

 どこでそんな言い方を覚えてきたのやら。

 見据えるロウジの顔は真剣だった。

 

「言い値で買いますと来たか。悪い武器商人に投げて良い言葉じゃないぞ?」

「だって、結構な無茶じゃないですか。

 僕のガンプラで使えて、僕のガンプラの調和を崩さず、可能なら僕のガンプラを勝利に導けるものが欲しいんです」

 

 思った以上の無理難題だ。  

 心の中でだけため息をつき、エニルは二本立てた指をクールにロウジへ示してみせる。

 

「まず、条件が二つある。

 必ずアタシは最善の武器を選び、舞台を整えよう。

 一つ目は、それでなお届かない時は、今すぐのリベンジは諦め、地道に研鑽を積むこと」

「はい!」

 

 困った時には力を借りる。それは正しい。

 だがそれも度を過ぎれば、違法改造やブレイクデカールなどまで選択肢に入るようになる。それは言語道断だ。

 

「二つ目は……時間がいる。最低半日、出来れば一日。

 さすがのガンプラ商人も、武装コンテナもなしに最適武器を召喚は出来ん」

「贅沢は言いません。作り置きした武器でもいいんですよ」

「そんな武器であのガンプラに勝てるか!

 それに、アタシにもガンプラ商人としてのプライドがある」

 

 贅沢言ってる自覚があるのかないのか。

 エニルはキッドやアストナージではなく、AGEビルダーでもない。

 無邪気に見上げるロウジの頭に手を置き、制する。

 

「作戦決行は明日日曜日。今日はこれから準備だ!

 有志の集めた情報によれば、マフティーは平日夜の20時⁻21時、土日のお昼14時⁻16時が出没時間のようだ。

 午前中までにアタシが最高の武装をプレゼントし、最終の作戦会議。午後にはいよいよリベンジする。

 それで勝てなければ、すっぱり切り替えるように」

「はい!

 じゃあ、今日はまずどうしたらいいですか?」

 

 素直な返事が大変よろしい。

 

「……まずは小休止だ。

 三十分後に再集合。具体的な行動はその時指示する」

「……はい。僕もおやつ食べてきます!」

 

 にっこり笑うロウジの姿が離席の証、名札付きのハロに変わる。

 一人残されたガンプラハンガーで、エニルは深々とため息をつく。

 

「あんな目をされては、な……」

 

 こちらを見上げるロウジのきらきらした瞳を思い返し、エニルは困ったように笑う。

 エニルならきっと何とかしてくれる。

 ロウジの瞳がそう言っていた。

 勝手に乗せられた信頼がずしりと重い。 

 それでも、応えねばならない。応えてやりたい。

 先達は後進を正しく教え導くものだ。

 

「……まったく。出資者は無理難題をおっしゃる」

 

 クワトロ気取りで呟きながら、エニルは必死に自分のガンプラ知識を総動員し始めるのだった。

 

●読み飛ばしても構わない巻末プチ解説

 

・離席ハロ

 多くのオンラインゲームにある通り、GBNにもしばらく無操作無発言だと、自動的に離席モードに切り替わる。

 離席=AFK=away from kyboard=席を外しています。

 の意味で、アバター画像が名札付きのハロに変わり、人目で判別がつくようになる。

 もちろん、自分でモード切り替えも可能。

 無操作だと15分でハロになり、30分でハロが寝息を立て始め、1時間で自動的に切断される。

 オンラインゲームをやる時はリアルの身体と心に余裕をもってやろう。

 

 

 

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