リアルではモブなわたしは、GBNでずっと暮らしたい。 作:ゼラチナマスター
「これより双方の合意のもと、決闘を執り行う。
立会人は第七機甲師団 ロンメルが務める」
いよいよ、決闘が始まる。
会議室に響き渡る直立フェレットの渋い声。
……ええと、そうだ、フェレットじゃなくてロンメル大佐だ。
ロンメルの渋い声を聞きながら、セセリアは汗ばむ掌を会議室のソファにそっとこすりつけた。
もちろんフルダイブゲームのソファは、汗なんて吸っちゃくれない。
「決闘方法は1対1の個人戦
勝敗はアンテナ破壊ではなく、相手ガンプラの大破により決するものとする」
立会人のロンメルの声は、会議室だけでなく両ガンプラのコクピットまで響いているはずだ。
ロウジはもっと緊張してやしないだろうか。
思わず横に座るエニルの腕をそっと握ってしまう。
エニルの掌がその掌にそっと重ねられた。体温も感じないのに、不思議と気持ちが落ち着く。
ありがと、エニルさん。小さく頷き、セセリアはモニターへと視線を戻す。
「両ガンプラ、向顔!」
モニターに両ガンプラのコクピットが大写しになる。
マフティーとロウジ、それぞれがアバター姿でモニター越しに向かい合った。
「勝敗はガンプラの性能のみで決まらず」
「ダイバーの技のみで決まらず」
「「ただ、結果のみが真実!」」
余裕の表情でまずマフティーが語り出し、ロウジが緊張の面持ちでそれに応える。
そして最後に二人声を揃えて誓う。これが神聖な決闘の宣誓の作法だ。
「フィックス・リリース!」
ロンメルの低く渋い宣言の声と共に、両ガンプラが開放され、ランダムにバトルエリアへ配置される。
ロウジのデコトレーナーが平地へ転送され、ピンクの頭部を振ってゆっくり索敵を開始した。
「始まった……!」
セセリアはエニルの腕を握り直し、モニターに食い入るように見入る。
デコトレーナーの見た目と武装に大きな変化はほぼない。
ただ、右腕と右脇で、大きな武装コンテナを抱え込んでいる。
腰にサーベルスティック、腰の後ろにビームガンだ。
簡素な裏側が見えるあれが、左腕に固定されたシールドだろう。
「エニルさん。あのコンテナが、ひょっとして例の……?」
「ああ。アタシが調達した……スペシャルウェポンだ」
「ほう。この戦いのために準備したスペシャルウェポンか。
それはお披露目に期待がかかるところだな」
渋い声が耳元で聞こえ、セセリアはぎょっと目を見開く。
立会人の役目を終えたロンメルが、真横に立っていた。
フェレットアバターの腰に手を伸ばし、その感触を堪能する。
「うわ、マジでもっふもふ!」
「……後にしてくれたまえ、後でなら構わない。
さて、改めてよろしく頼む。第七機甲師団のリーダーを務めるロンメルだ」
「”ガンプラ商人”エニル・エル、ご一緒出来て光栄です。ロンメル大佐」
「セセリアっす。ボクはロウジのダチ!」
渋い声でセセリアの手を穏やかに手をはらい、ロンメルが横のソファに腰をかける。
エニルさんが敬語を使った!? セセリアは慌てて手を引っ込め、ロンメルへ小さく頭を下げる。
「そのスペシャルウェポンとやら、すぐには使えないのだね?」
「ええ。今、使用開始するためのチャージを開始しました」
モニターでは、ロウジのデコトレーナーが、索敵を終え、敵機が周辺にいないと確信したようだった。
デコトレーナーは右脇に抱えていた武装コンテナを地面へ降ろし、右腕を使って地球寮のハンガー奥へ押し込み、隠した。
腰後ろにマウントしたビームガンを右手で保持し直し、デコトレーナーは足裏のローラーダッシュで地球寮を離れて巡行を開始する。
エニルが何かコマンドを撃ち込み、会議室のモニター上で、4桁秒のエネルギーチャージカウントと円グラフをを表示してくれた。
もちろんこれは、マフティーには見えないデータである。
「え、こんだけ時間を稼がなきゃならないの?
