リアルではモブなわたしは、GBNでずっと暮らしたい。 作:ゼラチナマスター
正直、今週末のボク、超頑張ったと思うんだ。
「大尉。お供をさせてください……!
そうでなければ、カラバからあなたについてきた甲斐という物がありません!」
「少尉!
……そういう事は、しなくていい」
小惑星が、摩擦熱で真っ赤に燃えている。
通信ウィンドウに割り込むアムロと良く知らないおっさんの会話を聞き流し、セセリアは愛機ルブリス・ジェミニのサブシートで必死だった。
まるで、この世の終わりみたいな光景だ。
灼熱するモニターの上部では、ミッション名が控えめに主張していた。
『イベントミッション:燃えるアクシズを押せ』
映画『逆襲のシャア』の最終盤の再現ミッションであるが。
「そこのガンプラ、下がれ! 摩擦熱とオーバーロードで自爆するだけだぞ!」
「わぁ、アムロさんから呼びかけて貰っちゃった!」
「ちょっとロウジ、ミーハーは後!
このままじゃジェミニ、レンジに入れたプラ板みたいにドロッドロなっちゃう!」
各部パラメータは真っ赤なデンジャー、操縦桿もブーストもとっくに全開。にも関わらずアクシズは阻止限界点まっしぐら。
絶賛ミッション失敗コース、地球寒冷化まったなし!なのである。
「やっぱりほら、推奨5人のミッションにガンプラ一機は無茶だったんじゃない?」
「正論はボクを救わないよロウジぃ!?
……わきゃあ!?」
少しでも推進力の足しに、と外部展開していたガンビットの一つが爆発した。
それを皮切りに連鎖的にガンビットが爆発していく。
正直、どうしようもない。
セセリアも判っているから泣き言吐くしかないのだ。
「うん。セセリア、大人しく人集めてリトライしよ?」
「うわぁん、誰か助けてぇ!
もうダメ、落ちちゃう、アクシズ!」
「助けに来たでえ、嬢ちゃん!」
まさかその泣き言に、応える声があるだなんて。
通信に割り込む聞き覚えのない声に、セセリアはあんぐり口を開け、モニターを眺める。
レーダーに大型の光点がいくつもまたたき、モニターにはアクシズに迫る数機の大型サブフライトシステムが映っていた。
モニターを拡大し、セセリアは唖然。
「宇宙で水泳部!?
何しに来たの!?」
「んなの決まっとる。
アッガイでアクシズを押すんやで!」
モニターでドヤ顔ピースサイン決めたそいつは、生えた髭が立派なアッガイだった。
レーダーを頼りにモニターを見回せば、そこかしこに十数機のカラフルなアッガイ。
アッガイ達がサブフライトシステムを蹴り、赤熱するアクシズに平泳ぎで取りついてゆく。
「何これ、悪い夢?」
「凄いよセセリア! あのアッガイ達ちゃんと足裏からスラスター噴射してるよ。
それに、形式番号が違う。MSM-04R……宇宙用改装されたガンプラだ!」
いいえ、私の夢は現実です。
アクシズゲージがじりじり阻止限界点から押し戻され、機体各部のゲージが安全域へと戻る。
どうやら、謎のアッガイ騎兵隊達のおかげで、ミッションクリアは目前らしい。
セセリアはもお手上げモードで天を仰ぐしかなかった。
「さぁ皆、今こそあの台詞や。行くで!」
「「「「マイガンプラは伊達じゃない!!!!」」」」
サイコフレームの光とアッガイに包まれたアクシズで、クリア宣言の台詞が高らかに響いたのだった。
「ありがとうございました。アッガイマフィアの皆さん!」
「気張りぃや、坊ちゃん。そのミッション報酬でマフティーに勝つんやで!」
結局謎のアッガイ集団としか言えない人たちだった。
ミッションクリアで報酬ゲット、助っ人アッガイ達と記念撮影も完了。
色とりどりのアッガイに見送られ、セセリアとロウジは燃えるアクシズから帰還した。
「……なんでボクらの話広まってるのさ」
