リアルではモブなわたしは、GBNでずっと暮らしたい。 作:ゼラチナマスター
都合により2-7と2-8(短い)をまとめて更新します。
いい子でいるのって、楽じゃない。
ママは言うんだ。”こんな趣味、時間の無駄だ”って。
古典小説を読め。学をつけろ。
お外で運動しろ。体を鍛えろ。
部活で青春しろ。人と関われ。
ママは言うんだ。”もう、あなたは子供じゃないんだから”って。
そしてママが、Zガンダムを無惨に床に叩きつける……
「ガンプラが犯した過ちは、マフティーが粛清する!」
「いやーっ! フレンド欲しかっただけなのにぃー!?」
ガンダムカラーに塗られた謎のSDザクが、ハイメガに飲み込まれ、爆散する。
破壊されたファンプラの残骸をモニターで確認し、マフティーはガンプラのコクピットで舌打ちした。
戦場はホンコン・シティ。0087仕様の地球サーバの戦闘エリアでのことだった。
「ふざけたガンプラどもめ……叩いても叩いてもモグラのように這い出てくるな」
勝利メッセージと演出をスキップし、マフティーは愛機を変形させて戦場を離脱した。
ホンコン・シティ上空を越え、青い海面が眼下に広がる。
遊ぶたび、勝つたび、マフティーは苛立ちを募らせる。
どうしてあいつらは、ふざけたガンプラであんなに楽しそうなんだ。
どうしてそれほどガンプラが作れるのに、まともなガンプラを作らない。
『敵機が接近中だ。注意しろ!』
「見つけた。スカーフェイスのZガンダム!」
”乱入者あり”を示すNPCボイスの直後、突然甲高い声が通信に飛び込んできた。
青い空と海をバックに、飛行ユニットらしいスラスターの輝きが見えた。
モニターに映る豆粒大の光点が拡大され、ガンプラの姿とダイバー情報が表示される。
かすかに口元を緩め、称賛する。
左右対称に丁寧に塗られた、ガンダム系のフォルムを持つ凛々しいガンプラだった。
『機体名:ルブリス・ジェミニ。ダイバー:セセリア・ドート』
「水星の魔女の改造ガンプラか……美しいな。
貴様と戦う理由はない、乱入ダイバー」
「そっちは無くてもボクはある
……テメェはな、ボクのフレンドに喧嘩売ったんだよ、雑魚狩りマフティー!」
賞賛を罵声で返され、マフティーは大きく舌打ちした。
マフティー側は顔出し無しの音声オンリーだと言うのに、向こうは褐色銀髪少女のアバター顔出し付きだ。
最近は、こんな相手も随分と増えてきた。
GBNの世界は、どうしてこうままならない。
「パーメットスコア……4!」
赤いパーメットの光と共に、敵ガンプラからガンビットの光が飛び出す。
間違いない、強敵だ。小さな舌打ちと共に、マフティーは操縦桿を強く握り直すのだった。
激戦だった。戦闘時間、ゆうに15分近く。今までの相手の中で一番手ごわかったろう。
ふざけたガンプラとはまるで違う、美しいガンプラだったとマフティーは思う。
「チェックメイトだ、セセリア・ドート」
それだけに、理由が残念に過ぎた。
武装を全て喪失し、地面に横たわるルブリス・ジェミニを上空から見下ろし、マフティーは冷酷に告げる。
戦場は海原から場所を変え、日本列島へと場所を移していた。
愛機のモニターに映るこの山脈は、恐らくは関西のどこかなのだろう。
「いいや、これはボクの負けじゃない。
テメェのニヤケ面をぶん殴ってやれなくて残念だ」
「戯言を……!」
「ただテメェを、この場に釘付けにしてれば良かった。
ボクの敗北条件は、テメェを見失うことなんだから」
『敵機が接近している。注意しろ!』
つくづく、気に障る場所だ。
続きざまの乱入者に、マフティーは苛立たしげに大きく舌打ちする。
「マフティー・ナビーユ・エリン!
……貴方に、アスティカシア式の決闘を申し込む!」
「テメェを倒すのは、ロウジの役目だからね」
あざけるように笑うセセリアの横に見飽きた顔が映り、声を張り上げた
マフティーは思わず、虚空のモニター画面を拳で殴りつけていた。
「貴様か! ピンクのデミトレ使い……」
心底腹立たしそうにマフティーは呟く。
GBNはフルダイブ型のゲームだ。そこに相手やモニター画面がある訳でもない。
それでも、思わず怒りをぶつけたくなるような不愉快な相手だった。
ピンクにデコレーションされたふざけたガンプラで、二度乱入してもめげる様子もなく、
それどころかマフティーの方へと乱入までしてくるようなダイバーだ。
「ふざけるな。貴様ごとき雑魚相手に、決闘だと!?」
「あ、逃げるんだ?