あのバ火力高機動のZ相手に……ロウジっ!?」
呆然と呟くセセリアの台詞は、突如、叫びへと変わった。
真横にスライドしたデコトレーナーの元いたところを、ハイメガのビームが正確に抉り取る。
続いてもう一撃。だがロウジのデコトレーナーは迷いのない動きでその一撃を避けてみせる。
外れたハイメガのメガ粒子が建物に着弾し、盛大な炎をまき散らす。
「あああ、ミオミオの温室、めっちゃ燃えてるーっ!?」
「超ロングレンジから強襲……やはり、良い性能をしているな。あのウェイブライダー」
「ええ。見たところ、準メイジン級のガンプラですね。
対してロウジのガンプラは丁寧だが、まだまだ粗削りです。
確かにガンプラの性能差は歴然でしょう」
叫ぶセセリアを挟んで、ロンメルとエニルが冷静な解説を繰り広げる。
マフティーのウェイブライダーが大きな動きで旋回する。こちらも武装は変わらない。
セセリアとのバトルで消費したエネルギーや傷ついた装甲も決闘開始時に全快している。
機体下部に吊られた大型のハイメガランチャーが威圧感を放つ。
「性能差がどーしたってのさ! あんな無茶な長距離射撃、まぐれ当たりで落ちるロウジであるもんか!」
吼えるセセリアを黙らせようとするかのように、旋回を終えたウェイブライダーがデコトレーナーに向き直る。
学園の舗装道路でジグザグに移動するデコトレーナー目掛け、ウェイブライダーが超長距離からハイメガを撃ち放つ。
斜めへ角度を変え、そちらへ直進しながら続いてもう一撃。
一撃目を避けたデコトレーナー目掛け、偏差射撃の二撃目のビームが吸い込まれるように着弾する。
「いい連携ですね。けれど……当たったところで、ああなります」
デコトレーナーが胸の前に構えたシールドに受け止められ、長距離射撃のハイメガは霧散する。
「ほう。粗削りと言ったが、シールドをきちんとビームコーティング加工出来ているのだね」
「ええ。シールドは装甲と違い、塗装によるビームコーティング加工がシステムに認められやすい。
ロウジも昨晩、とても念入りに加工を行ったようですよ」
「ふむ、エニル少佐。だが、その……あの盾の表面は?」
思わずと言った表情でロンメルが戸惑いがちに声を発する。
うんまあ、気持ちは判る、モフモフ大佐。
デコトレーナーが誇らしげに構えるシールドの表面には、巨大な画像がキレイにプリントされていた。
それは、アニメ公式サイトから取り込んだらしいセセリアの全身画像だった。
水星の魔女最終話で見せた秘書姿のセセリアがいい笑顔で笑うシールドを掲げ、高らかにロウジが叫ぶ。
「見たかマフティー!
大切な友達が僕とデコトレーナーを守ってくれる。
……名付けて、セセリアシールドっ!」
「ふざけているのか貴様ぁっ!?」
「どっこいロウジは大真面目なんだよねぇ」
マフティーに聞こえないのは承知で、思わずセセリアは呟いていた。
ロウジとマフティーのセリフは相互通信で対戦相手へ聞こえるが、観戦者の声は届かない。
「ロウジ君的には、大切な友達を盾にするのはいいのかね?」
「……さすがに本人に許可を取っているとは聞きましたが」
「許可は!出したよ。出したけど……!!」
モニターでデコトレーナーが映るたび、小悪魔笑顔の秘書セセリアが大写しになる。
あれはアバターだ。だとしても、全身がめっちゃむず痒い。
さすがにこらえきれず、セセリアは真っ赤な頬を両手で抑えてソファで身悶えした。
「良いだろう! ならばまず、そのふざけた盾を完膚なきまでに破壊してくれる!」
「……思った以上にマフティーには挑発として有効だったようですね。挑発としては」
マフティーのウェイブライダーが鋭い旋回を繰り返し、ハイメガの砲撃を猛烈に撃ち込んでくる。
ロウジの丁寧な回避運動を掻い潜り、そのうち何発かはデコトレーナーに着弾した。だがその強烈な一撃も全てセセリアシールドが受け止める。
「見ての通り対ビームは極めて強く、対物理、対衝撃にもかなりの強度を誇ります。
ロウジの友人への強い思い入れ、丁寧な加工が産んだ奇跡の一品と言えるでしょう」
「頑張れ、ロウジ。キミなら絶対負けないから……」
ウェイブライダーが重いメガ粒子の弾を、まるで弾切れがないかのように何十発撃ち込んだろうか。
セセリア達が見守るモニターで、ついにマフティーのウェイブライダーが上空で淡く輝き、MS形態……スカーフェイスのZガンダムへと姿を変える。
マフティーのZの欠けた角と抉れたデュアルアイは、まるで操縦者の怒りを体現したかのようだ。
「そんなふざけたガンプラで、いくら工夫しようと同じことだ!