「多分、エニルさんが話をつけてくれたんだよ」
なんであのおっぱいおねーさんをそうまで信頼できるのさ。
無邪気に笑うロウジに、セセリアは呆れ顔で肩をすくめる。
「じゃ、セセリア。僕はデコトレーナーの既存武装を強化頑張ってみる」
「オッケー。そんじゃ予定通りボクがエニルさんとこに報告だね」
「お願いね。もし追加武装決まってたら教えて」
そんな早くに決まる訳ないと思うんだけどなぁ。
ロウジが笑顔のままログアウトし、セセリアはこっそり肩をすくめた。
「フィン・ファンネル」
「アムロ色が強すぎ」
「ハモニカ砲」
「悪くないけどGXのスラスターとセットならない?」
「ガーベラストレート」
「シンプル過ぎて要求工作精度がヤバそう」
「隠し腕」「光の弓」「心眼センサー……」
「迷走しすぎでない?」
目の前に浮かぶデコトレーナーの立体シミュレーター映像に、セセリアは次々ツッコミを入れていく。
エニルチョイスの武装で、デコトレーナーが次々飾られてはダメ出しされていった。
エニルの目の前の机には、参考資料にしたらしい大量のDVDと書籍が置かれている。
「ダメだね。これじゃロウジは気に入らないよ」
「強い武装は、元の機体のイメージが強すぎるな……」
ロウジの名札付きハロを膝に抱え、セセリアは他人事のように呟く。
うーん、やっぱり何度見てもでっかい。
セセリアの視線はデコトレーナーとエニルをいったりきたりである。
ここはロウジのガンプラハンガー。ロウジはリアルでデコトレーナーへの改造強化を開始し、ここにいるのは離席モードのハロアイコンとエニル、セセリアのみだ。
「ロウジは基本なんでもいいって言うし、大体使いこなすけど、結構“カワイイ”と“カッコいい”のフィーリングを大事にするタイプなんだよね」
「デコトレーナーは……明らかに前者の側だな」
「そーそー。だからノーベルガンダムのビームリボンとかそっち方向がいいんじゃない?」
「なるほど。ありがとうセセリア」
セセリアは褒められ、ドヤ顔で胸を張る。
エニルに助言をせがまれ、セセリアはデコトレーナー強化プランの選定に協力していた。
しょうがないよね。ロウジの大切な友達であるキミの力を借りたいなんて言われちゃ。
なんだかんだいって、セセリアもちょろいのである。
「ロウジが昔の作った初ガンプラの武装、流用できればいいんだけど。
10年前の作だし、さすがに手元にないらしいんだよね」
「……現物はなくとも、その詳しい情報が欲しいところだな」
「なして? だいぶ小さい頃だし、機体趣味もだいぶ変わってるよ」
「文字通り、ロウジの原点だろう?
“カワイイ”武装を選ぶにしても、もう少しアイデアの方向性を絞るための情報が欲しい」
「なるなる。おーいロウジー?」
膝に抱えたハロをぺしぺしはたき、リアルのロウジへと通信を送った。
ハロの目が点灯し、ロウジと通信構築を告げる。
「……てな訳で、エニルさんへ詳細プリーズ?」
『……えっと、確かその時のガンプラ世界大会で、すごくきれいなキュベレイを使う女の子がいたんです』
「すごかったよね、第7回世界大会」
セセリアは懐かしそうに目を細める。
三代目メイジン・カワグチの初登場した年だ。メイジンに引きずられるように猛者が集い、レベルの高い試合が展開された。
パブリックビューイングに当選し、ロウジと一緒に見た世界大会での試合のことはセセリアも一生忘れないだろう。
『それで僕、お店で見つけたキュベレイにひとめぼれしちゃったんです』
「確か、そこに当時のアニメ映画の要素をミックスしたんだよねー……ええと確か、ニナと雪の女王?」
『うん。名付けてキュベレイ・ブリザードプリンセス。
長いファンネルロッドを構え、吹雪の魔法を操るリアルタイプ騎士ガンダムタイプ!