もう四度も勝ってるような相手に臆するんだぁ?」
小馬鹿にしたようなセセリアの煽りにマフティーは大きく息を吸い込んだ。
時間の無駄だと言ってやっているのに、何故それがわからない?
「……良いだろう。私が勝ったらそのふざけたガンプラ、破棄して貰うぞ!」
「ありがとうございます!」
笑顔で頭を下げるピンク使い……ロウジに、マフティーは通信へと舌打ちを響かせる。
一度二度、深呼吸を繰り返し、努めて冷静に条件の確認を行う。
「……決闘か。立会人はどうする」
「ボクが」「貴様は関係者だろう」
中立性の確保出来ない立会人など、納得できるはずがないだろう。
当然のように挙手するセセリアを一刀両断に切り捨てる。
「……NPCのシャディクさんとか。システムの選定に任せません?」
「……そうだな、妥当だろう」
「待った!」
なんて乱入者の多い日だ。
通信に割り込む渋い声に、マフティーは毒づく。
「その決闘、NPC任せは勿体ない。
私に務めさせてもらおう!」
「白い人型フェレット……まさか!」
だが、マフティーはモニターに浮かぶアバターの姿に目を見開くこととなった。
フライトユニットつきグフのマニピュレーターにしがみつき、風圧でぷるぷる震えるその姿、見覚えが無い訳がなかった。
「……ロンメル隊長!?
大佐、御本人なのでございますか!?」
モニターで白いフェレットを最大まで拡大し、マフティーは愕然と敬語で問いかけてしまう。
あのフェレットの名はロンメル。
所属するミリタリー色の強いモノアイ機体ばかり、こだわりの強いガチダイバーを率いて全GBNの上位層に君臨する大物ダイバーだ。
「本人だよ。そして偶然ではなく必然だ。
立会人が私では、不服かい?
マフティー・ナビーユ・エリン少尉」
穏やかな調子で語りかけられ、マフティーは自然と敬礼していた。
「大佐に不服など、あろうはずがありません!
……貴様も良いな? ピンクのデミトレ使い」
「あ、はい!
すいません、よろしくお願いします。白イタチさん!」
そして、マフティーは思わず敬礼を崩して叫ぶ。
「フェレットだ! 敬意を払いたまえ!
ロンメル隊長はGBNフォースランキング2位の第七機甲師団を率いる超有名人だぞ!」
「す、すいません! ロンメル隊長……ロンメル大佐?」
「気遣う必要はないよ。私は立会人だ。
決闘の主演は……君達なのだから」
……この場にいるのは必然と、大佐は言っていたな。
最敬礼の姿勢で、マフティーはロンメルの言葉の意味を噛みしめる。
この決闘で何かがきっと終わるのだろう。
それは、予感ではなく確信だった。
そこはクランプにも、初めて訪れる場所だった。
確か最新作、水星の魔女に出てくる決闘委員会の部屋だったろうか。
きらびやかな調度品とソファで上品に彩られた大きめの会議室ほどの部屋だった。
マフティーがアバター姿で現れた瞬間、そこにいる面々からどよめきが漏れる。
部屋の中央に決闘の参加者である、そして立会人のロンメル大佐がいる。
クランプの立つ壁際には、ロウジの付き添いであるエニルと、名前を知らない褐色銀髪の少女がいた。
「本日はよろしくお願いいたします、大佐」
「……ハサウェイ・ノアなのだね、やはり」
「どうか、オレのことはマフティーとお呼びください」
マフティーは真っ先にロンメルへ歩み寄り、丁重な態度で敬礼する。
マフティーの顔出しを見るのは、クランプを含めた全員が初めてだったろう。
穏やかな笑顔を浮かべる好青年。それがマフティーのアバター、ハサウェイ・ノア(UC0105)だった。
「その名乗り、意味あってのことなのだろうね?」
「ええ無論。オレにはギギも、クワック・サルヴァーも、ガウマンもいない。
シャアの理想もアムロの情熱も持たず、ぬるいガンプラの粛清をただ望むもの。
オレは、たった一人のマフティー・ナビーユ・エリン……!」
マフティーが、芝居がかった仕草で指一本立て、宣言する。
その穏やかな笑顔の裏に、隠しきれない怒りを感じる。
それがキミの、たった一つの望み……か。
クランプは、壁際で無言のまま眉をひそめた。
「初めまして、マフティー。
決闘を受けてくれて、ありがとうございます」
ロウジが、意を決したように歩み出、握手を求めて手を差し出す。
だがマフティーがその手を無視し、冷徹に返す。
「感謝など不要だ。
オレは貴様に勝ち、粛清するだけだ。
冒頭で死んだ保健衛生大臣のように」
「一人であれほどのガンプラを作り、あれほどのガンプラバトルを行う。
貴方を尊敬します。マフティー・ナビーユ・エリン。
僕は弱いから、あなたへ勝つために力を借りました。僕は一人じゃない。だから……負けません」
冷徹な言葉に動じる様子もなく、ロウジが宣言する。
