リアルではモブなわたしは、GBNでずっと暮らしたい。 作:ゼラチナマスター
ひょっとして、まだ夢の中にいるんじゃないか。
その時ロウジは、間違いなくそう思ったのだ。
「……待って、嘘。
だってそれは、捨てたはずだよ?」
呆然とつぶやくロウジのアバターの目から、とめどなく涙が溢れ出す。
涙でギアバイザーが見えやしない。
非戦闘エリアの小さな島、ククルスドアンの島(0079)で、ロウジの目の前に一機のガンプラがゆっくりと着地する。
かすんだ目でそれを眺めながら、ロウジは震える唇で言葉をつむいだ。
「……僕の、キュベレイ・ブリザードプリンセス」
時は決闘直前の午前十時前にまでさかのぼる。
大寝坊をかましたロウジは、セセリアの献身によって何とか目覚めてログインし、エニルに土下座した。
そして約束の、エニルが調達してくれたスペシャルウェポンを見せてもらうため、
ロウジはエニルと共にGBNサーバーの片隅、非戦闘エリアで待っていたのである。
「大切に、保存してくれていた人がいたそうなんだ。
……丁寧に補修し、GBNでも動くよう、手を入れられてしまってはいるが、ね」
エニルの優しい声と、背中をさすってくれる手の感触が、これが夢ではないのだと伝えてくれる。
涙をこぼしながら、ロウジは無言のままうなずくしかできなかった。
目の前でキュベレイが動きを止め、誰かがコクピットから降りてくる。
背が高く、ヘルメットをかぶった長身の人影だ。涙でぼやけ、”その人”が誰なのかさっぱりわからない。
「……ロウジ。あの時は、本当にすまなかったね」
「……っ!」
ロウジはたまらず駆けだし、”その人”のアバターに抱き着いていた。
聞き覚えのあるキャラの声だ。けれど、あの時の事に言及できるのは一人しかいない。
「あのピンクの子が、ロウジが作ったガンプラだったね?」
「……うん!」
デコトレーナーを見上げ、穏やかな声で”その人”が言う。
ロウジは”その人”の腕の中で泣き笑いのままうなずいた。
「世界でたった一つしかない、ロウジの最高のガンプラだね」
「……塗りも加工もへったくそで、幼稚なオリ設定まみれの邪道なガンプラだよ?」
ぼやける視界で”その人”の顔を見つめ、照れ臭そうに予防線を張ってしまう。
とても大きな手が、ロウジの頭を優しくなでてくれた。
「いいんだよ。その人の最高のガンプラはたった一つだ。
けれど、最高のガンプラは世界にガンプラ好きな人の数だけあっていいんだ。
あの時からずっと後になるまで、私もそれに気づけなかった……」
胸に刺さった氷の刃が、最後の小さな欠片となって溶け消えていく。
エニルに伝えてもらった大切なことと同じように、”その人”はロウジの“好き”を肯定してくれた。
「ロウジの最高のガンプラにふさわしい武器を、プレゼントに用意してきたんだ。
……十年間、奪ってしまった償いになるとは思えないが、使ってみて、くれるかい?」
「……ううん。ううん、良いの!」
ロウジは駄々っ子のように首を振る。
たった十年だ。大好きな”その人”が、今の自分を認めてくれた。
涙をぬぐった瞳で、白いキュベレイを見上げる。
本当にみっともない、バランスの悪いガンプラだ。
けれどあの時の自分も、確かにもう一度”その人”が認め直してくれたのだ。
「GBNデビュー、おめでとう、ロウジ。
……存分に、楽しんでおいで」
”その人”に手渡されたものは、30cm定規ほどの2倍ほどの長さの棒状の何かだった。
ゆっくりとキュベレイが歩き、ガンプラ大の、ピンク色に塗られた同じ棒状の……魔法の杖をデコトレーナーへと差し出す。
「これはね、サイド3に生まれたしっかりものの娘に、放浪の魔法使いが授けてくれた魔法の杖なんだよ。
誤解とすれ違いに苦しむその子は、魔法の力と家族の絆で、もう一度立ち上がるんだ」
「……ふふ。じゃあ、僕達とぴったりだね!」
受け取った杖を両手で大切に掻き抱き、涙をぬぐってロウジは笑顔で微笑む。
まずエニルに頭を下げ、次に”その人”へと向き直る。
派手な格好の赤い衣装へ身に包む、派手な白い仮面をつけたジオン軍人のアバターだった。
「……ありがとう、エニルさん。
本当にありがとう、パパ!」
「おっと、ロウジ。その呼び方はいけない。
私の事は……”赤い彗星の人”と呼んでくれ」
「ありがとう、赤い彗星の人!」
この世界に魔法も奇跡もあるのだと。あの時確かにロウジは信じたのだった。
「ふざけ……ふざけるなぁぁぁぁぁっ!!」
どこかの血管が切れそうなマフティーの叫びが、決闘委員会ルーム中に響き渡る。
先ほどのロウジとのやり取りでどこか落ち着いたかに見えたマフティーが、怒髪天である。
……まあ、無理もない。見守るエニルもマフティーに同情を込めて呟く。
1200秒のカウントを代償に召喚したものが、ただの巨大なふとん叩きとあっては。
”それ”を知らぬものにとっては、バカにしているとしか絶対に思えまい。
”それ”を知っているものにとっても、悪夢のような光景かもしれないが。
「それはなんだ!?