……って言う設定でした』
「……なるほど。ありがとうロウジ、大変参考になった」
『黒歴史の公開です……役に立ててくださいね』
「じゃ、ガンプラ改造ファイトだよ。根詰めすぎないでね」
ロウジハロから手が生えて照れ臭そうに頭をかき、通信が切れた。
いつものように楽しく設定語りを垂れ流すロウジの様子に、セセリアはハロをそっと抱きかかえた。
「奇跡みたいなことだよね、本当に」
とても優しい顔して、セセリアは微笑む。
ガンプラ作成、それも初ガンプラのことはロウジにとって寒くて暗い、触れたくない部分のはずだった。
本当に良かった。何気なくあの頃の事をロウジが振り返れるようになるなんて。
「奇跡……いや、魔法だ」
強い語調でエニルが呟き、セセリアは顔を上げる。
エニルが一冊の書籍を勢い良く手に取った。
ちらりと見えた背表紙には、セセリアが全く聞いた事のないタイトルが書かれていた。
「魔法って言うと、ムービルフィラとか、ムービサーベとか?」
「いいや。もっと大規模な“奇跡を起こす魔法の杖”さ」
まるで天啓を得たように、エニルが不敵に笑う。
セセリアはその後、エニルから具体的な行動の指示をもらい。
よほど確信があるらしく、エニルの言葉に迷いはまったくなかった。
「では、後は頼んだよ、セセリア」
「いってらっしゃい、ガンプラ商人さん」
魔法の杖を仕入れにログアウトするエニルを、手を振って見送る。
これが大体お昼すぎのことだ。
その後もセセリアはひたすらに遊んだ。
ガンプラ改造中のロウジを、閃光のハサウェイを視聴しながら応援し、改造したデコトレーナーの性能チェックに付き合い、夕飯後もエニルに指定された特訓をロウジと行う。
そして、もうそろそろ日付も変わろうというところだった。
リアル自室のベッドに寝ころび、携帯電話で声量落として通話中。
あくびが飛び出し、リアルセセリアは慌ててロウジに謝った。
「ごめんロウジ、そっち眠くない?」
「ううん、ちっとも。
強敵のために準備するの、すっごく楽しくって!」
リアルロウジのはずむ声が携帯から聞こえる。
そろそろ日付は日曜日。遊ぶに遊んでセセリアはまぶたがくっつきそう。
「エニルさんに最高の武装用意してもらって、セセリアにいっぱい準備してもらって。
……負けられないよね。こんなの、絶対」
「勝敗とかボクは別にいいからさ。
ロウジ、明日は思いっきり楽しんできなよ」
リアルロウジは今もデコトレーナーの最終仕上げをしているはず。
頑張るロウジの姿を電話越しに思い描きながら、セセリアは優しく声をかける。
「楽しいよ。メイジン級のガンプラとやりあえるだなんて、思っても見なかった。
セセリア、見てて。勝つよ、僕は。絶対」
「判ってる。たとえ奇跡も魔法もなくたって、キミは勝つよ」
ロウジの声は本当に楽しげだ。
ロウジには気負っているつもりはないだろう。
“お前のガンプラは過ちを犯した”
それでもセセリアは、マフティーがかけた呪いの言葉がムカついて仕方がなかった。
「キミの努力も、キミがガンプラに込めた思いも、
……全部、ボクが知ってるからね」
めいっぱいの祝福をキミに。
呪いの言葉を打ち消すように、自分の言葉に祈りを込め、セセリアはロウジへ語りかける。
「キミのガンプラは過ちなんかじゃ絶対ない!
……きちんと覚えとくよーに」
どんな相手に貶められても、それよりおっきな声で何度だってボクがキミを肯定したげる。
悪意を打ち消す愛を、電話越しにセセリアはささやく。
「……ありがと、セセリア。おやすみ」
「根を詰めすぎちゃダメだからね。
作業机でうたた寝したり、お腹出して寝たりしたらダメだよ。
……おやすみ」
ロウジの声を殺した笑いが電話越しに漏れ聞こえ、セセリアは目元を緩め、通話を切る。
心いっぱいにこめた祝福は、多分きっとロウジに届いただろう。
スタンドライトを消し、枕とマットに身を委ねる。
眠気はマッハでやってきた。
「ごっめん、エニルさん!」
次の日、日曜、午前9時。
リアルセセリアはエニルへ通信文で全力で謝罪する。
「ロウジ、これたぶんまだ夢の中だと思うんだ!」
無反応のリアルロウジへ携帯で鬼電しながら、マンションの階段を駆け下り、自転車にまたがる。
「全力で起こしてきます。マジごめん!」
目的地、ロウジのリアル家。全力でペダルをこぐ。
結果はやはり、ロウジは案の定だった。
セセリアは本当に、とても今週末頑張ったのである。
●読み飛ばしても構わない巻末プチ解説
・ガンプラハンガーにおける書籍とDVD
どれもエニルの私物ばかりである。
GBNでは個人所有のDVDや電子書籍であれば、DVDや本と言う形でオブジェクト設置が出来る。
許可した相手に読ませることは可能だが、それに伴う金銭的なやり取りは禁止されていおり、
また、一日に閲覧可能なデータ量には制限がかかっている。
エニルのお気に入りは幻のOVA『SDガンダム猛レース』
偽ガンダムがかわいくて一押しとのことである。