どんなに足掻こうとも、けして埋められないガンプラの性能差を思い知らせてくれる!」
異形のZが、上空からハイメガを構えて舞い降りる。
デコトレーナーの射撃を無視して最短距離で近接距離に飛び込み、必中のハイメガを撃ち込む構えだ。
デコトレーナーが盾とビームガンを構えてΖに正対し、対空射撃を撃ち上げる。
その瞬間、異形のΖがスラスターを閃かせ、強引に着地機動を斜めに捻った。ビームガンは虚空を打ち、発射寸前に無理な機動を強いたΖのハイメガがあらぬかたで地面を抉る。
「くっそ、いい勘してんじゃん」
セセリアが残念がる間も、攻防は続く。
着地間際を狙い、デコトレーナーが身体を捻ってビームガンをもう一射。Ζはスラスターで鋭く横にステップし、牽制とばかりに左腕部のグレネードを打ち返す。
回避機動のデコトレーナーの後ろでグレネードの爆炎が咲き、Ζの真後ろ、ピンクのビームの流れ弾を食らった建造物が一面のピンク色に染まる。
「ほう、珍しい。あの弾着、スプレーガンタイプの武装か!」
「いぇーす。ロウジ命名“ピンキービームガン”でっす」
「当たれば弾けて周囲がピンク色に染まる。かなり珍しいタイプの武装だな」
感心したように呟くロンメルに、セセリアは我がことのように胸を張る。
ジムのビームスプレーガンとは意味が違う。原義通り、塗料を吹き付けるタイプの武器だ。
「なるほど。威力の低さを諦め、特殊効果に全振りしたのだね」
「いぇすいぇす。ま、偶然の産物らしいんだけどね!」
追撃をかけようとスラスターで舞い上がるΖの頭を抑えるように、デコトレーナーがピンクのビームを放つ。
Ζがスラスターを切り、自由落下の低軌道からハイメガを放つ。まるで正確性のないハイメガを、デコトレーナーはゆうゆう避けてみせた。
明らかに、異形のΖはビームを嫌がり、回避に神経を割いている。
ロウジが惨敗したこれまでの4戦にはなかった展開だ。
「当たれば大幅に機体の動きが鈍る。
地味だが、マフティーにはそれなりに効果的なようだな」
「デバフ効果はもとより、当たれば自慢のガンプラが変な色に染まる。
プライドが高そうなマフティーくんには、耐えがたいのかもしれないね」
「侮って初撃に当たってくれれば楽だったんだけど。
惜しかったね!」
ついには異形のΖが建物を盾にし、ウェイブライダーへと変形した。
ビームの射程外へと逃げ、上空へと大きな起動で旋回して戻って来る。
ビームガンが届かぬ上空で、再びマフティーが愛機をウェイブライダーから異形のΖへと変形させた。
「だが、マフティーの優位は依然動かない」
ロンメルの言葉は厳しい。だがセセリアも楽観の言葉は出ない。
対人成績27戦18勝0敗9引分 マフティー
対人成績5戦1勝4敗0引分 ロウジ
モニター端の個人戦績データは、誇張でも何でもない冷徹な事実なのだ。
「……これで、ようやくロウジが勝負の土俵に乗れたと言うところですね」
その言葉を証明するように、異形のΖが怒涛の攻めに出る。
地上に張り付くデコトレーナー目掛け、高空からスラスターをふかしてジグザグ機動で飛び込む。
対空迎撃すら許さぬような鋭角の切り返しを繰り返し、あっという間にデコトレーナー真正面。
たまらず打ち上げたデコトレーナーのビームを最小限の動きでいなし、さらに前へ。
重い音が響く。ハイメガランチャーの長い砲身がシールドに押し付けられる。
ハイメガのゼロ距離射撃が轟音と閃光と共にシールドへ叩きつけられた。
「んもぉ、なんてごり押しだよ!」
デコトレーナーが小刻みなバックステップで距離を取る。
追いすがるように放たれたグレネードとビームが空中で激突し、爆炎とピンク塗料の花が咲く。