いい顔をしている。
うなずくロンメルにクランプはしたり顔で笑いかけ、うなずきを返す。
「大佐、始めましょう」
「うむ! では、双方、名乗りを!」
ロンメルの宣言と共に、マフティーとロウジが向かい合い、厳かに宣言しあう。
「ダイバーID:0273501 マフティー・ナビーユ・エリン 少尉
使用ガンプラ “隻眼の”Zガンダム」
「ダイバーID:0357779 ロウジ・チャンテ 伍長
使用ガンプラ デコ・トレーナー」
「よろしい。双方、魂の代償をリーブラに!」
ロンメルが満足げにうなずき、両手を広げる。
決闘準備のための天秤が、会議場に浮かび上がった。
「決闘は1対1の個人戦。勝敗は通常ルール。
双方フルリペア、フルウェポン状態から開始する。
マフティー、君はこの決闘に何を賭ける?」
水星の魔女ルールのアンテナ折り戦ではなく、ガンプラの大破によって決着がつくことを双方が選んでいた。
「ガンプラの粛正を。
……具体的には、対戦相手のガンプラの所有権の移譲を求める。
それに伴い、本機並びにその素体を使用したガンプラを、オレの許可なくGBNで使用する一切を禁じる」
「はぁぁぁぁ!? ざけんな、何様のつもり?」
「……セセリア、静かに」
エニルが、叫んだ少女……セセリアを制する。
気持ちは判る。なかなかにこれは厳しい条件だ。
クランプも傍観者の姿勢を崩し、壁際から声をかける。
「ロウジくん。厳しいと感じるなら決闘を受けずとも構いませんからね。
立会人のロンメル大佐や私達のことなどは気にせず」
「ありがとうございます、クランプさん。
でも、大丈夫です」
ロウジが穏やかな笑顔をクランプへと向ける。
そこに焦りも気負いもない。
「魂の代償として受け入れます。
負けて悔いないだけの思いは込めてきましたから!」
穏やかな目線でロウジが宣誓し、ロンメルがうなずく。
クランプも静かにうなずき、再び壁へと背をもたせかけた。
「では……ロウジ、君はこの決闘に何をかける?」
「マフティーからの謝罪を要求します。
”貴様のガンプラが犯した過ち”と貴方は言いました。
それを貴方の言葉で否定してください」
静かな目線でロウジがマフティーを見つめ、マフティーが穏やかな態度のまま、静かにそれを受け止めた。
「良いだろう。貴様の強さで、オレを否定してみせろ」
「魂の代償は、双方から確かに捧げられた……」
青く輝く天秤を前に、ロンメルが厳かに宣言する。
「決闘者はマフティー、並びにロウジ
バトルエリア アスティカシア学園(地球寮前)
アーレア・ヤクタ・エスト。決闘を承認する!」
マフティー、そしてロウジ、二人のアバターが会議室から搔き消える。ガンプラコクピットへ転送されたのだ。
会議室の大モニターにガンプラハンガーが映り、2機のガンプラが身じろぎする。
「……さて、我々は観戦と行こうか」
「やっちゃえロウジ、ぶっつぶせー!」
決闘の主役二人が退場した会議室で、エニルが優雅な所作でど真ん中のソファに陣取る。
セセリアが物騒な台詞と共に、エニルの真横へと勢いよく座った。
クランプも二人に倣いたいところだが、そうもいかない。
「では大佐。申し訳ありませんが私は知人と観戦させていただきます。
終わりましたらまたお迎えにあがりますので」
「送迎すまないね、クランプ大尉。
……楽しみたまえよ。見逃せばきっと後悔するぞ」
鷹揚に微笑むロンメルにしっかりと頭を下げ、クランプは会議室を辞去した。
あれがロウジくんの作ったガンプラか。
モニターに映るピンクのデミトレーナーを見つめ、クランプは感慨を込めて呟く。
「男子3日会わざれば、と言いますが……」
一人ごちながら、クランプは大急ぎでログアウトコマンドを撃ち込んだ。
見逃せば、きっと後悔するだろう。
スカーフェイスのZと、ピンクの愛らしいデミトレーナーの激突。
波乱と熱戦の予感しか、しなかった。
●読み飛ばしても構わない巻末プチ解説
・アスティカシア学園式決闘ルール
水星の魔女で行われた決闘だ。GBNでももちろんサポートされている。
原作通りアンテナを折ることで決着するルールもあるが、バトルだけは通常ルールが人気だ。だって原作と違ってコクピット直撃でも死なないし。
リーブラへ捧げる魂の代償だが、ベテランからニュービーへのハラスメントが問題となり、公式から強い警告が出ている。
実際に決闘を好むダイバーはカッコいい名乗りと演出が大好きなだけの人たちが多い。
宣誓やらの台詞もきちんとメッセージが表示されるから安心!
ちなみにGBNの立会人NPCランキングは何故か一度も公式で立会人したことがないグエルがトップだったりする。
……頑張れ決闘委員会!