武器ですらない、ただの家事アイテムだろう!!」
「これが、ただの家事アイテムなんかであるもんか!
……僕の大好きなパパが、僕のために一からフルスクラッチしてくれた。
奇跡を起こす、魔法の杖なんだぁぁぁっ!」
鬼気迫る表情で叫ぶマフティーに対し、決意を込めた顔で、ロウジが叫ぶ。
けれど、ロウジにとっては、大切な人から託された、思い入れたっぷりの武器だ。
誰に言われようと、信じる心は絶対に揺らがない。
「マジカル・チェンジ!
……ブラスター・フォーム!
Come on! ITINITIGO!」
モニターでロウジが朗々と詠唱する中、おろおろきょろきょろとセセリアが不安げに視線をさまよわせる。
大丈夫。あれは間違いなく、ロウジとデコトレーナーにとって奇跡を呼ぶ魔法の杖なのだ。
セセリアの腕を優しく引いて座るよう促し、エニルは腕組みしてモニターを見やる。
高々と掲げたふとん叩きから、サイコフレームの輝きが溢れ出す。
そしてその輝きはデコトレーナーを優しく包みこんでゆく。
「ロウジ・チャンテは魔法少女である!!
ロウジは謎の人物、赤い彗星の人からもらった魔法のふとん叩きの力で……
無敵の少尉 ブラスターロウジとなるのだ!!」
ソファから立ち上がり、エニルは朗々とナレーションの呪文を詠唱した。
奇異の視線ごとき、何するものぞ。
モニターではサイコフレームの輝きがスモークのように辺りを埋め尽くす。
マフティーのZは動けない。長時間のエネルギーチャージと引き換えに、バトルエリアに事前設定した特殊エフェクトによるムービーを流す。これがサイコフレームの効果だ。
溢れ出す光が地球寮の建物をとりこみ、きらきらした光に変えて行く。
辺り一面にコロニーの人工太陽の光が降り注いだ。
降り注ぐきらきらした光の中、ピンク色に塗装されたデコトレーナーが腕組みしながら雄々しく仁王立ちしていた。
モニターに、ジオン軍服に身を包んだロウジが現れ、高らかに宣言する。
「デコトレーナー・ブラスター・フォーム!」
「刮目せよ!
人の心が産んだ輝きが今、ガンプラに結集した!」
ロウジの台詞に続くように、エニルはナレーションする。
デコトレーナー・ブラスター・フォーム。
その姿はノーマルのデコトレーナーとほぼ変わらない。
ただその背中に、まるで巨大なリボンのような、ピンク色に輝くビームの翼を背負っていた。
デコトレーナーの右手の三本指のマニピュレーターが、宙に浮かぶ魔法のふとん叩きを掴み取り、胸の前に構え、叫ぶ。
「待たせたな、マフティー!
これが僕が手にした、奇跡と魔法の力だっ!」
そう。奇跡も魔法もあるのだ、このGBNには。
会議室でデコトレーナーとそっくりのガンバスター立ちしながら、エニルはどこか誇らしげにモニターを見つめ続けるのだった。
●読み飛ばしても構わない巻末プチ解説
・鍔迫り合いエフェクト
GBNでは白兵武器分類されるものの刃同士が衝突すると発生するエフェクトのこと。
ビームサーベル同士だけでなく、ヒート兵器やランス系、水泳部クローでも発生する。もちろん、ブラスターロッドでも。
SEED世界のサーベルは本来鍔迫り合い発生しないが、GBNでは同様に鍔迫り合いが発生する。
どんな威力の白兵武器でも鍔迫り合いは発生するが、関節負荷がマッハなので過信は禁物。
武器なし格闘は露骨にガンプラ性能差が出るので、キャノンタイプでも出来れば白兵武器は積んでおこう。
マニピュレーターで殴り合いとかメカニックが泣いちゃうからね!
ロウジのスペシャルウェポン、当たった人は凄いと思います。
次回2-9は5/1の投稿を予定しております。
スペシャルウェポンに関する解説はその巻末に。