その範囲から逃れるように異形のZが再び空中へと舞い上がり、ハイメガを構える。
ローラーダッシュで稼いだ距離をあざわらうかのように、Zが空中から追いすがり、降下する。
今度は逆にデコトレーナーが飛び、2機が一瞬、空中で交錯した。
必中のはずの距離から放たれたピンクのビームをZが大きく跳び退って避け、斜め下方向からデコトレーナー目掛けハイメガを撃ち上げる。
デコトレーナーが身をひねり、盾の表面をハイメガがかすめた。
先に着地した異形のZが、着地するデコトレーナー目掛けてグレネードを放つ。
真正面からシールドでグレネードを受け止め、デコトレーナーは素早くローラーダッシュで下がる。
「……がんばれ、ロウジ。
キミのためなら、盾にだって水着姿にだって、なったげるから!」
激しい攻防が、幾度も繰り返される。
幾度繰り返しても、エネルギーチャージのカウントは遅々として減らない。
それでもセセリアはロウジを信じ、祈るようにつぶやくのだった。
息が苦しい。緊張で胸が張り裂けそう。
それでも自然と笑みがこぼれるのは、何故なんだろう。
「地対空のこの構図、まるで4話のディランザVSファラクトみたい……」
何度見たかわからない光景だ。
コロニーの空を背負い、マフティーの駆るZがハイメガを構えて狙いを定める。
デコトレーナーのコクピットモニターいっぱいに移る美しいガンプラを眺め、ロウジはのんきに呟く。
次の瞬間、マフティーのZがスラスターをひらめかせた。
ハイメガを構えてジグザグの軌道で降下してくる。
来る、必中距離、真正面!
思ったその次、スラスターを閃かせ、マフティーのZがモニターから消える。
「……後ろ!」
一度やられた動き! ほぼヤマカンで真後ろへデコトレーナーを全力で振り向かせる。
天地逆になったZのハイメガの砲身がモニターいっぱいに大写しになる。
閃光、爆発、衝撃。ロウジの素早い反応に、Zがハイメガ射撃を諦め、グレネードへ切り替えたのだ。
狙い定めて撃ったピンクのビームが放たれたグレネードで相殺され、激しい爆発がモニターを焼く。
次が来る! 油断なくビームガンを構えるが、異形のZはスラスターで軽々と宙を舞い、距離を取った。
「……ダメだ。撃つのが一手遅い。
相打ち覚悟でないとこの人にはきっと当たらない!」
機動力を誇示し、絶対にこちらの有利な距離では戦ってくれない。
攻撃範囲に入るのは、ハイメガを確実にねじ込むその瞬間だけだ。
「……この人、ホントにつよい」
呟くロウジの口元には、笑みが浮かんでいた。
もともとマフティーへの憎しみなどほとんどない。ただ弱い自分への不甲斐なさがあっただけだ。
その暗い何かも、ひりつくガンプラバトルで流した汗がほとんど押し流してしまった。
「ごめんセセリア、もう少しだけ頑張って……!」
シールドに呼びかけ、まるで動かない左腕部の反応に顔を曇らせる。
チャージ時間を示すカウントがずいぶん減り、それに比例してガンプラ各部の負担は急上昇していた。
胸の高さで構えたシールドは無事だが、ハイメガとグレネードを受け止め続けたせいで、完全に肩、肘の間接がバカになってしまっている。
それでも正直、今デコトレーナーが五体満足でいるのは奇跡以外の何物でもないだろう。
「正義漢ぶって、さぞ満足だろうな?」
突如、モニターに通信ウィンドウが開き、生真面目な様相の青年のアバターが映し出される。
マフティーだった。戦闘中、通信をつないでくるなど、惨敗した4戦では見せた事のない対応だった。
「……正義? ごめん、そのキャラ良く知らないんだ」
ひょっとして、舌戦で気を引いて奇襲してくる?
正直な言葉をマフティーへ返しながら、ロウジは周到にモニターとレーダーを探る。
だがマフティーのZはこちらの射程外ぎりぎりで動かない。策のための会話ではなさそうだった。
「狩られた雑魚ガンプラどもの代表面して、正義の復讐を執行しに来たんだろう?」
「グエルにも、エランにも、シャディクにも、プロスぺラにも、皆、正義があったよ。
……それぞれに正義がある。ガンダムってそう言うものでしょ?」
本当に、何で怒っている風に言ってくるのかが判らない。
神経質そうな静かな表情を浮かべるマフティーに、どこか鬼気迫る語調で言われ、ロウジは申し訳なさそうに言葉を返す。
「……正義ではないなら、なぜ必死になる。
何の役にも立たないこんな無駄な事に!」
苛立たしげに吐き出され、ロウジはレーダーを横目に、真剣に考えを巡らせた。
無駄とはなんだろう。GBNの事だろうか、マフティーへのリベンジの事だろうか。
よく考えたら自分はマフティーの事も良く知らない。ロウジもマフティーの事を何も知らない。
「GBN! ガンプラバトルネクサスオンライン!
こんなたった二時間だけ許された、弱い奴を踏み潰すだけの気晴らしの遊びだぞ!
何の生産性もない、何の将来性もない、人生の役になんて立ちやしない!」
けれど、なんだろう。ロウジは真剣に応えなければいけない気がした。
怒鳴るマフティーの姿が、まるで泣き叫んでいるようにロウジには一瞬見えたのだ。
「……GBNを始めてから、次の日、朝を迎えるのがちょっとだけ楽しみになったよ」
休みが終わる、月曜の朝は辛い。
けれど学校へ行くまでの通学時間、昨日のバトルの事、ミッションのこと、ロウジはセセリアにずっと話していた。
つまらない授業を聞きながら、あのミッションの攻略はどうしよう。どう改造しよう、ずっと考えていた。
「ずっと一緒だった友達と、もっと仲良くなれたよ!」
セセリアと一緒に飲んだラテマキアート、ガンプラカタログを見ながらのたわいもないおしゃべり。
凄く楽しかった。パパの弟子を自称するセセリアのガンプラ作り、すごいって改めてセセリアを尊敬し直した。
「……あなたに勝ちたいと考えて、相談して、特訓したこの一週間、とってもとっても楽しかったよ!」
生真面目な表情で唇を噛みしめたまま、マフティーはじっとロウジを睨んでいる。
初めて負けて、とても強くて感動した。何度も挑んで、その強さを実感した。
どうしても勝ちたくて、友達とエニルを巻き込んで話し合った。
「僕の好きを詰め込んだデコトレーナー、あなたに勝つためにいっぱいいっぱい磨き上げたよ!」
エニルが前に言ってくれた。”ガンプラは自由だ”って。
自分の好きを一杯に込めて、作り上げるのがガンプラなんだ、って。
「僕は大好きだよ、ガンダムも、ガンプラも、GBNも!
好きな事を好きだって叫ぶことが無駄だなんて!
……そんなこと、あるもんか!」
心の限りに、ロウジは叫ぶ。
マフティーを否定するためでなく、自分を肯定するために。
「ならば、真に証明してみせろ!
貴様の強さでもって!」
マフティーが大仰な仕草で腕を振り、通信ウィンドウからマフティーの姿が消える。
ほんの少し、何かが通じた気がした。
けれど戦いに容赦などはない。スラスターを閃かせ、マフティーのZが高空へ舞い上がる。
飛び込みハイメガだ! 何度見ても反応しきれない。それでも銃を構え、身体ごと向き直る。
撃ち上げたピンクのビームは避けられ、ハイメガが胸元の盾に直撃する。
高空へ離脱せずに、マフティーのZが至近距離に着地した。
ハイメガを両手剣のように構え、横薙ぎに盾目掛けて叩きつけてくる。
ヤバい! 左腕が動かないのバレてる!
バックステップ、同時に上体を大きく逸らす。避けきった!
……その瞬間、ハイメガランチャーの穂先からビームの刃が伸びた。
伸びた穂先がコクピットの鼻先をかすめ、盾の端と激突する。
「……うぁっ!?」
銃剣状のビームの刃を振りぬかれ、シールドを掴んでぶん投げられたかのようにデコトレーナーは大きく耐性を崩す。
オートジャイロで必死に態勢を立て直し、再度の銃剣追撃を必死のビームガンの牽制でしのぎ、建物の影へと逃げ込む。
「……何あれ。あんな武装知らない!」
ぞっとした表情で、吹き飛んだ左手の先と、取り落としたぼろぼろのシールドを見る。
ヤバい。負ける。容赦ないロックオンアラートが響く。モニター直上、マフティーのZだ!
盾がない! 相打ちだと負ける! 悠然と飛び込んでくるZの動きがまるでスローモーションのようだった。
必中距離のハイメガを、身をよじって必死に避ける。メガ粒子の帯がビームガンの砲口をかすめてもっていく。
ダメだ、負ける! さらに突きこまれたハイメガのビーム銃剣を、引き抜いたサーベルスティックで辛うじて受ち払う。
「ロウジ、今だよっ!」
聞こえる筈のないセセリアの声が、なぜか聞こえた気がした。
いつの間にか、エネルギーチャージのカウントが0000秒を指していた。
モニターの異変に、慌てて背後を振り返る。
やさしくまばゆい、真っ白な輝きがデコトレーナーの背後、地球寮のハンガーから漏れ出ていた。
「……サイコフレームだと!?」
ハイメガの銃剣を構えたマフティーのZから、叫びの声が聞こえてくる。
銃剣にサーベルスティックを叩きつけ、発生した鍔迫り合いエフェクトの勢いでデコトレーナーを後方へ跳ばせる。
腕のグレネードを構えたΖにサーベルスティックを狙いすまして投げつける。グレネードが誘爆し、爆炎が視界を遮る。
「まだみじめに足掻くか!」
罵声を背中に聞きながら、ロウジはデコトレーナーをハンガーの奥へ全速で飛び込ませた。
白く輝くウェポンコンテナへと手を伸ばし、中に入っているものを三本指のマニピュレーターで掴みとる。
「……マフティー!
このすべての準備は、あなたに勝つため!」
ハンガー入り口でハイメガを構えるマフティーとZへ、ロウジは高らかに宣言する。
コンテナの中にあるのは、大切な大切な人達に準備して貰った、とってもミラクルでスペシャルなウェポン。
「これが、僕とデコトレーナーのスペシャルウェポン。
……奇跡を呼び込む魔法の杖だ!」
デコトレーナーが掲げたそれは、HGガンプラサイズの半分ほどの長さがある。
……1本の、巨大なふとん叩きだった。
●読み飛ばしても構わない巻末プチ解説
・ハイパーメガランチャーとロングビームサーベル
Ζガンダムのハイパーメガランチャーは銃口からサーベルのように刃を出し、銃剣のように使うことが出来る。
HGUCでは再現されていないがマフティー機はガンプラビルダーの腕により使用可能となっている。
エゥティタでは使用されない武器のため、原作未履修のロウジには不意打ちのようになってしまった。
・セセリアシールド
GBNでは、アニメ公式サイトからの画像をガンプラに転写することは許可されている。逆にアバターやリアル写真は肖像権の問題で表示されない。
ファンプラではたまに見られる改造だが、性能には一切影響しない。ロウジのモチベーションのためだけの趣味カスタムである。
ロウジは天然のため、別に狙ってマフティーを煽りたかった訳でもない。
セセリアは被弾によって衣類が脱げて水着にしようと提案して無事に却下された。ドスケベめ。